転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第75話...祭事と暗躍

あれから数日がたった。

父は基本王城で生活しているため、家にはマラカイトと二人きり。実に平和。

偶に父の方から回ってくる書類仕事をこなすだけで、あとやる事なんて情報収集くらいだ。

それ以外はマラカイトと喋って食事をして、マラカイトとかいう馬鹿に文字を教えたりして過ごしていた。実に平和。

荒れたと言えば、マラカイトの字が汚すぎて俺が一発だけ頭をぶん殴ったくらいだ。(本当に汚かった、ミミズなんて表現はミミズに失礼なくらいに。多分あれは古代文字)

一体この世界に来て二年間何をしてたんだとも思ったが、読み書きの仕事はしてこなかったそうだ。基本現場担当で済まされてたらしい。

確かに父の判断は正しい。こいつに字を学ばせるなら現場に向かわせた方が絶対に早い。

急にマラカイト自身から字を教えてくれと言われて暇だったから頷いたのが運の尽きだ。

 

 

さてそんな愚痴にも近い話は今はいい。

情報収集はそれだけでは利益になり得ない。収集したものを纏め、推測や考察を行うことで初めて利益を得るための道具として利用できる。

 

ここ数日、テンペストの情報を中心に集めた。

テンペストを出る前、各部門に割り当てられた住民達でかつ幹部とは距離が近くリムルとは距離の遠いピンポイントな存在を探し、回路を生成しておいた。勿論重役一歩手前程度の住民では入ってくる情報は途切れ途切れで大部分を推測で補わなければいけない。無いよりはマシ程度だ。

 

それらから得た情報は、“ラミリスの移住”と“迷宮作成”の二つ。

 

ラミリスの移住に関しては何を考えているんだ単細胞と言いたいところだ。仮にも魔王であるラミリスを国に住ませるとはどうなのか。だいたい俺の時は「お前が魔王だと知られれば国に二人魔王がいるって警戒される」って言ってたじゃないか。何だ、生まれか? 生まれがいけないのか? 今となってはなんでもいいが。

 

ラミリス自体はそこまで驚異では無いはずだ...今の所。成長した後の強さが分からないが、現時点では本当に大したことがない。

問題は迷宮の方だ。この迷宮、ラミリスのスキルで生成されるそうだが、迷宮内で死んでも生き返らせられるとのたまいやがった。

これははっきり言ってマズい。

内装や配置する敵の情報が得られていないのが残念で仕方が無いが、マズいことは確かだ。

ラミリスがいる限り、迷宮内にいるリムル陣地の者は死なない。仮に戦闘になった際、迷宮に誘い込まれれば詰みだ。ラミリスを殺すしか方法がない。

今後をどうするかは決めてないが、リムルと敵対するならその配下と戦うのは必然の流れ。その時この迷宮は絶対に邪魔になる。

ラミリスを今のうちに殺してしまうか? いや、ギィ・クリムゾンはラミリスを友と言っていた。恨まれてギィに潰される。

 

今の段階では、俺が回路を生成した者たちで迷宮に出入り出来る者が居ない。

情報をもっと詳しく得たいなら、正式にお披露目された際に潜り込むしかない。

だがアカ・マナフを直接潜り込ませるのはラミリスの腹の中に直接入り込むのと同じだ。リスクが高すぎる。かと言って正式に攻略できる者を送るのもそれはそれで目をつけられる。

 

迷宮は地下に生成されたと言っていた。

階層数等は分からないが、ダンジョンとは基本的に一定間隔でボスとされるものが居る。そして最下層に大ボスが居るだろう。

ボスに関してはいくつか想定できる。クレイマンの配下であった狐や骨、森で拾った蟲等、強さはあるが重役に置かれていない者たちがいたはずだ。そいつらがボスを任される可能性が高い。

そして大ボスはヴェルドラが妥当だろう。

ダンジョン内で魔物を発生させるなら濃い魔素が必要であり、ヴェルドラが魔素を放てばたちまち魔物が生まれる。地下迷宮の構造上、上から下に行くにつれ魔素が濃くなり魔物も強くなる。ヴェルドラが爆発する前にどうにかしたいとリムルは言っていたし、一石二鳥でいいはずだ。

 

どれも推測の域を出ない。

やっぱりどうにかして一度迷宮に潜り込んで詳細な情報を得なくては...方法を思案しておこう。

 

「とりあえず、今分かることはこれだけか...お父様に報告に行かないと」

「それなら丁度いい。セイジ様がセイヤを呼んでる」

「......ノックをしろ」

「しました、しましたよ! セイヤって基本的にノック無視するから」

「マジ? 聞こえなかったわ」

「聞いてなかったの間違いだろっ!」

「で、お父様は何用で俺を?」

「なんかそろそろ動き出す...みたいな事言ってた」

「動き出す? ...分かった、多分お父様はテンペストで開国祭が始まる前に基盤を整えたいんだろうな」

「基盤?」

「行けばわかる。支度するから待ってて」

「へーい」

 

 

 

父の執務室にて、先程得た情報と考察を報告した。

報告内容に対して父は何も言わずに頷くだけだったが、ラミリスという名には心底嫌そうに顔を顰めた。色々言っていたが、純粋にラミリスが嫌いなんだろう。

ラミリス自体と話したことは無いが、会談中に急に現れた姿を思い出して、無理もないと思った。あれは俺も苦手だ。テンションが高すぎる。あんなのでも最古の魔王なのだから、世界とは実に不思議だ。ちなみにここで言う“あんなの”とは強さの話ではなく、純粋に性格の話だ。

 

「もう少し、詳細な情報を手に入れたいのですが...申し訳ありません。現状、私にはその手段がありません」

「いや十分。詳細な情報を手に入れる手段ならば時を待てばいい」

「時を待つ...ですか?」

「待つと言ってもそれは直ぐにやってくる。私がお前を呼んだ理由について話そう。

“世界の入口”を探し、その中にある“沈黙の塔”を登りなさい。登ってしまえばやる事は自然と見えてくる。事が終わり次第、直ぐに会うべき人間達に会って来なさい」

 

父が教えてくれた“世界の入口”とか言う、何言ってんだ状態のその場所を記憶する。

会うべき人間というのは、中庸道化連のリーダー様とグランベル・ロッゾの事だろう。国を跨がないといけない...空間移動と体内転移を上手く使ってさっさと終わてしまおう。

 

「セイヤ、俺も一緒に行来たいなぁー」

「何でだよ。お前がいたら移動に時間がかかる」

「いいじゃん。祭りが始まるまでに終わらせればいいなら時間はあるし、二人でゆっくり旅を楽しもうぜ」

「............お父様の御返事次第」

「やりぃ。ねぇいいですよねセイジ様!」

「好きにしなさい」

 

はぁ......当分は移動ばかりの生活になりそうだ。

 

「先に外で待ってる。お前は旅道具を必要最低限準備しろ、速やかに」

「えーセイヤが持ってくれても良くない?」

「持ってやるから、準備しろって言ってんだ。お前の分まで予備は無い」

「優しいー」

 

マラカイトが俺を見てニヤニヤと笑う。

最近この笑顔を見てもイラッとしなくなった事に、逆にイラッとしてしまった。

それを伝えるように舌打ちを一つして、マラカイトよりも先に部屋を出た。

 

 

 

 

 

セイヤに向かって手を振っていたマラカイトは、扉が閉まると同時にその顔にうかべていた笑顔を消し去った。それとは対象的に、実に愉快そうにセイジが笑う。

先程まで程々に和やかであったはずの空間はなりを潜めて、今あるのはマラカイトとセイジの冷めた視線での攻防だけであった。

 

「よくもまぁ、あそこまで手懐けられたものだな」

「手懐けたって言い方やめて貰えます?」

「ふっ、やはり誠也は子供だ。物を与えられウザイ程に愛の言葉を聞かせてやれば、簡単に“偽りの愛”を信じる」

「与えて、聞かせて...そーいうところだな。マジで気持ち悪い」

「何をそんなに怒ることがある。私はお前に誠也がマラカイトという存在に好意を寄せるようにしなさいと指示した。そしてお前はそれを正確にこなしている。間違いは無いはずだ」

「間違ってるよ。アンタは人をわかってない。取って付けたような感情しか持たないアンタに人間の心は分からない」

「人間? 誠也の事をまだ人間だと思っているのか?」

「俺はこの世界に来て、色んな種族を見てきた。魔物、魔人、妖精、悪魔、人間。でもやっぱりその中で一番汚い心を持ってるのは人間だった。セイヤはそれをちゃんと持ってる。奪っても奪われたくなくて、殺しても殺されたくない。自分を棚に上げて、自分中心で自己愛に溢れてる」

「そうか、それが君の自論か。それで?」

「そんな汚い心が語る愛ってのは、アンタが思うほど単純じゃないんだ。アンタの指示がどうって話じゃない」

「可哀想に...嘘をつきすぎて、本当に自分がアレに好意を寄せていると勘違いしてしまったのかな」

「セイヤに嘘は通じない。そういうスキルがあるんだろ」

「嘘は通じなくとも、真実は通じる。お前の心に私が植え付けた“愛情”は今となっては真実だ。まぁなんでもいい、お前が私の事をよく思っていなくても、誠也の事をどう思っていようとそれらは全て不毛でしかないのだから」

「ホントにアンタは何も分かってないよ。いつか痛い目みればいいんだ」

「お前こそ、痛い目を見ない事だ。嘘という真実を、真実という嘘に変えてはいけない」

「嘘は嘘、真実は真実、それだけだ。セイジ様...アンタはいつか本当に痛い目を見るんだろうな。感情も分からないやつが感情を利用したんだから」

 

 

勢い良く部屋を出て行ったマラカイトを見送って、またセイジは笑う。

 

マラカイトの愚かさに、単純さに、そして弱さに。

向こうの世界でセイヤを殺す事で発現する“愛情”を植え付けて、それを温めながら共に生活させていた。そして時が満ち、マラカイトがセイヤを殺した時、その愛情は真実となった。それだけが事実なのだ。

セイジが与えた嘘はマラカイトが持つことで真実となる。何故なら、嘘も真実も判断するのはセイヤであるのだから。

 

偽りの愛情という真実を───

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