転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第88話...評議会

無礼ってレベル超えてんだろ───!

 

声には出なかった叫び声が脳内で反芻する。

代わりに音を立てたのは、俺に蹴り上げられた見るも無惨な机だけ。

あぁ、やってしまった。怒りのままに動いてしまった。今頃ヒナタは呆れているだろう。

 

評議会は他国の貴族の無礼を多少飲み込みながらもスムーズに事が進んでいた。

舐められている、馬鹿にされている。それらをヒシヒシと感じながらも、下手には出ないようにしていた。

 

しかし、これはダメだ。

まさか三度ある仏の顔を一度で使い切ってくれるとは、これまた驚きだ。

 

一つ、“魔道列車”をイングラシア王国まで開通させる事。それにかかる工事と費用はテンペスト側が負担するものとする。

一つ、高品質の武具の提供。西側諸国の軍備増強を目的とし、テンペスト側に協力を求めるものとする。

一つ、テンペストに出現した迷宮は、人類共通の宝である。故に、その運営に評議会を加えるものとする。

ーつ、評議会に加盟するにあたり、毎年一定額の税を納めるものとする。また、議員の選出に関しては、安全面を考慮して人間のみを認めるものとする。

等々。

 

これらは要望書等という謎の文書で提出された内容だ。随分と好き放題に書いてある。

コイツらは仮にも俺が魔王であると忘れている。たかが魔物、そう思っているのだろ。

議員達の可愛げもない欲望に滲んだギラギラした目が、一変して恐怖に揺れた。

 

「なぁ、君達。俺を舐めてるのか? 好き勝手言ってくれるが、どんな権限で魔王である俺に要望を出しているんだ?」

「リムル様が質問なさっていますよ。黙っていないで返答して下さい」

「君達は誤解している。我が国は既に、巨大な経済圏の構築に王手をかけているんだ。それでも俺が西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウェスト)への加盟を望んだのは、俺達が人類に敵対しないという意思表示になるからに他ならない。しかし、君たちがそれを望まないのであれば、俺としては無理に事を推し進めるつもりなどないんだ───」

 

 

静かな会議室に俺の声が響く。

その言葉は一つ一つが恐怖となって、議員達の心を殴りつけているのだろう。

 

それに似つかわしくない音が、俺の声を止めた。

手をたたく、軽い音。微かに漏れる笑い声。

その音の発信源は、セイジ・カミシロだった。

 

セイジ・カミシロはファルナスカ王国がファルムス王国であった時代から議員としてこの評議会に参加してきたという。

しかし、今の彼の姿はまるで馴染んでは居なかった。その目は澄んでいこそ居ないが、欲望に染まってはおらず、その背を伸ばし礼儀正しく椅子に収まっている。

その横に座るファルナスカ王国の議員も、静かに姿勢良く俺を見つめている。

護衛として後ろに立つマラカイトとセイヤに関しては、目を瞑り我が国の王の発言を待っている。

 

「お見事です。リムル陛下......えぇ、素晴らしい」

「なんだ、何が言いたい?」

「そのふんぞり返った態度も、恐怖で会議を混沌に落とすその姿勢も...余りにも“馬鹿らしい”」

「ッ! ......お言葉ですが、セイジ陛下。リムル様への侮辱はこちらとしては許せるものではございません」

「魔物の巫女、君は黙っていなさい。所詮は王の後ろに隠れることでしか威勢をはれないのでしょう? まぁ...その王も自分の教師に教えを請わねば会議すらもまともに出来ない様ですが」

「ほぉ? この前会った時と比べて随分と攻撃的な話し方をするんだな。そっちが本性か?」

「どうでしょう。貴方が決めてくださって構いません。本性であれどうであれ、何も変わりませんから」

 

また面白そうにセイジが肩を揺らす。

淡く握られた手が人差し指だけ少しはみ出して、それを口元に寄せて笑う。

その笑い方は、セイヤ───ラルタ=テンペストにそっくりだった。

 

しかし、今コイツは“教師に教えを請う”と言っか? まさか智慧之王(ラファエル)先生の存在が気づかれている。

あぁいや違うな。セイヤだ、セイヤが話したんだろう。その性能も何もかもを。

俺とセイヤには性能が酷似した先生がいる。

俺のは究極能力(アルティメットスキル)に進化してしまっているが、セイヤも覚醒魔王なのだから同様に進化しているだろう。自分の先生の性能を話せば、必然的に俺のスキルもバレる。

この場合、後ろに居てくれているベニマルとシュナの力もバレているだろう。

 

大丈夫、狼狽えるな。

魔王たる威厳を見せつけて優位を取れ。見下されている事を良しとするな。

幸運な事にセイジは無能力者だとエラルドから聞いている。智慧之王(ラファエル)先生が解析鑑定を行っても同じ結果が出ている。コイツは口だけだ。

後ろにいるセイヤは危険視するべきだが、今の所動く様子は無い。

イレギュラーは起きていない。予定通りだ。

 

「セイジ殿、余りリムル様を...その、煽らないでくださいな。いつ襲ってくるかも分からぬのに」

「そっそうですぞ! それに貴様は東の帝国の者。評議会で声を発さないで頂きたい!」

「大体ワシはファルナスカ王国が評議会に参加する事を反対していたのじゃぞ。もしも東の帝国の者にテンペストの武力が取られれば」

「第一、セイジ殿の後ろにいるその護衛はラルタ=テンペストでは無いのですかな。まさか裏でテンペストと手を組んで評議会を壊滅させる気では......!」

 

まだ恐怖に震える議員達がチラチラと俺を見ながらセイジに捲し立てる。

標的が変わった、と言うよりは纏めて対処してしまいたいのだろう。やけに俺達とファルナスカ王国を繋げたがる。

しかし、当の本人には余り響いていないようだ。まるで声を上げている議員など居ないかのように、セイジはただ俺だけを見て話を続けた。

 

「実はですねリムル陛下、私は...ファルナスカ王国はこれが最後の評議会になるんです」

「それが俺と何か関係があるのか?」

「はい、大いにあります。あぁ別に東の帝国の利益がというお話では無いのですよ。かの皇帝はこの評議会から大したものを得られるだなんて思ってはいないのです。貴方はやっけになっていますが、これは子供が操り糸を垂らした様に雑なおままごとなのですから。

ただの私の好奇心です。それが最後の評議会できちんと満たされました。だから、感謝申し上げます」

「へぇ...お前が俺に一体なんの好奇心を持つんだ? お前からはやれ技術がどうの物資がどうのなんて話は聞いていないが」

「ふふっセイヤから貴方の話はよく聞いていました。余りにも王らしく、けれども玉座には似合わぬ者だと...その矛盾をこの目で見たかわった。この前の条約破棄の際の会談では余り貴方自身を見れませんでしたからね。

けれどよく分かりました。確かに貴方は魔物の国の王だ。けれど、その玉座は...貴方には不釣り合いらしい。優しさも、武力を持てばそれは暴力だ」

 

セイジはそう言って笑うと、俺の手元にあった要望書をセイヤに手繰り寄せさせた。

するりと手から抜ける紙をただ見送った。抵抗する必要もない事態だったからだ。書いてある内容は検討する必要も無いほど巫山戯た物なのだから。

セイヤはチラリと要望書に目を通し、馬鹿にしたような目で議員達を一瞥した。きっと今アイツの心の中は、要望書の内容の酷さに議員の頭を疑う言葉で埋まっているんだろう。

それにまた愉快そうに笑ったセイジは要望書を受け取り、そして───破いた。

 

「なっ! 貴様、一体何をしているか分かっているのか! それはテンペストとの友宜を結ぶ為の......!!」

「こんな物で結べる友宜はないでしょう。

少し、低脳が過ぎるのでは無いでしょうか。各国の議員様方......“精神支配”も有ってないような物ですね」

「──────は?」

 

今、“精神支配”って言ったか?

そんなの俺は一切感じなかったぞ。術者はこの部屋の中か? それともただの法螺か。

しかしこんな所でそんな嘘をつく利点なんて無いはずだが......

 

《告。一瞬ではありましたが、“精神支配”の波長を感じました。》

今はどうだ? 何も感じないか?

《是。“精神支配”の波長は感じられません。また、術者もこの部屋には居ないと思われます。》

 

一瞬でも智慧之王(ラファエル)先生が波長を感じたなら精神支配は確かにあるんだろう。

 

一体誰がこの場にいる議員達を支配しているんだろうか。

ファルナスカ王国の者、とは考えにくい。それならばわざわざセイジが口に出す筈が無いのだから。

ユウキ...も無いな。こんな証拠を残すやり方はアイツが好む訳が無い。

誰が、何てのは唯一精神支配に気づいたファルナスカ王国を問い詰めれば分かるだろうが。

多分セイヤなんだよな...気がついたの。

 

智慧之王(ラファエル)先生がいつだったか言っていた。

セイヤの先生は智慧之王(ラファエル)先生よりも隠蔽・検知、この二つに長けていると。

しかし咄嗟の判断力や守備的行動の推奨はこちらに軍配が上がると。まぁ、その二つはセイヤ自身の技量でどうとでも補えてしまっているのが現状だが。

 

あのセイヤが素直に答えてくれるとは思わない。答えてくれても嫌味と嫌悪を浴びせられるくらいなら、今は模索しなくていい。

今問題なのは、そう...一部の議員達だ。

セイジが精神支配という単語を口にした瞬間、一瞬だけ動揺した者達がいた。

まるで、“何故バレたのか”といったように。

そして縋り付くように、評議会奥の扉を見つめている。

耳を澄ますと、数名の足音と怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「待ちなさい! 聞いているのか! 待てと言っている!」

「その手にある物は何だ! 貴様一体何を...!」

 

静かな足音が一人分、それを追いかける様にバタバタとした足音が二人分。しかしその足音は、扉のすぐ近くで数を減らした。

やけにゆっくりと開かれた扉、最初に転がり込んできたのは、二人の衛兵の死体だった。

死体から溢れる血が床を濡らしていく。

次に見えたのは剣であった。

ポタリ、と一滴剣先を伝って血がたれる。

その剣の持ち主は──────ヨウムだった。

 

「なっ、ヨウ...ム?」

「これは一体...何事ですかっ!」

 

シュナが驚いた様にヨウムに問いかける。

しかしヨウムは聞こえていないのか、焦点の合わない目がギョロりとコチラを一瞥するだけだった。

右には引き摺るように剣が、左には髪の毛を引っ掴かまれて引き摺られた死体があった。

 

扉の一番近く。言ってしまえば、現在ヨウムの立つ位置に一番近い議員が声を上げる。

ライナーと叫んだあたり、それがあの見るも無惨な死体の名前なのだろう。

なるほど、ヒナタの言ってた“何か企んでる馬鹿共”の企みと言うのが、会議中に俺を暴れさせての討伐か。

まぁ、その計画も丸潰れになった訳だが。

俺すらも想定していなかった結果で。

 

ヨウムが死体を床に落とし、やけに重そうに剣を上げた。死んだ魚の様な目は、未だに何かを叫ぶ議員をしっかり捉えている。

 

「まずいッ...シュナ、ヨウムの動きを止めろ!」

「はい!」

 

ヨウムが剣を振り下ろすのとシュナが魔法を放つのでは、シュナの方が早かった。

──────そうだと言うのに。

 

「っ...そんな、何故」

 

シュナの魔法が何らかの力によって弾かれた。

ヨウムの剣は抵抗なく振り下ろされ、そして議員の首を───飛ばした。

血が吹きでる。転がった首が階段状になった机を跳ねながら、会議室の中心へと止まった。

そんな光景の中でも叫び声が上がることは無い。議員達の精神支配は意識混濁も孕んでいるんだろう。

 

《告。個体名シュナの魔法を弾いた結界の解析が完了しました。

あの結界は、個体名ヨウムの心臓に織り込まれた術式です。ですが術式の詳細な解析は失敗しました。》

ヨウムの心臓? クレイマンがミュウランにしたみたいな事をされてるのか?

《否。個体名ヨウムの心臓は、正真正銘、主様が作成した“ミュウランの擬似心臓”です。》

なっ!? てことはミュウランは...。

ヨウムは、ヨウムの精神支配は解けないのか?

《個体名ヨウムからは精神支配の波長を感じ取れませんでした。精神支配はされていないと考えられます。》

つまり、ヨウムは......自分の意思でこんな事を? なんで、どうして。

 

 

「ひぃぃ! なんだコレは! どうなっておる!」

「おいっアレはテンペストの英雄では無いのか! 何をした魔物風情がっ...!」

「殺される! 逃げろッ」

 

今度は何なんだ!

ふと糸が切れたように議員達が騒ぎ出す。

濁ってくすんでいた目が光を取り戻し、そしてもう一度恐怖に揺れた。

 

《告。議員達の精神支配が“恐怖”という感情をトリガーに解除されました。

精神支配の解除を行ったのは、セイヤ・カミシロです。》

 

やられた。

バッと顔を上げて見たセイヤと目が合う。その目は、先程までの議員達の目の何倍も汚かった。

僅かに口角が上がっているのが分かる。

ヨウムの事も議員達の精神支配も仕組まれた事ならば、議員達を支配していた術者とファルナスカ王国はグルだということになる。

 

議員達は混濁していた間の記憶を上手く咀嚼できず、今目の前で起こった状況も相まって完全に錯乱状態だ。

ヒナタが声をかけるが、それも耳には届いて居ない様子。精神支配を解くタイミングを見計っていたんだろう。

 

会議室は混沌に包まれた。

もう一度シュナが魔法を放つがそれもまた弾かれる。

精神支配もされていない、こちらの声は届いていない。そしてあの目を見るに、もうあの頃のヨウムは戻っては来ないのだろう。

 

またヨウムが剣を上げる。

そうはさせないと、胃袋から剣を取り出そうとしたその時だった。

ヨウムが突如として倒れ、そして続くように音が聞こえてきた。銃声だ。

倒れたヨウムは肥大し、爆発。

血飛沫とともに、飛散した擬似心臓の欠片が近くにいた議員の頭を貫き殺した。

 

今、万能感知が完全に機能していなかった。

何故だか思考も重い。体が何時もの様に動かない。

 

小さい笑い声が、先程ヨウムの入ってきた扉から聞こえてくる。

スルリと入ってきたのは、拳銃を携えた聖騎士だった。

 

「っ、グレンダ! 貴方一体何をしてッ!」

「何って何さね。アタイは議員達から危険を遠ざけたまでさ。次は───」

 

咄嗟にヒナタが剣を抜いて、銃口を向けられた議員の前に出る。

発砲された弾をヒナタの剣が半分に割った。

 

「邪魔しないでくれるかい? 」

「馬鹿な真似は辞める事ね。今この場で、死にたくないのなら......」

「脅しは効かないよ...!」

「───荒海のグレンダ、貴方の身柄を拘束するわ」

 

ヒナタが床を蹴って、グレンダへと向かう。

しかしおかしな話だ。何故、銃という遠距離から攻撃出来るアドバンテージがあるのにも関わらず、室内に入ってきたのか。

グレンダも操られていると見るべきなのだろうか。

 

守らねばならない議員が居るとなると、ヒナタも迂闊には動けない。

普通だったら避ければいいだけの銃弾も、議員に当たる可能性を考慮して全て斬り落とさなくてはいけない。守らなきゃいけない議員も議員で錯乱状態は更に悪化し、床を這い回っている始末だ。

 

「嫌じゃあぁ! 死にとうないぃぃ!!」

「うわぁぁあ!!」

 

ヒナタの後ろで、また銃声がした。

銃を構えた議員達がところ構わず発砲し始めたのだ。照準もまともに定まっていない乱射は正面、果ては斜め、至る所に他の議員を殺し、そして自分も死んでいった。

この結果を望んだ誰かが、事前に議員達に銃を渡していたのだろう。理性を失い感情のままに引き金を引く姿は、昨日危惧した銃社会を彷彿とさせた。

 

このままではこの場にいる者が全滅するまで暴れ続けるだろう。

いっその事、全員眠らせてしまおう。

霞んだ思考で何とか行動に移す。

人間に後遺症が残らない程度に薄めた麻痺吐息を部屋へと満たそうと、手を少しだけ上にあげた。

 

《告。セイヤ・カミシロからの攻撃意志を確認。────頭を傾け、避けてください。》

 

 

反射的に体が智慧之王(ラファエル)先生の言う通りに頭を右に傾けた。

シュッと音が聞こえて、頬が裂けた。

今、明確に俺は邪魔をされたのだ。この空間の混沌を鎮めることをファルナスカ王国は良しとしなかった。

 

「いけませんよ、リムル=テンペスト。言ったでしょう? 会議中の武力行使はご法度だと。

......あれ、私、本当に言いましたっけ? 心の中で思ってただけかも。ふふっ」

「それは、自分に言うべきだな」

「それもそうですね」

 

セイヤはセイジの後ろから離れて、ゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる。

気がつけば、銃声は止んでおり、最早早急に逃げ出した議員や議長以外は全員死んでいた。

セイヤの足音は、会議室には似つかわない水音が混じった物だった。

 

「あーあ、可哀想に。皆死んじゃって。これも全部、貴方という魔物が参加したせいですね」

「何だと?」

「だって、貴方が居なければ...ねぇ? こんな風に武力が会議に持ち込まれることは無かった。私だって、こんな事はしなくて済んだのです」

「こんな...事?」

「そう、こんな事」

 

会議室の中心までやってきたセイヤはグレンダの前で足を止めた。

そう、ちょうどヒナタとグレンダの距離が空いたタイミングでだ。

 

セイヤはグレンダの頬を親指の腹で撫でつける。そしてゆっくりした手付きで首へとその手を滑らせた。

あぁ、ダメだ。止めないといけない。

また死者が出てしまう。

俺は、今......何をすればいい?

 

「さようなら、グレンダ。荒海も死ねばただの水溜まりだな」

「.........あっ......」

 

小さくグレンダが声を漏らした。

しかし束の間、細い首に巻き付いた手が、太い首の骨をへし折った。

バシャリと音を立ててグレンダの美しい体が血の海に溺れる。

首は、あらぬ方向へと曲がっていた。

 

 

「リムル陛下、そして聖騎士ヒナタ」

「......あ? 何だよ」

「無様だな、どれだけ強者と呼ばれても所詮はこんなもの。武力に任せるだけで、その頭を働かせてこなかった者が最後に見るのは血の海に浮かぶ死体だけ。

ご愁傷様、とだけ言っておこうか」

「セイジ、お前がこんなに巫山戯た策を考えたのか。お前は今、俺に何をしてる?」

「......ふっ、まぁいいでしょう。答えます。どうせ次に会う時は、最早国家等関係の無くなった後の事ですから。

──────“レブル”という名はお聞きになったことが?」

「ッ! ......まさか」

「それが答えです。

私はお前が測れるような程度には居ないのだ。体が鈍いか? 頭が霞むか? 私からしたら大した事もして居ないが、お前には随分と効いたらしい 」

「何が...目的だ」

「さて、何だろうな。人に聞くのも結構だが、まずはご自分で考えなさい。

時間はあまり無いだろうな。今頃各国にお前が抱える英雄が虐殺を行ったと話になっているだろう。あの錯乱状態の議員の言葉で詳しい事は話せない。都合のいいように解釈され、お前達に対する扱いが決まるだろう」

 

 

もういいだろう。私はこれで失礼する。

静かに、けれど一方的にセイジが話を終わらせ会議室を後にした。それにセイヤとマラカイトも続く。

ファルナスカ王国の議員も全員が死亡していたから、本当に三人のみが会議室を出て行った。

 

何もかもが急で、まるでトントン拍子の様に事が起きた。

絶望が走り去っていったみたいだ。

傷ついたと言うよりは、唖然としてしまう。

無差別で汚い、悪意。

信念も理念も感じぬ、娯楽に近い悪意。

 

これが“レブル”なのか。

 

握りこんだ手が、微かに震えている。

 

そう、俺は今──────恐怖に揺れている。

 

 

 

 

 

 

 

「随分と、上手く事が進みましたね」

「あぁ、感謝しなさい。お前が一人ではあのスライムの動きを鈍らせられないというから手伝ったのだ」

「それはもう心から感謝しております。お父様からしたら取るに足らない相手でも私からしたら勝てるかも分からぬ脅威なのです」

「はぁ、何度も助けて貰えると思うな。力が足りないならば技量で補え。次は無い」

「肝に銘じておきます」

 

軽い足取りで、薄暗い廊下を歩く者達がいた。

会議が上手く進んだ、そう言わんばかりの会話と表情は評議会後を考えれば適切だ。

しかし、その存在に違和感を拭えないのは、染み付いた血の匂いが原因だろう。

 

「俺、全然話が着いていけなかったんですけど」

「何故?」

「何故って、急に英雄がやってきて人殺して、それを今度は聖騎士が殺して。そうこうしてたら他の議員が暴れだして皆さようなら。

大体の人はこんな急展開着いてけませんよ。

よくセイヤはセイジ様の作戦を理解して実行出来たね」

「リムルさえどうにか出来れば楽勝。今回はお父様が何とかしてくれたしね」

「うわすっげー。でも良かったんですか、セイジ様ってば自分の正体を教えちゃって」

「問題ない。レブルとはアレにとって未知の存在だ。それから明確な悪意を受け取れば、間違いなく混乱しそして怯える。

すぐに立ち直るだろうが、心に植え付けられた恐怖はそう簡単に拭えない。教える利点の方が極めて多かった」

「これって俺が馬鹿だから理解出来てないだけぇ? ──────ん? あのオッサン、知り合い?」

 

あっけらかんと、最早理解する事を諦めた態度を取るマラカイトが、言葉を止めた。

正面に、廊下を塞ぐようにして立つ老人が居たからだ。

ヨハン・ロスティア、五大老の一人である男だ。会議においては魔物の国に対して友好を示した男は、現在憤怒の表情を隠そうともしない。

 

「貴様、一体何を考えおる」

「何とは、私はきちんと言ったはずだ。“最後の評議会”になると。お前が怒っている理由はよく分かる。評議会の基軸を担っていた人間が皆死んだか壊れたのだろう。可哀想に」

「これは神に対する反逆だ。大老はこの事実をお怒りになるだろう」

「そうか」

 

つまらなそうに、ヨハンに相槌を返したセイジはまた歩き出す。まるでそこに仁王立つ老人が見えないように。

 

「待て! 貴様は償わねばなるまい」

「............」

「聞いておるのか。これは決定事項。逆らう事など許っ─────────」

 

そこで言葉は止まった。いや正確には止められた。

ヨハンは頭を鷲掴まれ、壁に頭をすり潰されたのだ。それを行ったセイヤ・カミシロは血の着いた指を壁に走らせ、まるでアートの様な波を描いた。所詮は暇潰しだ。

頭を失った体が倒れ、絶え間なく血を流すヨハンの死体は最早彼らの後にある。

彼らは振り向きもせず、話題にも出さず、過ぎ去る。

 

「せっかくイングラシア王国に来たんですし、飯でも食べていきません? セイジ様今機嫌良いし」

「好きにしなさい」

「やったね。セイヤは何処がいいと思う? なんか美味しい店知ってる?」

「俺が知ってると思うかよ......でも、肉が良い」

「いいね、肉! セイジ様は肉でいい?」

「好きにしろと言った」

「じゃあ肉だ。そこら辺にいる町の人に聞こう。きっと良い店教えてくれる」

「頑張れー」

「任せとけって」

 

通り過ぎた絶望は、踏み荒らした大地に目を向けず、まだ美しい視線の先を目指すのだ。




ヨウムとグレンダ、死亡。
この話は本当に原作どこいった状態になってしまった、申し訳ない。
ちなみにこの場合は、何も理解してないマラカイトが正しい。知らなくていいこと、分からなくていいこと、沢山ある。
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