「やっほー、やってる?」
「あぁ、ラルタ様。ぼちぼちと言ったところです」
シズの事件も落ち着いて、平和な日常が戻ってきた。俺が、シズの横でお人形さんやってた時も皆が着々と町の建設を進めてくれていた。
まだ、ほとんどは仮設テントだが、工房なんかは家になってたので後で見に行こうと思う。
だけど俺も町探索だけしてれば良い訳じゃない。
リムルの助手である以上、リムルからお仕事を頂くこともあるのだ。
その1つが、ゴブリン・ロードに任命された4人のお手伝いである。そう、俺が殺す宣言をした人達である。さすがにリムルが正式に名前をあげたから撤回してあるが...。
「ラルタ様からのアドバイスから直属の部下を15人ずつ選出することにしました。また、お互いに持つ権利を牽制できるような制度も整えることにしました」
今は、リリナを除く3人ルグルド、レグルド、ログルドと司法、立法、行政を司るにあたっての組織としての人員と基盤を作ってもらっている。
リリナには生物の管理大臣をしてもらっているのだが、そちらも後で訪ねようと思う。
「15人ずつか、いいと思うよ。もしこれからこの町の人数が増えていくなら人数自体を増やして言ったり組織内にも管轄を決めればいいしね」
「はい、その15人が決まったらまたご報告します。それでですね、この三権を牽制し合うための制度をどうするかがまだ決まってないのです。アドバイスを頂けませんか」
ふん、制度か。
明らかにリムルは三権分立を狙ってるみたいだし、日本の制度をそのままぶっ込んじゃえばいいかな。でもそうすると、15人ずつだと少ないかな...。
「今ここで決めるのは難しいな、後日また集まった時に俺の案をだすよ。そこから、3人の案と合わせて詰めていこう」
「わかりました」
「ラルタ様、私からひとつよろしいですか」
すっと、手を挙げたのは立法を任せることになったレグルド。オールバックの髪型が中々かっこいい。
「何?」
「法を作るに当たっての基盤が欲しいのです。それが無ければ、法はやりたい放題できてしまいますから。なので、リムル様とラルタ様にその基盤となるものをお願いしたいのです」
つまり、憲法が欲しいということである。
確かに、憲法は必要かもしれない。立法だけじゃなく、司法や行政にも憲法は基盤となる。
「わかった、リムルにも伝えておく」
「ありがとうございます」
「それにしても、ラルタ様。丸くなりましたねぇ」
「丸く?何、太ったの俺?」
「いえいえ、そういうことじゃないですって。なんて言うんでしょうね、俺たちと初めてあった時なんてすっごいピリピリしてたのに。今は随分穏やかですよ。お前らもそう思うだろ?」
ログルドが他の2人に同意を求めると、その2人も頷いて同意を示す。
んん、実は最近リムルやリグルドなんかにも同じような事を言われた。そんなに変わったか?
「だから、お前達に殺す宣言をしたのは謝っただろ?お前たちもリムルに名前を貰ったんだ。もう、俺がお前たちにどうこうする話は終わったんだよ」
「それはもちろん、前にも聞きましたよ」
「はぁ、俺自身もお前たちが大切だよ。守りたいって思ってる」
茶を啜りながら3人を見ると、何故かキョトンとした顔で俺を見つめている。
「何?俺なんか変な(ラルタ様!)
《個体名ランガからの思念伝達。静音から救援要請と推測ー》
ガタッと椅子を鳴らして立ち上がる。
「悪い、急用ができた」
人化を解いて走り出す。俺に思念伝達を送ってことはリムルにも送ってるはず。
ランガが救援要請?襲われてるなら並大抵の敵じゃない。
4足で森の木々をすり抜けて走る。
走っている途中で、リムルの姿が見えた。
「リムル!」
「ラルタ、お前にも思念伝達が届いたのか」
「そういうこと」
2人で森を走り抜けて、開けたところに出る。
「ヴゥゥ...」
敵だと思われる姿が見えた瞬間、喉から唸り声が出る。
鋭い嗅覚に鉄の匂いが届く。たった今、ゴブタがあの白いのに切られた。
「ラルタ、飛びかかるなよ」
「わかってる」
どうやらオーガという魔物らしい。
倒れている奴らも、魔法で眠らされているだけのようだ。ゴブタの傷もリムルの回復薬で治った。
(リムル、実力差は明白なのにこっちは致命傷は負わされてない。ほとんどは無力化されてるだけだ)
(訳あり...か。)
「正体を表せ、邪悪な魔人め!」
魔人?リムルを誰かと勘違いしてるのか?
まぁ、自称「愛くるしいスライム」は無理があるとは思ってるけど。
赤いオーガの話からして、仮面をつけた魔人に同胞が殺されたんだろう。
同情してやりたくもなる。
「ランガ、魔法を使うのはどいつだ?」
「はっ、巫女姫と呼ばれた桃髪の女です。」
「では、彼女の牽制を頼む。ラルタ、あの青と黒の男をやれ。他は俺がやる。」
「もっとくれてもいいのに」
「殺すなよ」
わかってるよ。
瞬時に人化して、黒髪のオーガに近づく。
「悪いね、俺が相手で」
振り下ろされる金槌を素手で受け止めてやる。
「もっと、力入れなよ」
オーガの肩を片手で掴んで自分が背中側に回転する力を使って投げ飛ばす。
宙に放り出されたオーガが地面に着く前に、先に回り込んで横から蹴り飛ばす。
後ろから斬りかかってくる青髪を避ける。
「それで、不意打ちのつもり?」
避けられた事に驚いているオーガの頭を掴む。
俺の掴んだ手を離させようと剣を突き立ててくる。早い判断だとは思うよ。相手が俺じゃなければ。
剣が俺の腕に届くよりも早く、頭を地面に打ち付ける。あぁ、痛いだろうな。
少し力の抜けたオーガを宙に投げて蹴り飛ばす。飛んだ先は、さっき俺が沈めた黒髪のオーガ。まだ、立ち上がろうとしてるみたいだからおすそ分けだ。
低い唸り声をあげて2人が沈む。
「やっぱ、人型の方が肉弾戦も楽だね」
手に着いた汚れを払いながら2人に近づく。
2人とも、血がてでるのにまだ立ち上がろうしている。すごい、闘志だ。
腰を折り曲げて顔をちかづける。
「体、痛いだろ?動くなよ。心臓から凍らされたいか?」
力の差。それが俺と、この2人にはあった。
俺の勝ち。
リムルの方は...
紫髪のオーガは粘鋼糸で縛りつけられていた。
で、なんであいつは手を切られてるんだ。
敵との距離感からしてあの白いのに切られたんだな。リムルの魔力感知を掻い潜って、多重結界と身体装甲を破ったのか。なかなかの腕だな。
でもダメだ、リムルの右腕なんて切ったって。
「確かにな、すぐ調子に乗るのは俺の悪い癖なんだ。忠告痛み入るよホント。もっと慎重になっていれば右腕も失わずに済んだのに、あぁもう超痛い。
...まぁ、痛覚無効と超速再生が無ければの話だけどな」
豆腐に鎹。あぁ、なんて無駄な努力なんだろう。
「ば...化け物め!!、
あの炎も、無駄でしかない。
「俺に炎は効かないんだ、本当の炎を見せてやろう」
エクストラスキル「黒炎」
あいつ、いつの間にあんなスキルを。
シズから色々貰ったらしいし、その効果か?
俺も、もっとスキル集めをしよかな...。
「あの炎の大きさが、そのままあの者の力!!」
無慈悲な力を前にしても、オーガは諦めない。
不屈の精神だろうか。
どれだけ、こいつらの同胞は無惨に殺されたのか。
「俺には次期頭領として育てられた誇りがある!生き恥を晒すくらいなら、命果てようとも一矢報いてくれるわ」
どうする気なんだ、リムル。
絶対策なんてないだろ、だってあのリムルだ。
もういっその事、眠らせてどこか遠くに放り出すか。
「お待ちください、お兄様!」
赤髪のオーガがリムルに向かおうと刀を上げた時、ランガが相手をしていた桃髪が割り込んできた。
お姫様ナイス!あと数秒遅かったら俺ここの全員眠らせる気でいたからね。
「昏睡の魔法に抵抗して見せたあの二人のホブゴブリンはこの物を慕っているようでした。私を牽制した狼も...
それはオーク共を率いていた魔人の有り様とはあまりにも違います。
それに、あの
なんと素晴らしい説得技術。
眠らせて捨てようなんて策を考えてたのは誰だ。俺ですね、わかってますよ。
当分、リムルを馬鹿にするのは控えよう...
「よく考えろよ、この娘が本当はどっちを庇おうとしてるのか。なぁ、若様?」
どうやら、戦闘はもう起きなさそうだ。
「ねぇ、2人とも生きてる?死んでないよね?」
「うっ...」
「あぁ、良かった。ピクリとも動かないんだもん、驚かせないでよ。ほら、これ食べて」
俺が痛めつけたオーガに結晶を渡してやる。
中身はリムルの回復薬と一緒。
だけど、口を開ける気力もないらしく一向に食べようとしない。
めんどくさいので無理やり口にねじ込んでおいた。
「申し訳ない。こちらの勘違いだった。どうか謝罪を受け取って欲しい」
「うむ、苦しゅうない」
一時はどうなる事かと思ったが、丸く納まって良かった。
「ラルター!そっちのオーガは大丈夫か?」
「うん、回復薬ならねじ込んだ」
「ほら、立てる?」
手を伸ばすと、大人しく俺の手を掴んで立ち上がる。素直でよろしい。
「よし、じゃあ全員で戻るか」
「はっ」
「ランガもお疲れ様」
なでなでしてやれば、尻尾をブンブンと振る。
うん、可愛い。
「全員て俺達もか」
「そうだよ、色々事情も聞きたいしな」
「招待はありがたいが...いいのか?そちらの仲間を傷つけてしまったが」
「そりゃあお互い様だよ。ウチのラルタなんて手加減もできちゃいないしな」
なんと失礼な。魔法だって使ってないのに。
俺があんまり得意じゃない肉弾戦しかしてないのに。やっぱ、青髪の頭を叩きつけたのはまずかったかな。後で、もう1回謝っとこう。
「それに今日うちは宴会なんだ。人数は多い方がいいだろ?」
「おっ、リムルも食べるんだ?」
「おうよ!味覚を手に入れたからな!」
「ふっ、良かったね」
ガヤガヤと賑やかな宴の席。
その片隅で、オーガたちの事情が語られていた。
「
「事実だ」
「武装した豚共、数千の襲撃を受け里は蹂躙され尽くした。300人いた同胞はもうたった6人しか居ない。」
「ふーん、そのオークを率いてたのが仮面をした魔人って訳だ」
「ラルタの坊ちゃん。あんたはなんでそんな木の上にいるんだ」
「盗み聞き」
「坊ちゃん...。リムル殿の子供なのか?」
「んなあけあるか!ばーか」
「冗談だ」
実は、最初から木の上で肉を食べていたんだけど。今日の宴はリムルの初食事だからね。俺は隅っこで寂しく食事をするのさ。
嘘だけど、ただ事情が気になっただけ。
オーガとオーク、普段だったら戦いにだってなり得ないふたつの種族。
仮面の魔人がオークを強化させてるのか...。
それとも、オークの中で何かが変わったのか。
「まぁ、そりゃあ悔しいよな」
リムルが食べ休憩を挟んでこっちにやってきた。食事については満足いっているようだ。
オーガはここから先の事はノープランらしく、リムルが配下になることを提案した。
また、ポンポンと配下に迎えようとする...。
でも、きっとオーガはこの話を受け入れる。
6人で敵討ちなんて不可能なんだから。
祭りの喧騒に背を向けて、オーガの若様は森の奥に消えていく。
「リムル、あいつは今すぐにでも仇討ちをしたいんだと思うよ」
「そうだろうな」
「あいつの気持ちは汲んでやらないんだ」
「汲んでやれないよ。あいつがこの話を断ればいつでも仇討ちに行けるさ」
「そう...。名前、いいの付けてやりなよ。どうせつけるんでしょ」
「あぁ」
「オーガの一族は戦闘種族だ。人に仕え、戦場を駆けることに抵抗はない。主が強者ならなおのこと喜んで仕えよう。
昨夜の申し出、承りました。我ら一同貴方様の配下に加えさせていただきます」
「オーガ達をここに呼べ、全員に俺の配下となった証をやろう」
この決断は自分の役割をわかったものの決断だ。
苦い汁を啜って、顔を顰めてでも飲みきる。それは誰かの上に立つ立場の責務。
俺が背負わなくちゃいけない者と同じ。
この町で2番目の権力者。俺はその汁を飲み切れるのだろうか。
2つ目のきっかけ