⚠ゴブタ推し注意
傀儡国ジスターヴで古代遺跡の探索が始まってはや三日。
最初の二日間は移動だとか解析だとか食事だとか、それはまぁ色々でしゃばり過ぎてしまった。少しだけ、今回の探索で着いてきてくれたカガリ女史と探索隊に申し訳ないと思う。でも、出来るだけこの遺跡をあるがままにしたいという気持ちがあるんだ、許して欲しい。
それに最下層である三階層は墳墓であるらしい。故人でもそれは敬うべきだ。
しかし三日目ともなれば、優秀な探索隊の面々は俺が教えた解析方法等を使いこなし、殆ど俺のやる事が無くなってしまった。
これが本来ある探索の姿と言われたらまぁそうなのだが、つまりは暇なのだ。
こんだけ暇ならば古代遺跡の情景をこの目に焼き付け、気ままに探索を楽しみたいのだが、そうもいかない理由があった。
(──────ソウエイ、状況はどうだ?)
(今の所は何も変わり映えがしませんね。ですが......)
(違和感が拭えない?)
(はい、何処にいるのかは分かりませんが微かに空気が揺れる時があります。何かが居るのは明白です)
(そのまま警戒は怠るな。必ず“アイツら”は仕掛けてくるぞ)
(御意)
当初の予定では、遺跡調査に参加しないはずだったソウエイに思念伝達で警戒を促す。ソーカ達も連れて来ているから、変に罠に掛かって自滅なんて事は有り得ないだろう。
そう、これが、今回俺が遺跡調査を楽しめない理由だった。
先の評議会にて、ファルナスカ王国と議員達を支配していた術者がグルなのは分かっていた。そしてファルナスカ王国とユウキもグル。
ならば、三者共に繋がりがあると考えるのが自然だった。何故なら、評議会は最も自由組合に近い所で行われる会議なのだから。
アイツらの狙いは、ヨウムを利用した所からかみてテンペストという国の基盤を不安定にする事。実際、現時点でも多くの国がテンペストに不信感を持っている。
カガリ女史や調査隊の様に、元々テンペストと関わりの深い国が変わらぬ関係でいてくれている事が救いだ。
現在、テンペストは基盤の回復に向かっている。叩くなら、今しか無かった。
そしてグルである可能性の高いユウキからの古代遺跡調査の発案。随分と出来たタイミングだ。必ずアイツらは襲ってくる。
唯一、術者について何の情報も手に入れられてないのが気に入らない。
評議会での精神支配を見るに、セイヤが手助けをしなければ簡単に綻んでいただろう支配。術者が弱いのか、それともわざとなのか。
不確定な要素が多すぎて、気を抜くにも抜けなかった。
でもまぁ、今はミリムが居る。
もはやお前の敵じゃないから下がっていろ、だなんて綺麗事は言ってられない。何を使ってもアイツらは殺さなきゃいけない。
ユウキも、証拠を掴んだなら真っ先に殺す。運が良ければ、ここをアイツらの墓場にしてやる。
警戒しながらも適度にボケっとする事暫く、ミリムが大量の品を抱えて帰ってきた。
「リムルよ見るのだ! 戦利品が一杯あるのだぞ!!
見よ、これなんていい感じに魔素に馴染んでいるのだ。これだけあれば、収穫としては十分なのではないか?」
楽しそうにミリムが見せてくる品々は殆どが武具だった。長い年月の中で、“魔鋼”が完全に馴染んで性能が飛躍的に向上している。美術品としての価値は低いが、実用的な物も多い。
中には
「っていうか、コレ...どこにあったんだよ。これだけの品を、クレイマンが理由なく放置してたとは思えないけど......」
「うぅ、実はな? 間違って作動させた罠があったのだが、ゴーレムがワラワラと出てきたのだ。ソイツ等が持っていたのだぞ」
「罠を発動させちゃったのかよ...」
「うっ!? ち、違うのだ!通路に入った瞬間に作動したので、お前でも回避するのは難しかったと思うぞ?」
報告によると、どうやら生体反応のパターンが記憶されており、認証パターン以外を排除する仕掛けがあったらしい。正しい波長を知らない限り、回避は不可能。
昨日は何も無かったから安心していたが、登録者以外を排除する通路まであるなんて。
もしかしたらこの二階層はそのものが、墳墓への侵入者対策なのかもしれない。
「随分と、罠の殺意が高いな」
「そうですわね。扉の解析にはまだまだ時間がかかりそうですし、明日は───」
カガリ女史が明日の予定を口にしたその瞬間、大地が揺れた。
巨大なエネルギーが遺跡諸共にここら一体を襲う。天井からパラパラと石片が落ちてきて、それがやけに異常事態である事を知らしめた。
かなりの規模の衝撃波が地上部を吹き荒れたみたいだ。これは城もタダでは済んでいないだろう。
いざとなったら転移門で脱出すればいい。
慌てずに、冷静に分析を行わねば。
あの揺れは地震なんかでは無い。局所的なエネルギー反応は、間違いなく人為的なものだ。
一体誰が? そんなの、分かりきっている。
敵が罠にかかってくれた。
《告。敵対反応を感知しました。現時点をもって遺跡の防衛機構が作動した模様。多数のゴーレムの起動を確認しました。それと、遺跡内への侵入者です》
鳴り響く警告音。
それに続くのは、機械音声のような何者かの声だ。
侵入者を排除する、その宣言とも取れる警告音は突如として事態を逼迫させるのには十分だった。
誰がこの遺跡内に来たのだろうか。
ファルナスカ王国が“俺を囮にした罠”に引っかかるとは思えない。アイツらの頭のキレには、嫌な信頼があった。
ならば、術者やユウキが引っかかったか。
それともこの罠に引っかかる事が何かアイツらに得があるのか。
「状況が悪いな。侵入者が罠に引っかかたらしい。侵入者とは間違いなく俺を狙った組織だ。そして...罠に引っかかったのはわざとだな」
「そんなッ...まさか本当に」
「安心してくれ。必ず君達の事は守ろう」
守ると豪語したはいいが、誰が来たか次第だな。
レブルが来るとはあんまり思えないが...セイヤが来てたなら──────誰かしらの犠牲者が出るだろう。
(ソウエイ、侵入者だ。隠れているヤツがいる......探し出せ)
(御意!)
二度目の揺れが来た。
「ヤバイな。アレは...ヤバいぞ。何て奴を持ち出してきたんだ......」
「リムル様?」
今、揺れが来たと同時に視えてしまった。
遠く離れた空から迫り来る、禍々しいしい竜の姿が。遺跡の外に、凶悪極まりない竜がいる。
外観なヴェルドラに似ているが、サイズは一回り大きい。その皮膚は腐食したように爛れており、膨大な妖気が絶えず漏れていた。
アレは覚醒魔王級を遥かに超える、間違いなく
ドラゴンの枠組みなど、アレは超えている。
「あれは───ッ!?」
その時、ミリムが突然目を見開いた。
「リムルよ、ワタシには急用が出来たのだ。あれは、あの竜は───」
言葉も途中にミリムが空間転移で姿を消した。
あの慌てよう、敵は本当に何て物を持ち出したんだか。
アレはミリムが封印したという友。その封印を解いたのだろう。
ミリムの怒りを買ってでも、この場で俺をどうにかしたいらしい。
カオスドラゴンからは、恐ろしいまでの憎悪と憎しみの意志を感じる。きっと、アレはこの世を滅ぼすまで止まらないだろう。
しかし違和感があった。
誰が、アレを操っている? まさかあんな暴君を操りもせずに放つとは考えられない。
城の外を見るに、アレは明確な意志を持って行動している。そう、あの竜は今、わざわざ地下に向かって攻撃を仕掛けようとしているのだ。
行動すらも自由に操作出来るほどの術者など、一体誰が......セイジ・カミシロだろうか。
それとも、セイヤか?セイヤは魔素を細かく繊細に動かす事を得意としていた。力の上下関係を無視出来るだけの、技量と頭があった。
有り得るならこの二名のどちらかだ。
やはり、この場での戦闘は避けられないらしい。
カオスドラゴンが何度も何度も地下に向かって攻撃をしているんだろう。絶えず強いエネルギー反応が揺れを起こしている。
しかし、その揺れも数秒後には止まった。
カオスドラゴンがミリムに意識を向いたのだ。つまり、カオスドラゴンの支配者はミリムが俺に加勢してこないように分断することを狙ったのだ。
揺れが収まった事で、こちらもやっとまともに動けるようになった。
けれど...一難去ってまた一難。
俺も忘れんなとばかりにゴーレムがワラワラと押し寄せてきた。
「ゴブタ、シオン、お客さんがお出てだぞ」
「了解っす!」
「お任せを。あのような人形共など、私の敵ではありません!!」
統制の取れたゴーレム達が、扉の前に固まる俺達へと殺到する。逃がしてはくれないらしい。
シオンが前に出て大太刀を振るう。
しかし悲しいかな、天井が低すぎて引っかかってしまった。
「馬鹿野郎! 自分の周りくらい、ちゃんと確認しろ!!」
「す、すみません! ちょっとした失敗です」
そのちょっとが命取りなんだよ馬鹿!
何度も馬鹿馬鹿言わせんな。
「このままじゃあ、狭すぎて戦えない。この先がどうなってるか分からないが最下層の方が広いだろう。こうなった以上、俺が扉を開ける。そこをどいてくれ!」
扉の解析を急いでいた隊員達をどかす。
悪いね、流石にこっちにも時間が無いんだ。
影からランガを呼び、シオンとゴブタの三人で時間を稼いでもらう。
扉は案外、すんなりと開いた。
階段を降りた先、最下層、死者が眠る場所。
そこは墳墓に似つかわしくない、明るい光に溢れていた。大地には果てしなく草原が続いている。そこは余りにも美しかった。
今置かれている現状を忘れて、魅入ってしまう程の情景が眼前に広がっている。
しかし、そんな暇はない。
ゴブタが階段を転げ落ち、それに続くようにゴーレムの大群が押し寄せてきていた。
この美しい情景は戦場へと成り果てた。
広い空間に出れた事でシオンが自由に動けるようになった。状況は持ち直したと言えるだろう。
こうなった以上、やる事は一つだ。
もう、甘ったれた自分とは決別した。必ず、この場で──────殺せる者は殺す。
《了。全力戦闘形態へと移行します》
静かに、けれど確かな意志を持って。
「──────⋯⋯お前にも、正義があるか? お前の立場を尊重すれば、この敵対は避けられたか? 」
風に靡く問いかけに答えたのは、想像よりも幼い声だった。
「無理ね、無理なの。人の欲望は果てしなく、自分が我慢すればいい、というものでは無いのよ。相手が折れれば、より要求が大きくなるのが人間よ」
人形のような、十歳いかばくの少女。
見たことがある、開国祭に参加していたはずだ。そうか...人は見かけによらないな。
「俺は魔王リムルだ。お前は?」
「初めまして、なのよ。私は“強欲”。名をマリアベル、貴方の敵なの」
──────マリアベル。
こいつが議員達を操っていた術者。
そしてその隣には、他に三名の姿があった。
マラカイト、ユウキ・カグラザカ、そして騎士服の男。
結局、この場に厄介な三組が全て揃った訳だ。
別に誰がやって来ても驚きはしない。
支配されていても、どうであれ攻撃してきたという事実があれば直ちに殺すべきだ。
判定無罪の法など、殺した後に証拠を作れば済むだけ。もはや非道な行いでしか大切な何かは守れない。非道な行いを続けても全ては守れない。
「ユウキ様! これは一体どういう事なのです? 貴方はワタシ達を裏切ったのですか!?」
カガリ女史の怒りに満ちた声にユウキは反応を示さない。
精神支配だろうか、議員達に行っていた物よりずっと質がいい。
何でもいいか、この茶番は早急に終わらせるべきだ。
「俺の傘下に入る気は?」
「笑止、笑止なのよ。まさか今から始まる争いの前にそんな事を言うなんて...魔王リムル、貴方はここで敗北するの」
否。その返答を聞いた瞬間、俺は駆けた。
胃袋から刀を取り出し、マリアベルの細い首筋を狙う。
傘下に入る気がないのら、これは仕方の無い事だ。
「叩きのめすのよ!」
それと同時に、マラカイトが手に持っていた車輪をこちらに投げ飛ばす。
直線を描いて、高速で飛んできたそれは運動エネルギーが作用しとても重い。
けれど大したことは無い。軽々と刀で車輪を弾き返し、もう一度マリアベルへと向かう。
やはりマリアベルの前にはマラカイトが立ち塞がった。
俺が車輪を弾き返す為に止まった瞬間に、ユウキと聖騎士が左右に別れたらしい。
ユウキはシオンと、ゴブタは聖騎士と既に戦闘を初めていた。
ゴブタの方は不安ではあるが、ランガが着いている。問題はないだろう。
「マラカイト...やりなさい」
「はぁ......魔王から君を守るなんて、無茶言われたなぁ、俺ってば可哀想」
「あぁ、可哀想だと思うよ。悪いが俺も本気だ。お前達が誰を敵に回したか、理解しなくていい。代わりに、二度と世を謳歌できないように、ちゃんと喰らい尽くしてやる。精々俺の糧となれ」
「はっ、どうした? 王様ってば、前あった時と随分空気が変わったみたいだ。
悪いけど、アンタの胃液は要らないよ」
マラカイトが愉快そうに笑う。
車輪と刀がぶつかり合う音は、轟音となった。
▽
冗談じゃないわ、冗談じゃないの。
マラカイトは強い、私はそれを理解してるの。それにマラカイトは力を讓渡していなくとも聖人ヒナタに並ぶ力があるのよ。
本人は否定しているけれど、私の目に狂いはないわ。
それなのに、それなのに...どうしてマラカイトが押されているのよ!
余裕が無いほどでは無い、でも決定打を打てないでいる。
このままではマラカイトがジリ貧になって負けてしまう。
魔王リムルは温厚という話だったはず。
それなのに......今の彼が抱いているのは“殺意”だけよ。私の判断そのものが間違いだったのね。
本気の魔王、侮っていたわ。
でも、まだよ。まだなのよ。私にはまだ手札が沢山残っているわ。
私は“強欲”。常に己を信じて、欲の為に思考を続けるの。焦ってはダメよ。
彼が脅威なら、抑え込めばいい。
それが出来る者も、私の指揮下に居るのよ!
「大きな口を叩く前に、思い知るといいのよ。人と魔物の知恵の差を!」
これは大見得。
それと同時に魔法通話によって指示を下した。
魔王リムルと同じだけの武力を持つ者に。
「あれっ!? 身体が重いっす───頭がボーッとして上手く考え事が出来ないっすよ」
「この感じ、記憶にあります。あの時よりも強力な、これは......」
「何が違うか身をもって知ってみるかい?」
「は?」
ユウキがシオンの顔目掛けて蹴りを入れる。もちろんそれはシオンの腕によって受け止められた。
大して強くは蹴っていない。けれど、シオンには確かな異変が起きた。
「──────ッ!」
「ははっ、痛いのか? セイヤは流石だな」
そう、ユウキの言う通り。
これがセイヤに指示した結界。
セイヤには相手の耐性を無効化出来る力がある。それを
今その結界がこの最下層を完全に覆っている。
これは究極系よ。
物理攻撃耐性も痛覚無効だってありはしない。生まれたままの姿で苦しむといいのよ。
「無理よ、無理なの。魔王リムル...貴方は今この結界をどうにか何て出来ない。セイヤの力を貴方は観測できない。だってそういう物なんですもの。アッハハ! マラカイト、畳み掛けなさい!」
「無茶言うな! 手伝え!」
ムッとした表情でマラカイトが文句を言う。
確かに先程よりも優勢に立ち回れているようではあるが、やはり魔王リムルに決定打を出せていなかった。
そうね、余り時間をかけるべきでは無いわ。
(セイヤ、聞こえるかしら)
(何?)
(今から魔王リムルを殺すわ)
(は? 支配するって話はどこに行ったんだよ)
(これからよ。私は魔王リムルを殺す。だから貴方が守るの。死ぬその瞬間の状態でね。そこを支配するわ)
(......はぁ、無茶言ってくれる)
「アッハハハ! 悪く思わないでちょうだいね? 魔王リムル───死ね!! 『死を渇望せよ!!』」
それは“生きとし生ける者”が本能的に持つ、生への渇望───それを反転させるという、絶対の奥義。
これは切り札的扱いであったが、もはや隠しておく必要も無かった。
勝利は、もはや見えていた。
自らの意思で、ユニークスキルを極めし者。
それが、この私。マリアベル・ロッゾ。
このユニークスキルは、人の根源的感情に由来する大罪スキルの一つ。
そう......私の欲望に勝てる者などいない。
貴方とて、例外では無いのよ? 魔王リムル。
でも安心なさい、死なせないから。
黒い波動が、解き放たれる。
その矛先には魔王リムルとマラカイト。もちろんマラカイトは避ける。だって知ってるから。
それなのに、それなのに──────
マラカイトは黒い波動の矛先を、その手に持つ車輪で無理矢理ねじ曲げた。
向かう先が、魔王リムルから、人狼と聖騎士ラーマへと変わった。
「貴方何をッ!」
「ゴブタ、避けろ!!」
「──────え?、ッ!」
人狼と聖騎士ラーマが黒い波動に包まれる。
そして直ぐに、ポタポタと血の垂れる音がした。
聖騎士ラーマは、魂が壊れ倒れた。
そしてゴブタは己の身体を小太刀で貫いていた。波動に飲み込まれる前に逃げ出した狼、ランガが駆け寄るにも駆け寄れずにいる
そこから黒い波動が中へ中へと侵食し、そして
事切れた。死んだのだ。
「殺す...今ここで、お前達を殺してやる!!」
先程よりも重い魔王リムルの刀をマラカイトが受け止める。
細身の刀を受け止めているにも関わらず、マラカイトは押され、踏ん張った足は地面をえぐった。
そこに割り入るように飛ばされる紫の影。
悪鬼、シオンがユウキによって腹に穴を空けられ飛ばされて来たのだ。魔王リムルはそれを咄嗟に受け止めた事で刀から力が抜ける。
それをマラカイトは見逃さなかった。
思い切り、車輪を投げ飛ばし、魔王リムルを後退させる。
──────有り得ない。
何をしているの? ふざけているの?
駄目よ、駄目なのよ。
私に逆らうなんて許されないのよ......!
「マラカイト...貴方何を考えているのかしら?」
「そんなの俺か聞きたいよ」
「は?──────ゴホッ......ぁ?」
胸が暑い。そう思って、下を向いた。
そこには、心臓を着くように“手”があった。
それだけではない。強欲が、力が流れ出て吸い込まれていく。───支配していたはずのユウキに。
「何故......グ、ガハッ...支配が、解けて......ッ!」
一瞬だけ見えた、黒い霧。
自分のものよりも何倍も何倍もどす黒く重たい、欲の形。
ユウキの欲は、マリアベルを超えていた。
「おやすみ、マリアベル。君の欲望はちゃんと僕が引き受けてやる。だからその力だけ置いて、さっさと死ね」
「............イヤ.....................」
悔しい、どうして、何故?
もはや思考する時間など残されては居なかった。
マリアベルの作戦は失敗に終わるだろう。
理由は三つ。
一つ、魔王リムルの強さを見誤った事
二つ、ユウキ・カグラザカを支配できたと勘違いした事
三つ、協力関係を結ぶ者を間違えた事
▽
「アッハハハ! あぁ、マリアベルってば本当に愚かだなぁ......はぁ、カガリ帰るよ」
「あ、え?」
「ごめんね、マラカイト。急に変な指示出して」
「本当にね」
ユウキが本性を表した。
狂ったような笑い声が響く。所詮、マリアベルもはめられた側だったのだ。
だが、そんな事はどうでもいい。
マリアベルがどうなろうとどうでもいい。
ゴブタが死んだ。 その事実が酷く重たい。
覚悟を決めても、やはり心は軋んだ。
ユウキが唖然としたままのカガリを引き寄せる。
───逃げられる。させない、逃がしてはいけない。
空間転移をしようとするユウキに向かって、飛びかかる。
それを止めたのはまたしても、マラカイトの車輪だった。
「さようなら、リムルさん」
それはもう心底楽しそうに笑って、ユウキが姿を消した。
俺は確かに心に決めた。
ここをアイツらの墓場にすると。まだ誰も殺せていない。
ユウキは姿をくらませた。もはやイングラシア王国に滞在はしていないだろう。追うのは困難だ。
なら、今この場に残ったヤツを殺す。
「つくづく邪魔をしてくれたな......マラカイト」
「それが今回の仕事だからね」
「悪いが、お前まで逃がす訳にはいかないんだ」
「いいよ、殺し合い...シンプルで一番いい」
「無様に仲間を殺された王様? 怒りのまま、俺を殺すといいよ」