転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第96話...最後に笑う者

立て付けの悪い扉が無理矢理に開かれる。

その扉の悲鳴からして、扉を開けた張本人の機嫌は余り良いものとは言えないだろう。

 

「あ゛? オッ坊主じゃねーか! 久しいなぁ」

 

この店の主人は、随分と機嫌を良くしたようだが。

“坊主”とこのパブの店主に呼ばれた男が、カウンター席にやって来る。

 

「そんなに久しかったか? まぁいい。ここに今世間を騒がせてるお尋ね者が来てないか?」

「ハッ、おいおい忘れちまったのかァ? 坊主、ここはお尋ね者しか群がらねぇ場所だ。だがまぁ、確かに最近新入りが来たなぁ」

「ならソイツは何処に?」

「そこ、そこの階段裏の席にいる」

「そう...ありがと」

「待て待て待て、情報をやったんだ。この店でいっちゃん高い酒を買ってけ」

「めんどくさいな......はぁ、ほら持ってけ泥棒」

「ハハッ、これで当分は生活に困らねぇ。ほら持ってけ、ここいらじゃ中々お目にかかれねぇ酒だ」

「どうせどっかの貴族から奪っただけな癖に」

 

 

高いと言った癖に乱雑に渡されたビンを手にぶら下げて、男が店主に言われた通り階段裏へとやって来る。

今回こんな場所にやってきた理由は、高い酒でもイカれた店主との談笑でもない。

 

その目的は──────僕だ。

 

 

「昼過ぎから酒を傾けるだなんて、いいご身分になったもんだな? 今ではお前の似顔絵があちらこちらに貼られてる。まさかあのグランドマスターが指名手配犯になるだなんて......ハッ、あれか? 空を優雅に飛んでた美しい白鳥が地に落ちてドブネズミになったのか? それとも、最初からドブネズミが妄想で地面を貧相な爪で引っ掻いてただけかな。なぁ、ユウキ」

「はぁ......開口一番の煽りとしては百点満点をあげたいよ」

「そんなもん、誰がいるか」

 

 

酒のコルクを開けて、向かいにセイヤが座る。

ファルナスカ王国の小汚いパブには、たった今見苦しい煽り合いが始まった。

 

「カガリ達はどうした?」

「先に東の帝国に向かわせた」

「へぇ、なら今頃死んだんじゃない? 東の帝国も指名手配犯である、グランドマスターの秘書なんて受け入れたくないだろうさ」

「勝手に殺すなよ。あぁ、死んだと言ったらマラカイトの件......残念だったね?」

「お前がその名前を口にするな。アレは俺の物だ。その名前を口にして良いか良くないかは所有者である俺が決める。分かったか?」

「怖すぎんだろ......」

 

目が完全にイッてやがる。

これ以上マラカイトの名前を出せば、衝動のままに魔法が飛んでくるだろう。

セイヤから飛び出してきた黒い獣に、食べかけの蒸かし芋を渡す。目の前で一生人を煽り続ける主人とは似ても似つかずに、中々に可愛いやつだ。美味しそうに、芋を両手で持って、口の周りを汚している。

マラカイトの件で、当分は使い物にならないかと思ったが案外吹っ切れるのがはやっかったな......まぁ、心情の内は預かり知らぬ話だが。

 

使い物になるなら、話は早い。

僕がなぜ、イングラシア王国を出て、こんな場所で酒を傾けているのか。

その理由となった組織や事象について、とことん教えて貰うとしよう。それから、ちょっと後処理のお手伝いもお願いしようかな。

 

 

「元々イングラシア王国に戻るつもりは無かったんだぜ? けど、イングラシア王国に残した人脈なんかは上手くこき使ってから東に移ろうと思ってたんだ。それなのに、急に国の軍が押し寄せてきて確保!って叫んだんだ。勘弁して欲しいよ」

「まぁ確かに俺からしても、今回の事態は予想外だ。今までのアイツなら考えられない」

「どうせリムルさん関係だろ? で、情報は?」

 

『中央国家連合』

それは、評議会がテンペストを認めなかった事から生じた、テンペストという大国の基盤を補うための組織の通称。

一見テンペストにしか利益のない組織にも聞こえるが、連合の参加国は極めて多くの利益をテンペストとの友誼の中で得ていた。つまり、コレは自国の利益を損なわない為に、テンペストの基盤を補いましょうという名目を態々当てたに過ぎない利益至上主義の組織なのだ。

 

 

魔国連邦

武装国家ドワルゴン

ブルムンド王国

魔導王朝サリオン

忘れられた竜の都

獣王国ユーラザニア

天翼国フルブロジア

傀儡国ジスターヴ

 

 

これらの国々が最初にした事。

それが、今回のイングラシア王国グランドマスターの組織的な指名手配宣言だ。

傀儡国ジスターヴ、ミリム・ナーヴァの所持する国の重要文化財の破壊。シルトロッゾ王国の王家の者の殺害。そして魔物の国の王への殺害未遂。あげたらキリがない証拠の山を連合は世界に突きつけた。

 

イングラシア王国も評議会に参加する国であるとはいえ、連合に所属する国々とは昔から国交を結んでいた。指名手配された者を何時までもグランドマスターの座に置いておく訳には行かなかった。

結果的には、ユウキは逃亡したとは言え、イングラシア王国は誠意を示したわけだ。

 

世界は二つの組織に揉みくちゃにされた。

 

グランドマスターの追放も、連合側には大きな意味があれど、評議会からすればただの痛手に過ぎない。

組織同士の睨み合いが、西側諸国では起きていた。

 

 

「流石の情報だ。中庸道化連の皆にも動いてもらってるけど、最近はどこの国も張り詰めててまともに動けもしなかったんだ」

「だからさっさと悪素を使えるようになれって言ってるんだよ。てか、どうでもいい話だけどさ、中庸道化連と中央国家連合...似てない?」

「セイヤさ、本当は結構疲れてるだろ?」

「まさか......あーでも、一個だけ」

「ん?」

「お前ってさ、父親の事......その、なんて呼んでた?」

「はぁ?」

 

急にもじもじして言い淀むから何かと思えば、父親をなんて呼ぶか?

なに急に、怖いんだけど......。

 

「えっ......普通に“父さん”だけど」

「父さん...父さんか、分かった。ありがと」

「いやいやいや、ありがとって話を終わらすなよ。それはさすがに僕だって気になる。何? セイジさんと喧嘩でもしたの?」

「喧嘩はしてないけど、その...クソ親父って言った」

「プッアッハハ! クソ親父は面白すぎる。あれか、衝動のままに汚い呼び方して、お父様呼びに戻すのが何か気まずいんだろ」

「黙れよ本当、自己分析は出来てるから」

「アッハハ! ちょっと待って、ハハハッ、笑いとまんない。ていうかさ、セイジさんってセイヤに恐怖を植え付けて主従をやらせてたんだよね? よく反応なんて出来たな」

「別にもう怖くない」

「何それ」

「多分、俺が日本にいた時に感じてた恐怖はちゃんとお父様...違う、父さんの思惑通りだったと思う」

「別にわざわざ呼び方矯正しなくても」

「五月蝿い、お前が質問してきたんだから黙って聞け。この世界に来てから感じてたのは多分少し違う感情だ。リムルの元にいる間の少し、父さんを忘れてたのがいけなかった。父さんの手元に自分がいない事が怖くなった」

「はぁ......」

「今は、恐怖は無い。何だか別の感情があって、モヤモヤしてる。だから、少し家族らしくしてみたらこの感情も分かるんじゃないかなって」

「なるほどね、セイジさんの恐怖植え付けよう計画は失敗だったんだ」

「成功だろ? だから俺は今あの人の手元にいるんだ。けどまぁ、馬鹿だったよ。だって、父さんは恐怖を感じるには教育が丁寧すぎたんだ。目的を達成する為の躾は受けたけど、それ以外はやけに丁寧に子育てしてた。あの人の書庫にさ、あったんだよ...子育て本。ホント、もっと早くに気がつけば良かった」

 

いや、待って。

意味わかんないんだけど。何? 手元にいない恐怖って...しかもそれがセイジさんの狙い通り?

思考回路が自分とズレすぎてて理解に苦しむ。だって、俺だったら“どうして今自分はあの恐怖を与えてくれた人の元に居ない?”なんて思わない。

 

しかも、何だよ子育て本って、あの人が?

もっと早くに気がつくと何があるんだよ。

こうも全てが理解出来ないのも珍しいが、理解したいとも思えないのは流石だ。

 

しかしまぁ、変わったなと、ビンを傾けて酒を煽るセイヤを見る。

“家族らしく”なんて、セイヤ自身から相手に近づくような言動。

根底にあった“愛されたい”が満たされた事で、それを優先しなくて良くなった結果なのか。

 

「てかさぁ...」

「今度は何だよ」

「その煙草の煙、流石にマズイぜ?」

「マズイ?」

「色だよ、色!」

 

そう、このパブにセイヤが入ってきてからずっと気になっていた煙草の煙。

別に煙草自体は、セイヤは会う度に吸っていたから気にはしてない。問題はその色だ。

赤と言うにはどす黒い、血のような色にピンクの細い色が混じりきらずに上へと登っている。

 

何を混ぜたか聞けば、悪素を元に作った魔物に対して効果の高い精神汚染を促す物質と、特殊な生成方法を行った薬物で出来ているらしい。

ちなみに、それらを巻いている紙も、一度前述した物質水に漬け込んでから乾燥させているらしい。

やけに手間暇かかってる。けど、そんな物質があるなら煙草なんかに使わず、核爆弾にした方が有用だと思うんだが。

 

赤黒い煙の正体はわかった。ならそのピンク色のは何が元か?

この質問は、答えを聞いて聞かなければ良かったと心から後悔した。

──────マラカイトの“愛情”。

生前に結晶化させておいた愛情をわざわざ自分の手で削って煙草に混ぜ込んでいるらしい。

他の作業をスキルで済ませているのに、その作業だけは手作業なのは、なんかこう......気色悪い。

 

俺の表情が明らかにげっそりしたからか、「煙に含まれる毒性は消してる」と謎の弁明をしてくれた。

そんなのは、このパブにいる人間が生きている時点で気づいてる。要らない気を使わないで欲しい。

 

頭のおかしい奴と話してたら、こっちまで頭がおかしくなりそうで無理矢理会話を本題に戻した。よくよく考えると、随分と会話が脱線していたのだ。

 

 

「本題に戻るけど、今の段階で連合を潰すのは戦力的に難しいだろうね」

「そうだろうな、外壁から攻めるべきだ」

「西方聖教会とかどう?」

「へぇ...人が悪い」

「その言葉、そっくりそのまま返すよ」

 

西方聖教会と評議会の関係はもはや崩壊していた。

聖人ヒナタが中央国家連合とズブズブの関係にある事は勿論理由の一つではあるが、何よりも

十大聖人の一人であるグレンダの評議会乱入が決めてとなった。

評議会の支配者であるグランベルが七曜の老師として死亡した事も大きい。教会と評議会を両方から支配できる者が居なくなったことで、この二つは完全なる別組織と成り果てた。

 

現在、ルベリオスとテンペストの交流は激しくなってきている。

ルベリオス基西方聖教会が中央国家連合の武力となるのは時間の問題だ。魔物がどうこうだの言う教義よりも、神ルミナスへの信仰が薄れる事の方が問題なのだ。

 

魔物側の武力がまさり、人間が追いやられる。 それをあのグランベルが許すはずがない。

だからこそ、利用するのだ。“幸運な事”にグランベルはマリアベルを失い、大きく思考力を落としている。

利用し、西方聖教会を陥落させ、神ルミナスから信仰という力の源を奪い取る。

 

この作戦の為の下準備に、セイヤはグレンダを態々評議会に乱入させた。

人が悪いのはどちらだろうか。

 

「けど、僕はもう活発に西側諸国で動けない。出来ることなら、早急に拠点を東に移したいんだ」

「奇遇だな。俺も、近藤達也から“いい加減こっちに来い”ってお達しが出たんだ。

──────父さんに頼むか」

「無理だろ。セイジさんって基本自分で動かないじゃん」

「駄々こねればやってくれる。

最近気づいたけど、あの人先の結果しか見てないから誰が動いても良いって思ってる節がある。今まで俺を動かしてたのは、俺のスキル獲得を優先したからだ。そして、父さんが俺に手に入れて欲しいスキルは全部手に入ったんじゃないかと思う。

だから、東の帝国で色々準備とかしたいんです!って駄々こねればいける

それに父さんとグランベルには交流がある。仲がいいかって言われるとアレだけど...お互い利用してやろうって思ってるから上手くいくよ」

「反抗期を迎えて強気になった子供みたいだな......」

「反抗期じゃない。計画も立っただろ? ならこんな所に居るくらいなら早急に父さんにお願いだけして東の帝国に行くぞ」

「あぁ、待って」

「あ?」

 

──────その前に一つ、いいかな?

 

 

 

 

 

 

 

眼下に広がるのは、インガラシア王国の美しい街並み。この街並みには多くの機関の中枢が聳え立っている。

セイヤに頼んだのは、悪素を使っての僕の姿くらましだ。

僕がイングラシア王国から逃亡して、世間の警戒は顕著になった。たった今も、上空にいる僕達の横をペガサスに乗った騎士が通り過ぎて行った。

 

本当はもっと慎重に動きたかった。

マリアベルは自分の無実を証明するために使いたかったし、今後もテンペストとは交流を続けたかった。

しかし、遺跡で対峙したリムルさんを見て、これ以上慎重に動けば取り返しがつかなくなると察した。

あの目に映るのは“殺意”以外の何者でも無かった。今まで、テンペストに良い顔をして隠れてコソコソやってたのはリムルさんの“温厚な性格”があったからだ。無罪放免の理念に則って、物的証拠を残さない限りテンペストを隠れ蓑にして準備を整えられた。

 

それが不可能だと察した。

だから、マリアベルを自分はお前たちの敵だと伝える為に殺した。

こういうのはメリハリだ。元々疑われていたと言うより、敵であると確信されていたなら、もはや無闇矢鱈に力を振りまく方が計画の成功率は高くなる。

それに、今横にいるセイヤのおかげでコソコソしなくても情報は手に入っているし、テンペストという国の強大さも歯止めをかけれている。いつかリムルさんが悪素の存在に気がついたとしても、それより前に準備を整えればいいだけだった。

 

世界の破滅の第一歩、それは秩序の崩壊。

 

 

僕は手にあるスイッチを握った。

後はこのボタンを押せばいいだけ。それだけで、この世界の秩序は大きく崩壊する。

 

「お前も大概だな」

「んー、聞こえないな。じゃあ、ポチッとな」

 

ポチっとな、なんて軽口を叩いてボタンを押す。

 

次の瞬間、足元にあったイングラシア王国の街から爆発音が響いた。

半円状に広がる爆発が、各中枢機関から生じたのだ。これの正体は爆弾の起爆用スイッチ。

もしもの時のために、グランドマスターとして各中枢機関に訪れた時に爆弾を仕掛けておいたのだ。こんな所で役に立つとは。

 

爆発音は止まらない。

爆発は勿論自由連合にも仕掛けてある。組織の幹部たちは諸共四肢を吹き飛ばし、死んだであろう。巻き添えのように、学校も吹き飛んでしまったが...まぁ、別にいいだろう。どうせ召喚者の子供達はテンペストに居るんだ。後はどうなろうとどうでもいい。

 

セイヤが鼻を撫でた匂いに反応した。

 

「これ...爆弾と言うより核だろ。核汚染と同じだ。それを何発も......もうイングラシア王国は直接爆発された都市以外も使い物にならないな」

「いい事だろ?」

「どうだか。けどまぁ、手伝ってやるよ」

「え?」

 

手伝うとは何なのか。

セイヤは手を上へと上げて、魔法陣を作り出す。見た事も無い、整ってはいるが何処か呪文の配置が汚い魔法陣だ。それは召喚魔法。

魔法陣から顔を出したのは、この世のものとは思えない魔物達だった。

合計五体の魔物が、イングラシア王国へと降りていく。意識をそちらへ集中させれば、爆発から運良く逃れた者、爆発の範囲外にいた市民達を無差別に殺害しているようだ。

それも、随分と惨たらしく。

 

「何あれ」

「父さんの世界にいる魔物」

「あれが......魔物?」

「そうだよ。アイツらが、上手いこと虐殺を行ってくれるさ。もういいだろ? 行くぞ」

「分かってるよ。ちょっと見ていたいと思ってただけさ──────イングラシア王国の消滅をね?」

 

 

 

 

 

 

 

──────緊急情報誌

 

突如として起きたイングラシア王国での大規模な爆発により、数多くの重要施設が崩壊した。

施設内にて勤務中であった組織の人間も多く死亡しており、各組織幹部の死亡も多いと推測される。

また、爆発による空気汚染も酷く、作物等の生成ももはや不可能であると分析する科学者もいる。

爆発とほぼ同時に現れた異形な物は、爆発を免れた町等の住民を虐殺。現在は鎮圧が完了しているが、鎮圧に赴いた西側諸国評議会の軍隊は殆ど壊滅。中央国家連合が援軍を送った事での鎮圧完了となった。

イングラシア王国はもはや再起不能であるとする意見が世界に広がっている。

事実、イングラシア王国は現国王すらも失い、空気や土、作物は汚染された。何とか生き残った国民も精神的崩壊が酷く、もうイングラシア王国の美しい街並みを見ることは叶わないであろう。

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