転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第70話...未熟者を転がす

豚頭帝(オークロード)の討伐──────英雄と名乗るにはあまりにも素晴らしい偉業ではないだろうか。

何もかもを喰い散らかしながら進む豚の群れを、か弱き人間が食い止めたのだ。その事実は人々に希望を与えたことだろう。

この場合の事実というのが嘘である事を除けば、それは喜劇だ。いや嘘である事すらもが喜劇を作り上げる材料なのかもしれない。

あぁだがしかし、喜劇が喜劇で終わる物語であるなら、そんなのは予定調和の駄作に過ぎないではないか。英雄が奉られる? 美しい嫁を娶る? くだらない。喜劇は悲劇に塗りつぶされるからこそ傑作たり得るのだ。

 

「時間を作ってくれたこと感謝するよ、セイジ・カミシロ」

「いえ、私が会いたいと望み貴方に時間を作って頂いたのです。お礼ならば私が。貴方とこの時間に心からの感謝を」

「ははっ、あんた良い人だな。この国の貴族はみんな腐ってるんだと思ってた」

「英雄様の目にそう映ったのならそうなのでしょう」

 

良い人と自分を称する男を愚か者と思わずにいられない。

人を見る目は残念ながらないらしい。英雄は剣を握る手は必要とすれど人を見極める目は持たぬらしい。何故ならば、英雄が殺せば、殺されたものは等しく罪人だからだろう。

善人も罪人も後からいくらでも理由をつけて作る事が出来るのが、この世の真理だ。

 

私の正面、数日前に何処かのスライムが座っていた席にいる赤い防具の男。横に控えているのは獣人だろう、ユーラザニアで一度目にした事がある。そして獣人の反対側に立っている女、名をミュウラン。愚かな魔王、人形遊びが得意だった男の玩具の一つであった魔女だ。

 

済ました顔で私の正面に鎮座するこの三人...実に気に入らない。見ているだけで反吐が出る。

別に嘘をつくなだとか偽善を振るうなと言いたい訳では無い。そんな戯言は私が一番よくやる戦法だ。都合良い時に都合の良い言葉や態度を使う、矛盾が起きたのならどちらかを同じ形に整えてやればいいだけ。だが、落とし前とやらは自分自身でつけるべきだろう。他者になしてもらったり、ましてやしないなど言語道断。

誠也にもそう最初の方に教え込んだ。

「人から悪だと思われる矛も盾も最終的にその手で宝にするか鉄にするかをしなさい」

存外にもあの子供は直ぐに聞き入れたが...目の前のこの連中は無理だろう。

 

ファルムス王国が魔物の国に侵攻した際、それを最終的には手助けしたのが魔女であり、愚かなまでにそれを庇ったのが二名の男。

それらの落とし前としてファルムス王国の新国王となる予定であったが───結果は失敗。

普通は何か落とし前をつけるべきではないだろうか。それにもかかわらず、英雄様は巫山戯たことに私に今後の予定を問われ「色々な国を巡る」と答えて下さった。つまりは前と変わらないと。

 

あぁ実に気に食わない。

 

「英雄ヨウム、貴方は人に憧れを持たれる存在であると私は思っております」

「ん? ...えっと、ありがとう」

「いえ、多くの国民が貴方を英雄と称え悲痛の叫びが貴方の名を呼びます。これは実に素晴らしい事です。英雄であれ勇者であれ、ましてや神であれ人々は偶像に片足を浸した者を奉ります。けれどね、英雄ヨウム...貴方はそれには相応しくない。あの演説は素晴らしかった、暴風竜が血で呼び覚まされただとかいう嘘八百。私はあの時に感じましたよ、気に食わないなと」

「申し訳ありませんが、セイジ様。今の発言は英雄ヨウムを否定する発言です。場は弁えてくださいませ」

「場を弁える? 面白いことを言うのですね、魔女ミュウラン。いえ...“薬指”と呼んだ方が適切ですかね?」

「てめぇなんでそれを知ってる!」

「場を弁えるのはお前達だ、未熟者」

 

 

人の言葉を遮る魔女にてめぇ呼ばわりの獣。

やはり気に入らない。癪に障る。

私は創造主の悪徳であるから、こういった負の感情が平均よりも遥かに強く出る自覚がある。特に嫌いという感情は意図も容易く零れ落ちる。やはり、自分の癇だか癪だかに障る者と都合よく動かない者は総じて嫌いだ。

そう、今目の前にいる三人衆のような奴がいい例である。

 

ガタリと椅子の揺れる音が、立ち上がるのと同時に鳴る。

日差しを部屋に差し込んでくれていた窓はカーテンに遮られ、唯一の出入口は飾りの着いた壁に成り下がった。

やっと異変に気がついたのだろう。獣人が姿を変え英雄と魔女を守るように前に乗り出した。

 

 

「実に不愉快だ。信頼、愛情...そういった物をさも当然のように語る愚者め。愚者ならば愚者らしくするべきだ。詭弁は詭弁であるべきであり、偽善は偽物であるからこそ愚者の持つ優しさたり得る。嘘で成り上がるのなら善人ではいられない。己の悪を、許されたと思うな。お前は悪人であり、悪人は人に対して賞賛はされない。それを理解できない輩が多すぎる。この世界の英雄はなしていない偉業で成り上がり、勇者は魔物に屈し、神は血に濡れている。それらが恨まれることなく崇拝される。不愉快で仕方がない」

「...くっ、何が言いたい」

「英雄ヨウム、何時だったか...お前はある死食鬼(グール)に放った言葉を覚えているか?」

死食鬼(グール)...ラルタさんの事か。俺が言った言葉...?」

「“お前は誰も信じられない”」

「! ...なんでそれをアンタが知ってる」

「私は今お前に質問の許可を出していない。英雄ヨウム、結果主義は嫌いじゃない。だがね、落とし前は付けなくては。特に誰かとの賭け事はね? 賭けに負けたのならきちんと支払わなくては、それが愛おしい女だとしても」

 

 

空気の漏れるような笑い声が自然と口から零れ落ちる。

なぜか? 嫌いだと思ったものが苦しんでいるから。魔女がもがき苦しみながら宙に浮かぶ。

英雄は名前を呼びながら魔女に駆け寄り、獣はこちらに襲いかかってきた。やはり咄嗟の判断は獣に軍配が上がるらしい。

獣が手に持つ刃物が私の顔に迫ってきている。逃げればいいものを、やはり愛とは難しい。命をかける価値が愛にはあるのか。

 

「───マラカイト」

 

間延びした返事がドアの方から聞こえ、次の瞬間には獣の両腕が崩れ落ちた。

水分を失い、干からびた煉瓦のようにガラガラと崩れ落ちていく。血も流れず、痛みもなく。

 

「あっ…あぁ!」

「グルーシス!!」

「そう叫ぶな、場を弁えろと言っただろう。あぁそんなに絶望した顔をして、どうかしたか? 英雄よ、困難には立ち向かうべきだ」

「この野郎!」

「ふっ愚かだな。本当に立ち向かってくるとは...やはりお前のような人間は嫌いだよ」

 

突っ込んできた男の首を掴み、机に叩きつける。カエルの潰れた様な声が、魔女の荒い呼吸と混ざり合っている。

 

「ぐっ...アンタ、似てる...ラルタさんにっ...」

「似ている? 何が 」

「やり方も、っ話かたも...ゴホッ、目も...! アンタらどんな関係だっ...」

「そうかそうか、血は繋がっていないのだが...似ているのか。嬉しいことを言ってくれる。関係だったか、そうだな...“親子”だよ。意思を揃えた家族というやつだ」

「なっ...だったら、ラルタさんは旦那をっ...裏切っ───」

「裏切った、なんて簡単な話では無いよ」

「セイジ様ー、この犬っころも地下牢に入れるんですか?」

「獣人には誠也も興味を示さなさそうだが、まぁオマケだ。連れて行きなさい」

「グルーシスを...離せ!」

「安心しなさい、英雄ヨウム。君のペットも女も私から手を下すことは無い。君達は普段頑張っている息子へのプレゼントだ」

「息子...」

 

あぁ堪らなく愉快だ。

私の顔はこの男にどう映り私の声はどう鼓膜を揺らしているのか。

口内に溜まっていた唾液が空気と混ざり弾けた音を最後に、完全に英雄は気絶してしまった。

完全に落ちた男と、気を失わせた女をマラカイトに投げつけそうそうに部屋を出た。

後ろから文句の声も聞こえた気がするが、聞き入れてやるほどの事でもない。

 

「私の息子は地下牢で君になんと言うのだろうね。初めましてか、久しぶりか...実に興味深い」




嫌いなモノはとことん嫌いだし、その基準は直感だし、自分が嫌いなモノには何をしてもいいと思っている親子。どっちも精神年齢クソガキです、頭がいいだけのクソガキ。
あとマラカイトの能力のチラ見せです。なんだか水分を無くせる能力のようですが...? (白々しい)

《どうでもいい話》
スランプです。文が出てきません。
プロットはあるし書きたい事も決まっているのに、文として構成できない。この話ももしかしたら変かも。
前の話から10日も空いてしまって申し訳ないです。次はもっと早めに頑張りたい。
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