「聞いたかよ坊主!」
「......何を」
「魔物の国のテンポルトが手を引いたってさ」
「テンポルトって何処だよ、テンペストだろ」
「そうそう。そのテンコンタルの王様が最近チロっとやってきたらしいぜぇ」
「だからテンペ...もういい。で? なんで魔物の王様がファルムスに来るんだよ」
「そりゃあ我らがセイジ・カミシロが上手いこと負かしたんだろうよぉ...ハッハッハ、これであのヨウモンとか言う英雄の面を見なくて済むぜぇ」
「ヨウモン?......あぁ、ヨウムの事か」
「そのヨルロンはなぁ、また自分の顔面見せびらかしに国々を回るんだとよ」
「へぇー」
断りもなく部屋に入ってきて、話したい事話して満足したのか酒臭い男が出ていった。
真昼間から随分と肝臓に悪い事をしているらしい。
リグルドの腹に穴を開けて、感情のままにテンペストを飛び出した。
だって仕方がないじゃないか、俺だって仮にも感情がある生き物で、それだから自分が一番大事なんだ。
......今思い出しても腹が立つ、絶対に痛い目に会わせてやる。
リムルの領地に一秒でも長くいたくなかったから、とりあえずファルムス王国に来た訳だが。
そのまま父の所に行こうとした俺を止めたのはメーティスだった。
安易に俺が感情的に動いたせいで予定が狂っただとか、もっとリムルにいい顔をしとくべきだっただとかグチグチと言われはしたが、とりあえずリムルと父が会談を終えるまでは身を隠せというお達しが出たのだ。
理由は会談の結果で動きやすさが変わるから。もし仮にファルムス王国がテンペストとの繋がりを断てなかっ場合、父のそばに居るのは危険が多すぎる。もうテンペストの住民じゃないとしても、今の状況で魔物の国一つとは敵対できない。
確かに一理ある話だったから渋々頷いて、ファルムス王国の王城に向けていた足の方向を変えた。
まずテンペスト産の服を来ていれば顔を隠していても目立つし勘のいいヤツには出身がバレる。テンペスト出身なんて必然的に魔物である訳で、人間の国でそんな事実がバレていいはずがなかった。
だからファルムスの服屋に入り、適当に服を見繕った。案外質もよく種類も多く満足店の高い店だった。そこで黒のタンクトップとオフショルダー、適当なズボンとサンダル。それから深めのフードの着いたローブを買った。
ローブは灰色でサンダル──なんと言う名前だったか足首まで覆ってくれるサンダルは茶色、それ以外が黒な訳だが、何故だかメーティスにセンスがないと馬鹿にされた。進化してから失礼になったと思う、実態があったら一発殴ってる。誰がどう見たって一般の旅人だろうに。
服屋のあった中心街から離れて、奥へと進めば俺が隠れておくには持ってこいの場所があった。有るという確信を持ってやって来た訳じゃないが、人間という性質上無い方がおかしい場所だ。案の定、人から忘れられたような薄汚いくきな臭い場所はファルムス王国にも存在した。
犯罪者の溜まり場、行き場をなくした者たちの傷の舐め合い場。色々表現方法はあるが、言ってしまえば世間から外れた奴らが集まる場所だ。だがまぁ、そんな場所にいる奴らにも基本的人権が尊重された様な生活をしている当たりはさすが大国と呼ばれるだけの所以がある。
そんな場所にはルールなんてあってないようなものだ。金を持っているやつ、力を持っているやつがルールだ。
だから余所者の俺がこのパブで泊めろと言った時も一度は断られた。が、金を多めに渡した瞬間目の色が変わった。その目の色を変えた男がさっき颯爽と現れ消えた男、パブの店主だ。侮蔑を込めてあほんだらと俺を馬鹿にしたくせに今では坊主呼びだ。欲に忠実で素晴らしい。
なんでそんな文字通りの無法地帯を選んだのか。これは簡単で、汚い物は汚い所に入れてしまった方がいいというだけの話。お生憎様、自分が汚れきっているという自覚はちゃんとあったんだ。
それに こういう所は情報が何処よりも早く回ってくる。まるで溝を這うネズミがウイルスを拡散するように、一瞬で情報が回る。
実際、先程店主が持ってきた情報は今俺の手元にある情報誌には記載されていない。
腹の探り合いが無いのも良い点だ。お互い犯罪者、闇を抱えてる者同士他の闇まで担いでいる暇はないんだ。
まさに都合のいい楽園。ここが楽園だと感じるには少し狂わなきゃいけないが、それを除けばなんともまぁ素晴らしい場所か。
───それにしても
「国王になる覚悟だとか啖呵切って...結果はこれ。笑いもんだなあ...ははっ、無様」
英雄様に送る笑い声が煙草の煙に揺れている。
この煙草もここに来てから手に入れた物だ。中の葉が明らかに違法薬物である点以外は至って普通の煙草。魔法で火を出せるから何時でも簡単に吸える。
毒耐性も切って吸っているからそれなりに頭がイカれて気分がいい。でもなぁ...もっと強めのが本当は欲しい。一番強い薬物のを買ったが、人間用は魔物にはちょっと物足りない。
いっその事意識諸共吹っ飛ばせるような物がいい。けれどこれを手に入れられたのは利益が大きかった。これを吸って頭をバグらせている間だけは、人に触れても飯を食っても至って普通なんだ。まぁ、本当にそれが普通なのか、一般的に見えているものや味なのかは俺の預かり知らぬところだが。
煙草はいずれ俺好みに改良するとして。
店主が喋ってくれた内容だけでは情報が不十分だ。せっかく情報が出回る街にいるんだ、ちゃんと情報収集はしなくては───
「───あぁ? おぉクソガキじゃねぇか! おはようだなぁ...なんだその顔、文句あんのか 」
「文句はないけど...それ、警備隊の人間だろ? なんでそんなの一匹ここに連れ込んでんだよ」
「これかァ? これはなぁなんか知らねぇが俺のやった事が気に食わなかったらしくてよォ、ピーピーうるせぇから持って帰ってきたんだよ」
「そりゃ警備隊は気に食わないだろうよお前の事なんて、“通り魔野郎”。今日は一体何人殺って来たんだよ」
「今日はなぁ...一、二、三...四くらいか?」
「殺しすぎだろ。そりゃつつかれるのも納得」
「家族だったんだよ、幸せそうな団欒家族。憎たらしくてありゃしねぇ」
「あーはいはい、憎たらしいねぇ。ご愁傷様だな」
階段を降りて、飲食スペースに足を踏み入れれば酒と麻薬、そして血の匂いが鼻を擽った。
下品で下劣な笑い声は俺を否定するものではなく、飲食店として香る食べ物の匂いは簡単に他の匂いが掻き消していた。
ただ喧騒も行き過ぎるとめんどくさいものである。
生まれたままの姿で拘束されている警備隊の男が降りてきた俺に助けを求めている。涙が頬を伝って床に落ちる。その床は時間が経って茶色く変色した血がカーペットの代わりに広がっていた。
あーめんどくさい、なんで俺はこのタイミングで降りてきちゃったのか。
警備隊がわざわざこんな場所に連れてこられる理由は殺害ショーをするためだ。犯罪者しか客がいないせいで正義につつかれることも多いこのパブは斧やらノコギリやら、剰えギロチンまで兼ね備えている始末。
俺がここにやってきてから短い時間で二回目を迎えた殺害ショー。普段だったら何で殺そうかと鉄を撫で回し始めると言うのに、今回は違うようだ。物理的な殺害も楽しいは楽しい、けれどたまには目新しいものがいい。そんな願望を孕んだ視線がそこらじゅうから俺に向けられている。
つまり何が言いたいか。俺の魔法で面白い感じで殺せと言いたいのだ。
何度でも、はっきりと言おう、めんどくさい。今日はそういう気分じゃないんだ。
「おいクソガキ、いつまで突っ立ってんだよ。分かってんだろぉ? こっち来いよ魔法使いなんだからさ」
「マジで気分じゃないし、俺そういう人を傷つける魔法はちょっと...」
「ヒャッヒャッ! 冗談は犬も食わねぇぞ。おらこっちだこっち」
わかりましたよ、えぇわかりました。
エンターテインメントってのは演者に決定権はないのが定石だ。
短くなった煙草を階段脇にある灰皿に捨てて、階段を最後まで降りきった。
警備隊の男、十五歳程度だろうか。まだ幼さを残している。
こんな絶望的な状況でもまだ逃げ道を探して目が動いている。可哀想に...
「切れ味の悪い刃物持ってこいよ」
「あ? おいおい刃物なんてつまんねぇことすんなよ」
「勘違いすんなって。面白いもんちゃんと見せてやるからさ」
通り魔野郎が持ってきたのは刃こぼれの酷いナイフだった。流石いい趣味してる。
人を払って、今から死ぬ哀れな男を中心に結界を張る。勿論透明の物。
男の拘束を外して結界内に刃物を投げ入れる。
拘束が外れた瞬間走り出した男は、透明な壁に体を打ち付けた。
集客は上々、店内にいる全員が結界の中で暴れている男に夢中だ。乗り気ではなくてもエンターテインメントは観客がいなければ意味が無い。
「悪いね少年、俺を恨むなよ?」
指を鳴らして、結界内に魔法陣を出す。
身体強化と操作の魔法。意識は弄らない、だってその方が皆お好みだろう。
これで俺の仕事は終わり。適当に近くのカウンターチェアに座って煙草に火をつけた。これで四本目だ。
男はふと結界に体当たりをするのを辞めて、ナイフを手に取った。
なんで、いやだ、そんな声を上げても自分の体は意思とは関係なく動く。自分自身を殺すために。
徐にナイフを自分の首に押し当てる。目からは有り得んばかりの量の涙が流れていた。
そして次に流れたのは真っ赤な鮮血。何度も何度も男は自分の首をナイフで切りつけ続ける。叫んで悶えて、それでも自分を傷つけ続ける。
「い゙ぁ...あ゙ぁぁぁ!! 痛い゙!」
「ガッハッハッ! いいぞもっともっと!」
「おらもっと泣き叫べよぉ!!」
無理矢理強化された体は刃こぼれの酷いナイフでもちゃんと首を切りつけ、けれど気絶することも出来ない。
ゆっくりと首と胴体が離れていく。そして骨にたどり着く瞬間、誰にもバレずにもう一度魔法を使った。
その瞬間、男は大きく振りかぶり、自分の頭を飛ばした。飛んだ頭は結界にあたり、こちらを向いて静止した。
別に慈悲があって首を飛ばしたんじゃない。ただ骨まで到達するとどれだけ魔法で強化しても人間は死んでしまう。中途半端に首がくっついた死体と、きちんと首の飛んだ死体ならどちらがいいかと言う話だ。
「ヒャッヒャッヒャッ! おいクソガキ、お前最高なセンスしてんじゃねぇかよォ」
「はぁ...次はない」
「釣れないこと言うなって」
「本当に次なんてないよ。そんな事はいいんだ、おい“デコボコ兄弟”は何処にいる?」
「あーッとほらそこだそこ」
「?......げっ何やってんだアイツら」
結界を解いたからか、拾い上げられた頭を蹴りあって二人の男が遊んでいる。
ガリガリのノッポ男と、太ったチビ男。デコボコ兄弟と呼べと言ってきたのはアイツらからだ。
蹴り上げられて高く飛んだ頭を掴んで、後ろに投げ飛ばす。ボスっと言う音がしたが、掃除をするのは俺の仕事じゃない。
「よォお坊ちゃん。お前センスあるな、楽しませてもらったよ」
「僕も久しぶりに笑っちゃったよ。グフッ」
俺をお坊ちゃんと読んでニヤニヤしているのが、ノッポの兄。グフッと笑うのがデブな弟。
例に埋もれず犯罪者だ。
「ねぇ聞いてよ。僕たち昨日パン屋の娘を拐って来ていつも通り遊んでたんだけど、体が小さすぎて満足に入りもしなかったんだ」
「そーそ、やっぱそれなりに俺らのデカイからさぁ。けど図体のでかい女ってヤッてても萌えないんだよなぁ」
「俺そういう性的感覚持ち合わせてないから話されても困る。レイプ話は他所でやれ」
「お前って不能なの?」
「それは違う」
適当に四人がけの席に座って飯を頼んだ。兄弟はパスタと酒を頼んでいたが、そこまで腹も減っていないから俺は干し肉と水だけ頼んだ。
短くなった煙草を消して新しいのに火をつけようとした所で飯が運ばれてきたので、煙草を箱に戻した。
「それでお坊ちゃんは俺たちに何の用だよ。お前がわざわざ二階から降りてくるなんてどうせ何か情報が欲しいんだろ?」
「ファルムス王国とテンペストの会談の結果と、英雄ヨウムの動向」
「んー金貨一枚」
「馬鹿言ってんじゃねーぞ」
「じゃあ銀貨五十枚でいいぜ」
銀貨が五十枚入った子袋を弟の方に投げつける。デコボコ兄弟は銀貨の枚数を数えながら、俺の欲しい情報を教えてくれた。
どうやらテンペストとファルムス王国は関係を断ったらしい。星金貨一万枚、全部払って。
俺でも頭のおかしい額だと思っていたが、東の帝国と協力して払いきったらしい。
父も思い切った事をする。東の帝国と父は上下関係では無いのだろう。同等か、もしかしたら父が上か。そうじゃなければ、国を傾けかねない額をホイホイと属国に渡すわけが無い。いやまず属国にしないか。
それからヨウム。
どうやらあと三日ほどファルムス王国に滞在するらしい。その後はブルムンドを経由して西側諸国を巡るとか。
「そうそう、明日英雄様はセイジ王に面会するらしいぜ」
「なんでもセイジ様がお呼びしたんだって」
「......へー、ふふっそう」
「なんだよお坊ちゃん、急に笑って」
「いや、すっごくいい情報をくれてありがとう」
感謝を込めて銀貨十枚をプラスで投付ける。
ここで身を隠すのも終わり。そろそろ父の所に向かわなければ。
「感謝するよ、けど...あんまり首を突っ込みすぎないことだ。その情報はお前らが扱うには命を懸けすぎてる。いくら新王の根底が腐っててお前達を黙認してるとしても、知りすぎたやつは潰されるぞ」
「肝に銘じておくよ」
最後の干し肉を水で流して立ち上がる。
一度二階に戻って荷物を纏めて、店主に声をかけた。
「俺はもう行くよ、短い間だったけどありがとね」
「なんだ坊主、もう行くのか」
「もう隠れてなくて良くなったんだよ。......たまに遊びに来る」
「ハッそりゃ嬉しいなぁ」
手を振って店を出る。
遠くにはファルムスの王城が見て取れた。
そちらに足を向けて、煙草に火をつけた。
これで五本目だ。
◆未成年喫煙は辞めましょう。未成年でなくても麻薬は辞めましょう。
ところでラルタさん、それ、薬が切れた時...大丈夫?
★アンケート回答ありがとうございました。回答者様が100人を超えたので締め切りました。
今後の展開、『原作キャラ死亡有り』で行きます。なのでそれが嫌な方は自衛をお願いします。
勿論誰かの推しが死ぬこともありますし、綺麗には死ねません。なので、本当に自衛はお願いします。
原作キャラ死亡NOに投票された方にはすみませんとしか言えません。