転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第98話...叡智が見る悪徳

淡く発光する正八面体の結晶が利口に並んだ空間。均一な大きさの結晶は、まるで棚にしまわれているかのように、空中に段々に並んでいる。それらは上へと延び、円を形成していた。

 

その円の中心に、メーティスがいた。

ここは“倉庫”と呼ばれる、メーティスの支配領域。誰も逆らうことの出来ない、絶対の空間。

 

分身体を倉庫の中で形成して作り出した己の体を存分に活かすために、その空間にはクッションや本、ましてや菓子に至るまでが置いてあった。言ってしまえば、そこはメーティスの生活空間であった。

まぁ...勝手にセイヤの魔素を消費して分身体を作り出し、好みの見た目にする為に試行錯誤をしたんだが。ちなみに言うと、菓子はセイヤが寝ている間に調達しているし、それを食すための味覚だって勝手に手に入れた。

全て、セイヤの知らぬ事。

もっと言うなら、倉庫はアカ・マナフの権能であり、本来の持ち主はアカ・マナフであるべきなのだが、上手く言いくるめて強奪していたりする。もちろんそれもセイヤは知らない。部屋を強奪された可哀想なアカ・マナフはと言えば部屋の隅にクッションの山を形成して生活していた。

 

 

セイヤに似た光の通さない黒目が上を向く。

少しだけ背が高く、ガタイもいい。幼さの無くなった顔つきに一つにまとめられた肩より長い髪。そして低い声。

全てが似ていて、けれど違う。その違いはまるで、兄弟のようで、兄がメーティスで弟がセイヤのようだった。

メーティスが視線を向ける先は液晶。

 

倉庫内で、外の状況を常に把握するために必要な情報が映し出された液晶のうちの一つ。

そこには、主人であるセイヤが戦っていた。

 

 

そう、こんなにものんびりとしているが、メーティスの主人は現在死ぬかもしれない死闘の最中である。

 

ギィの存在を検知してから、今の今までメーティスは一切戦闘の補助をしていない。

理由は至ってシンプルであり、メーティスの戦闘に対しての判断力はセイヤより劣っていたからである。

唯一した事と言えば、魔力弾が迫っている事を知らせたくらいなものだ。

 

しかしサボっている訳では無い。

確かにメーティスは自主的に何かやってあげるという事はしないが、それでも仕事は最低限する。

メーティスは自分の仕事を、情報収集とその整理だと思っている。セイヤが認識出来ていない物事を検知し、分析し、まとめる。

そしてそれをセイヤに提示するのだ。メーティスの仕事はそこまで。あとは提示された情報を元に思考をするのも行動するのもセイヤである。アドバイスは幾らでもするが、代わりにやってやる事は無い。

 

そしてもう一つの仕事が、隠蔽工作である。

こればっかりは、セイヤがやるよりもメーティスがやる方が正確であり迅速だったために完全に委託された仕事である。

まぁ、メーティスから見ても、セイヤは大雑把で整理整頓の出来ない子供であるから渋々承諾しただけの話。本当は大分めんどくさい。

 

 

一方的にライバル宣言をしているリムルの概念知性が、自我か無いと言っていることも忘れて嫌悪を示してきそうなこの働き方は、究極能力(アルティメットスキル)への進化の影響である。

助言者だった頃に最初に聞いた主人の願いを、芽生えた自我が明確に理解した。だからこそ、メーティスはこの在り方を選んだのである。

 

『家族』───それがメーティスの存在する意味。

セイヤとメーティスは主従関係にあらず。

リムルが概念知性を“先生”と呼ぶならば、セイヤはメーティスを“兄弟”と呼ぶだろう。

 

セイヤの概念知性としてすべきなのは、傍で支えること。全ての主体はセイヤであるべきで、メーティスはそれを肯定も否定もしない。

 

 

メーティスはセイヤを“家族”のように愛している。だから、死んで欲しいわけでは無い。

 

ギィとの死闘は激しさをましており、セイヤが一方的にやられているような状況だ。

放っておけば間違いなく死んでしまうだろう。

だからメーティスは瞬時にダムラダへ連絡を入れた。言葉は一言、さっさと迎えに来い、である。セイヤの願いから生まれた自我がメーティスだ、やはり傲慢で自分勝手であった。

 

自己中心的な連絡を入れて、メーティスは本来の仕事である情報収集を開始した。

ギィの力の使い方、体の動かし方、話し方のくせ───はたから見たら必要のなさそうな情報まで見逃さない。

だって、セイヤは作戦の立案にそれら全てを使用するから。セイヤが満足のいく作戦を立てられるようにメーティスとて手は抜かない。

 

 

 

そんな中、イレギュラーな仕事が舞い込んだ。

突如として起きたユウキの力の暴走を、あろう事かセイヤはこちらに丸投げしたのだ。

 

普段だったら自分でやれ、と嫌味ったらしく言うところだが状況が状況である。

メーティスも重い腰を上げた。

 

 

生活空間に備え付けられた扉。

一見その先は暗闇のように見えるが、入ってみれば本当に暗闇。前も後ろも横も分からない。自分が立っているのがどこなのかすらも不明の暗闇だけが広がる空間。

結晶の光が届かなければ、倉庫はどこもこんなものだ。

 

この空間は言ってしまえば、危険物処理室。

結晶として倉庫に流れてくる全ては一度、この部屋で分別や処理をされ、棚に並ぶ。

その過程を行うのがこの部屋である。万が一に取り込んだ結晶の中身が、他の結晶に影響を与えないようにする為の措置だ。

 

安易にユウキの事を危険物呼ばわりした気もするが、メーティスは気にしない。だって、セイヤの兄を気取ってる奴だもの、自己中の格が違う。

 

 

 

《問。貴方はユウキ・カグラザカですか?》

 

未だにもがき苦しんでいるユウキへの声掛けとしては零点。しかし、メーティスはもう一度問いた。

《復唱。貴方はユウキ・カグラザカですか?》

するとユウキが次第に大人しくなる。呻き声が止まり、次に聞こえたのは笑い声。壊れたブリキのような、狂った笑い声。

一見人を不快にするだろう笑い声も、セイヤの笑い声が常識を覆すような物なせいでメーティスは何も思わない。

 

《復唱。貴方は──────》

 

「確信があって、質問してるなら...それってタチが悪いって言うんじゃないかな?」

 

《問を変更します。問。貴方の名前は?》

 

「ボクは悪徳の意志(アンラ・マンユ)──────ヴェルダって呼んでよ」

 

 

メーティスは今、理解した。

目の前にいる男が、どういう存在であるかを。

この男は餌だ。メーティスにとって可愛くて仕方がない弟の為の餌。

ずっと、メーティスはセイヤのスキルの統合を考えていた。セイヤのスキルは現在無駄に数が多く、一つ程度にまとめることが出来ないかと試行錯誤を繰り返してきた。

しかし結果は『器が足りない』という謎の結果ばかり。

 

そう、メーティスは理解した。

このヴェルダこそが“器”であると。

しかし残念な事にヴェルダの力は発展途上らしい。これではセイヤのスキルを全て受け止めきれない。今殺すのはあまりにも惜しい。

 

どうやらヴェルダはユウキの悪素を吸収し続け、地道ながら成長しているらしい。

ならばその成長はユウキに託して、頃合を見て殺す方がずっといい。

 

 

《問。ヴェルダ、貴方はユウキの敵ですか?》

「何でそんなことを思ったんだい? ボクらは一心同体。目的を共にしたナカマだよ」

《否。それは嘘を含んでいます。貴方は......もっと別の目的がある。》

「やけに鋭いな...はぁ、教えないよ。教えたって意味がない」

《そうですか。では、私が一部ですが当てましょう。》

「どうぞ?」

《貴方は、日本という国でユウキに芽生え...この世界に来て、セイジ・カミシロに諭されたのでは無いですか? 例えば、ユウキを利用して力を得れば、望みを叶えられる......だとか》

「ッ! ......あっはは、凄いな。何で分かったの?」

《かまを掛けただけです。》

「は?」

《かまを掛けただけです。ユウキガユウキならば、貴方も貴方ですね、マヌケ》

「成程......一回痛い目を見ないと立場が弁えられないのかな? いいよ...分からせてあげる」

 

 

ヴェルダは瞬時に剣を出現させる。

そして構えとほぼ同時にメーティスに向かった。

メーティスは戦闘態勢に入らない。あるのは呆れ。

もう少し会話をして情報を集めようかとも思考したが、ユウキと違いヴェルダは少々喧嘩早いらしい。

会話の出来ない馬鹿は嫌いだ。故に、早急にユウキの人格を返してもらうことにした。

それに一度倉庫の中に入ってしまった、人格だ。この倉庫の中に入れられた者が隠せることなんて何も無い。知れることは全て知れた。

 

ヴェルダの人格を引っ込ませるだけなら簡単な話だ。

しかし、それでは意味が無い。

幸運な事に、ユウキはギィとの戦闘中に「強欲者」が究極能力に進化出来る予兆があった。

進化に際して増幅した魔素をヴェルダが吸収した事で、ユウキの力をヴェルダが上回ってしまったから現在、こんな状況にある。

ユウキが弱いままでは、何度この状況になるか分からない。ならばユウキ自身でヴェルダを超え、抑え込んで貰わなくては。

 

メーティスは結論付けた。

ヴェルダをユウキ自身で抑え込み、その反動で「強欲者」を進化させようと。

餌は今のうちに育てておくに限る。だって、その方が美味しいもの。

 

微かな笑みに含まれた、セイヤへの思い。

それはまるで、弟の為にサプライズを用意する兄のよう。残念ながら倫理観とやらは持ち合わせていない、兄が兄ならば、弟だってそのサプライズを酷く喜ぶだろう。

 

 

 

雑に振り下ろされた剣を、素手で受け止める。

戦闘は苦手な方だが、倉庫内でならば無敵である。

ヴェルダやらユウキやら、そんな者達には遅れは取らない。

 

受け止めた剣を強く握り、そのまま引き寄せる。傾いたヴェルダの体を瞬時に地面に押し付け固定した。

 

顔を近づけ、声をかける。

 

 

《告。ユウキ、帰ってきなさい。》

 

二度目、三度目、四度目...五度目の呼びかけでメーティスの我慢が効かなくなった。

バチンッ、と肌がなる。

メーティスはヴェルダの頬を思い切りに振ったのである。これは流石のヴェルダも驚いた。

 

そして、ユウキにも効果があった。

ヴェルダがもがき出す。

何でコイツらは同じ体なのに、人格を変えるのにお互い苦しんでいるのだろうとも思ったが、まぁ別にどうでも良い。

 

《共存共栄も、外面だけならば無意味ですね》

 

セイジ・カミシロはユウキとヴェルダに別の事を言っている。単純な話ではあるが、他者によって別の形にこねくり回された思考同士は噛み合わない。目的への微かな意識や意味の違いが大きくなればなるほど対立は激化する。

 

その激化をセイジ・カミシロが良しとするなら、メーティスもその状況を見届けよう。

 

 

《告。これが最後です、ユウキ────起きなさい。》

 

 

一瞬だけ、ヴェルダだかユウキだかの体から力が抜ける。

そして次に魔素が膨れ上がった。存在値が瞬く間に上がっていくのがわかる。

「強欲者」が「強欲之王(マモン)」へと進化した。

メーティスとしては、計画通りであり大満足の結果である。

 

「ゴホッゴホッ、クソ......ヴェルダめ...ゴホッ大人しくしてろって言っのに」

《否。貴方が弱いのが原因の一つでもあります》

「煩いなぁ、セイヤみたいな見た目で確信をついた事を言わないでくれるかな? 憎たらしく煽ってくれてる方がまだいい」

 

《ユウキ、ヴェルダを制御しなさい。そうしなければ、いつか貴方は飲み込まれるでしょう。そうすれば、二度と戻っては来れない》

 

 

そんな事はユウキも言われなくても分かっているんだろう。

返事はなく、代わりに憎たらしげに視線を向けてくる。

 

「ギィは?」

《解。戦闘は終了しました。戦線の離脱に成功。貴方も早急にここから出ていきなさい》

「暴君すぎるだろ......はぁ、お手間をかけましたよ! えぇすみませんでした!」

 

 

《是。次はこの様な事が無いように》

 

メーティスがユウキを倉庫から無理矢理外へと引きずり出す。

 

一人になった空間で、思考する。

人間とはやけに難しいと。

しかしだからこそ、面白いのだと。

 

メーティスという自我はこの状況を大いに楽しんでいた。




原作よりヴェルダとユウキが仲悪です。不快に思われた方はすみません。
これも全部セイジが悪いんです!(私が悪い)
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