転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第82話...答え合わせ

「──────セイヤ・カミシロ様でお間違い無いでしょうか」

「...間違ってますって言ったら?」

「連行します」

「見かけによらず、強引な奴だな」

 

今からそっちに向かうから迎えを寄越せと中庸道化連のリーダー様に連絡を入れて、すぐにイングラシア王国へと飛んだ。

首都の真ん中、湖の上に聳え立つ白亜の城を繋ぐ橋の下で待つこと数分。カツカツとヒールを鳴らして現れた金髪のエルフ。

カガリと名乗ったソイツは自由組合の頂点であるユウキ・カグラザカの秘書、兼副総裁を務めているそうだ。

 

「男だと聞いたが、随分と洗礼された美を持つのだな」

「あ? 何だ急に......顔なら別に褒められても何も思わないぞ」

「いや、ただ感想を言った迄だ。心からな。

どうぞこちらへ、お連れ様も一緒に」

 

空間を割いて現れた転移門。

促されるままに潜った門のその先には、何処かこじんまりとした執務室が広がっていた。

壁に半円形にくり抜かれた飾り棚には、前世でたまに見かけた二次元キャラクターを模した置物があった。中心に置かれた接待用の机の上には、数冊の漫画が重ねられている。これもまた、前世で何度か書店で見かけたものだった。

 

そんな、前世の断片を思い出させる部屋の奥には二人の人間がいた。

一人は執務机の横に手を後ろに組んで立ち、もう一人は執務椅子の背をこちらに見せて座っている。

 

「......これは、お前的にはなんで自由組合総帥(グランドマスター)であるお前が! って言うべきなのか?

───ユウキ・カグラザカ」

「はぁ、そう思ったならそう言えよ。空気の読めない奴だな」

「それは失敬。中庸道化連のリーダー様に対する礼儀を俺は知識として持っていないんだ」

「はいはい、期待してないよ。こっち来て」

 

扉の横にマラカイトを待機させて、部屋の奥へと歩き出す。

 

だいたい思うんだ。

声も話し方も変えず、イングラシア王国に来いと言って、迎えに自由組合の者を寄越す。誰だって気がつく話だろう。

カガリの中身がかつて魔王であったカザリームである事も、話を知っていれば見ただけで分かる。

だがまぁ、自由組合総帥(グランドマスター)が裏では中庸道化連という世界征服を目論む組織を束ね、その心打ちは仲間を裏切って世界の破壊を望むでいる。実に面白い話だ。

けれどそれとは別に、ユウキの一見穏やかそうな笑顔に無性に苛立った。なぜなら───

 

《告。個体名ユウキ・カグラザカからの洗脳を検知。》

 

執務机に近づいて、その横に立っていた鼻頭に傷のある男の懐から銃を抜き取る。

それが、ユウキの額に押し付けられる迄に時間は殆どかからなかった。

銃を抜き取られた事で男がユウキへ声をかける時間よりも早く、冷えた金属が狙いを定めた対象に弾丸を打ち付けるのを、肌に触れながら待っていた。

 

「何のつもりだい?」

「それはこっちのセリフだ。毎度毎度、お粗末な洗脳を仕掛けてきやがって。今もだ、気がついてるだろう、俺はもうお前のその力を未知と称さない。......それとも、お前のそのおざなりな悪素の使い方じゃあ理解出来ないか?」

「チッ...君までこの領域に来たのかよ」

「本当に気がついてなかったのか。自分の源になっている元素なのに、扱いが随分と下手じゃないか」

「誰だって苦手の一つや二つあるさ。それより、この銃をどかしてくれるかい? 洗脳なんてもうしないからさ。何だったら謝ってもいい」

「どうぞ?」

「......はぁ、悪かったよ」

 

 

分かればいいんだ。毎回毎回、中庸道化連の人間と会う度に洗脳を受けて抵抗(レジスト)をするのは何かと面倒だった。

というより、メーティスが俺よりウザがっていた。多分メーティスは俺より短気だ。

だからもうしないと宣言してくれてよかった。自分の頭の中にいる自我を宥めるのは案外手を焼く作業だったのだから。

 

銃を持ち主に返して、男を見る。

上質なコートを身にまとい、長めの髪を後ろで一つにまとめているこの男。出で立ちから見て相当上の方に立っている人物だろう。

はて、イングラシア王国の重鎮にこんな男はいただろうか。

 

「勝手に懐を漁るような真似をして悪かったな。ユウキから聞いているだろうが、改めて...俺はセイヤ・カミシロ、お前は?」

「ご丁寧にどうも。私はダムラダと申します。西側諸国で東の商人ダームとして動いておりました。今は別の者にその任を継がせ、東の帝国に戻っています」

「へぇ、で? 東の帝国の...ましてやお偉い様に当たるだろうお前が、なんで今ここに?」

「総帥から貴方がイングラシアに来ると連絡を受けましてね。私は貴方に用があるのです」

「俺に?」

「総帥、先に私の方の要件を済ませてしまっても宜しいですかな」

「いいよ。俺は読書に勤しんでるから」

 

ユウキは宣言通りに椅子に体を沈め、何だフリフリの服を着た少女の描かれた表紙の漫画を読み出した。あれは...確か、魔法少女という奴だった気がする。結構な胸糞話だと聞いたが、真意は知らない。

 

ダムラダはソファーに腰を下ろし、向かに座るように俺を促した。

 

「セイヤ殿...こちらの書類に目を───」

「殿だとかそういう敬称は要らない。セイヤって呼び捨てでいい」

「おや、そうですか?」

「別に敬称をつけて呼ばれるほど大層な出来栄えじゃないんでね。敬語も固くなくていい」

「分かりました。ではセイヤ、この書類に目を通して貰えますかね」

 

手渡された書類には、幾つか俺についての内容が記されていた。

堅苦しい文面で綴られた内容を要約すれば

『俺は席をファルナスカ王国ではなく東の帝国に持ち、近藤達也の直属の部下とする』といった所だった。

ファルナスカ王国が元テンペストの死食鬼を抱えている位なら、全く関わりのない東の帝国に置いてしまおうという話である。所詮俺は、東の帝国からの派遣でしかない。

書類には父が同意している事も記されていた。ならば、俺の答えも決まっている。

 

「達也ってのは、異世界人か」

「えぇ生真面目な人ですよ、貴方と息が合うかは分かりませんが。そちらの書類、同意してくれますか?」

「良いよ。別に何処に席があろうと、誰の部下であろうと構わない」

「...失礼、少し意外でした。貴方は誰かの配下になるのは嫌がるかと危惧していたので」

「配下になるのは別に嫌じゃない。元から上下関係を与えられればそれに従うさ。俺が嫌いなのは対等だとほざいて置いて、上下関係をほのめかす奴だけだ」

「そうですか、それなら安心です。本当は今後上司になる中尉自ら渡すべき書類なのですが、何かと忙しくてですね。それから、こちらもお渡ししておきます」

「......軍服?」

「えぇ、これから先、東の帝国にも出入りする事になるでしょう。帝国内ではそれを着ていれば身分は保証されます」

 

ダムラダが手渡してきたのは、白色の軍服だった。首元や袖に黒のラインの入ったシンプルなデザイン。返り血が目立ちそうだ。

何故だか知らないが、ダムラダはついでにと統一されたデザインの軍帽も手渡してきた。俺に白の軍帽、似合うのか?これは。

 

「まだ未定ですが、日を改めて近藤中尉とはお会いになってもらいます。詳細もその時に聞いてください。我が皇帝も貴方に会いたがっていたので、貴方から東の帝国に来てもらうことになると思います」

「んー、わかった。ファルナスカ王国で普通に仕事をしている間にして欲しい事は?」

「貴方の持っている情報を流して欲しいのです。それから、何かと貴方には雑用を任せてしまうかもしれません」

「情報と雑用ね。大したことでもないし、全然良いよ。誰に渡せばいい?」

「定期的にこちらから人を向かわせます」

「ん、了解」

 

書類に同意のサインを書いてダムラダに戻す。

軍服も何時でも着れるように倉庫に閉まっておいた。

 

「一つ聞いていいか」

「はい。なんでしょうか」

「お前はユウキの事を総帥と呼んでいたな。お前とユウキの関係は何だ?」

「......流石鋭いですね。総帥、答えてしまっても宜しいですかな」

「いいよー」

「───三巨頭(ケルベロス)。その総帥が彼なのです。私は“金”の名を持つ頭領の一人です」

「三つも顔があるなんて、ヤヌス神もびっくりだろうな。それで? 組織の目的は何だ。裏からの経済支配か?」

「その通りですね。色々と西側諸国を引っ掻き回しているという認識で構いません」

「ふーん、そう。答えてくれてどうも」

「いいえ。疑問が解決されたのならそれで。

ではセイヤ、本日は会えて良かった。私はこれで」

「ばいばい」

 

一礼と共に、ダムラダが退出した。

退出際にマラカイトにも会釈をしたあたり、相当人として出来ているのだろう。

 

しかし、近藤達也に東の皇帝と来たか。

関わりが増えると、良い事ばかりじゃないが...東の帝国に席を置くことがどう転ぶのか。

確実に言えることは、東の帝国が戦争を始めればそれはもう馬車馬の如く働かされるという事くらいだ。せめて近藤達也とやらがブラック上司でなければいいが。

 

 

 

「良かったね、誠也」

「あ? 何がだよ」

「誠也と達也、同じ漢字が名前に入ってる。上司と部下の関係で同じ漢字なんて運命だろ?」

「くっだらな。で、お前は俺となんか話あるの? ないなら帰るけど」

「そう焦んなって、勿論あるぜ」

「あんのかよ」

 

その後ユウキと、現在持っている情報のすり合わせを行った。

自分がリムルに疑われていると聞いた時は、流石に苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、そんな顔をする位ならもっと慎重に動くべきだ。何のための悪素なのか。

だが、ユウキの方も黙っちゃいないらしい。

 

ダムラダが進めていたジュラの大森林を舞台に行っていた奴隷売買。ジュラの大森林全域がリムルの支配下になった事で、潰されるのも時間の問題になった。

だったらその前に、こちらの利益になる様に潰してしまう事にしたらしい。

奴隷商会(オルトロス)”、その組織を潰すにあたって起用されたのが勇者マサユキ。

このマサユキ、何がびっくりユウキの精神支配下にあるらしい。力もなく、知恵もなく、度胸もなく、勇者の手元にあるのは幸運を招くスキルのみ。また虫酸の走る様な人間がいたものだが、そいつに手柄を取らせてテンペストに潜入してもらう事にしたらしい。

 

「悪い案だとは思わない。けど、リムルと接触すればマサユキの精神支配は解かれるぞ」

「それは困るなぁ...後ろ盾である僕が真っ先に疑われる」

「お前が悪素の使い方を上達させる方が懸命なんじゃないか? だいたい一体全体どうしてそうも下手くそなんだ」

「こればっかりは、才能かな...超能力、あーっと今はコンパウンドって呼ぶんだっけか。コンパウンド自体も誠司さんと比べると下手くそだし、だから魔素を完全に変質できなくて悪素にムラができるんだと思う」

「そこまで自己分析できてて、今まで放置してたのか」

「しょーがないだろ。僕だって誠司さんに教えを乞うたさ。なのに、上手いこと躱された。師匠としてどうなんだか。だいたい、君こそ可笑しいだろ。なんで概念乖離体になってそうそうそんなに悪素を使うのが上手いんだよ」

「こればっかりは、才能かな」

「うわ、うっざ」

「冗談。サポート役が居るんだよ......いや、待て。サポートか、成程」

「なになに、なんか思いついた?」

「マサユキの件までには間に合わないけど...お前の力をサポート出来る様なものを作れるかもしれない。お前の“相棒”にもそう言っとけ」

「! ......気がついてたのかよ」

「その反応、本当にいるんだ。魂に同居してる別の自我。適当言っただけなのに、いや意外だね」

「嵌めたな」

「嵌ったのが悪い。詳細は今は聞かない。興味も無いし、お前も言わないだろ」

 

 

ユウキだけで見ると、カザリームを倒したり等の過去の出来事を成し遂げるには些か力不足に感じていた。だからカマをかけてみたが、的中するとは。メーティスみたいな存在なのか、少し違うのか。サポート面ではあんまし使えない事だけは分かる。

 

悪素を上手く使用出来るような、サポートを作るとユウキに約束をした。

とりあえず今の段階では無理だから、マサユキがリムルの所に落ちたとしても仕方が無いと思う事にする。勇者の対応で為人を見るくらいは出来るだろうとの事だ。

為人も何もあれはただのお人好しだと思うけど。

 

仮にも勇者、開国祭で奴隷の受け渡しを行うなら何らかの模様しには参加するはず。

そう考えた俺は、ユウキに悪素で作ったブレスレットを手渡した。

グランベルとマリアベルに渡したペンダントと同じ構造をしていて、けれどデザイン性に一切の統一感の無いもの。

これをマサユキに渡す様に言った。

 

「そういえば、グランベル・ロッゾとは会えたかい?」

「あぁ、会ってきた。簡単な協力関係も結んだけど...何をする気だ」

「今は特にないよ。もう少し後、彼らは面白い事をしてくれる。それを利用しようと思ってね。今のうちに誠也にも関係を持ってもらいたかったんだ。彼らの計画の戦力として換算されるように」

「あんまりにも馬鹿な作戦だったら断るからな」

「そう? マリアベルとかは結構良い作戦を考えてくれそうだけど」

「どうだか...どうせテンペストにちょっかいをかければ巡る結果はリムルの思い通りだ。

はぁ、とりあえず今日はもう話す事も無いだろ。俺は帰る。ブレスレットの件、頼んだからな」

「了解したよ」

 

 

ユウキとカガリに適当に別れの挨拶をして、マラカイトの腕を掴んでその場を後にした。

今日は一日で国を三つも跨いだせいで、流石に疲れた。

帰たら父に報告だけして、死んだように惰眠を貪りたいものだ。

 

 




次回は、テンペスト開国祭です。
とは言っても主人公が参加しないので、殆ど開国祭には触れずの1〜2話程度で終わります。
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