転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第9話...ゴブタvsガビル

厨房の横に作られた食堂でハクロウと茶を啜っているとラルタ様がお独りで入ってきた。

リムル様とシオンと3人でシュナの所に寄ると言っていたはずだが、抜けてきたのだろうか。

ラルタ様が人型に姿を変えながら俺の横に座る。

美しい顔を曇らせながら、ラルタ様がため息を着く。

まだ名を貰う前に出会った時、リムル様の横にいた死食鬼がまさかここまで美しい顔を持っているなんて思ってもみなかった。

死食鬼とは元来、人を騙し惑わすために美しい顔をしているものだがここまで美しい顔の持ち主はラルタ様くらいだろう。

ため息をつきながら、ハクロウに入れてもらった茶を啜る。

 

「シュナの所に寄ってたんじゃないんですか?」

「んー、なんかね。リムルの取り合い始めちゃって」

「あぁ...」

 

シオンがリムル様の秘書に決まった事をシュナは不満に感じてるようで、幾度となくリムル様の世話をやりたがっているらしい。

だが、こうも毎回毎回張り合っていてはリムル様だけでなくラルタ様にまでご迷惑がかかる。今度、注意しておくか...。

そういえば、ラルタ様はリムル様のように秘書をつけないのだろうか。

ラルタ様はリムル様の助手、もといこの町の副主としてリムル様の手の届かない細かいところの調整を行っている。それだけでなく、町の者たちの意見もご自分の足で聞きに行ったりしている。

シュナとも、元々ラルタ様が作っていた森で取れる薬草とそれで生成される薬の知識を合わせて合理的な薬の生産を行えるようにしているらしい。

毎日のように、町中を駆け回るラルタ様は多忙だと言って差し支えないだろう。

それなのにラルタ様は誰の手伝いも受け付けようとしない。

意見の交換は行うが、リムル様から与えられた仕事は十二分の成果で返している。

シュナもシオンもラルタ様が自分達にもっともっと頼って欲しいと言っていた。

もちろん、俺もその意見には同意だ。

 

ラルタ様は人の心に寄り添ってくださる方だ。

誰も気にしないような、小さな亀裂を広がる前に塞いでくださる。

俺がベニマルという名をもらって進化が始まったあの時も...。

ラルタ様もお優しい方なのだ。

リムル様のように、口数が多いわけでも少しの悪ふざけに付き合ってくれる訳でもないけれど、俺たちを支えて下さっている方なのだ。

 

俺たちを支えて下さっているラルタ様のお力になりたい。

俺だけじゃない、町の者全員の共通認識。

秘書でもいい、1つの事を手伝わせてくれるだけでもいい。

信用が足りてないわけではないのだと思う。

ただ、俺たちとラルタ様は立っている場所が違う。

俺たちはリムル様の魂の系譜に連なって1つの円にいる。なのに、ラルタ様はその円の外で俺たちを見つめている。

俺たちが、この円の中にラルタ様を連れ入れることが出来れば...ラルタ様も俺たちの力をもっと必要としてくださる。

リムル様とラルタ様は同格なのだ。

俺たちには無い、強い繋がりがある。

この円にリムル様がいるのだから多少強引でもラルタ様を連れ入れることは出来る。

そんなに、難しい話でもないはずだ。

 

「ラルター、待たせたな」

「いや、そこまで待ってないけど…なんか震えてない?」

「えっ、いや。なんでもない...大丈夫だからきっと、大丈夫。」

「えっ、何。向こうで何かあったの?」

 

「今、お持ちしますね」

「おっ、おう...」

「はーい...」

 

リムル様が席について、シオンが厨房に消えた。2人とも先程より顔が曇っているように思える。

ラルタ様には最初の方に忠告したが...、リムル様ももしかしてシュナから聞いたのか?

聞いたのだとしたらよく席に着こうと思ったのか。

 

「お待たせ致しました」

「ヒッ!」

 

シオンの料理とは呼べない何かが運ばれてくると同時に、リムル様が小さな悲鳴をあげた。

俺の事をだいぶ睨まれているようだが、ダメだ。

俺には助け舟を出すことなんてできない。

 

「い…いただきます」

「はいっ!」

 

横目でチラリとリムル様の方を見ると、料理をすくったはいいが口に含むのを躊躇っている。

当たり前だ、あの紫と水色のものは一体なんだ?どこからその色が出てきたんだ。

しばらく、すくいとった料理を眺めていたリムル様が目を瞑りスプーンを後ろに突き出した。

何を...

 

「むぐっ!」

むぐ?

なんと、リムル様が突き出したスプーンがゴブタの口に入っているでわないか...惨い。

聞くに絶えない叫び声を上げながらのたうち回るゴブタは数秒後、泡を吹きながら停止した。

なんてことを…

横目で見ていただけなのに、冷や汗が出て来て体が震える。

 

「おい、ゴブタ。生きてるか?」

椅子から立ち上がり声をかけるが返事は帰ってこない。横にいたハクロウもさすがにゴブタを心配している。

 

「...シオン」

「は、はい!」

さすがに仲間に被害が出たのだ、リムル様からのお説教があるらしい。

「今後、人に出す飲食物を作る時は、ベニマルの許可を得てからするように!」

 

!?

今、俺の名前が出なかったか...

許可?俺が、シオンの料理を?

あんまりです、リムル様!

俺の講義の視線を完全に無視したリムル様はゴブタに声をかけて部屋を出る。

それに続くように、シオンが部屋を出ていった。ゴブゾウはゴブタを抱えて医務室に向かった。

さっきの喧騒が嘘かのように、静寂に包まれた部屋には俺とハクロウとラルタ様だけがいる。

ふと気になって、ラルタ様の様子を見るとリムル様の出ていった扉をぼーっと眺めていた。

数秒後、ゆっくりと料理に目を移したラルタ様がスプーンをとる。

「ラルタ様や、無理に食べなくてもよいのですぞ」

ハクロウの心配を他所に、ラルタ様は料理を掬い取る。

 

 

 

 

 

ゴブタが死んだ。いや、正確には死んでないけど。

リムルなんて、出された料理を片さずに出ていってしまった。シオンに関してはせめてこれを厨房に下げてからついて行って欲しかった。

スプーンですくい取った料理は、何故かドロドロしている。なんで、紫と水色の2色なのか。

え?今回俺の好みで作ってくれたんだよね?

そう言ってたもんね。

俺はこれを好きと言った記憶は無いのだけれど...

冷や汗が止まらない。

ゴブタのあの光景を見たらそりゃあ、食べたいとは思わない。

けれど!これはスラム生まれの意地、食べ物を粗末にはできない!

ゆっくりとスプーンを口に運んでいく。

手がカタカタと震えているのがわかる。

《告。その物体を口に含むことはおすすめしません。》

んなん、見てわかる!てか、物体って言うなよ。せめて料理と言ってやれよ!

 

ハァハァと自分の息が上がっているのがわかる。大丈夫だ、俺は死なない。

俺のためにシオンが頑張って作ってくれたんだ、その料理で俺は死なない!

覚悟を決めろ、俺!

 

「いた、だき...ますッ」

パクリと口に放り込んで感じる不思議な味。

1部は辛いのに、酸っぱいところもあって、甘いところもある。

視覚でも感じていたドロドロ感は口に入れたことで倍増して今すぐに吐き出したい衝動に駆られる。

目の前がボヤけて、心臓がバクバクと言っている。なんだ、これは...。

胃の中が暴れ回って、喉奥が震える。

吐くな、俺。大丈夫、あとスプーン20杯くらいだ...。掬って食べる。この作業をあと20回繰り返せばいいだけ。

 

《告。シオンの料理に対抗して毒耐性を獲得...成功しました。》

料理で、毒耐性なんて獲得してるんじゃねぇ!

でも、ナイスだ助言者。

これで俺は、この料理を食べきった時三途の川の前にはいない。

 

また、1口食べる。

何故かジャリッと口の中で音がする。

また、1口。

野菜の皮だと思わしきものが口の上にくっついた。

ほぼ作業のように、手を動かす。

ベニマルやハクロウの心配の声にだって答える余裕は無い。

諂諛者が料理をぺろりと舐めて、すぐに引っ込んで行った。

何も考えてはいけない。今ここでほかのことを考えたら、もうこの手は動いてはくれない。

 

カランッとスプーンと皿が当たる音がする。

皿の中には、汁の1滴だって残ってはいない。

ほぼ力の入っていない声でご馳走様を言う。

体がグラングラン揺れていて前がまともに見えない。

とうとう、精神がやられて人化が解けた。

ベニマルが落ちていく俺を受け止めてくれたようだ。

「ご…めん。部屋まで、連れて行っ…」

「ラ、ラルタ様!!」

 

ごめん、ベニマル。

もう声を出すのもきついや。

 

 

 

 

 

目が覚めたら、医務室にいた。

俺の部屋に運んでって頼んだはずだけど...。

グッと伸びをして、体を震わす。それなりの時間、寝てたような気がする。

 

「あっ、ラルタ様。おはようっす!」

「ゴブタ...生き返ってくれて何よりだよ」

「元々、死んでないっす!」

隣の部屋からひょっこりと顔を出したのはゴブタだった。助言者曰く、ゴブタも毒耐性を獲得したようで特に後遺症などは無いらしい。

 

「師匠から聞きましたよ、あんなもの完食したって。何してんすか?」

「あんなものって言うなよ...」

 

医務室にいたゴブリナに感謝を述べて、ゴブタとテントを出る。

誰かとすれ違う度に、「心配した」「もう外に出て大丈夫なのか」といった言葉を言われた。

随分と心配させてしまったようで、俺は当分シオンに料理は頼まないと心に誓った。

 

「あら、ラルタ様。お目覚めですか」

「リリナ...あっそういえば話し合いの予定があったよな。悪い、すっぽかして」

「いえいえ、大丈夫ですよ。それよりも、先程リグルド殿がリザードマンが来たと慌ておりました。多分まだ、入口の方にいると思うのですが...」

「リザードマン...ソウエイが言ってたヤツか」

「へぇー、見に行きましょーよ。ラルタ様」

 

リリナと新しく話し合いの日時を決めて、町の入口へと向かう。

それなりに歩くと、リグルドとリムルだけじゃなくベニマル達の姿もあった。それから、リザードマンだと思わしきトカゲとランガが向かい合っている。何、入口で一触即発?

 

「あれ、何やってるんすかー?」

「あっ、こらゴブタ」

なんで、話しかけちゃったんだよバカ。どう見たって巻き込まれるのは確実だろ。

 

「ゴブタ!?」

「お前、死にかけてたはずじゃ...!」

この心配具合、ゴブタは結構やばいところまで行ってたようだ。まぁ、もしこれでゴブタが死んでたらリムルのせいなんだけどさ。

 

「ラルタ、お前はもう大丈夫なのか?」

「大丈夫だけど...もうちょっと俺が起きてきたことに驚いてよ」

「だってお前にも優秀な先生がいるだろ?簡単には死なないさ」

「はぁ...」

ゴブタの時と打って変わって、俺への心配はあまりしていなかった様子。いや、でもラルタ!?大丈夫か!って聞かれるのは普通にウザイか。

 

「良いところへ来た、ゴブタよ」

俺とリムルが話している間に、ランガがゴブタをリザードマンの前に突き出した。

手には武器を持たせて...。やっぱり巻き込まれた。ランガ、そいつ一応病み上がりだから。

どうやら、ゴブタとあのトカゲを戦わせて向こうが勝ったら話を聞いてやるらしい。

話というのがなんなのかよく分からないけれど、まぁどうせしょうもない。

だって、話し方がまぁ胡散臭いし上から目線。

多分、自分勝手な要望なんだろう。

負けたらシオンの手料理の刑に処されることになったゴブタ、なかなかの気迫である。

 

ランガの遠吠えが開戦の合図として響き渡る。

始まったというのにペラペラ話し続けるトカゲにゴブタが槍を投げ飛ばす。

ギリギリで避けられはしたが、目を離した隙に影の中へと身を潜める。

1歩遅れてトカゲが槍を振るうがそこには誰もいない。あいつは今、何が起きたのかを理解出来ていない。

トカゲの影からゴブタが飛び出してきて、頭に回し蹴りを食らわす。

ゴブタの勝ち。なんとまぁ一瞬の勝負だった。

影移動も器用に使いこなしているようで、リムルがもしかしたらゴブタは天才かもという言っていたが本当のようだ。

 

「そこのお前ら見てたな?勝負はうちのゴブタの勝ちだ。オークと戦うのに協力しろという話なら検討しておくが、配下になるのは断る。今日のところはソイツを連れて帰れ」

覚えてろよー!と情けない声を出しながらリザードマンの一行が帰っていく。

どうやら話というのは配下になれというものだったらしい。やっぱりしょうもなかった。

「さて、今後の方針を立てないとな」

 

 

 

 

 

日が沈み、会議が始まったのだが...

想定よりはるかに多い20万というオークの軍勢がいることがわかった。東の湿地帯に本隊と別部隊が合流するという予想も着いた。

この町は本隊の進路の妨げにはなっていない。でも、それはオーガの里も同じだった。

 

「オークの目的ってなんだろうな...」

「ふむ、オークはそもそも知能の高い魔物じゃねぇ。この侵攻に本能以外の目的があるってんなら何かしらのバックの存在を疑うしかないだろうな」

「例えば魔王...とかか?」

 

リムルの発言にこの場にいる全員が口を紡ぐ。

「リムル、根拠の無い話はよせ」

「悪かったよ、忘れてくれていい」

魔王が絡んでいるのかは分からないが、その魔王がシズを苦しめてた奴とは限らない。

そんな不確かなことに町を巻き込む訳には行かない。

「……魔王とは違うんだが、豚頭帝(オークロード)が出現した可能性は強まったように思う。20万の軍勢を普通のオークが統率できるとは思えん」

「それなら、仮面の魔人が絡んでる可能性もそうだな。カイジンの言った通りオークは知能が高いわけじゃない。わざわざ進行の妨げになる訳でもないオーガの里なんて襲わないだろう。仮にバックがいるとしたら仮面の魔人の可能性が高い。その魔人にも何かしら裏があるかもだけど」

豚頭帝(オークロード)に魔人ですか...。いないと楽観視するよりは警戒するべきかと思います」

 

特殊個体である豚頭帝(オークロード)に、魔人。

オーガの里を襲わせたのが、魔人の指示だとしたらこの町も危ないかもしれない。

 

「ん?どうしたソウエイ?」

「偵察中の分身体に接触してきた者がいます。リムル様に取りついで貰いたいとの事。いかが致しましょう」

「俺に?誰だ、変なやつなら断りたいんだけど...」

「変...ではありませんが大変珍しい相手です。その...樹妖精(ドライアド)なのです」

 

ごめん、樹妖精(ドライアド)って何。

みんな驚いてるし、俺だけ?わかってないの。

リムルも驚いてはいないけど、反応してるし...

 

《解。樹妖精は森の最上位の存在であり、「樹人族(トレント)の守護者」または「ジュラの大森林の管理者」とも呼ばれます。》

 

リムルより偉い人じゃねーか!

「リムル、お呼びしよう」

「あっああ。ソウエイ、お呼びしたまえ」

 

ひらりと木の葉が舞ちり、樹妖精(ドライアド)が現れた。

森が持つ、美しい姿を体現したような不思議な気配の女。

ベニマル達が俺とリムルの前に身を乗り出す。

目の前にいるのが、自分より上位の存在なのだとひしひしと感じる。

「初めまして。魔物を統べる者、及びその従者たる皆様。突然の訪問相すみません。わたくしは樹妖精のトレイニーと申します。どうぞ、お見知りおきください。」

「俺はリムル=テンペストです」

「そちらは、゙魔物を支える者゛ですね?」

 

俺の方を見ながら、トレイニーがそう言う。

え、支える者って何。俺の事?

なんだそれ、恥ずかしい...。

 

「ラルタ=テンペスト...です。始めまして」

「えっとトレイニーさん?今日は一体なんの御用向きで...」

「本日はお願いがあって罷り越しました」

 

リムルに手を差し出しながら、トレイニーが口を開く。

「リムル=テンペスト...魔物を統べる者よ。あなたに豚頭帝(オークロード)の討伐を依頼したいのです」

 

 




ステータス
名前:ラルタ=テンペスト
種族:死食鬼
加護:暴風の紋章
称号:魔物を支える者
魔法:元素魔法
ユニークスキル:諂諛者、助言者
エクストラスキル:魔力感知
耐性:物理攻撃耐性、痛覚無効、熱変動耐性ex、毒耐性
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