グランベル達との密会を終えて、外に出た。
時刻は昼過ぎ、昼飯には少し遅い位だった。
何か手で持てる物を買って、さっさとイングラシア王国に行くのがいいだろう。
やらなきゃいけないことは溜め込まない性分だ。
ここから西に真っ直ぐ飛んで、イングラシア王国の首都、“華やかなるルーラ”とやらに行こう。辿り着いたら、あの男に連絡をいれて迎えを寄越させるか。
そういえば、イングラシア王国には自由学園と呼ばれる学校があったな。
リムルが担任を務めた、シズが託した子供達がいる学校。寄り道して、少し見てみるのもいいな。
「イングラシア王国は文化的な国だから、もしかしたら面白い物も見れるかもな」
「俺芸術とか分かんないからな...見てもつまらないかも」
「お前って何を面白いと感じるんだよ。絵とか、案外見てると面白いけどな」
「絵ねぇ、絵だなーって思うだけなんだよなぁ。面白いものか、飯とか...飯とか、飯とか? 後は無駄な睡眠とか。生きてければそれで」
「飯を三回も言うなよ。まっ、生きてければいいってのは同感だな。絵だとかそういう芸術は生きていく上では何ら必要ない。自分至上主義の心持ち位だ。そうしてれば飯だって手に入るしな」
「スラムは性格悪い奴が生き残るからなー、セイヤも死ぬほど性格悪いし」
「自他ともに認めてるから、何とでも言え。じゃあイングラシア王国も用事が終わったらさっさと帰る事にしよう」
「はーい」
ケタケタと笑って、俺を性格が悪いと称すこの男。今はなりを潜めているが、俺の事をとやかく言えるほど出来た性格じゃない。
俺は覚えているからな、マラカイトと俺がつるんでた時の事。
スラムで定期的に開かれるチンケな闇市で小爆発を起こして物品全部奪ったの。スラムに住む人間が何とか日用品を手に入れられる場所で、自分の都合の為だけに爆発騒ぎを起こすなんざ、性格が悪い以外の何物でもないだろう。
しかも奪った物品を、一部自分のにして、倍の値段で爆発騒ぎの被害者達に売り捌いてたし。しかもニッコニッコで。
そういえば、ボランティア活動で来てた医療団体の物品も奪ってたな、コイツ。
............俺よりヤバくない? 同じ位か?
なんでもいいか。奪われる方が悪いんだ。
奪って奪われて、殺して殺されて。人間らしい生き方じゃないか。
善良で他人の都合に合わせてたら、明日は無い。
パン屋で適当に腹を埋められる物を買った。
店主曰く、パン・ド・カンパーニュが焼きたてだそうで、俺はそれを買った。
マラカイトはチョコパンを初めとした動物性油脂が多く入ったパンを沢山買っていた。匂いが、甘い。
店を出て、空にいる人物に気がついた。
「カイト、こっち」
「えっ、何...うわっ!」
「───黙って、喋るな」
パン屋の裏手に引きずり込んで、マラカイトの口を塞ぐ。出来るだけ息を殺して、結界で身を隠す。
見上げた空には、青髪の悪魔が佇んでいた。
凪いだ表情で街を見下ろすメイド服姿の悪魔は、何かを探すようにファルナスカ王国の方へと消えていった。
気づかれていはいないようだ。
危ないったらありゃしない、後数秒でも隠れるのが遅かったら、今頃あの悪魔とご対面しているところだった。
あの悪魔は確か、レインと言う名を持つギィ・クリムゾンの手駒だ。十中八九、原初の青。
ギィの指示で動いているんだろうが、わざわざ原初を使って何を探しているのか。
もしかして、俺かもしれない。そんな危惧が自惚れになり得ないのが悔しい話だ。
ギィと父には面倒な因縁がある。
ギィがセイジ・カミシロをレブルと気がついている前提で言うなら、俺という存在にいち早く気がついても不思議じゃない。悪素だって、あの出鱈目な力を持った悪魔に何処まで通用するかも分からない。
レブルの外壁から落としていきたいなら、俺を原初を使って探させるという話に合点が行く。
杞憂なら勿論嬉しい話だが。
「カイト、空の旅はお終いだ。空間移動でイングラシア王国に飛ぶぞ」
「何だよ、何かあった?」
「面倒なストーカーにあった。今の段階でギィ関連と戦闘するなんてごめんだ。速やかに用事を済ませてファルナスカ王国に帰る。あそこなら結界が幾つも貼られてるから、まずバレない」
「わっ、分かった。でも待って、これだけ食べていい? 焼きたて......」
「今ここで食い意地をはるな!パンを袋に戻せ、目的地に着いてから好きなだけ食えばいいんだから」
▽
数千年も前の記憶。
今でも鮮明に覚えている、あの屈辱。
心核が奪われた、あの瞬間を何度も何度も反芻し、この怒りを残された半分の心核に刻み続けている。
『調停者よ、私はお前達悪魔の生みの親と言っても大差の無いものだ。私と言う存在が悪を、影を生み出し...その前例に習って天使の影としてお前たちが生まれた。自分達の誕生のきっかけである私に感謝をするべきではないか? 貢物の一つでもあっていいはずだが』
『お前は世界を破壊する存在だ。調停者として見過ごす事は出来ない』
『おやおや、よくもまぁ凄むじゃないか。今、地面に這いつくばっているのは、お前だが?創造主は予言したそうじゃないか、世界が人間の争いの中で破滅すると。ならば、私も予言してあげよう。世界は数千年後、形を変えると。破滅の末か、過程かは知らぬ話だが。お前は傍観しか出来ないのだろうね』
『お前は──────』
『私の糧となりなさい、調停者よ。調停者の心核が世界の終わりを導く者の中で灯り続けるなんて、素晴らしい話じゃないか』
『レブル!!』
レブルの存在は、俺たち悪魔の様な善の対比を生み出す先駆けとなった。
自然に生まれる悪徳は、善徳とぶつかり合う事で均衡を保つ。
しかし、レブルの生み出したそれは善徳を飲み込む。レブルが自然の真理を無視して生み出した悪徳の塊達は、悪魔等とは違い、世界から逸脱している。概念乖離体がそれだ。
必ず、レブルを消滅させなくてはいけない。
そうでなければ、世界は飲み込まれてしまう。
「ギィ様、レインから報告がありました。
シルトロッゾ王国に概念乖離体の反応は見られなかったそうです」
「そうか、上手く隠れられたな。レインには戻ってくるように伝えろ。探られるていると感ずかれた以上、これ以上探しても概念乖離体は見つけられない」
「承知致しました」
ミザリーの報告は想定の範囲内だった。
つい最近、レブルの持つ世界の入口が開いた気配を察知した。
そして、歪な形をした魂が二つ確認できた。
その魂を探している。その者達は、レブルと同じ概念乖離体である筈だ。
概念乖離体を見つけるのは、困難を極める。けれど見つけなければいけない。
レブルを初めとする概念乖離体を止めることは......ヴェルダナーヴァに俺からした誓いだ。
今までレブルは創造主が作り出した物同士をくっつけ合わせるだけに留めていた。
数多くの異物を生み出したが、最終的に今の今まで生き残った種族は
だからこそ、レブルが直接手を加えなければ生み出されない概念乖離体が、二つ確認された事は緊急を要する異常事態だった。
レブルが本格的に動き出している。
レブルの足取りは掴めている。
セイジ・カミシロと名乗る異世界人がそうだ。心核が俺である以上、レブル自身も俺に隠し通せるなんて考えてはいない。
だからこそ、人間の国の王となり、国民を人質とったのだ。俺の調停者としての立場を利用して、直接レブルを叩けないようにしている。
殆ど分かっていない概念乖離体という存在を探し出し、潰す。
不可能ではない。レブル側が動き出した様に、世界も大きく動いている。
──────レブルという存在もここまでだ。
【ヴェルダナーヴ】
↓悪徳+魔素
【レブル】⇒世界とズレた存在
↓
【悪や死、影的概念が生まれる】
↓自然的発生
【悪魔等】
※ヴェルダ(悪徳の意志)とレブルは別物。
〈世界とズレた存在〉
・死食鬼⇒人間と魔物の融合体。無理矢理くっつけた事で一部、世界との概念にズレがある。魔素が源。
・概念乖離体⇒レブルが干渉し、素質があったものが魂や存在そのものの概念を書き換える事で生まれる。存在そのものが世界の概念に反する。悪素が源。
★悪素=魔素+コンパウンド
この小説のオリジナル設定を簡単に纏めて見ました。
意味わからない所があったら感想で聞いてください。答えます。
認識としては『悪素は観測するのがめちゃくちゃ難しくて、それを源にしてる概念乖離体はやりたい放題出来る』『概念乖離体はレブルが直接生み出すしかない』『ギィは自分の心核を利用されてるから、レブルの行動の一部なら読み取れる』を覚えておけばOKです。