転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第69話...食卓を囲んで

神代誠司。

日本の慈善活動家として知られる名だ。その活動範囲は国境を跨ぎ、世界中の人々が賞賛した人格者である。

容姿端麗、眉目秀麗、智勇兼備、才貌両全。

主に女性にしか使われぬ才色兼備と言う言葉すらもが似合ってしまうような男だ。

インターネットと言う海の中で、その存在は尾びれ背びれを足され、けれど魚であると認識され続けた。不気味なまでに完璧な存在。

こちらの世界では意味が変わってしまうが、聖人とは彼のためにある表現方法だとまで言われていたのは、未だに記憶に残っている。

勿論そのような存在の住まう家は日本という島国には似つかわしくないほどに広大であった。

整えられた庭には様々な草木が植えられ、水々しい花々がそれを色付けた。二階建ての家は重厚感の溢れるモダンな造りで、常に落ち着き払った神代誠司によく似合っていた。内装も全てが一級品でありながら、品のない煌びやかさではなく謙虚な姿勢を見せていた。

 

そんな人の住まう家がまるまるファルムス王国に存在している。

マラカイトの声に答えて部屋を出てそう思った。俺の部屋も完全再現と言わんばかりに記憶と一致していたが、ここまで来ると再現と言うよりかは持ってきたと言われた方がしっくりくる。

廊下に飾られた絵は、いつぞやに外国の有名な画家が父の為に描いた絵であり、置かれた花瓶は歴史的価値を持つ過去の偉人の物である。それらが記憶と違わずそこに存在している。

ならばと記憶通りに食卓へと足を運べば、やはり記憶に違わぬ位置にそのままの姿の食卓があった。

椅子に座り、足を組む父は前世の記憶と変わらない威厳をかもしている。

───だけど、流石に前世で俺が暴れてつけた傷の一本までもが再現されてたのはちょっと引いた。もちろん言わないけど...。

 

「あぁおはよう。おや、中々に似合っているじゃないか。お前は肌が白いから赤黒い色にしてみたが...縊死の痕のようで素晴らしい」

「...ありがとうございます」

「ふっ...聞きたい事があるという顔をしている。それも一つではない。────良いだろう、掛けなさい。食事の付け合せとして私がお前の質問に答えてやる」

 

ちっとも嬉しくない褒め言葉に小さく笑う。

促されるままに座った椅子は前世での俺の定位置。淡いシャンデリアの光が照らす食卓は、静かで重苦しく、酷く懐かしい。

 

「飯持ってきたぜー、じゃーん! 俺が丹精込めて殺してきたんだ。メニューは...二十四歳の女騎士、病気はなし。一番柔らかいとこだよ」

「...ありがとう、カイト」

「今紅茶入れるからゆっくり食べてなぁ」

 

これぞ空気感ブレイク、素晴らしいタイミングだ。ニコニコ笑顔でキッチンから現れたマラカイトが置いた皿には、丁寧にスライスされた人間の肉。ソースの代わりに血が綺麗に皿を飾っている。人間版ローストビーフと言うやつだ、加熱してないけど。

添えられたナイフとフォークを手に取って、丁寧に口を運べば確かに美味だった。いつもは齧り付いてたから、こういう食べ方はなんだか新鮮だ。

 

「はい、紅茶。そういえば、余った部位で試作でスープ作ったんだけど飲む? 生じゃないから味気ないかもだけど」

「じゃあお願い」

「りょーかいっ、ちょっと待ってろ」

 

何が楽しいのか知らないがマラカイトは浮き足立ってキッチンに引っ込んで行った。

でもマラカイトみたいな緩い空気を纏う人間というのは、心情的に大切らしい。だってあいつがキッチンに戻った瞬間、食卓の空気が死ぬほど重苦しくなった。

 

「お父様、質問の機会を頂きまして、心から感謝致します。早速で申し訳ないのですが質問をしてもよろしいでしょうか」

「あぁ許可する」

「ありがとうございます。お父様は私の所持しているスキルについて、きっとご存知でしょうから省きますが、究極能力(アルティメットスキル)叡智之王(メーティス)」が何度か“未知の力”を感知しました。そしてどうやらこの首の印、これもそうなのだとか。この力はお父様の物だとは思うのですが、これは一体なんですか」

「なるほど、確かにその質問は最もだ。自分の体、ましてや魂に巣食う力に疑問を持つなという方が無理な話。お前の思考の代弁者もいつまでも未知と称して自分の不甲斐なさを表に出し続けたくは無いだろう。

お前達が“未知の力”と称したそれは名前も付けられぬほどに崩れきった物だよ。私は様々な世界を行き来したが、各世界にはその世界なりの希少な力が存在していた。お前のいた地球にもあったのだよ、地球人はそれを超能力と称していた。地球やそれを取り巻く宇宙に散らばる生命の星が持つ様々な力をかき混ぜた結果がその力だ。色々と切り捨てたり繋げたりをしたから一つ一つは原型も保っていないだろう。だが、そう言っても名前が無いと言うのは話していく上で不便だな......結合性希少能力(コンパウンド)としよう。コンパウンドを私の究極能力で動かしているのが、お前の首にあるものだ。所詮は寄せ集め、大した力でもない」

 

 

つまりこの世界の力ではないと。

分かりずらいだけじゃなくて話が長いのは本当にどうにかならないか。いや、ならないな。年取ると話が長くなると言うし、当方もない年数を生きた人に話が長いというのも野暮だろう。別に父親をジジィと言ったわけじゃない。

というか超能力って実際に存在したのか。

夢物語、法螺の延長線にあるのが超能力と呼ばれる妄想だと思っていた。

 

 

でも面白い話を聞けた。

突拍子もない話だが、もうなんでもいい。というよりもこの世界に来て頭のイカれた力を何度も目の当たりにしてきて、「地球にはそんな力ありませんよ」なんて到底言えない。

面白いと思った理由はその力の正体ではなく、使用者の方にある。

度々俺は未知の力による洗脳を受けていた。何度もメーティスが抵抗(レジスト)してくれているから大事には至っていないが、不快は不快。けれどその未知の力は俺の内側からではなく外側から来ていた。それも少しだけ違った力として。

その洗脳は常に中庸道化連との密会の時にだけ俺を捕食しようと躍起になっていた。内側にあった未知の力、コンパウンドとは別の何か。

その答えが今の父の話でわかった。

あの異世界人、中庸道化連のリーダー様、そいつの“超能力”だろう。

あぁなんて面白い話。あんな何処にでもいる少年のような出で立ちで内に秘めるのは乖離した能力だなんて、愉快で仕方がない。

俺も欲しいものだ。だってこの世界の力では無い、それだけでメーティスですら解析ができなかった。世界と逸脱したものはその世界に囚われたものには理解できない。

あいつを喰えば手に入るかな──────

 

 

「中庸道化連のリーダー、日本人だそうですが、彼は超能力が使えると予測しました」

「あぁ使える。というよりかは私が使い方を教えた」

「彼とは何処でお知り合いに?」

「日本という国で幾許か過ごした折に偶然であった。強い能力に随分と引っ張られていたものだから手ほどきをした。それが功を期したのか、アレは私によく懐き、師とした」

「ですがアレはお父様の足を掬うとしているように感じました」

「だからいいんじゃないか。師よりも先、あるかも分からないその先に全てを踏みつけて進もうとする姿勢は私としては大変好ましい」

「左様ですか」

 

何が大変好ましいのかよく分からない。

俺だったらお灸据えついでに足を切り落とす。

 

「スープ持ってきたぜ」

「ありがとう...なんか遅くない?」

「だって二人揃って難しい話してるんだぜぇ? スープ片手に入れる空気なかったんだよ」

「お前も空気とか読めるんだな」

「俺をなんだと思ってんだ」

 

 

出されたスープを一口──────不味い。

いやもしかしたら美味しいのかもしれないけど不味い。味がよく分からない。

多分薬物が抜けてきてる。でもここで吸う訳にも行かないし...頑張るしかないかな。

せっかく出してくれたのに食べないのはマラカイトに悪いし、食べ物がもったいない。

 

 

「あれ、もしかして不味い? 一応俺も味見したんだけど」

「人間の肉で出来たスープをお前が味見するなよ、さすがに心配なんだけど。大丈夫、不味くないから」

「あぁ、きっと薬物の効果が切れたのだろう。副作用が出ていないだけまだ良い。マラカイト、倉庫の左から二番目、引き出しの奥にある瓶を持ってきなさい」

「了解です!」

「あの、どこまで私の事...ご存知なのですか?」

「全て把握している。なんならお前の今の体重を当ててやろうか。体重計に乗ってくるといい」

「いえ、大丈夫です」

 

 

冷や汗をかきながら美味しくないスープを二口ほど口に入れた辺りで、マラカイトが錠剤の入った瓶を持ってきた。

コルクで閉められた瓶にはラベルが貼ってあり、そこには『一回一錠』と記載されている。

 

「それは食事の前に飲むといい。薬物で上手く後遺症を調整しているようだが、食事の席で煙草を吸うことも出来ないだろう。それは一回飲めば五時間は効く。効果はお前の吸っている煙草よりは弱いが、神経によく作用するように調整してある。食事や誰かとの触れ合いだけならそちらの方が有用だ。食事前と言ったが、煙草を吸えない状況にあったら使うといい。無くなったら言いなさい」

「......ありがとうございます」

「セイジ様ってばパパらしい事しますね」

「仮にも父親として存在しているからな」

「まぁ俺の知ってる父親はそんな危ない薬を息子に渡しませんけど」

「ふっマラカイト、君も似たような後遺症を患うようにしてあげようか」

「ひえっ、勘弁です」

 

書かれた通りに瓶から一錠取り出し、口に放り込む。水なしで服用(この場合は服用とは言わないかもしれない)できるそうなので、奥歯の方で噛み砕いた。ものすごく苦い。もう少し味をどうにか出来なかったのか。

即効性を高めに調整してくれたらしく、完全に溶けた所でスープをもう一度口に含めば確かに味がした。即効性も行き過ぎると普通に怖い。

スープは優しい味わいで、野菜のダシが人肉の甘みとよく合っていた。

 

「美味しい」

「おっまじ? 試作したかいがあったよ。実は色んな部位を無駄なく使えるように試作をしてるんだよ。でも脳みそだけはダメだなぁ、水っぽすぎて何にしても変になる」

「脳みそはブヨブヨしてて不味いし臭いからやめとけ。臭み取りでどうにかなる話じゃない」

「だよなー、しょうがないから家畜の餌にでもするか」

「その家畜、なんかの病気持ちそうだな」

「どうせ食べるのは雇われの傭兵だよ」

「なら安心」

 

さっきとは打って変わって、美味しいスープはペロリと無くなってしまった。元々スープの類は好きだったから、おかわりまで頼んでしまった。おかわりをするのも随分と久しぶりだ。

 

 

「お父様はどうやって日本に来られたのですか?」

「誠也、一方通行と言うのは倫理的な物で無理矢理押し通れることは出来るんだよ」

「なるほど、召喚呪文を逆算したのですね」

「つまりはそういう事になる」

「召喚呪文、お得意なのですか? 良く使用されているように話の中で感じますが」

「得意という程では無い。だが私の体は召喚と酷く密接だから、扱いやすいんだよ」

「体?」

「あぁ、そうだ。誠也はギィ・クリムゾンとは会っただろう?」

「はい、魔王達の宴(ワルプルギス)で二言ほど言葉を交わしました」

「アレと私は“兄弟”なんだよ」

「──────え?」

「ふっ驚くのも無理は無い。実際、兄弟という表現は正しくは無いだろう。けれど一番的確だ。まぁ、あちらからしたら気に入らないだろうが。私は創造主からの剥がれ物でアレは精神生命体。似ていて違う。創造主の悪徳と魔素が混じって生まれた私は魂を持たず酷く不安定だった。それをどうにかしたいと考えていた時に現れたのが調停者であるギィ・クリムゾンだ。昔は私も派手に色々としていてね、創造主の目に余ったのだろう。都合よく悪魔を寄越してくれた。だから私はギィ・クリムゾンの核を半分奪い取り、自分に吸収させた。悪魔は召喚されてこちらにやってくるから、否が応でも召喚に関してはできるようになった」

「ギィ・クリムゾンは随分な手練だったように感じます。そんな簡単に、核など奪えるのですか」

「あぁ奪えた。昔は今ほどアレは強くなかった。それにアレは創造主に敗北している。私も言ってしまえば創造主と同義、勝敗は見えていた。向こうとしては不快で仕方がないだろう。私が生きている限りギィ・クリムゾンも生き続け、その逆もまた然り。私を殺せば核を半分失うことになる。弱体化は免れない。それを避けるため、ギィ・クリムゾンは直接私を打ちに来ることも出来ない。なんとも滑稽な話だ。なぜなら、私も言ってしまえばギィ・クリムゾンであるのだから」

「でしたら、ギィ・クリムゾンからもう半分を奪うことが出来れば完全となれるのですね」

「おや、奪ってきてくれるのか? 私は随分と親孝行のできる子供を育てらしい。だが、今はいい。そのときではない。私の足場を崩そうと躍起になる悪魔は目障りではあるが、存在しているだけで都合がいいこともある。その時が来たら願おうかな」

「はい」

 

父は俺の返事に満足気に微笑んで席を立った。マラカイトがコートを持ってきているあたり出掛けるのだろう。

 

「私は王城に行く。マラカイトも連れて行ってしまうから食事が終わったら片しておきなさい。それから...太陽が月に追いやられた時、王城の地下牢に来なさい。献身的な息子へプレゼントをやろう」

「プレゼント、ですか」

「あぁ、貰ったなら好きにして構わない。正義に使った立派な英雄様をあげよう」

「ふっ...嬉しいです」

「よろしい」




祝・転スラ10周年!
ということで何時もよりも会話多めのほのぼの回(当社比)です。
この話、一回データ丸ごと消えて泣きました。約5000文字をもう一回はきつい......。

誠司が説明すると分かりずらいですが、簡単に言うとギィ・クリムゾンという容器と空っぽの容器が存在していて、その容器に無理矢理ギィ・クリムゾンの核を半分注いだ状態です。つまりニコイチ。
昔はレブル>ギィ、今はレブル≦ギィです。
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