「うわぁ...こりゃやべー」
「全部死体だな。これだけの数が何層にも連なって雲まで到達してる」
「流石にやりすぎじゃない? こんな数殺したらバレるだろ、いろいろ」
「バレないための策がこれなんだろ...知らないけど」
「知らないんかい!」
沈黙の塔は円柱型の石造りで出来た塔だった。
高さ3m程ずつで区切られて入口がひとつあり、塔の外側をとぐろをまく様に階段が備え付けられていた。
それらは一段、また一段と重ねる形で増築されている事が、接着面からわかった。
とりあえず中を見てみようということになり、一階の扉、堅牢な鉄の扉を開けた。
そこにあったのは、全て死体。外にあった物とは違い、全て綺麗な状態で並べられていた。子供、女、男と内側から順に円を描くように並べられている。彼らの上には総じて、一羽の死んだ鳥が天井から吊るされていた。
鳥葬を表しているのだろうか。窓もなく、空は見えない、この部屋では意味の無い話だ。
そして不思議な事に、並べられた死体は全て血を流していた。死んでもなお、絶えず体は血を生成し、外に流している。それぞれに用意された窪み、頭側には細い水路のような物が作られていて、それが部屋の中心のいっそう深い窪みに繋がっていた。
部屋の中心にあったのは墓だった。
血に浸った墓。死体はなく、天井に向かって光の柱が伸びている。
この世界は全て、この光の柱が目指す上に向かって力が集まっている。
外にあった死体から力が吸い取られこの塔に、並べられた死体は中心の墓へ、そして墓は上へ、力を運んでいる。
その力は魂が持つ魔素だった。幾許か変質はしているものの、この世界の死体は全て魂を有していた。
普通死ねば魂は消失する。しかしこの世界ではそれが成り立たず、白骨化したものですら、魂を有していた。もしかしたら、彼らを死体と表現するのは間違っているのかもしれない。
死にながら生きている。
魂は魔素を送り、上へ上へと運ぶ。
メーティスの解析によれば、この魔素は元々は今目の前にある墓の持ち主に向いていた痕跡があるらしい。そして墓の持ち主が本当の意味で死に、与えられていた力を上へと繋げたのだと。
多分、父が繰り返してきた時の中で、父の目的の為に動いた者たちがこの墓に眠るんだろう。周りにいるのは被害者と協力者か。
どんな死因でも等しくこの世界に居ることから見て、父が関わると、当人の魂が形を変えこの世界に送られ一生を死んで生きることになる。
父の目的の完遂のため、次に繋げるために。
俺がここに来るように言われた理由は、きっと...時すらも跨ぎ繋がれた魔素を力を受け取るため。もし俺が失敗して死ねば、また誰かに繋げる事になるんだろう。
絶対にそんなの嫌だが。
「カイト、上に行こう」
「えっまさかあの階段登んの!?」
「しょうがないだろ、この塔は絶対のルールがしかれてる。正式な方法でしか部屋に入れないんだ」
「嘘だろ...うわぁー俺泣くぞ」
「はいはい」
部屋を出て階段を一段一段踏みしめる。
雲を穿つ程の高さだ、これは時間がかかりそうだ。
しかも階段を登っている最中、ずっと魔物が襲ってくる。結構な量が。
別にそれで襲ってくることはどうでもいいのだが、数は多いし階段から落ちたら一溜りもない。何故父はこの塔のルールに階段を全段踏むってルールを作ったのか。絶対必要ないだろう、せめて二段飛ばし位許して欲しい。
だから階段から落ちたら一からやり直しになるのだ。空からいけないせいで、魔物一体でも気が抜けない。
「一つ聞いていいか」
「なに?」
「その武器、何。どうなってんの」
「あっこれ?カッコイイだろ。俺の自信作なんだよ......“不毛ノ車輪”ってんだ」
「車輪......回らなそうだけど」
「回る必要ないだろ」
「へぇー、そう」
不毛ノ車輪とマラカイトが言ったそれは、確かに名の通り車輪を模していた。
そこそこの厚みを持った車輪は身長を越え、直径は2m程に登るだろう。車輪は輻の一部が十字に突起し、槍の様になっている。
それを宙に浮かせ、マラカイトは自在に操っている。
魔物がこちらに襲いかかってくれば、不毛ノ車輪がマラカイトの意思で動き、魔物の首を跳ね飛ばす。魔物は無くなった首の付け根からボロボロと崩れて行った。
武器としてだけでなく、車輪は盾としても利用されているらしい。扱い慣れれば便利だそう。
戦えれば何でもいいが、どうしてマラカイトはわざわざ車輪を選んだのか。本人はカッコイイと称していたが、普通に頭可笑しいだろ。
襲ってくる魔物を倒して、階段を一段一段踏みしめて、やっと俺達は最上層に辿り着いた。
体感ではこの時点で数時間はたっている。
最上層には天井はなく、鳥も吊るされてはいなかった。
死体を入れる窪みは他の層の部屋と変わらずに存在しているが、並べられている死体は疎らだ。
その死体の中にヒエラルテがいた。ちゃんとヒエラルテは血液で回収したはずだが...やはり父が関わると魂という概念が書き換わるらしい。
窪みの中で、マラカイトという名前の掘られた物もあって不快だ。死者を予約制にするのは如何なものか。
マラカイトに何があっても近づくなと言って、入口付近で待機させた。
そして一人で部屋の中心へと向かう。
そこには例に埋もれず墓があった。
墓には“ラルタ=テンペスト”と掘られている。
どこか察していたが、やはりか。
父はラルタの死体をもって、俺に力を継承させようとしているらしい。
自分で、自分を殺せと。
俺の魂に刻まれたこの名を書き換えろと。
嫌だな、と思った。
リムルの事は嫌いだし、この名前だって結局は俺を縛るものでしか無かった。
でもヴェルドラがこの名前をくれた時、確かに胸の奥が暖かくなったんだ。嬉しかった。
だから自分からこの名前を捨てるのは、どこかはばかられた。ラルタ=テンペストという名前が好きだった。ラルタ=テンペストとしての生も悪くはなかった。満たされなくとも、乾いてはいなかったから。
ここで俺がラルタを殺せば、俺の名前は正式に神代誠也になる。魂にそう刻まれる。
この名前は好きじゃない。けど満たされている。冷たく、苦しい、潤いがある。
「せめて...地獄で幸せに暮らして欲しいな」
まぁ死んだらそこまでなんだが。
墓に横たえる死体なんて無いから、杖を置いた。先にランタンの付いた、綺麗な杖。
炎はやっぱり汚い色をしている。昔は白っぽかった筈なのに、どうして変わってしまったのか。
俺がラルタのまま生きていく道はきっとあった。いや、そこら中にあった。
その道を選べなかったのは、俺の欲深さからだ。リムルは俺を愛していた。他の配下と同じか少し多めに。それに満足出来ていれば、俺はこの先もラルタだった。
「さようなら、ラルタ=テンペスト」
ランタンが割れる。
炎が広がる。
それが体を包み込み、全てを燃やす。
体が燃える。消えていく。
魂が書き換えられていく。
──────もう、戻れない。
魂の回路が焼き切れた。
「君に名前を......」
──────神代誠也。
とってもお似合いな名前だと思うよ。
死体が持つ魔素が全て流れ込んでくる。
何もかもが書き換えられてしまう。
きっとこれは、進化だ。
意識が遠のいていく。
笑えよ、俺。これしか道は無かったんだから。
選び取れた道がこんな馬鹿げた道しか無かったんだから。
必然を笑えよ。
どうして、どうして......俺は泣いてるんだよ。
泣いたって、もうどうしようも無いのに。
《告。名付けに成功しました。
───これより、名付けによる進化が開始されます。》
ラルタにとって、テンペストでの生活は嘘だけでは無かったはずです。楽しい事もあったでしょう。
それでも自分の欲が勝った。それだけです。
欲の為に、何かを憎んで手放す事を選んだんです。
★今更ながら、マラカイトと神代誠司のイメージ
・マラカイト イメージ
【挿絵表示】
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立ち絵風男子メーカー 様を使用させていただきました。
・神代誠司(レブル) イメージ
【挿絵表示】
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おだやか男子メーカー 様を使用させていただきました。