(で? 言い訳なら聞いてやるぞ)
(いやぁ悪いって思ってるぜ。連絡を入れる暇がなかったんだ、急にリムルさんがやって来て招待するなんて言うからさ)
(......まぁ、もうテンペストに入っちゃったならどうしようもない。こんな事ならお前用にブレスレットを渡せばよかった。国で何をするにも何を発言するのも自由だが、何かそっちで決め事をしたのから連絡を入れろ......いいな?)
(圧すっご、分かってるよ、じゃあ呼ばれたからこれで)
ふと、固定電話でのガチャ切りという単語が頭をよぎった。家に固定電話はあれど、かかってくる事なんてまず無かったから、知らなかったが...確かにこれはイラッとする。
あれから、普段父から流れてくるファルナスカ王国の書類仕事の他に、定期的な東の帝国への情報提供を行ってきた。
別に時間を作って情報を流すくらい大した仕事では無く、苦でもないが...流れる様に、やれあそこの国にある魔物の材料を取って来いだのやれあそこの国の役員が変わったらしいから見て来いだのお使いを任せてくるのは何なのか。俺は東の帝国に席を置くことは了承したが、一度もお前達の便利屋になると言った覚えは無いはず。
これがダムラダの言っていた“雑用”とやらなら、確実に一杯食わされた。
まぁ色々と愚痴はあれど、なんやかんやと平和な日々を過ごしていた。
アカ・マナフに適当にヨウムを演じてもらってベニマルづてでヨウムが祭りに参加出来ない赴きは伝えておいた。準備は万端。用意周到。
そして来るテンペスト開国祭、その前夜祭。
そうそうに到着して国に入ったグランベルとマリアベルのペンダントに意識を集中させ、それを通して街の様子等を見ていた時だった。
何名かの子供達と共に、屋台のりんご飴を食べているユウキ・カグラザカを見つけてしまった。
それを見つけて速攻で連絡を入れたのが先程の会話である。
俺の連絡を受けて、最初にユウキが発したのは(あっ、ごめんごめん。僕今テンペストにいるんだよね。アッハハ)...である。
何がごめんごめんだ、何がアッハハだ。
今目の前に本人がいたのなら、俺の右手は人差し指で机を叩くのではなく、確実に平手打ちを放っていただろう。
だが、先程も言ったが今更どうにもできやしない。テンペストで流れる時間はこちらと変わりなく、祭りの雰囲気に後押しされ次から次へと事が進んでいく。
俺はきっと今頃済ました顔で笑っているだろうユウキを頭から追いやり、別の事に意識を向けた。
ユウキを通してブレスレットを渡した、勇者マサユキとそのご一行がテンペストに到着した。
勇者マサユキ、本名を本城正幸。16歳。
微弱だが英雄覇気を放っているのが分かる。
リムルに出迎えに気がついた勇者一行は、 リムルの前まで歩き、止まった。
リムルはマサユキのブレスレットに対して何も反応を示していない、俺の作戦は成功。
『貴様が魔王リムルか? わざわざ俺達を出迎えてくへれとはな』
『マサユキ様は偉大なる勇者。魔王とて無視出来ぬのは当然でしょう』
『ふふふ、マサユキ君どうします? この場で雌雄決めますか?』
んー危機感。本能的恐怖をどこに置いてきたのか。母親の腹の中か? ならもう手遅れだな。
上記の発言、他の魔王であったなら彼ら、マサユキの配下達は今頃この世にはいないだろうが。リムルの自己の謳い文句が無害で有益な魔王であるうちはそんな事は起きない。
だからなのか、命の危機なんて微塵も感じずにマサユキの配下はリムルに喧嘩をふっかけ続ける。
ちなみにだが、勇者マサユキの配下三名のうち、二名はダムラダが用意したらしい。なんだか、何をしたいのか察しもつくしが、ドンマイとだけ勇者には思っておこう。
勇者本人が無言のまま、今すぐ魔王を討つという意思を伝える配下達。
そのはっきりいって苦痛な時間を終わらせたのは、先程頭から追いやった畜生だった。
『何をやっているんだい、君達?』
『あ、ユウキさん!』
水を得た魚の如く、マサユキが声を上げた。そりゃそうだ、いつリムルが機嫌を損ねて殺されるかたまったものじゃない状況、内心冷や汗ダラダラだったことだろう。
ユウキは奮い立つ配下達を宥め、リムルの強さや無害さを説明していく。
しかし、やはり配下にはその言葉達は響くこと無くマサユキの顔だけが困り果てる。
そして水を上手く得れなかった魚に次に注がれたのは、油だった。テンペスト産だ。
『わかった。それじゃあ、君達に提案がある。明日からのお祭りで、武闘大会を開催する予定なんだ。それに出場して見事優勝出来なら、君達の挑戦を受けようじゃないか! 君達の強さを証明する事も出来るし、文句はないだろう?』
やる気に燃える配下と、困ったように視線を彷徨わせる勇者。
結局、マサユキはその提案を受け入れた。
何とかなる、いつも通り、そんな言葉を残してマサユキはリムルの前を後にした。
「しかし、武闘大会か...ベニマル辺りの強さは出してこないとして、ゲルドとかかな」
「なになに、武闘大会って」
「あぁ、いや、明日からのテンペストの祭りで開催される催しらし───なんだよそのキラキラした目は」
「見たい!」
「見たって大して面白くなんて───」
「見たい!!」
「あぁもう、わかったわかったよ。お前も見れるようにしとく、しとくから。そんなキラキラした目で俺を見るなカイト」
ソファーで寝っ転がって惰眠を貪っていたマラカイトは“武闘大会”という言葉を聞きつけて飛び起きた。何も、武闘大会なんて物は一種の浪漫らしい。
武闘大会なんて俺の中でのイメージは、権力者の為に奴隷や階級の低い者たちが見世物として戦わされ死んでいく、野蛮な催しなんだが。
一体何が浪漫なのか......俺には分からない。
「とりあえず、俺は祭りが一段落着くまで寝ずに盗聴盗撮を続ける。武闘大会が始まりそうになったら呼びに行くから」
「えっ祭りって三日くらいだろ? 大丈夫なの?」
「俺はもう精神生命体だからな。実際睡眠は必要としたいんだ。眠いから寝てるだけで、寝なくても問題無い」
「眠い時点で問題だろ」
「問題点をどこに見出すかの話だ。睡眠の必要性に対してか、睡眠の目的に対してか......」
「ほぇー、よく分かんないや。まぁいいや、じゃっ俺は外に仕事に行くから、明日は声かけろよ!」
「ん、行ってらっしゃい」
その夜。
祭りは随分と繁盛しているようで、夜になっても街は完全に静かになることはなく、酒の入った混沌とした賑やかさが広がっていた。
そんな賑やかさの中心から少し離れた、迎賓館。そこでは各国の重鎮達が集い、酒と言葉を交わしている。
祭りにはユウキ達以外にもヒナタも参加しているらしく、そちらの回路も利用して他国の重鎮達の会話も盗み聞きしていく。
とは言っても、そこまで大事な話は聞く事が出来ないが。情報はどれだけ小さい物でも価値がある。気にしてはいけない。
様々な情報を記録しながら、酒と煙草を足しなむこと、早数時間。
執務室の椅子に座り続けるのもつまらないと思い、家の屋根に昇った。月見酒と言うやつだ。
やはりと言うべきか、迎賓館で得られる情報は極めて少ない。だからこそ、聞き逃さぬように注意を払っていた。
そんな中、兵士が叫んだ。会場に駆け込んだ兵士は大変慌てた様子で主であるリムルに捲したてる。
何も、魔導王朝サリオン、エルメシア・エル・リュ・サリオンがテンペストに降り立ったと言うのだ。
まさか、あの天帝が国を出て祭りに参加するなど、思ってもみなかった。天帝は出不精で有名なエルフだ。今頃は各国の参加者が大慌てで本国に使いを飛ばしているだろう。
大騒ぎの迎賓館に、とうとうその天帝は姿を現した。
銀髪と翡翠の瞳を持つ、美しいエルフ。
不味いな...魔導王朝サリオンは大国、その最上位権力者にもなれば、その力は魔王に匹敵する。リムルと直接繋がりを持たれるのはめんどくさい。
......妨害もいいが、エルメシアの周りにいる守護者達を見るに、テンペストに居る者を適当にうがしても効果は無いだろう。
リムルはどうせエルメシアと友好的な関係を結ぶ。どんな事象も生物もリムルの為にあるかのように、都合良くリムルの意にそう。
エルメシアがリムルの味方になった、と言う前提で父と東の帝国に報告を入れるべきだろう。
もしかしたら、協力関係になったせいで、何らかの支配組織が乗っ取られるかもしれない、技術面の向上も、類を見ない速度で加速してくだろう。
そして、ミリムご一行もやって来た。
まぁコイツらはいいか。もう関係はズブズブ、テンペストに大きな変化をもたらす事は無いはずだ。
案の定、ミッドレイと言うミリムを祀る民のハゲが料理がどうだと喚くだけだった。
✳✸✳
テンペスト開国祭、本番当日。快晴。
『俺が魔王リムルだ、宜しく。ええ、本日は、我が国の招きに応じてくれて嬉しく思う。初めましての人もいるようだけど、どうか緊張しないで欲しい。魔王となったのは本当だが、俺は人類と敵対するつもりなどない。俺は、皆が仲良く暮らせる国を創りたいと考えている。人と魔物が争うよりも、手を取り合い協力する方が、より良い未来が待っていると信じているからだ』
そう言って始まった、お人好しの単細胞こと魔王リムルの演説が始まった。
“ローマは一日にして成らず”的な信頼の話だとか、武力をこっちは持ってるんだから友好を結ばなくとも手は出すなだとか、聞いているとこちらが恥ずかしくなるような事をペラペラと喋った。
俺からしたら甘ったれた発言に思うが、リムルらしい物であるし、リムルを信じる者たちが動かされる理由も言葉の端から滲み出る人の良さからなんだろう。所詮、異端は俺だ。
はぁ...なんだか始まって間もない、ましてや直接参加している訳でもないのに酷く疲れてきた。
純粋で無垢な笑い声はどうしてこうも疲労を溜めるのか。
昨日を含め、煙草の箱が十箱消費している。酒なんて倉庫にあったもののうち半分は飲み干している。......俺が半液体じゃなかったら、今頃肝臓と肺がおじゃんだ。過剰摂取もいい所である。
開国祭初日の最初の催しであるコンサートを流し聞きながら、ソファーに倒れ込む。
致命的に自分と祭りの相性が悪い。定期的に開催される宴ですら中々にキツかったのに、祭りともなればそりゃそうだ。
こんな事なら、メーティスに全部丸投げすればよかったな。
《ご自分で行う事も大事だと思います。》
お前は優しくないなぁ......
《私に、優しくいて欲しいのですか? 》
別に。お前がいたいお前でいればいい。
《そうですか。でしたら、ご自分でテンペスト開国祭の情報収集は行ってください。サポートを行います》
メーティスに奮い立たされ、何とか気を保つ。
これが終わったら、静かな場所で少数で会話をしたい。華やか過ぎない食事と共に、ゆっくりとしたいものだ。
午後に行われた技術発表会は存外に面白かった。
結論から言うと、ヒポクテ草なる植物はこの世には存在しないのだという。
そこら辺にある雑草が高密度の魔素によって突然変異した植物、それがヒポクテ草の正体だ。
魔素の濃度が高い場所に生息するのではなく、魔素の濃度が高いから、そこで突然変異しただけ。
実に面白い。
なら、概念乖離体が持つ悪素ならばどうなる? どんな効能が見られるだろうか。
マラカイトのユニークスキルの様にスキルとして生成された植物には変化は起きるのか?
面白い、試してみる価値はあるかもしれない。
ユニークスキルは残念、権能が揃っていないから出来ないが...そこら辺の雑草を採取してやってみよう。
メーティス、アカ・マナフに言って色んな種類の植物を採取しておいて。
出来るだけ多種多様な種類を、時間帯とかも分けて。
《了。》
そういえば、東の帝国では回復薬をどのように補充しているのだろうか。
生産ラインはどれほど整っているのか。
今度ダムラダに確認を取ってみよう。もし都合が良かったら、東の帝国で実験場所を貰えるかもしれない。
✳✸✳
『最初に紹介するのは一番人気のこの人でーす!! 』
「待ってましたー!」
「ソーカだよな、これ...元気がいいな」
隠形法を用いて、堂々とアナウンスを始めたソーカの声がマラカイトの寝室に響く。
朝のこと、武闘大会の映像が見れるようにとあの手この手で悪素とアカ・マナフを駆使し、メーティスが頭を捻らせ、スクリーンを用意した。まぁ、別にそこまで大変でもなかったが。
そして見れるように調整したとマラカイトに報告すれば、なんとビックリ寝室で一緒に見ようと言い出したのだ。
何故と聞けば、ベットに寝っ転がって菓子を食べながら映画等の面白映像を見るのに少し憧れがあったらしい。
俺は見る予定が無いと言いたかったが、マラカイトのキラキラした期待に満ちた目に負けて、たった今ベットに寝っ転がったマラカイトの腕の中にいる。ハイエナ姿のもこもこにマラカイトが顎を載せてお菓子を食べる。食べこぼしなんてしてきたら手を噛みちぎってやる。
ちなみにお菓子はポテチ擬き。先程二人でキッチンで作った物だ。
ポリポリと咀嚼音を口から響かせながら、武闘大会に参加する六名が紹介された。
昨日行われたバトルロワイヤルを勝ち抜いた六名である。そこそこ強い奴らのはずだ。
一人目 “勇者”マサユキ
二人目 “狂狼”のジンライ
三人目 “流麗なる剣闘士”ガイ
四人目 牛頭族の長ゴズール
五人目 馬頭族の長メズール
六人目 正体不明の獅子覆面
............六人目...アイツは何をしてるんだ?
バカなのか? 仮にも“元魔王カリオン”が武闘大会に参加するのはバカだろう。
マラカイトはと言えば、ソーカのテンションの高い紹介と共に楽しそうに感想を述べている。
ちなみに、カリオンのつけている獅子覆面はマラカイト的にはカッコイイに当たるらしい。
参加者六名の紹介も終わり、続いて紹介されたのはテンペストからの出場者二名だ。
ゲルドとゴブタ。ゲルドは予想通りだが、まさかゴブタが選出されるとは思っていなかった。
確かに才能等は飛び抜けてあるし、ハクロウも目を引いていたはず......よく良く考えれば適任だ。優勝はこのどちらかになると予想する。
「すっげぇよセイヤ! 皆強そう。俺も出たかったなー」
「お前がリムルに顔を知られてなければ出れたかもな」
「もし俺が出てたら絶対、優勝してたんだからな?」
「おいおい、仮にもあのライオンは元魔王だぞ。簡単に言うじゃんか」
「余裕、余裕。覚醒してないんだろ? なら行けるよ。俺の“野生の勘”が勝てるって言ってる」
「馬鹿らしい...それに優勝して待ってるのは魔王リムルだぞ? 」
「魔物の王様は無理! あのー、何だったかなスーツ着てた紫髪の鬼ならギリいける」
「スーツ、紫......シオン!? お前...マジかよ」
「もしかしてセイヤって俺の事弱いと思ってる?」
「だって、頭弱いから」
「ふふふっ頭の出来が悪くても、野生の勘はピカイチってことだ」
「出た、野生の勘。そんなに凄いものかねぇ」
決勝は明日の予定らしく、今日は準決勝まで行われるそうだ。
トーナメント形式で、六試合。
そして第四試合迄が先に発表された。
第一試合 ゴズールVSメズール
第二試合 “勇者”マサユキVS“狂狼”ジンライ
第三試合 “流麗なる剣闘士”ガイVSゴブタ
第四試合 ゲルドVS獅子覆面
「マサユキに運が向いてるな」
「え?」
「いや、幸運を招くスキルってのは嘘じゃないらしいと思ってな」
「あーユウキ君が言ってたな、そういえば。でもそんなに運が向いてんの? ジンライって奴も強そうだけど」
「お前ユウキの事、君付けなんだな...。
ジンライはマサユキを慕ってる。不戦勝の勝ち確定。二回戦目もゴズールとメズールのどちらかが疲労困憊の状態でマサユキと戦うことになる。それだけじゃない、第三、四試合も最初から優勝候補のゲルドがカリオンとぶつかってる。ゴブタもそっちのグループだし、勝ち上がってもテンペスト陣営同士の潰し合いになる」
「ほぉ......観戦するなら面白いけど、王様の都合からすると悪いって事?」
「そういう事。マサユキのスキル、思ったより強力だな...ユニークスキルの筈なんだがな」
そして始まった第一試合ゴズールVSメズール。
元々、牛頭族と馬頭族は百年間も争いを続けている種族。私怨も含め、そのぶつかり合いは見世物としては素晴らしい物だった。
斧と槍がぶつかり合い、肉体同士を叩きつける。かれこれ二十分、互角の攻防は続いている。
そしてそれは、急に終わりを迎えた。
ゴズールガ勝負に出たのだ。投擲された大斧がメズールの左腕を吹き飛ばす。
しかしメズールは笑っていた。何故なら、回避出来なかったから左腕が犠牲になったのではなく、技と左腕を犠牲にしたのだから。
メズールはゴズールとの間合いを一気に詰める。
そして至近距離から放たれた、槍の連続攻撃。
回避は出来ず、ゴズールの体には幾つもの大穴が穿たれる。
メズールの勝ち、そう誰もが思った。
しかし、ゴズールはそれを許さなかった。
ゴズールの頭の角が、メズールの右目と右腕を貫いたのだ。雷光を纏った倍の長さを持つその角が、メズールを仕留めた。
ゴズールの体にあった大穴は全て塞がれている。エクストラスキル『超速再生』の有無が勝敗を分けたようだ。
第一試合───勝者・ゴズール
次、第二試合。
先程の長引いた試合とは違い、この試合は一瞬だった。武器も持たず、汗もかかずに終わった。
舞台中央でマサユキとジンライが握手を交わしている。マサユキの不戦勝だ。
それを見て、観客は歓声と拍手を送る。
「流石はマサユキ様だ!!」と興奮して叫ぶ者までいた。
「えっ、え? どうなってんの? 不戦勝は良いとして、こんなに喜ばれるものかよ」
「マサユキ、幸運を呼ぶだけじゃ無さそうだな。多分だけど...自分を囃し立てるように仕向けるスキルを持ってるのかもしれない」
「何その気持ち悪いスキル、おぇー」
「確かに勇者らしくは無いな」
第二試合───勝者・“勇者”マサユキ
気を取り直して第三試合。
始まって数分、戦況はガイの一方的な攻撃を何とかゴブタが避けているだけ。
このまま嬲りものにされるのかと落胆しかけたが、ここでリムルが機転をきかせた。
何と勝てた暁には、小遣いアップに新型の釣竿をプレゼントするとの事。
それによって、ゴブタのやる気が出た。
ゴブタが星狼族を召喚したのだ。「同一化」をする気なんだろう。
これで少しは一方的な試合から変化が......
「えっ......ランガじゃん」
ゴブタが召喚したのはランガだった。
勿論、ゴブタ自身も驚いているあたり、これはランガの独断だろう。
ランガに突撃されたガイは意識を失い、地面に倒れている。今は小型になっているからいいが、普段のサイズだったならガイは場外まで飛ばされ壁に体を沈めていただろう。
「おぉ、狼だ! でもあの狼は召喚者より強そうに見えるな」
「まぁ、そりゃあそうだろう。常に王様の一番近くにいるやつなんだから」
「えぇ! それ参加有りなの?」
「審判がテンペスト陣営だろ? 有りだと思うよ」
リムルの監督不行がよく分かる試合だったな。
本当にいつも詰めが甘い。周りに助けられてばかり無くせに、その周りを作り出す才能は頭一つ所ではなく抜けているんだから。
第三試合───勝者・ゴブタ
一回戦目、最後の第四試合。
注目の一戦だとは思っていたが、今までの三試合のそれらよりもずっとずっと面白い。
拳と拳。素直で分かりやすく、それでいてお互いの頭で行われる予測は何処までも複雑だろう。
方や圧倒的な防御を、方や多彩な攻め手を。
お互い一歩も譲らない。
「すっげぇ! なぁセイヤ、後で俺らもコレやろうぜ」
「やるか馬鹿。俺は足技しかできない」
「ならそれでいいって!」
「やらないってば......」
マラカイトの興奮度も先程の比では無い。
戦況は変わらず、しかしお互い一切その目を曇らせず勝機を伺う。
三十分、また二十分───カリオンが動いた。
交わされた絶対の勝利への渇望の言葉。
それにカリオンが応えたのだ。
黄金の妖気が立ち込め、拳に集う。
そしてその拳が、鉄壁だと思われたゲルドの両腕を爆ぜた。さらけ出された急所にカリオンは過ごさず重い一撃を入れる。
「あっ!」
「勝負あり、だな...お見事」
思わず拍手をしてしまう。カッコイイ、素直にそう思った。
「カイト、殴り合い...やってやってもいい」
「マジ!? スキル使用無しで頼むぜ」
「ふっ、良いよ。純粋な体術勝負だろ」
「やっりー!」
第四試合───勝者・獅子覆面
昼を挟み、二回戦目。
熱も冷めやらぬ中、第五試合。
“勇者”マサユキVSゴズールの試合が始まろうとしていた。
しかし中々始まらない。
何故ならゴズールとマサユキの言葉の煽り合い合戦が始まってしまったからだ。マサユキは足を震わせ、冷や汗をかいている。戦わずに勝つ気だ。
「不味いな...洗脳が殆ど機能してない。もうマサユキは無理だな。使えない」
「ユウキ君に連絡入れる?」
「そうだな、夜にでも入れるとしよう。お互い日本人だ、きっとマサユキは絆されるしリムルはマサユキを受け入れる」
「勇者様はユウキ君に洗脳されたのは気づいてるのかな」
「それは無いはず。マサユキからバレる事は無いけど、ユウキが黒なのは直ぐにバレる。多分......俺とお父様が絡んでる事もな」
「そこまでバレるものなの?」
「あぁ、ユウキが黒なのは消去法だとして。お父様の国の動かし方も考えれば直ぐに分かる。俺のことも、タイミングが良すぎるからな。可能性を予測して、一番高いのは三人がグルって結果になるだろう」
「大丈夫なの?」
「リムルが直ぐに動くとは考えられない。アイツは常に様子見の姿勢を貫くからな。時が来れば、何もかもバレても何ら問題は無い」
どうせ俺の存在が何処にあるのかなんて、大体がファルナスカ王国にあると想像するだろう。
いつまでも隠れているなんて無理だし、そろそろ身をばらしてしまうべきだ。何分動きずらい。どうせそろそろ戦争になるんだから。
「セイヤ、なんか勇者様が勝ったみたいだ」
「だろうな......やっぱりこういう嘘っぱちの歓声やらは気持ち悪いな」
結局、ゴズールはマサユキの挑発に乗ってしまった。
君は今全力じゃない。だから自分が勝つだろう。それは余りに可哀想だから、今度ダンジョンにて本気で戦おう。
との事らしい。マサユキは不戦勝で決勝進出。観客はそのマサユキの行動を素晴らしいと褒めたたえた。
第五試合───勝者・“勇者”マサユキ
第六試合。ゴブタVS獅子覆面。
これで今日の試合は最後になる。勝った方が明日の決勝戦にコマを進め、勇者マサユキと戦う。
実力だけなら、カリオンが勝つだろう。ランガを呼び出す前提だとしても、元魔王、強さには明確な差がある。カリオンが本気を出せない今なら勝機は僅かにある程度だろう。
けれど相手はゴブタだ。ゴブタは分からない奴だ。勝つ時はどんな格上でも勝ってしまうし、負ける時はそれはもう無様に負ける。
そんなイメージが俺の中にはあった。
典型的な俺何かやっちゃいました? を素でやるタイプだと俺は思っている。
試合が始まった。
カリオンがゴブタに棄権を促すが、ゴブタはそれを一蹴りし先に仕掛けた。
カリオンに対して、正面から突っ込んだのだ。
すかさず反応したカリオンは爪を鋭く伸ばし、ゴブタをランガの上から引きずり下ろす。
ゴブタは情けない声を上げ、襲いかかってくる爪から逃れようと地を這って逃げ回った。
スクリーンからは観客の笑い声が聞こえてくるが、この部屋には笑い声なんて物はなかった。たまにポテチの咀嚼音がするだけ。
それもそう。カリオンの強さを知っていれば、気がつければ、ゴブタの状況を笑うなんて出来ないのだから。いやむしろ、恐怖の対象ですらある力の差を持った相手に真正面から挑んだゴブタは賞賛にすらあたる筈だ。
カリオンの認識対象がゴブタからランガに移る。ゴブタが退いたことで身軽となったランガは、通常より小さい姿でありながら、その牙と爪は今にも目の前の敵を殺そうとその鋭さを主張していた。
ランガの攻撃は確かにカリオンに効いていた。カリオンの左腕にランガの牙がめり込む。すかさず地面にランガを叩きつけるも、体躯に見合わず身軽な体はくるりと回転し、地に四足をつけて立っている。
カリオンが技を放つ。
闘気の塊が空から乱れ打つように降り注ぐ。限られたフィールドでは逃げる事は不可能。
だが───
「あっ、狼が場外に出ちまった」
「ふふ...ズル賢いなゴブタは。ルールの穴をよくついてる。これはカリオンのミスだな」
「え?」
「この大会のルールに、“再召喚は禁止”なんて文章は何処にもないんだよ」
場外に出たはずのランガが、ゴブタの掛け声と共に影から飛び出す。
そして我が物顔でまたフィールドを駆け出した。
勝利への貪欲さ。それがゴブタにはあった。
わざわざ試合開始直後に無様を晒してフィールドギリギリに移動し、この機会を狙っていた。
常に王として余裕な態度を出し、美しい勝利を掴もうとするカリオンとは全く逆のあり方。
しかし、勝利の女神は貪欲さに惹かれたようだ。
戦況が変わった。
ランガからの攻撃を避けた筈のカリオンが覆面を抑えてよろめいた。
正体を隠さねばならないカリオンにとっての最大の隙、その覆面を狙ったのだ。
カリオンは両手で覆面を庇いながら戦う。防御など出来るはずもなく、攻防はランガ有利へとすり変わった。
「頭いいー、今までの戦い方で一番好きかも」
「へぇ、カイトは第四試合が一番好きだと思ってたよ」
「あれもめちゃくちゃ胸熱だったけど。こうやって目的の為になんでもする奴って好感持てるんだよなぁ」
「それは同感」
観客の非難の声などゴブタには届かない。
見ているだけの者の言葉など、ゴブタには無価値でしかない。価値があるのは、この先にある勝利だけ。手を伸ばすのは優勝という結果だ。
冴えない顔も相まって憎めない奴だ。
結果、カリオンは自ら場外に出て行った。
元魔王である以上、これ以上の醜態は晒せない。完全にゴブタの作戦勝ちだ。
第六試合───勝者・ゴブタ
歓声の止まぬ中、スクリーンを消し去る。
チラリとマラカイトを見れば、満足そうに笑っていた。 それを見て、自然とこちらまで笑いたくなってしまう。
武闘大会は単純に内容として面白かったし、何より感想を言い合ったり、あの技は何だった、こうしてたらどうだったか...そんな会話を繰り広げるのもまた楽しかった。
少しだけ、マラカイトの案に乗ってよかったと思えた。
提案されて直ぐに、スクリーンを用意しながら今日やる予定だった仕事を全てその日に片したのだ。俺の努力は報われた。不服だが。
「明日の決勝は見るのか?」
「んー、勇者様には興味無いけど...あのゴブリン君の戦いは見たいかなぁ」
「明日はこんなにのんびりと観戦はしないけど、執務室でいいなら一緒に見るよ」
「まじ? セイヤから誘ってくれるなんて......へへ、いやぁ俺ってば凄いなー」
「は? 何でお前が凄いんだよ」
「だってセイヤってば俺と過ごす時間が楽しいって感じて、もっとって思ってる。セイヤを絆すなんて凄い以外の何物でもないだろ」
「......調子乗んな」
「図星?」
「その出っ張った鼻、噛みちぎるぞ」
「おー怖い怖い、ヘヘヘ」
「はぁ......お前はそうやって笑ってればいいよ」
「っ......へ!? 今なんて!?」
「あれ、照れてんじゃん。ははっ、お前はそうやって俺の傍で騒がしくしてればいいんだよ」
「っー! セイヤのバーカ!」
✳✸✳
三日目の朝。
この日の開国祭の予定は、決勝戦とダンジョンのお披露目だ。
決勝はどうだっていい。重要なのはその後に行われるダンジョンのお披露目だ。これを何としても利用して、ダンジョンの全貌を確認する。
父もダムラダもアレは脅威になると判断したらしく、絶対に調べろとのお達しだ。
絶対に...の圧が凄かったのを今でも覚えている。
その為に着々と準備を進めながら監視を続けていると、リムルが気かかいな行動を取った。
早朝に何故かドワーフ王国に出向いたのだ。
勿論すぐに調べた。
ドワーフ王国に向かったリムルは星金貨をドワーフ金貨に換金を行った。
どうやらテンペスト開国祭に参列した商人がドワーフ金貨でしか取引をしないと持ちかけたらしい。しかも足りない分はエルメシアが補完したとか...。
ドワーフ金貨での取引は西方諸国評議会は正当なルールだ。
もしリムルがドワーフ金貨を用意出来なければ信用を失い、独自のルールを押し付ければ評議会への参加が難しくなる。
経済の中心となりつつあるテンペストを貶めたい意志を感じるこの一連の流れには覚えがあった。
だから直ぐにある人物に連絡を入れた。
(お前...テンペスト内でこんなに大胆に動いて何をしてるんだ)
(いいえ、私じゃないは。私ではなく、同胞よ。でも...貴方が連絡を入れてくるなんて、やはりミューゼ公爵は失敗したのね)
(ミューゼ公爵?なんで今その名前が出てくる。ガストン王国の公爵だろ...まだ若い。
待て、お前らテンペストを潰すんじゃなかったのか? まさかミューゼに金貨の換金を申し出させて恩を売る気だったのか?)
(潰すのは惜しいとお爺様が感じられたの...でも、そう。やはり失敗したのよ、もう軌道修正は出来ない。ミューゼ公爵は失脚するわ)
(はぁ...マリアベル、お前が何をしたくても別にいいし協力はする。だがミューゼがお前達の指示で動いた事はバレるな。これは絶対だ)
(分かっているわ)
マリアベルとの連絡が切れた。
まさかそんな事をしていたとは...ユウキはこの策を読んだんだろう。
ミューゼが失敗し、次にはマリアベルが動かなくてはいけない。開国祭に参加する事でテンペストの脅威を肌で感じてしまったのだから。
グランベルも要らん思案をしたものだ。
最初から本気を出して貶めればもっと上手く事は運んだと言うのに。
「はぁ......まぁ、今更どうしようも出来ないか」
「セイヤー! 決勝始まるー」
「あー、今行く」
「なんかあった?」
「色々とな、こっちに不利益のある事じゃない」
執務室で書類仕事を行いながら、決勝の様子をチラリと見る。
決勝戦はゴブタVS“勇者”マサユキ。流石に予想になかった組み合わせだ。
やけにハイテンションなソーカの合図と共に試合が始まった。
歓声とソーカの司会を聞きながら黙々と書類を片す手が泊まったのはマラカイトの興奮冷めあらぬと言った声だった。
「カッケーーー!!」
声に釣られて顔を上げ、スクリーンを見る。
そこには、直立して人型になったランガがいた。
ゴブタとランガが同一化している様だが...力が不安定だ。これはぶっつけ本番でやったな。それから、ゴブタの要素は何処に消えたのか、つくづく気になる。
今度はオレの番だと叫びゴブタの姿が消えた。
そしてその後すぐ、俺とマラカイトから出たのはため息だった。
「はぁ...ゴブタらしい」
「えぇ...これはちょっとかっこ悪いって」
これならば見なければ良かった。
俺はハッキリ見てしまった。
宣言と共に物凄いスピードでマサユキに向かって走り出したゴブタが、止まることなくマサユキの横を通り過ぎ、壁に激突するのを───
一般の客には認識出来ないだろう、一瞬の出来事だ。
観客は早くも分からないながらに状況を整理し、マサユキを持ち上げる。
空気投げか? と聞こえたが、んな訳あるか。
アレの何処を掴んで投げ飛ばすというのか。大体、壁の凹み方から言って投げ飛ばしたらもっと違う凹み方をするだろうに。
ゴブタの自爆により、マサユキが優勝。
ソーカがそうアナウンスをかけたその時、マサユキが動いた。
さっきからビビって一歩も動けずに居たくせに、我が身可愛さでは演技力が跳ね上がるらしい。
『この勝負、僕の負けかな?』
観客が唖然とする中、マサユキはあーだこーだ言って颯爽とフィールドを後にした。
賢明な判断だ、優勝して待つのが魔王等と逃げたくもなる。
残された観客は直ぐにマサユキを持ち上げるような思考をし、宗教かのようにマサユキコールが会場を埋めつくした。
ソーカが宣言する。この大会、優勝はゴブタだと。
スクリーン越しではあるが、素直に拍手を送る。ゴブタはよく頑張っただろう。この後はハクロウ達に沢山労わってもらうといい。
決勝戦───優勝・ゴブタ
しかし、先程チラリとリムルがソウエイに指示を出しているのが見えた。
十中八九、マサユキのユニークスキルに気が付き話をする為に呼ばせたのだろう。
洗脳は完全に解けた。渡したブレスレットもタイミングを見てこちらから解いてしまおう。
また一人、リムルに仲間が増えたという訳だ。
名声のあるマサユキを仲間にしてリムルがすること......ダンジョンのプレゼンターとかだろうか。
ダンジョンはテンペストに多大な利益をもたらすことが予測される。それをマサユキが紹介すれば、リムル的には嬉しいことばかりだろう。
今日のお披露目にでも参加するなら、そこでブレスレットを解いてそのまま調査を行うことにしよう。
此方としても嬉しい展開にほくそ笑む。
心はテンペスト開国祭に負けず、お祭り気分だ。