転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第67話...神代(かくみ)

「カー!!」

「カー、じゃないんだよ...」

 

あのパブに帰りたいと、遠くで思う。

俺の小言が気に入らなかったのか、もう一度カラスだと思われる物体がひと鳴きした。

思われる、という曖昧な表現を使うのは別にカラスを見た事がないからでは無い。というか、普通に生きててそんな珍事は起こりえない。

カラスという鳥類を日常的に見てきたからこそ、思われると表現することしか出来ないのだ。

だって俺の知っているカラスは、体がガラスで出来ていないし羽先は青くない。でもちゃんと透け感はあれど黒色だ。目もガラス製のようで、黒いガラス玉が嵌め込まれている。

けど見た目はちゃんとカラスなんだ。鳴き声も聞き馴染みのある音であるし。

 

そんなカラス擬きが必死に俺のローブを引っ張っている。

 

裏手から城に不法侵入しようとした俺への当てつけなのだろうか。

警備の死角で煙草を吹かしながら王城を眺めていた。人間が威厳を示すために建てさせたその城はファルムス王国という大国に相応しい威圧感を持っていた。テンペストで生活していて麻痺していたが、魔法もスキルも無い人間がこれを作り上げるのにかけた時間は計り知れない。これを作る間にどれだけの他の建築が止まり、どれだけの労働者が生活を投げ捨てたのか。この城には人間の一つしか抱えられない愚かさと尊さが詰まっている───

そんな事を考えて、短くなった煙草の先を近くの壁に擦り付けた時に、このカラスが降り立った。

 

ガラスどうしの擦れる音はなんとも不快で、その異様な見た目から直ぐに壊そうとした。

けれどそれを辞めたのは、違和感を持ったからだ。なんと言うのだろうか、俺と同じ何かがこのカラスにはあった。あった、と言うよりかは“ある”と言うべきかもしれない。

それが何かは言いようも無いが、共通点を感じたのだ。

 

このカラスは体自体は誰かのスキルで作られ動いているようだが、その魂は俺の魂を縛るものと同じ“未知の力”が絡まっていた。

監視され支配され、一生をその力によって操られている。

 

「カー! カァー!!」

「はぁ...うるさいな。声を抑えるか羽を動かすのを辞めるかしてよ、まったく」

 

カラスと共通点があるなんてなんの笑い話だ。

そんなカラスが俺のローブを引っ張り続ける。急かすように鳴き、羽を動かす。時より顔を王城に向け、そしてまた俺を見た。

 

薄々気がついてはいたけれど、確信に変わった。

わざわざ未知の力を持ったカラスが父のいる王城に未知の力を持った俺を引っ張っている。偶然な訳が無い。

 

ファルムス王国が攻めてきた時、都合のいい事に俺の魂に絡まる未知の力が作用して結界の効果が何倍にも膨れ上がった。そして拐われたと言うのに、ヒエラルテに遊ばれている時未知の力は作用しなかった。

この一連の出来事は未知の力が上手く作用したことで、俺が魔王へと進化するに至った。

そしてオマケかのように「進化おめでとう」の伝号メッセージ──────まぁ、父だろう。

未知の力が何かはよく分からないが、もう少しこちらの精神に配慮して欲しいものだ。

父は俺が強くなるように未知の力を使っている。実際、背教者が進化したのも未知の力が協力してくれてヒナタにスキルが通ったからだ。俺を強くして何がしたいのか。

 

「カーー!!」

「わかったよ!うるせぇな! 着いてけばいいんだろ着いてけば...こんな鳥類擬きと同じなのほんとに惨め...はぁ」

 

ガラスの擦れる音を立ててカラスが飛び立つ。

ガラスのカラス...駄洒落か? 待って今の無し。

早くしろと言いたげに頭上で旋回しているカラスにもう一度ため息をついて杖を出す。

黒い液体から結晶に、そしてポンと木の軽い音がして手にいつもの重さが乗った。シャンと先端に着いたランタンが鳴り、いつからこんな色になったのか汚れた炎が燃えていた。

 

その杖を三度目のため息と共に消し去った。

前世から直ぐにため息を着く質だったが、この世界に来てからはその頻度が上がったと思う。

 

別に杖がなくても飛べないことは無い。

バランスが取りずらくはあるが何とか体を浮かせて空中を歩き出した。

なんて花のない空中散歩、低い建物の並ぶ街並みを上から見下ろしながらカラスについて行く。

───移動しづらい......バランスが取りずらいってのもあるけど速さが出ない。ミリムみたいに移動してもいいけど、本来が四足歩行ではあのスピードは辛い。多分酔って吐く。なんか想像したら気持ち悪くなってきた。

早めに新しい杖を手に入れたいところだけど...手に馴染むかな。二年以上使ってきたから新しいのとなると、手に入れた後も少し苦労しそうだ。

 

「カー!」

「もうお前黙れよ......あっ」

 

カラスに連れられて見えてきたのはテラスだった。そこには優雅に紅茶を啜る久しく見ていない黒い頭部。前世の記憶と全く同じ姿の父だ。

こうやって遠くから見るととても若い、若すぎる。なんで前世で俺は気が付かなかったのか。

それとも考えてなかったのか。俺をスラムで広い養子に引き入れた時から約十年、一切見た目が変わっていない。いくら日本人が童顔だとしても三十代から四十代に推移すれば流石に違いは出るだろうに。

 

視界の端で降下して行ったカラスを目で追う。

目を閉じて深呼吸。心臓を何度か手で叩いた。

大丈夫...間違えない。失敗しない。

完璧に──────

 

テラスに降り立って、ただ父を眺めた。

父が話始めるまで挨拶すらしてはいけない。大丈夫、ちゃんと覚えている。

父は立ち上がり、柵に止まったカラスを一撫でして......握り潰した。

ガラスの割れる音がして、血に近い灰色の液体が飛び散った。カラスであったそれは、ただ床に破片として散らばっている。

きっともうあのカラスの魂は消滅してしまったんだろう。未知の力から、解放されて。

 

 

「やはりガラス製はダメだな。羽音が煩い。それに鳥類と言うのも感情が鳴き声に乗りやすくダメだ。はぁ...失敗作に時間を使ってしまった。───久しいな誠也、調子は」

「お陰様で」

「それはいい。ラルタ=テンペストとして過ごした時間が長かったせいで、調教からやり直さなければいけないかと危惧していたんだ」

「お父様のお手は煩わせません」

「これからもそうでありなさい」

「はい」

 

仮にも久しぶりに会った養子の事より先にカラスの総評をするのは如何なものか。

やっぱ変な人だなと再認識。それと同時に、父が纏う独特の空気感も思い出してきた。

少し息苦しい...テンペストの時とは違う別の息苦しさ。必要とされたい、愛されたいと思う相手といる時、いつも違う息苦しさを感じる。

それともこの息苦しさが愛の証だろうか。

 

「......おや、カラスにも一定数の愛があるらしい。子を思っての行動も、鳥らしくチンケな物だな」

「カーー!!」

「誠也、鳥は神聖な物を守る為に利用される存在だそうだ」

「はい?」

「火を汚さぬよう、風を汚さぬよう、水を汚さぬよう...自然物は神聖な物だそうだ」

「そうですか...え? ...そう、なんですね」

 

少し遠くからこちらに向かって勢い良く飛んでくる黒い影が見える。多分、今足元で粉々になっているカラスの親鳥。

そんな勇猛果敢な親を嘲笑うように父は指を一つ鳴らした。

今からマジックでも始めるのか、響く骨の音が羽毛に隠れた鳥の耳孔に届いた頃には全てが遅かった。

父の顔スレスレまで迫っていた鉤爪は動きを止め、そしてその鉤爪の持ち主は火達磨になった。パチパチと空気中の水分が弾ける音が数秒聞こえて、火が姿を消した。

カラスは灰になり風に靡いて何処かに運ばれて行った。いずれは地に落ちて流れて海に辿り着くだろう、死骸の成れの果て。

 

「私は今、自然を汚したと思うか?」

「......先程お父様が言った事が正しいのであれば、神聖な物を死体で汚したことになると思います」

「そうだろうな。では自然が神聖な物で無いのなら? そうでなければ、私は何も汚していないと言えるのではないか?」

「そう...ですね」

「創造主はいつかの日に私に言った。私を咎めた。自然は神聖であり、人間は慈しまれる。自然は人間に寄り添い、人間は自然に貢献すると。しかし自然は偉大であり、その関係は人間を下位にすることで関係を成り立たせる。だからこそ...自然を汚すことは許されない。それは上位への冒涜だからだそうだ。今となっては人間だけにとどまらず魔物やら魔人やらと有象無象が増えはしたが...その関係は変わっていない。何故か? それが概念だからだ。概念は変わらずに受け継がれ続けた。概念は不変であり、時代の変化を見守り続けている。

では...その概念が変わればいいのではないか? 不変は変えることが出来れば不変ではなくなる。その当たり前の不可能を可能にすればいい。そうすれば私は今の行動で何一つ禁忌を犯していないと言えるのではないか」

 

───え? この人何言ってんの?

これは俺の理解力の問題なんだろうか。でもこれを理解出来たのならそれは何かを踏み外した後な気もする。

...落ち着け。こんなにも脳が理解することを拒んでいる状況に巡り会うのは珍しい気もするが今はとりあえず落ち着いて、整理しよう。

つまり? ...つまり、なんだ?

『今ある概念が自分の行動を罪と言うなら、その概念を変えてしまおう』って事だろうか。

違ったのならもうお手上げだ。

 

どうしてこの人はこんなにも遠回しに分かりずらくものを話すのか...。

《告。主様も同様の話し方をする時があります》

───マジ?

《マジです。》

俺こんな比喩に比喩を重ねて根本を薙ぎ倒したみたいな話し方してんのか...今度から少し気にかけて話をしよう。会話は相手に伝わらなきゃコミニケーションとは言わない。それはもうただの独り言。

......これで父が俺の名前を呼ばずに話を続けてくれるなら、独り言に出来たというのに。

てかメーティスって「マジ」とかそういう言葉遣いするんだ、知らないままで良かったな。

 

 

「創造主は天空、水、大地、植物、動物、人や魔物、そして火を作り生命と光を掲げた。創造主は有り得んばかりの善を生み出した。だが...善があれば悪がなければそれは均衡を保てない。創造主は、この世界に悪を作らなかった。だが創造主自身には“悪徳”が確かに存在した。誠也...それが私だ。創造主ヴェルダナーヴァ、それが持ち合わせた悪心が魔素を含み零れ落ちたのが私だ。人間は私を“レブル”と呼び、善を汚すものとして追いやった。不思議だとは思わないか? 何故私が追いやられなければならなかったのか。私が生まれ落ちた事でこの世界には死と闇が生まれ、均衡を保つことになった。

けれどこの世界は私を嫌った。死と闇を嫌った。それはつまり均衡を嫌ったということだ。だからね、誠也。私は世界を作りかえることにした。私は新たな創造主として死と闇を掲げる。大地を砂漠に、海を塩水に、植物を枯らし、人間や魔物を殺し、火を汚す。衰亡、邪悪、汚染...それらを害悪とする善の意思を書き換える事にした」

「............あ、はい。それはとても...素晴らしい考えだと、思い...ます。はい」

 

 

レブル。

俺がテンペストとルベリオスの会談を抜け出した後に出てきた名前だ。

ヒナタに残して置いた回路を辿って盗み聞きした内容は確か、死食鬼(グール)を作り出したとかだったか。それと世界を壊そうとしてるとか。父の話からして壊そうとしてると言うよりかは書き換えようとしてるだけなのだが、今の世界に生きている者からしたら壊そうとしてるのと同じか。

 

「何度繰り返したと思う? 何年も続いた概念を、概念の中で生きる事しか出来ない私が書き換えるために、何年何度やり直したと思う?」

「...申し訳ありません、私には測りかねます」

「そうだろうな、私も数えていない」

「えっ...」

「だが──────」

 

話しながらもずっとファルムスの街並みを眺めていた父がこちらを向いた。

絶妙な距離感を空けて立っていた俺に詰め寄って、テラスの柵越しに追いやられた。父の腕と腕の間に閉じ込められて、少しばかり高い位置にある父の顔を見上げた。

 

「お前は最高傑作だ。転生を利用し始めたのは最近だが、得たスキルも転生先の魔物も全てが素晴らしい。“愛おしい”と思っているよ」

「あっ......」

「だから、これからも私が愛おしいと思えるようにいなさい」

「はい」

「“この世界の概念を書き換える”、いつか月が四つになるだろう。お前は完璧に...私の役に立つ行動を取りなさい。私の計画通りに動きなさい」

「───はい」

 

 

良い子だと言って父は指を俺の心臓の位置まで滑らせた。

その瞬間体の奥底で何かが蠢くような、そんな感覚に襲われた。アカ・マナフが動いている時とは違う、もっと強引で冷えきってしまいそうな程に冷酷な、苦しすぎる拘束のような。

 

「元は人間の魂だ。二年は流石に長すぎた。安心しなさい、ただ縛る位置を変えるだけだ」

 

指先までもが自分のものでは無くなったように震えて力が入らなくなった。

崩れ落ちた俺の体を父は支えて、そして笑った。少しだけその笑い方が俺に似ていた。

 

ボヤけていく視界と思考の中で、確かに思った。──────やっぱりこの人は変だ、と。

 

 

 

『我ら神の時代を誠に司るモノ也』




この話でのラルタ、ずっと困惑してる。
まぁそりゃそうですよね、久しぶりに会った父がずっと意味わからん事言ってたら困惑もしますよね。
これを読んでくださった皆様も、こいつ何言ってんの?って思ったらそれが正解です。逆に一発で意味が全部分かったら尊敬してしまいます。
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