転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第80話...シルトロッゾ王国

「うっひょーー!」

「騒ぐなって......ははっ、そんなに楽しい?」

「そりゃあ夢にまで見た空の旅だぜ? 楽しいに決まってる。乗ってるのが魔法の箒じゃなくて刀なのが不満だけどな」

「刀じゃない、杖だ」

「まだ言ってんのかよ......」

 

まだも何も、刀じゃないって言ってるんだ。

夢世界から魚の腹を割いて、森に戻れば太陽が顔を出し始めていた。

暗くてジメジメしたところから、一気に澄んだ森の空気と日光を浴びた事で気分が晴れやいだ。

 

メーティスに情勢の変化を確認してもらっている間、マラカイトは爆睡していた。流石に三日間も気を張っていてくれたんだ、寝かせてやった。

メーティスによると、ファルムス王国がファルナスカ王国に改名したと言う。それに伴って、幹部メンバーが一新されたのだとか。俺は誰にも姿を見られないようにしていたが、新幹部の者たちにはいい加減顔を出すべきかもしれない。

一応名前と顔は父が一致させたと言っていた。国に入る他国の諜報員達を欺くために、俺の存在を知っている関係者は父が頭を弄っているらしい。今なら分かるが、多分悪素を使って弄ったんだろう。それなら諜報員に俺の存在が漏れることもない。悪素って使い慣れれば便利。

だけど、知識としてだけ知っているのも国としては問題がある。帰ったら俺の方から幹部の所に顔を出しておこうと思う。

 

そろそろ移動しようと、マラカイトを起こすと案の定疲れが抜けていないような顔をしていた。体力的にと言うより、精神的な方面で疲れたのだろう。

 

だから、ボーッとしているマラカイトを引き上げて空へと飛び上がった。

シルトロッゾ王国の入口までなら、空の旅を楽しんで貰う事にした。俺が杖に誰かを自分から乗せるなんて、初めての事だ。まぁ、マラカイトは特別だ。

 

 

「これから何処行くの?」

「シルトロッゾ王国。ファルムス......違うわ、今はファルナスカ王国か。ファルナスカ王国の隣にある小国に行く。グランベルって奴に会うんだよ」

「遠い?」

「んー、このスピードで行けば昼前には着く」

「ならそれまで上空デートだ!」

「デッ......お前、そういう所あるよな」

「待って、顔赤くない? 照れてる? ねぇ照れてる?」

「照れてない! 大体、もし仮に俺が顔を赤らめたってお前がそんな嬉しそうにする理由はないだろ!」

「あるだろ。俺はセイヤが色んな表情を浮かべてくれると嬉しいけどなぁ。泣き顔も笑顔も照れ顔も全部見たいなぁー」

「はぁ......お前な、口説き文句が古臭っ──」

 

文句の一つでも言ってやろうと、後ろに座っていたマラカイトの方を向いた。

そして──────キスをされた。

唇が触れ合って、マラカイトが意地悪く目を細めている。お互いが吸っているタバコの味が混ざって、何とも言えない味がした。

 

「んッ! んー、ぷはっ、この......馬鹿!!」

「はっはっはっ、やっぱり照れてる! 可愛いー!」

「お前のそういう所、ほんとムカつく!」

「いつかセイヤからキスしてね」

「誰がするか!!」

 

クソ、やられた。意味わかんないんだけど。

てかメーティスもメーティスだ。周り見とけよ。教えろよ。

いや俺か? 俺がマラカイトといる時に警戒してなかったのが悪いのか?

あぁもう、コイツといると、本当に調子が狂う。

 

 

 

 

──────シルトロッゾ王国。

ファルナスカ王国とイングラシア王国に挟まれ、北海に面した専制君主制の小国。

首都は“シア”。寒冷な気候のその国を統べるのは王族“ロッゾ一族”。

現、ロッゾ一族の頂点がグランベル・ロッゾ。

十大聖人の一人、荒海のグレンダの魂に刻まれた忠誠の向けられた先の人物である。

 

「ここら辺でいいか」

「シルトロッゾ王国に入った?」

「あぁ、首都とは歩いて十数分かかる位は距離があるけど。人を無理矢理呼び出すならここら辺の方が都合がいい」

「人を呼び出す?」

 

 

メーティス、サクッと連れて来い。

《是。荒海のグレンダの義眼とアカ・マナフをリンクさせ、体内転移を応用します。》

 

血液の球体が目の前に現れる。

数度波打って、そこから赤髪の女が降ってきた。グレンダが地面に打ち付けられる。

 

「............っ、アンタね、呼び出すって言っても雑なんじゃないかい?」

「久しぶりだね、元気してた?」

「お陰様でね。あんたこそ元気そうでなによりさね」

「右目の眼帯、どうした? 怪我でもしたか?」

「白々しい。グランベル様の所だろう? 案内してあげるさね。けど、グランベル様の事情によっては帰ってもらう事になるから」

「無理矢理押し通せよ。こっちも何日もこの国に滞在してたいわけじゃないんだ」

「無茶を言う」

 

グレンダが歩き出したのに習って、そのあとをついていく。

よく見ると、聖騎士としての服装のままだ。多分仕事中だったんだろう。なんでもいいが。

 

姿が見られると困るからか、グレンダは人通りのない裏手から首都の中心地へと向かった。

首都シアは麗しい外観を持ち、ロッゾ一族の王城も、その街並みに恥じぬ素晴らしい造りをしていた。

グレンダはグランベルに話を通してくると言って、先に王城の中へと入っていった。

 

「あれ、聖騎士だろ。なんでシルトロッゾ王国の王城に話を通せるの?」

「あれは召喚者なんだよ。聖騎士が裏で何かやってるなんて、実に宗教らしい話じゃないか。カイトは覚えてる? スラムで一時期宗教が流行ったの」

「流行ったねー。あの宗教さ、セイヤが日本に言った後も根強く人気だったんだぜ」

「マジ? 体良く利用されるだけの信仰を馬鹿みたいに続けてたのかよ......やっぱ宗教なんてクソだな」

「宗教ねぇ、俺は神様とかどうでもいいからなぁ。神に生き方を決められるくらいなら、セイヤに決めて欲しいよ」

「なら、ここで一周回ってワンって鳴いて」

「いいよ」

「待って、本当にやらなくていい。俺が悪かった。本当に大丈夫だから、やるな」

「むぅ」

 

「賑やかさねぇ」

「そりゃどうも、話は通せたか?」

「何とかね。こっちさね、おいで」

 

 

通された部屋は、暖炉のある落ち着いた部屋だった。

部屋に向かう最中、グレンダに右の義眼をどうにかしろと言われて断っておいた。

部屋の中央に座る老人が、ロッゾ一族の頂点、グランベル・ロッゾ。かつて勇者であった男だ。その腕にあるのは剣ではなく、幼さの残る少女だった。

 

「こんにちは、急に押しかけて悪いね」

「思ってなどいないだろう。そこに座りなさい」

「どうも」

 

グランベルの正面にあるソファーに腰を下ろす。マラカイトは俺の後ろに立って、待機している。

 

「セイヤ・カミシロ、ファルナスカ王国現国王の息子にあたる。こっちはマラカイト、側近だ。気にしなくていい」

「グランベル・ロッゾという」

「そっちは?」

「マリアベル・ロッゾよ。セイヤ、会えて嬉しいわ」

 

《告。個体名マリアベル・ロッゾが精神支配を試みています。抵抗を開始、何ら問題はありません。》

 

初対面でそうそうに精神支配をしてくるとは、いけ好かない女だ。武力的な力はあまり持っていなさそうだし、周りを利用する事に長けているタイプだな。

 

「はっきり言おう。今回、俺は特にお前達に様は無いんだ」

「では、なぜわざわざワシに時間を使わせているのかね?」

「俺が聞きたいね。でもまぁ顔合わせだよ。お互い、関係を持っていて損は無いだろう?お前達は俺という武力を持てる。お前達の作戦にも協力してやってもいい」

「貴様には、利益があるのか?」

「作るさ。顔合わせって言ったて、タダでは帰らない」

 

俺の発言に、グランベルとマリアベルは目を合わせる。どうやら彼らの関係は上下関係ではなく、お互いを助け合う仲間に近いらしい。

無言の思考の擦り合わせの末、口を開いたのはマリアベルの方だった。

 

「私達の作戦、と言ったわね。セイヤは私達が何か目論んでると思ってるの?」

「今はまだ、警戒なんだろうけど。お前達、テンペストを邪魔だと思ってるだろ。出来ることなら消し去りたいとも」

「はぁ...流石セイジの息子と言った所ね。貴方と探り合いなんて、こちらが不利益になるだけ。いいわ、協力関係になりましょ?」

「話が早くて、助かるよ」

「私達、セイジには幾つか恩があるの。だから、協力関係の先駆けとして、貴方の望みを叶えるわ。私達にして欲しい事があるんでしょう」

 

本当に話が早い。

マリアベルは良く頭が回るようだ。そしてとても合理的だ。

俺が今何を持ち出しても、マリアベルはやってくれるだろう。何故なら、俺がテンペストに対して抱いている感情が形は違えど自分達が望む結末と同じになるのだから。

必ず、俺が自分たちに協力するという自信があるのだから。

 

俺は倉庫からペンダントを二つ取り出し、マリアベルに投げつけた。

華麗にキャッチしたマリアベルの小さな手にあるペンダントは、どちらもデザインが違う。その正体は血液の結晶体。悪素で作られた、監視に適した代物。

 

「お前達、テンペストの開国祭に参列するだろう。それ着けてって。俺は国に入れなくてね、内情が知れないんだ。知れても断片的。この目で色々見てみたい。

それは俺が作ったペンダントだ、盗撮器とも言うけれど。大丈夫、リムルには勘づかれない。よろしくね?」

「......わかったわ。御爺様もいいかしら」

「君が承諾すらなら、構わない」

「ははっ、いい関係値だ。じゃあ俺はこれで。何か行動に移すことがあれば、何時でも呼んでくれて構わない。遠慮はいらないよ」

「えぇ、そうさせて貰うわ」

 

出された紅茶を飲み干して、席を立とうとした。それを止めたのはマリアベルだった。

グランベルの膝の上にいた、マリアベルが俺の方に歩いてきて、細い腕を俺の首に回す。

 

耳元で、マリアベルが楽しそうに囁いた。

 

「私達、とっても似てるわ。貴方はとっても強欲だもの。これからよろしくね。絶対にいいビジネスパートナーになれるってこの私が保証するから」

 

回された腕を引き剥がし、幼い体に見合った薄い肩を掴んだ。

くるりと体を反転させ、先程俺の座っていたソファーにマリアベルを押し付ける。その上に覆いかぶさって、今度は俺からマリアベルの耳に口を寄せた。

 

「似た者同士と言うなら賢く強くあれ。精神支配だけじゃ、俺のビジネスパートナーは務まらないよ」

「ふふ、考えておくわ」

 

上体を起こしてマラカイトに目配せをする。

要件は終わった。さっさと帰ろう。

 

「じゃあ、二人とも今日はありがとう。開国祭の件、よろしくね」

 

 

似た者同士とはよく言ったものだ。

実際、そうなのだろうけど。だってお互い、考えている事が手に取るように分かるのだから。




悪素が観測されないおかげで、大分自由に動ける様になりました。やったね。

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