そしてそれは
しかし何が悲しいかな、彼らは自分の欲に忠実であり、そしてそれを成す為ならば何をしてもいいと思っていた。誰を殺しても、世界を壊しても、俗に言う危険思考の持ち主であった。
それが嫌に天才であったのだ。もはや被害を被った人物や世界に同情してしまう。
彼らは世界を渡る前から人間として格が違った。
普通の人間ならば努力に努力を重ね、何度挫折を繰り返した先にある輝かしい栄光を、彼らは“ちょっとやってみたら出来た”の感覚で成し遂げる。
別に才能がどうだとかは所詮当人の中で完結する話であり、大した問題では無い。
問題なのは、その才が自己主義の為にのみ発揮されることである。
望めばなんでも手に入る。
そこそこ裕福な家の出と、スラム街の出であるから、手に入れた物の質は違う。
けれどどちらも、同じ立場の凡才から見れば、全てを手に入れることの出来る人ならざるものにしか見えないのだ。
前述した通り、彼らは危険思考の持ち主である。
それが自己主義のままに、人外に近い才を振りかざせばどうなるか? 結果は明白だ。
先日のイングラシア王国の様にいとも簡単に凡才共は踏み躙られる。
積み上げた有象無象の犠牲の上で己の欲を満たすために、その才は遺憾無く発揮される。
こう思うと、セイジ・カミシロはある意味日本を守っていた存在の様にすら感じてしまう。
ユウキには、「ここよりももっとお前を楽しませることの出来る世界がある」「今は力を温存しろ」と囁き、退屈に震える心を縛り付けた。
逆にセイヤは、暴力と恐怖の中に敷くことで、根底にある“愛されたい”と言う感情を上手く制御していた。
日本という国において、その二匹の猛獣に首輪を掛けることが容易かったかと言えば否。
しかしそれも後の祭り。今となっては、その首輪はリードを手放され、自由気ままに世界を駆け回っている。
時は満ちた。
彼らは共に、“愛”を失った。
ユウキはそれが家族であり、セイヤは宝石だった。
世界は理不尽だ。そして、世界への復讐という無謀な考えは、彼らの才によって実現が可能かもしれなかった。
危険思考の持ち主は、同時に探究心の塊だ。
可能性があるならば、やるしかない。
方や破滅を、方や改変を。互いをも踏み台と思いながら、危険思考の持ち主は協力関係を結んでいる。
愛を失い得た力は、セイジ・カミシロ...レブルの手により“悪”へと成り果てた。
いや、レブルが何もしなくとも、世界は彼らを悪としただろう。今となってはどちらでも構わない話だが。
さて、時は満ちたと言うが、それを見逃してくれるほど“善”というのは優しくない。
大概に悪から生まれた善は復讐心や破壊衝動等の世間一般に褒められない感情から生じる。
悪行を見つけたならば、力を奮ってそれを嬲り殺さなければ、善たり得ない。
善がする事は、世界を守る事だ。
なら、何をしたっていいじゃないか?
悪が才をひけらかすなら、その嫌に回る頭を握り潰し、血に濡れた手を引きちぎり、死体を見せしめに飾り付けたっていいじゃないか。
お互い様な、狂った行動原理。
多種多様な才能が生み出す、凡才的な芸妓。
悪名高くなった、彼等の望みはその先。
──────“己の証明”である。
▽
ポタポタと、体を形成していた液体が零れ落ちる。零れて行った体の一部は、地に向かう軌道を変えて体に戻ってきているが、明らかにその速度は遅い。
イングラシア王国で遊んだ後、すぐ様東の帝国に向かった筈だ。
空を渡り、そろそろ東の帝国圏内に踏み入るだろう頃合に、突如として魔力弾が飛んできたのだ。
ユウキと俺はほぼ同時に魔力弾の存在に気がついた。
避けるにしては時間が足りない事も理解した。
なら相殺すればいい。そう判断して、魔力弾を相殺するに足るだけの力を行使しようとした瞬間、ユウキは俺を盾にした。
横から、それはもう凄い力で腕を捕まれユウキの前に引きずり出されたのだ。
魔力弾が体に接触する瞬間、魔力弾を構成する大半の魔素を体内に吸収した。
残った余波は、俺の上半身の半分程を吹き飛ばした。約九割を吸収して、残ったカスでこれだ。
案外、相殺を選んだ俺の選択は間違っていたのかもしれない。
まぁ、人を盾にして吸収させよう等というクソみたいな策を選んだユウキには色々言ってやりたいが。絶対に俺の腕を掴んだ時のユウキは今出せる全力の力を出していたし、日々の私怨位はこもっていた。
魔力弾が放たれた方向へと、顔を向ける。
体の方も何とか再生が終わったようだ。多分、アカ・マナフがめちゃくちゃ頑張ったんだろう。メーティスも何時もより再生を急いだようだ。
そして、この二人にはあともう少し頑張ってもらわなければいけないらしい。
「初めましてになるな。まさかヴェルダナーヴァの出涸らしの出涸らしがここまで筋がいいとは思わなかった。あの一発でお前ら二人揃って消し去る予定だったんだが......」
「出涸らし? よく言う、父さんが生まれなきゃ今この場に存在すらしてない分際で」
「それは自己紹介か?」
「違うね。俺はお生憎様、どっかの女と男が交尾して生まれてんだ。自然的に生まれたカビみたいなお前らとは違うんだよ」
「あ?」
「はいはい、そこまでだよセイヤ。君は目に入ったもの全てに煽り散らかすんだから。それで? 僕達に何の用があるのかな?
──────ギィ・クリムゾン」
今この世界で、ギィと決着を付けることの出来る存在はいない。正しく最強。
魔力弾の威力からして間違いない、ギィがメイド二人を従えてわざわざこんな辺境に赴いた理由。お話し合いなんてものでは無いだろう。
けれど、殺気よりも哀れみの様な感情をギィから感じる事が無性に俺をイラつかせる。
ギィがユウキからの問に答えようと口を開いた瞬間、同時に転移魔法を起動する。
逃げる先は父の所だ。せっかく東の帝国付近まで来たが、これじゃあ埒が明かない。
父の所までギィが追ってくるとは思わない。なら仕切り直して、父に東の帝国まで送って貰った方が安全だ。
しかし、転移魔法は今逃げようとしている原因であるギィ自身によって消し飛ばされた。
「ッ! なんで......」
「お前は待ての一つも出来ないのか? まだ俺が質問に答えてないだろうよ。しかし残念だなぁ...お前達単体であれば生かしておいてやりたいと思ったというのに、レブルの息がかかったんじゃ仕方がない。要件はただ一つ、ここで死んでいけ」
そんな分かりきった事を答えて欲しいんじゃない。
俺が聞きたいのは、何で...観測できない“悪素”とサルワによって常に法則が変わり続けている魔法回路で出来た魔法を打ち消せたかだ。
適当に放った攻撃が偶然、魔法にあたって俺が魔法を維持できなくなったなら分かる。
けれど、さっきのは明らかに内側から糸を解かれるように呆気なく消されたのだ。
リムルの頭脳に住み着いた人工知能ですら観測できない悪素をギィはきちんと観測した。
コイツが最強だから...本当に、それだけか?
「セイヤ!!」
ユウキが俺の名前を呼ぶ。
悪いがその呼びかけに返事をする余裕は無い。
ユウキだって、俺の返事を聞き取る余裕はないだろう。
ギィの剣が俺の首を掠める。
一瞬でも判断が遅れていたら、今頃体と頭は離れ離れだ。
空中戦は苦手だ。体に重力操作を使うというのは違和感が凄くてまともに戦えない。
メイド二人をユウキに任せたとはいえ、ギィを相手に空中戦というハンデは普通にまずい。
地面に叩き落とせるとも思えないが。
何が嫌で、世界最強と殺し合いをしなければいけないのか。
ギィの重く、けれども速い剣を何とか知覚し、防ぐ。俺は剣という物をまともに扱えないから分からないが、多分...その技術は世界最高峰だ。
空中戦のハンデは、重力操作に対して苦手意識を持っていないアカ・マナフで補う。
不毛ノ車輪も利用して、杖と車輪のどちらかを足場にして戦う。出来るだけ、空中で放り出されている状態にはならないように。
ギィも本気では無いんだろう。
本気じゃなくても俺を殺せると思っている。まぁ、事実だろうが......。
ムカつくがそれが事実。早くこの場から離脱しなければ、殺されるのは時間の問題だ。
実際、普段であればどんな攻撃も避けなくて済む液体化は、吸収できるエネルギー量よりもギィが放つエネルギーが多すぎて使えない。
先程のように体が飛ぶ。
しかし避けるにしては、空中戦というハンデが大きすぎる。
アカ・マナフを含めて二対一に持ち込めているように見えるが、アカ・マナフの力の元は俺だ。所詮力の出処は一つ。その俺が、ギィの攻撃の相殺を行う度に多くの力を持ってかれている。アカ・マナフだっていつもの様には戦えない。勿論引っ込めれば俺が使える力は増える。が、引っ込めばギィの攻撃を捌ききれない。
雁字搦め、板挟み。
戦いがギリギリすぎて、本来の目的である戦線の離脱に着手出来ない。
ユウキもユウキで流石に原初二人を相手にしている状況で、手伝えなんて言えない。
(セイヤ、今大丈夫?)
(これが大丈夫に見えるかボケ)
(うん、悪口を言える余裕があるのは素晴らしいね。今戦ってる相手、交換しようか?)
(はぁ?)
突拍子も無いユウキの提案に、危うく口から声が漏れそうになった。
思考を出来るだけ戦闘に向け、隙を作らない。一瞬の隙でも、例えそれが思念伝達でも、作れば死に繋がる。
(理由を端的に、お前がギィに勝てるって?)
(いや無理だね)
(あ゛ァ?)
(君にこのメイド達を無力化して欲しい。セイヤならそんなに時間も掛からないだろう? その間だけ、何とかギィを僕が抑え込む)
(とりあえず頭数を減らしたいってか)
(そういう事)
不安要素が多すぎるが、今この現状では何でもいいからやってみるしかない。
目配せも、合図も要らなかった。
互いに身を翻し、視線を先程戦っていた相手から切り替える。
ユウキがギィを長く抑え込めるとは思っていない。時間は少ない。
ユウキを蹴り付けようとしていた原初の緑 ミザリーの足を受け止め、原初の青 レインへと投げ飛ばす。
ミザリーは体制を立て直すまでに時間がかかっていた。そしてレインの体は飛んできたミザリーを受け止めるでもなく、すり抜けて行った。
分身体に近いんだろう。
きっと、ミザリーとレインではレインの方が強い。
なら...頭数を少しでも減らすという目的に準ずるなら最初に無力化するべきはミザリー。
殺しはしない。今は戦線の離脱が最優先だ。変にギィを刺激するのは得策では無い。
レインも俺の意図を見抜いたんだろう。
俺がミザリーへの集中攻撃を始めると、直ぐにミザリーの前へと躍り出でて自ら盾となった。
その後ろからミザリーが魔法を飛ばしてくる。
核撃魔法、霊子を利用する高威力の魔法だ。
使用者によっては、アリを潰すよりも簡単に世界を滅ぼせるだろう程の高等魔法。
だが、ミザリーとレインの威力ならば同時に核撃魔法が飛んできても吸収出来る程度だ。
逆に、こちらとしても力の回復ができるからどんどん打っていただきたい。
レインは分身体ではあるが、その動きは余りにも大胆だ。多分、分身体が受けた攻撃は本体には届かないんだろう。
魔法は気にしなくていい、ミザリーもレインも同時に相手をしても余裕がある。
ならば──────
「アカ・マナフ、レインの本体を引きずり出してこい!」
「ヴガァ!!」
元気な返事を聞くと同時に、大規模な魔法陣を描く。先程のように魔法ごと消し飛ばされないように、魔法陣自体に万能結界を張った。
その魔法陣は、ザリチュの権能である『果てなき渇き』を内撃魔法に組み込んだものだ。普通だったら空気に触れたもの全てを劣化させる代わりに膨大な魔素を消費する権能だが、内撃魔法は相手の体内にある魔素を利用する。
レインの本体をアカ・マナフが持ってきた瞬間に起動して、二人の体を壊す作戦。
殺さないと言ったが、核を壊していなければどうせまたギィが召喚でも何でもして呼び寄せる。たった今ご退場願うならば、一度こちらの世界から居なくなってもらうのが一番だ。
アカ・マナフの咆哮が聞こえる。
あと少し、大概の者からしたら知覚も出来ないあったのかどうかも分からないほどの、ほんの少し。
レインの本体が見えた瞬間、起動しようとした魔法陣は───また掻き消された。
今日は多分、ついてない日だ。
何だ? イングラシア王国でのおいたが過ぎたのか? 巫山戯やがって......。
二度目の魔法の不発に流石にイライラする。
しかし、今回の不発の原因はギィ出ないらしい。
ユウキが胸を抑えて、悶えている。 体からは、ユウキから放出されているとは思えない程の悪素を放っていた。この悪素が悪戯に俺の魔法をかき消したのだ。
空の上で随分と器用な事だが、ユウキの状態はあまり芳しく無い。
体内から暴れだしそうな力と、ユウキの意思が上手く噛み合っていないらしい。
ギィは獲物が作り出した隙を逃さない。
気を失い、地面へと落下を始めたユウキに向かって、さっきの魔力弾よりも遥かに高威力の核撃魔法を放とうとしている。
アカ・マナフに助けに行かせるには遠すぎる。
俺が──────
一瞬、ギィが俺を見て、ニヤリと笑った。
衝撃、そして音が遅れてやってくる。
しかしその音が脳を過ぎ去っても、体は動かない。
ユウキは何とか回収した。
倉庫の中で、今頃メーティスがどうにかしているだろう。
ギィに微笑まれながら、ユウキの前に出た俺は当然のように核撃魔法を直に食らった。
何とか核撃魔法が直撃する前にユウキを回収し、一部のエネルギーを吸収。
体の殆どが地面へと叩きつけられ、森の中に飛び散ったが......核や魂に影響は出ていない。
回復に専念するため、アカ・マナフには戻ってもらった。
「ゴホッゴホッ......馬鹿力がッ!」
「まだ生きてるのか、しぶといなぁ。流石、転生してこの世界に来ただけの事がある。生への渇望がそうさせるのか?」
空から優雅に降りてきたギィは、ミザリーとレインに待機を命令して一歩俺へと近づく。
何とか武器を構えてはいるが、この状況で戦闘が続けられるとは思わない。
次同じ魔法がくれば、対処法は無い。
──────どうする? 本当に詰んだぞ。
「いやなんだ、本当に流石だと思ってるんだぜ? なんたって概念乖離体がもろに、
「純素......?」
「あぁ、そうだ。純素は世界が悪素に対抗する為に作り出した元素。この世で最も清らかな元素だよ」
「は? 世界が、作った?」
「概念に反する力をいつまでも世界に留めておきたい訳が無いだろ? だから、世界が選んだ者は力が与えられる。その権能に含まれてるんだよ、悪素を持つ概念乖離体によく効く元素がさ」
「与え、られる...って 」
「世界に悪者にされて、こうやって殺されそうになってるなんて、哀れだなぁ」
「はっはは、何だ? なら...お前は善だってか!? 力を与えられた奴が善だってか!?」
「そうだよ。お前が持つ六個の“悪徳系スキル”、それに世界が反応すると今度は世界がそれに対抗するだけのスキルを所持できる者を選定する。必ず対になるスキルが六個生まれる」
「巫山戯るな......」
「俺のスキルは“
「巫山戯るなぁ゛!!」
巫山戯んな、巫山戯んな!!
悪素は世界に反した元素だ、それに特攻出来る元素? そんなものそれだって概念に反している。
それなのに、世界が認めたという理由で誰にも否定されず全てに肯定されて俺の前に立っている。善を気取って、俺を悪だと決めつける。
何の意志も決意も覚悟もなく、世界を信じて、それだけに甘んじて正義面をする。
世界にすら反してでも、生きている俺を。
“世界を正しくする”という絶対的な目的を。
意味も無く、否定する。
世界が、俺を殺そうとする。
「そんなに怒った顔をするなよ。お前の持つスキルがユニークスキルなら対になる善徳系だってユニークスキルのままだ。簡単な話だろ? 対になる悪徳系の権能が弱ければ善徳系だって大したことないスキルになる。それだけだ」
「寄生虫共が...!」
「
そんなの、そんなのは......
法則の決定という権能は、それ自体が...俺と父が目指す目標じゃないか。
命を天秤に乗せた目標を、世界に与えられた力が既に持っている。
そんなのは───許されない。
世界がそうするならば、世界が俺を殺そうとするなら。
俺が、新たな
善を気取る悪党共は、殺さなくては。
「情報提供をどうもありがとう...ギィ・クリムゾン。何となく、また俺の意思が固まったよ。だからさ...寄生虫は寄生虫らしく免疫に負けて死んでくれよ」
手に力が収束する。
今出せる全力、殺意しか込められていない魔法。寄生虫は高熱で焼け死ぬか、冷却されて死ぬかだけ...生き長らえる事なんて“寄生された主人”は許してないんだよ。
収束した力が、解き放たれる、その瞬間。
後ろから手が回された。
ミザリーでもレインでもギィでもない。
勿論ユウキでもない。
白い服の裾がチラリと見える。
その手は俺の顔を無理矢理に掴み、空間の裂け目へと連れ込む。
意識が薄れる。
魔法は放たれること無く、解けた。
今日、三度目の不発だ──────。
お話の順番が少し前後してます。お許しを......。
全部説明してくれる、優しい魔王様。
まぁ、人類同士で争って滅亡しないように!って頑張ってるのに西側諸国二分割されたらそりゃ殺しにくる。
『世界として、“悪徳”を殺して、俺達を“善徳”する。』
これが、今の世界がやっている事と何一つ変わらない事を気づいているのか居ないのか。
次回はユウキとメーティスのわちゃわちゃ回です。