転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第68話...円環の鎖

久しく見ていなかった天井。

寝ぼけて重い体を横に傾ければ、やっぱり久しく見ていなかった部屋が広がっていた。

前世で、父と暮らしていた時に使用していた部屋。こちらの世界では珍しいモダンでシンプルな造り。家具や装飾品、観葉植物に着いた花の数までもが全く同じな部屋。今までの出来事は全て夢なんじゃないかと思ってしまいそうだ。

 

体を起こしてカーテンの隙間から外を覗けば、太陽が高い位置に登っていることが見て取れた。ほぼ丸一日眠っていたらしい。

どおりで体が重い訳だ。

 

視界の隅でチラチラと見える前髪をかきあげて、少し固めのベットから抜け出した。

服も前世で使用していた寝巻きと同じ物に着替えさせられている。クローゼットを開ければローブ等が丁寧に仕舞われていた。

ローブの横にかけられていたカラーシャツとズボンを適当に取り出して着替える。

何もかもが前世の生活と変わらない流れを汲んでいる。そんな中で、少しの違和感を覚えた。

 

着替える時にどれだけ注意をしようとも、首元に布が触れるのは仕方がないことだろう。その仕方のないことがいつもいつも不快だった。

首に布が触れる、誰かに触られる、首に何かの感覚が触れるのが昔からずっと苦手だった。スラムに居た頃は平気だったのに、父と暮らすようになってからこうなった。きっかけも分からぬまま、不快感だけがどんどん増して考えることをやめた。生活の中で何かが触れても、意識にできるだけ入れないようにしてきた。

 

それなのに、今、俺は何も不快感を感じなかった。シャツの襟が首に触れた時、布の感触はしたがそれだけ。

自分で首筋を撫でてみても、手の感触がするだけだった。あの形容し難い、心地よい拘束を奪われるような、大切な場所を奪われるような感覚が襲ってくることは無かった。

勿論ありがたい話なんだが、昨日まで感じていたものが急に無くなると、少し不気味だ。

 

 

いつまでも過ぎたことを考えていても仕方がない、そう結論づけて鏡台に移動した。竹櫛を手に取って髪を梳かしながら、鏡を見た。

そこにはいつもの自分が写っいる───首元以外は。

 

「......は? 何これ、鎖?」

 

首元に一周、二本の鎖が絡まりあっていた。

勿論触っても何も無い。これはさっき確認したばかりだ。

刻印、だろうか。俺の肌は炎症を起こすことも無く、その鎖を受け入れている。

 

 

《解。主様(マスター)の魂に絡みついていた“未知の力”が体全体に移ったことを確認しました。その鎖の刻印は未知の力の基軸であると思われます。》

───てことは、お父様か。

意識を失う前に何かしてたから、その時に移したんだろう。鎖を選ぶ所に、父の趣味を感じる。

 

《......主様(マスター)。》

はい、なんですか。

主様(マスター)が起床した際、魔力感知は正常に作動していました。魔力感知は主様自身を他視点から見ることが可能です。つまり、起床した際に変化に気づけたはずです。》

もしかして俺、今責められてる?

仕方がないだろう。そんなにずっと気を張ってられないし、外敵からの攻撃意志を感じたらメーティスが教えてくれるし。だからお前が何も言わないから変化に気づけなかったの。

《私は踊らされませんよ。》

...チッ。はいはい、今度からもう少し気にかけますよ。

 

 

「はぁ...なんで朝っぱらから説教喰らわなきゃいけないんだか」

「──────おーい、起きてるかー?」

「......は?」

 

扉が三回ノックされる。

扉越しに声を掛けている誰かは俺に起きているかを聞いているんだろう。

まぁ、“誰か”と言ったが、その声には聞き覚えがあった。

 

「おーい!! 寝てるー?」

「......マジかよ」

「あぁ...もう入っちまうからな! 怒んなよ!」

 

 

忘れられるわけが無い。

だってこの声の持ち主のせいで、俺はこの世界に生まれ落ちて、こんな事になってるんだから。

扉のノブが下に曲がるのと同時に、手の中に一滴の血液を揺らした。

開かれた扉から、冷気が入り込む。人の姿を捉えるが早いか、手の中にあった血液が針の様な姿に変わり、勢い良く飛んで行った。

 

「うわぁぁぁ!!」

「うるせぇな...」

「いっいきなり針を飛ばしてくる奴がいるかよ...!」

「また、“俺の背中を刺しに来た”のかと思ってさ。久しぶりだな?」

 

飛ばした針に気づいた男がすんでのところでしゃがみ込んだ。針は的を失い、廊下の壁に突き刺さっている。

部屋に入ってきたのは、懐かしい男だった。前世の俺の死因、後ろから俺を刺してきた男だ。

見た目も何も変わらず、体内には膨大な量の魔素が見て取れた。多分召喚されてここに来たんだろう。特定の人間を召喚する方法があるのも驚きだが、まぁあの父なら有り得ない話じゃない。

 

「えっと...久しぶりだな。俺ずっとお前の事セイヤって呼ぶの楽しみにしてたんだぜ!」

「なんだその楽しみ...変な奴」

「俺マラカイトって名前をセイジ様から貰ったんだ。カイトって呼んでくれよ」

 

マラカイト...ヒエラルテと同じ五文字。

なんだろう、この数日で父の癖というか特徴を新しく見た気がする。

俺が言うのもなんだけど、ネーミングセンスは無いと思う。名前を五文字にすることあんま無くない? 愛之助とか賢太郎とかか?

 

それにしてもコイツ、何事も無かったように立ち上がって埃を払ってるけど。俺が恨んでるとかそういう可能性は考えていないのか。

流石に年単位で前の出来事を恨むほど暇じゃないし、結果的に死んでないから良いんだけど。こうもヘラヘラされると、イラつく。

 

「ねぇ、マラカイト。お前さ───」

「カイトって呼んで。 俺あだ名で呼ばれたい」

「話遮んなよ...はぁ、カイト。お前さ、なんでここにいんの? いつからこの世界にいるの?」

「なんでって言われると、召喚されたから。いつって言うと、セイヤを殺して死体を処理した後直ぐに」

「死体わざわざ処理したのか、燃やしたの?」

「いや食べた」

「えっ、お前人間だよね?」

「当たり前だろ」

「俺の死体を食べたんだよね。マジで?」

「だってセイヤの死体だろ? 誰かの手に渡るのも、地に還るのも気に食わないじゃんか」

「何言ってんのか全然わかんないんだけど」

「つまり、“愛してる”って話だよ」

「......お前の愛の意味は俺の知識と一致してる?」

「それは知らない」

 

ニンマリと目尻を下げて笑ったマラカイトは、鼻歌でも歌いそうな程の上機嫌でベットのシーツを剥がし出した。お前は一体どういう立ち位置なんだ。

人間の肉って、普通に食べるとなると結構大変だったと記憶してる。血を抜いたり、脳みそは食べちゃダメだったり色々あったはず。

なるほど、父だけじゃなくてコイツも変な奴なようだ。

 

「俺達がつるむ事になったキッカケ、覚えてる?」

「お前がしつこいくらいに話しかけて来たから」

「そうそう。あれさ、セイジ様が俺に指示してきたんだ。俺がめっちゃ小さい頃にヒョイっと現れてさ、色々よく分かんないこと言ってた。でもその時から誠也に目をつけてて俺を利用してこの世界に転生させたんだ」

「へぇー」

「へへっ、それでさ。最初はセイジ様が報酬として飯とか金とかくれるから従ってたんだ。お前の事も特に何にも思ってなかった。なのにさぁ...気づいたら好きになっちゃって」

「はぁ? 何も思ってない所から好意を持つまでの経緯が空白すぎるだろ」

「しょーがないだろ! お前を刺して、お前が弱っていくのを見た時...思ったんだよ。あぁ好きだなぁって」

「気づく瞬間気持ち悪っ...」

「お前ちょっと失礼じゃない? 俺仮にも年上なんだけど!」

「お前年上なの!?」

「気づいてなかったの!? 俺お前より五歳も年上なんだけど...」

「見えねぇ...同い年だと思ってたわ。ガキ臭いから」

「さっきから失礼すぎるだろ!」

 

ベットを叩いてギャーギャーと騒いでいる。

取り替えられたシーツ等は、その仕事ぶりが丁寧であることを証明していた。俺の記憶の中のコイツは大雑把で野生の勘だけで動くようなタイプだったから違和感がすごい。

取り替え終わったシーツを抱えて、マラカイトがこちらに歩み寄った。

俺より背の低いマラカイトを見下ろせば、目が合ったことにまた嬉しそうに笑った。

そしてズボンのポケットをゴソゴソと漁って、ピアスを取りだした。

 

「はい、これは俺の愛の印だよ」

「...愛の印、ポケットから出てきたけど」

「? なんか問題あるか?」

「あるんじゃない?」

「このピアス、ヘリックスって言うんだって。ほら俺の耳にも着いてる」

 

そう言って、ふわふわの髪をかきあげたマラカイトの左耳には確かにピアスが着いていた。そのピアスからは不自然にチェーンが垂れていた。俺の手に乗せられたピアスも同じデザインのようだ。

 

「もしさ、俺の愛を受け取ってくれるんだったら着けてよ。今すぐじゃなくていいから」

「......受け取るってなんだよ」

「俺の愛めっちゃ重いからさ。セイヤ、俺お前しか見てないから。何を捨てても何を傷つけてもお前だけだから。気長に考えてよ、お前の思考が俺でいっぱいなのは嬉しいからさ。俺の愛を信じれた時に着けてくれればいいから。

じゃ、早めに降りてこいよ! 飯出来てるから」

 

 

マラカイトが扉を閉めて出て行った。

また静まり返った部屋で、唾液を飲み込む音が響いた。

 

受け取るってなんだ?

与えられるのと何が違う?

愛を信じられた時って一体いつなんだ。でもマラカイトが俺に向けている愛は俺の求めているものに、とても近い。

後は、俺次第?

信じる事が出来たら受け取る事が出来るのだろうか。

──────信じるってどうやるんだ。

 

与えられた物は、いつも直ぐに身につけたりしまい込んだりして来た。

でも、渡された物をどうしていいか俺は知らない。手の上で輝く黒色の装飾もないピアス。

そんなに重さも無いはずのそれが酷く重い。

 

ずっと愛されたいと思って来た。

でも俺は、愛の受け取り方なんて知らない。

マラカイトも酷いやつだ。こんな事なら、“与えて”くれればすんなり言ったのに。

 

「セイヤーー!!」

 

廊下の方でマラカイトが俺を呼ぶ声が聞こえる。思ったより長考していたらしい。

どうしていいのかも分からなくて、結局アカ・マナフの倉庫の中にしまい込んでしまった。

 

部屋を出ようとする瞬間に鏡に写った俺の顔は、迷子の子供のようだった。鎖に繋がれた迷子の子供、行き場も知らず行き方も知らず、繋がれたまま。




求める事しかしてこなかった。
ここに来て、“信じれない”事の弊害が出るラルタさん。
変人の父と変人の子供と変人の側近、何この怖い集団。
実はこの変人マラカイトさん、第1話でラルタの死に際を「悲しい顔」で見届けたんですよ。やっとの伏線回収です。

リムルの所はラミリスが突撃訪問してきた辺りです。
次話はまた神代誠司の変人ムーブ回、その次は原作キャラとの絡み(?)になる予定です。
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