ふぅ、やれやれ───と、わざとらしくユウキが溜息をつく。
祭りも終わり、帰ってきたユウキは一度ファルナスカ王国に寄って俺を迎えに来た。情報交換と今後の中庸道化連の行動方針を決める為に。
ちなみに、ユウキが部屋に現れた瞬間に見た光景は俺とマラカイトの取っ組み合いだ。約束通りスキル使用なしに殴り蹴りの取っ組み合いを行っていた。ユウキが凄い変な物を見る目をしていたのがムカついたから、マラカイトをユウキに向かってぶん投げておいた。
そんなこんなで不服そうなマラカイトを留守番させてやってきたイングラシア王国。
そこには道化達が勢揃いしていた。
「えらい憂鬱そうやけど、何か問題でもあったんでっか?」
関西弁を巧みに操る道化、ラプラスは己のボスを労わるように問うた。
「計画の見直しが必要そうなんだ」
「計画の見直しですって?」
「そっ、やっぱりあのスライムとは、なるべくなら敵対したくないと思ってね。国を見て思ったよ、あれは強大すぎる」
カガリの質問に同意したユウキはこう続けた。
「リムルさんに完全に黒だと見抜かれた。友好関係は続けるけど、難易度が跳ね上がったんだ。これも、誰かさんが変なミスしたせいだな。俺と君の関係も殆ど確信になったかもしれない」
「あ? それは何度も謝っただろ、ごめんってば。俺が悪かったよ」
「え? なになに、もしかしてセイヤってばやらかしちゃったのー?」
「珍しい事もありますね」
「せやな、珍しい事もあるってもんや。明日は槍が降るかもしれへん」
「お前達、そう煽るものでは無い」
「あ゛ークソ共が。水を得た魚みたいに食いついて気やがって」
あからさまにニヤニヤしてこちらを見てくる道化共。わざとらしく計画変更をユウキが言い出したのも俺をこうやって煽る為だ。
ミスしたのは事実でもう取り換えしようも無い。今回ばかりはこの煽りに耐えて謝るしかない。せっかく最近はミスなく完璧だと思ってたらこれだ。
クレイマンの城では東の商人に扮していたなんて知らなかった。しかもユウキに報告した時コイツは何も言わなかったんだ。完全に足を掬われた。
「別にいいだろ。どうせ、俺がこのミスをするしない以前にお前が疑われる結果は変わってないんだ。確信になったかどうかでしかないし、どうせリムルは証拠がなきゃ派手に動かない」
「それもそうだね」
「あのスライムは用心深かったわ。ワタクシも直接対峙してみて感じたのだけど、あのスライムは異常よ。全身をくまなく監視されて、とても落ち着かない気分にさせられた。そんな中で今まで裏切りがバレず、あまつさえ情報の多くを抜き取ってくれた。天秤にかけても、今回のセイヤのミスは軽いと思うわ。それだけあのスライムは油断出来ない相手という事よ」
もしかして俺、カガリに庇われたのか。ちょっとモヤッとするんだけど、まぁいいか。
「リムルは普段は温厚で怒ると手の付けられない。友好を続けるって言ってたけど、今の状況で一つでも物的証拠を残せば厄介だぞ。ただでさえ俺もユウキも状況証拠は残ってるんだ。計画を見直すって言っても、どうする気だ?」
「セイヤの言う通り、今派手に動くのは危ないとワタクシは思うわ」
「うん、そうだね。人ってのは、考え方が変わる生き物だ。“昨日の敵は今日の友”、事情が変わって今は敵対する必要は無いと思わせられれば僕達の勝ちだと言えるだろう」
「そんなら、当面は協力関係を維持するって事でええんやな」
「力で従えてしまう方が簡単な気はしますが」
「馬鹿だなぁフットマンは。それが出来ないから苦労してるんじゃん?」
「まぁまぁ、フットマンの言い分もよぉ分かるわ。力と言ったら、セイジはんが動いてくれれば百発百中な気もするけども...」
「おい、まさかラプラス、お父様に頼んでみろって言ってんのか? 無理だからな、“尻拭いをお願いしたく存じます”なんて」
「せやろなぁー。それに向こうには暴風竜ヴェルドラまでおるんや。力でどうこうするんは分の悪い賭けになる」
不満さを隠せてはいないが、道化共はユウキの話に頷いた。その様子をボスと呼ばれるユウキ本人は嬉しそうに眺めている。
馬鹿らしい、この空間の全てが。
飾られる信頼はユウキの栄養分となって、世界征服が叶うその前に吸い付くし育った世界の破滅の意思が道化を飲み込む。
語る信頼も繋がれる絆も、所詮は騙された傷跡。
こんなんだから、信頼だとか言う感情が嫌いなんだ。信じた先に裏切られたなら、俺は涙を流しながら憎しみを語る事になるんだろう。信じる奴も所詮見るのは馬鹿だけ。
そんな信頼と絆を胸に抱える意味は何なんだろうか。
でも───馬鹿を見ても、その手を取りたいと思うから信じるのかもしれない。
「ははっ、頼もしいな。それじゃあ君達には、ダムラダに任せていた仕事を引き継いでもらうとしよう」
「ダムラダに任せてた仕事?」
「あぁ、特定機密商品の受け渡しさ。相手は魔王レオンだ」
「へぇー、カザリームを殺したアイツね」
「その話はいいのよ。復讐ならちゃんと胸に刻んでいるから」
「えっえ!? あの仕事をアタイ達がやるって事......?」
「ホッホッホ、しかしいいのですか、ボス?」
道化達の顔色が変わったのがわかった。
口々に意気込みを述べる道化に、ユウキは小さく「馬鹿だなぁ」と呟いた。俺以外の誰にも聞こえぬ嘲笑の言葉だ。
「そういえば、特定機密商品で思い出したけど......僕が保護していた子供達を、魔王リムルが連れ出したんだよね」
「あぁ、シズエ・イザワが介入したせいで、手が出せなくなってた───」
「それなら殺すなり簡単に出来るぞ」
「え? それ本当? セイヤ」
「クロエ・オベールって奴とケンヤ・ミサキは無理だけど、他は宿っているのは擬似上位精霊だ。しかも俺がリムルにあげた作成ツールで作られたね。体内に宿っている擬似上位精霊を元の姿に戻してしまえば、体の維持が不安定になって死ぬさ」
「へぇー、リムルさんの話や子供達の様子からもしやって思ってたけど、やっぱりそうなんだ。どうしてクロエとケンヤだけは無理なんだい?」
「ケンヤは作った上位精霊じゃなくて本物の光の精霊を宿してる。クロエに関しては...何が宿ったのかも分からない。精神体らしいけど、詳しくはさっぱり」
俺の説明にユウキは納得したように頷く。
精霊を使ってエネルギーを中和させている以上、それが無くなれば死ぬだけだ。
「シズエ・イザワも炎の上位精霊を使役する 精霊使役者だったわね。とすると、不完全召喚された“勇者のなり損ない”は精霊さえ用意出来れば再利用が可能と言うことになるわ」
カガリの推測は正しい。
俺が同意の意を示すと、何なら考え込んでいたラプラス達が声を上げた。
「そうか! それが魔王レオンの狙いやろか? 召喚に失敗した異世界人を集めとるようやけど、レオンやったら戦士に育てられるんとちゃうやろか!?」
「うーん、思い出した! イフリートも元はレオンの配下だったよね? クレイマンが部下に命じて、何度か襲撃させたみたいだけど、全部イフリートにやられちゃってたんだよね」
「ホッホッホ、同じような手段で、シズエ・イザワのような精霊使役者を増やしているのかも? そうであれば、特定機密商品を渡すのは考えものかも知れません」
特定機密商品とは不完全召喚された異世界人の事を指すのだと言うことが今の会話でわかった。
そうすると、戦力増強という話は些か変だ。コスパが悪すぎる。
ユウキによると世界中のそこかしこで行われる不完全召喚は失敗例も多く発生する。それを回収していたのが、秘密結社“三巨頭”のダムラダであり、決して表に出せない子供達を実験素材という名目で譲り受けていたのだそうだ。
しかしそれは建前であり、実際は違う。魔王レオンは“十歳に見たぬ異世界人の子供”を探し集めている。
やっぱりコスパが悪いと感じざる負えない。召喚自体ならシズにしたように一人でもレオンは行える。わざわざ他国を利用するのも変だ。それにエネルギーを安定させるだけの上位精霊を用意するのも簡単じゃない。十歳未満というのも体が未発達で戦力として見るには変だ。
レオンの目的は戦力増強では無い気がする。
十歳未満という特定的な探し方から見て、“人探し”とかだろうか?
何年にも渡って、魔王レオンが執着し探すような子供がいるんだとしたら見てみたいものだな。
「それじゃあ君達に、魔王レオンとの商談を任せる。その目的が戦力増強なのか、それとも他にも何かあるのか、それを探れるようなら探ってくれ。ロッゾとの交渉はミーシャが引き継いでいるから、彼女から商人を受け取って行動に移るように」
「了解や。任せてや!」
「うんうん! アタイも頑張るよ!」
「ホッホッホ、承知しました」
やる気に満ちているのはいい事だ。
俺にはこの光景の全てが鳥肌モノだが、まぁ、本人達が幸せならオールオーケー。無問題。
俺は作戦内容の詳細を話すユウキの話に耳を傾けながら、欠伸を咬み殺すことに専念した。
ラプラス達に命じ終われば、今度はカガリ。
「それでボス、ワタクシはどうすればいいのかしら?」
カガリの質問は、ユウキが提案した遺跡調査についてだった。
傀儡国ジスターヴの地下にある古代遺跡を専門官であるカガリの協力の元リムルが調査を行う話になっているらしい。
「ねぇ、ずっと気になってたんだけど。その古代遺跡ってさ、お前達の何?」
「何故、そんな事を急に聞くのかしら」
「“アムリタ”だったか、俺も少し見たけど随分と魔導的でしかし古いものだった。まるで過去の軌跡をその場に残すようにな。アムリタが出来たのは遥か昔、ある国が滅びた後だ。これはリムルから昔聞いた話だが、ある国が竜の子供をつついて滅ぼされたらしい。その年月と余りに近しい時だ」
「何が言いたいのかしら」
「おいおい、仮にも協力関係だ。秘密にされるのは些か悲しいな。別に何かに利用する訳でもない、ただの興味だ。お前達にとってあの古代遺跡“アムリタ”はなんだ? 懐かしい故郷か?
なぁ、答えてくれよ。俺の興味関心に答えてくれ、元
「お前......人の過去にズケズケと!」
「ぷっあはは、図星かよ。お前達中庸道化連はボスであるユウキも含めてカマを賭けられると弱いな。冗談、それっぽく都合の良さそうな物語を喋っただけだ。まぁ、正解だったみたいだが」
「おいおいセイヤ、そこまでにしてくれ。もしかして君のミスを煽り散らかした事にムカついてたのか? カガリを虐めないでくれよ」
「いいわよボス。そうよ、あれは故郷を懐かしめる遺跡よ。私がまだ魔王になっていなかった頃に作り出した都、エルフの技術が失われる前に形に残したものよ。その後に都市防衛機構を構築して今のアムリタの姿があるわ。
質問の答えは、そうね。懐かしく、けれどもうどうでもいい物よ」
「ふーん、そっ」
適当にホラ吹いて見ただけだが、まさか正解だったとは。
カガリの質問の答えがつまらない事以外は中々に面白い話だった。
「はぁ......都市防衛機構は生きてるわ。それを利用して、魔王リムルを罠に嵌めてみる?」
カガリの提案は随分と大胆だった。
リムルと共に古代遺跡の調査を行いながら、リムルを罠へと導くのだと言う。
失敗するなとは感じたが、何もせず遺跡調査に協力するだけではこちらの利益は無い。危険なのはミリム辺りだが、機構を動かすだけなら大して難しくもないか。
「セイヤ、質問に答えた報酬として幾つか手伝って欲しいのだけど」
「......はぁ、まぁ今回は俺もミスをしてお前達に迷惑をかけたからな。二つ返事で頷いてやる。目処が立ったら教えろ」
「なら僕からも二つ返事で頷いて欲しい要件があるんだけど、いいかな?」
「要件による」
「東側の活動拠点を拡張させたいんだ。万が一の場合にそっちに逃げられるようにね。東の帝国に行って話を通してきてよ。ダムラダを通して連絡は入れるけど、近藤達也は君の上司だろ」
「まぁ、いいだろ。俺もそろそろ東の帝国には行こうと思ってたんだ。
けど、ラプラス達には自重を促すくせに何をしたいんだ? まさかそれも協力しろなんて言わないよな」
「御明答」
「クソが......サービスだ」
「ははっ、やったね」
そう言って、ユウキはニヤリと嗤った。
そして、それから。
闇に潜む魔人達は、静かに行動を開始する。
───きっとその行動の全ては失敗に終わるだろうが。
ユウキからの依頼、東の帝国からの依頼、マリアベルの策略、そして父の重圧...板挟みがすぎるセイヤ君です。 しかも同じ内容でも意図が違う依頼が同時に与えられて完璧にこなしながら父に利益を回さなきゃ行けない無理ゲー。