転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第74話...招待状のシミ

ドワーフ王国、武装国家ドワルゴン。

国家の重鎮や各部門の大臣達が集い魔王リムルとの今後の関係についての会議を行った。

国王ガゼルは魔王リムルを信じると決め、共に進むと結論付けた。

その後、リムルからのテンペスト開国祭の招待状に関して一揉めあったが、結果的にはガゼルが望み通り祭りに参加する方針で事が決まった。テンペストからの招待に国を挙げて参加する、すれば勿論王に追従したいという希望者に溢れガゼルは頭を抱えるのだった。

 

 

 

そんな中、空気を読んでか読めずにかある連絡が飛び込んできた。

 

───ファルムス王国、国王セイジ・カミシロが我が国との条約を全て破棄すると宣言した。

 

会議室の空気はその連絡で一気に空気を変えた。

ガゼル自身は二代前の王、エドマリスを良く思ってはいなかったが何代も前から続いた各条約を変わらずに更新し続けてきた。

ファルムス王国は隣国であり、互いに大国。武力を持つ国同士が条約を結ぶ事は戦争を未然に防ぐことでもあり、民達の安心にも一役買っていた。その条約を現王セイジ・カミシロが一方的に破棄すると宣言してきたのだ。

 

ガゼルは元々セイジ・カミシロを警戒していた。

ユニークスキル「独裁者(ウエニタツモノ)」を持ってしても、セイジ・カミシロの心を読むことは出来なかった。何度かエドマリス王の追従として顔を合わせた際、穏やかで無害そうな雰囲気を纏いながらもその心は酷く歪であった。ぐちゃぐちゃで秩序がなく、無理矢理に心という形に留めたような代物。その心の真意は何一つ読み取れなかった。その場その場で大体の人間が思うであろうことが当たり障りなく読めるだけ、セイジ・カミシロはその心にはいなかった。

 

長年の勘が言っていた、あれは人間では無いと。異世界人等では到底ない。

今世界に君臨する魔王達や聖人、それに近い稀少的な存在であるはずだと。

何故人間の皮を被り誰かの下に着くような真似をしているのかは分からない。だがあの男に対しての行動で何か間違いを犯せば簡単にこちらは取って食われてしまうだろう。それは魔王リムルが政治的に敗北を期した事で容易に理解出来た。

 

 

そして今回の一方的な条約破棄である。

これは我が国だけではなく、ファルムス王国がこれまで条約を結んできた全ての国に宣言したのだと言う。

唯一、つい最近結ばれたファルムス王国と東の帝国の属国関係に関する条約を除いて。

 

東の帝国が戦争準備を初めている。

そう考えるのが自然だろう。しかもファルムス王国を基軸にして、西側諸国を陥落させるつもりだ。

勿論、ファルムス王国側とて条約破棄は痛手のはず。この行動でファルムス王国は完全に信用を無くし孤立した。何か事を起こせば物資等の流れも止まるだろう。

それが考えられぬ頭ではない事は百も承知、それを理解した上で孤独を選んだのだ。

 

今のファルムス王国に武力等無い。しかしそれでもここまで大きな事に出たということは東の帝国がそれだけ力をつけたということ。

 

東の帝国は今自信に満ち溢れている。

だが実際の話ファルムス王国を手に入れた事は東の帝国において極めて重要だろう。

ファルムス王国が西側諸国で孤立したとしても西方諸国評議会から追い出すことは出来ない。システム上、出資額に応じた人数の評議員を出すことの出来るこの会議、セイジ・カミシロが頭角を現してすぐからファルムス王国の出資額は数倍にも増えた。戦争後だと言うのにセイジ・カミシロはその額を変わらずに払い続けている。

 

狙っていたのだろう。

セイジ・カミシロは最初からこれを狙っていた。ギルドマスターとして君臨した異世界人は最初から東の帝国と手を組み、好機を待っていた。いや...誘い込んだのかもしれない。自国すらも使って。

ならばセイジ・カミシロは最初から東の帝国の手の者なのか。それも、はっきりとは断定できない。

 

だが言えることは、セイジ・カミシロのこの無茶苦茶な行動は成功したという事だけだ。

我々西側諸国はファルムス王国に対して信用を失い政治的孤立に追いやることは出来ても、それを向こうは痛手としない。

何も痛手を受けることなく、ファルムス王国基セイジ・カミシロは東の帝国を優位に立たせたのだ。情報すらも、ノーリスクで東の帝国の手に渡ってしまう。

それを止める手段が我々には無い。

 

「まんまとしてやられたものだ...」

「陛下! このままでは東の帝国の思う壷です」

「そうだろうのう。だが、これによってテンペストという国の需要性が極めて高くなったと言える。武力においても政治的においても東の帝国に対抗しうることが出来る国は西側諸国で限られる。テンペストという国が人類の味方ならば、これ以上心強いことは無い。多くの国が擦り寄るだろうよ」

「関係を深め、戦争に備えるしかあるまい。我が国とテンペストだけでは無い。西側諸国の全てが協力しなくては......テンペスト開国祭はその始まりになるじゃろうな」

 

元老院の長老の言葉に、皆黙りこみそして不満やらを全て飲み込んだ。

我々は今不利に立っており、後発でしか手を打てない。備えなくてはいけない───最悪に。

 

 

 

 

 

会議の終わりを宣言し、会議室を後にした。

後を老婆ジェーンが静かについてくる。

 

「ガゼル王、会議では名を出さなかったがね。ラルタ=テンペストについて...どう考える」

「リムルが追放を選ぶとは思えん。危険性を持つと言ってもそれはあの国住民全てに言える。ラルタから出て行ったのだろう」

「敵になるかねぇ...」

「最後に会ったのは会談のときだが。アヤツの心は何も読めなかった。リムルが凪ならばアヤツは不毛の地。どう転ぶかは分からぬ」

「私には、嫌な予感がするよ。都合がよすぎる、ファルムス王国とラルタ=テンペスト...何も無いなんてこたぁないでしょう」

「そうであろうな......戦争になるならばラルタ=テンペストという武力はあまりに強すぎる。アヤツはリムルと互角の強さを持つ。まともにぶつかれば世界はなくなるだろうな」

「はぁ......世も末だねぇ」

 

 

 

 

 

魔導王朝サリオン、皇帝の居城にて。

皇帝───エルメシア・エル・リュ・サリオンは魔物の国テンペストに自ら足を運ぶとそう決断された。国を挙げての外遊、エラルドは勿論これから数日寝ずに頭を抱えるしかない。

 

唯一の救いは、外遊先であるテンペストから死食鬼(グール)が一匹追放された事である。

ラルタ=テンペストの存在はサリオンが国交を樹立する上で極めて邪魔であった。結果的に言えばエラルドは利益とを天秤にかけ国交を樹立した訳だが、批判の声はそれはもう凄かった。

だがその悩みの種はもう居ない。これで批判の声は下がるだろうし、何より今回の外遊がスムーズに進む。願ったり叶ったりだ。

 

だがラルタ=テンペストの足取りが終えていないことは気がかりである。

エラルドは追跡を命じた者たちを急かし、なんとしてでもその死食鬼(グール)の足取りを掴みたかった。

何故なら、最近このサリオンで死食鬼(グール)によってエルフが立て続けに犯され苗床にされているからだ。死食鬼(グール)とエルフとの因縁は古来から続いており、サリオンには死食鬼(グール)避けの結界が無数にはられている。その結界を簡単に死食鬼(グール)がこちらが気付かぬように突破するなど不可能なのだ。突破できる者がいるとすれば上位に登り詰めた死食鬼(グール)死食鬼(グール)を使役する上位者の二択。後者は死食鬼(グール)の性質上考えずらく、必然的に前者であると結論づけた。

そして上位に登り詰めた死食鬼(グール)とはラルタ=テンペストのような者の事である。あれは死食鬼(グール)から種族ごと進化している。追放時期とサリオンでの異変は同じタイミングで発生しており、ラルタ=テンペストを疑うのは当然だった。

ただでさえ、母体の魔素を変質させて産まれてくるからは種の持ち主を判別できない。だからこそラルタ=テンペストの足取りを掴む必要があった。

 

だがエラルドには不安があった。

必然的に前者と結論づけたが、後者の選択肢を完全に否定出来ずにいたからだ。

理由はセイジ・カミシロという存在。急に王となり東の帝国の属国になる決断をしたハチャメチャな男。その就任ともタイミングが重なっているのだ。

エラルドはセイジ・カミシロと顔を合わせた事がない。名は知っているし、異世界人として調査も行った。それによれば無能力者だそうだが、怪しいものである。

 

何もかものタイミングが重なりすぎているのだ。

ラルタ=テンペストの追放、セイジ・カミシロの就任、サリオンの異変。

もしそれらが繋がっていたとしたら、サリオンは何らかの策に利用されようとしている。

魔王リムルの人柄から言って、ラルタ=テンペストの追放はラルタ側が招いた事だろう。

もし魔王リムルが嵌められて追放という手段を取らされていたら? 今一番警戒すべきはラルタ=テンペストで間違いないだろう。

 

エルメシアはこの件を様子見とし、サリオンに貼っている結界を強化するに留めた。

もしラルタ=テンペストが犯人だとこちらが仮定して行動をとればテンペストに世間からマイナスイメージを持たれてしまう。

世界が大きく動いている中、テンペストという国は極めて重要であり持ち上げておいた方が何分都合がいいのだ。

 

外遊についての手続き、秘密裏の調査...もしかしたら徹夜の日々はエラルドが思っているよりも長くなるかもしれない。


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