転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第99話...東の帝国

ベチャベチャと音を立てて、体が地面に打ち付けられる。既視感が凄い。

あの状態で引き寄せてくれた事には感謝だが、一体どんな力で引っ張ったらこうなるんだ。

大体戦闘中の人に追い打ちをかけるんじゃない。助けられたのか、怪しいったら困る。

 

体を再生させながら辺りを見渡す。今日で何度目の再生かは忘れたが、そろそろアカ・マナフが悲鳴を上げそうだ。

辺りは、こじんまりとした小さな部屋。多分物置に近い。所々に中華風の装飾がされているのは持ち主の趣味だろうか。

 

《解。私がダムラダに迎えを頼みました。ここは東の帝国です。

そして、迎えに来た者は現在、主様(マスター)の横に居ます。》

 

──────横?

 

「ッ......だァ! びっくりした! 何だよお前、は? 無言で横に居ないでくれる?」

「騒がしい、君は魔力感知も持っていないのか?」

「魔力感知じゃないし、万能感知だし。てか、こんなボロボロなの見て分からない? もうねぇ、周辺状況を確認する余裕すらないわけ!」

「はぁ...煩い。少しは黙れ。子供の相手をする気は無いんだ」

「あぁ?」

 

コイツ、こっちは機嫌が最低下層に突入してる状態で質問に答えてやったってのに...何だこの態度。ムカつく。

いや、落ち着け。そう...俺が落ち着かなきゃ会話が進まないのは事実。

体を再生するために一分待つように相手に言えば、素直に頷いて黙った。最初からこうすれば良かった。

 

そして宣言することきっかり一分、何とか体の再生が完了した。アカ・マナフ再生屋さん、本日閉店である。

 

 

「終わったか?」

「何とかね、で? お前誰? 確か俺ダムラダに迎えを頼んだはずなんだけど......」

「ダムラダは本日は忙しい、して君、名前すら名乗れないのか?」

「あ? 俺が最初に誰って聞いたんだけど。まぁいいや、聞くなら自分からってやつだね、礼儀だ。俺は神代誠也。見たところお前、日本人だろ?」

「......近藤達也」

「げっ! お前かよ、達也って......はぁ、最悪」

「自分は君の上司だ。呼び捨てとは感心しないな」

「しなくて結構。チッ、あーあ...堅苦しそうな奴が上司になったもんだ」

「君はだらしが無いな」

「戦闘後だって言ってんだろ!」

「性格の話だが」

「はぁ!?」

 

 

近藤達也───情報に巣食う怪人。

帝国の影に潜む者。

人であり、魔を従える者。

帝国情報局局長兼帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)No.1

 

 

達也の自己紹介を聞きながら、軍服に着替える。ダムラダが“軍服を着ていれば身分は保証される”と言ったのを思い出したからだ。

随分と不思議な言い様だと軍服を渡された時に思ったが、達也を見てその話を聞くとよく分かる。

どこまで行ってもこの国は実力主義。

強い者が上にたち、弱い者が下にいく。別にそれ自体は珍しい事でもない。魔物だって弱肉強食が根底にあるし、人間だって似たような物だ。万物は全て上下を明確にして回っている。

だから東の帝国の国風に対しては何も思いはしない。だが、軍服を着れば最上の権利を得られると言うのは、自身の立場や実力を麻痺させやすい。

ましてや皇帝、軍、臣民との間にある距離は果てしなく政治も武力も皇帝が握っている。何故なら、皇帝こそがこの国で最も強いから。

皇帝の強さに流されながら袖を通した軍服はいずれ思考を鈍らせ、己の強さを錯覚させる。

 

東の帝国は国としてみた時、致命的なまでに軍事が成り立っていない。

余りにも扱いやすい、そう思ってしまう。皇帝を殺せばこの国はどうなる?

皇帝を殺した物が新たに頂点に立つだけだ。麻痺した脳では皇帝が変わった事による国の崩壊を正しく理解出来ない。

いつか東の帝国がもうかつての面影を保っていないと知る頃には、東の帝国の住民達はもう残っていないだろう。

 

この強固な軍事力に隠れた脆さこそが、父や俺、果てはユウキにとって利用するに値する価値になる。

 

目の前に立つ、この男はそれを理解しているのだろうか。

まぁ、どちらでも構わないが。

 

 

「せっかくだしこの国を案内してよ。どうせ皇帝様は俺がやって来た事に気づいてるはずだ。挨拶は明日でもいいだろ?」

「まぁいいだろう。しかしだ、もう一人気配がする」

「あぁ、ユウキね。カガリって奴が先にこの国に来ただろ? そいつの気配のある所に捨て置いた。今頃ダムラダ辺りが対応してるさ」

「そうか...」

「ねぇ、この軍服俺に似合ってる?」

「知らない、だが着崩すのは宜しくない」

「つまんない男だなお前は。いいんだよ別に」

「はぁ......」

 

まぁ、ユウキを捨て置いたのは俺じゃなくてメーティスだが。

ユウキの中にあるヴェルダという存在も気になりはするんだよな......ユウキのスキルを進化させて制御出来るようにしたってメーティスが言ってたけど、いつまでももつとは思わない。

どうせ当分は東の帝国に二人ともいるんだ。地道に調べてみるとするか。

メーティスも珍しくヴェルダには興味を示したようだしね。

 

 

「おい、行くぞ」

「?......何処に?」

「案内を頼んだのは君だが」

「あっマジで案内してくれんだ」

「要らないなら自分はその方が有難いが」

「要る要る、めちゃくちゃ要る」

 

 

どうやら、俺が引っ張られた部屋は本当に物置だったらしい。

ここは東の帝国の軍事基地。

混成軍団・魔獣軍団・機甲軍団───どれも種族はバラバラであり最新技術と古来から培われた武術が混じり合う心・力・技術の象徴。

そしてもう一つ、帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)。最も数が少なく、しかし三つの軍団に引けを取らぬ力を持つ少数精鋭の皇帝の守。

 

それらが交わる軍事基地は東の帝国の中心地にあるらしく、皇帝のいる帝城に続けて二番目に大きな施設だそうだ。

『力こそ全て』を体現した様に団員の待遇の良さが感じ取れる。

達也は首都ナスカを案内してくれると言う。軍事国家とは名高いが、異世界人が多い故にそこそこに文化の発展もあるそうだ。

ついでに晩飯におすすめの飯屋を奢ってくれるそう。近藤達也、案外世話焼きである。

 

軍帽を被り直し、オレンジに照らされた廊下を二人で歩く。

日が陰り出した為か、窓から見える訓練場もガラリとしており人はまばらだ。

 

「皇帝は、戦争の先に平和を見ていると聞いた」

「誰からだ」

「俺がファルナスカ王国にいた時に書類だとか物資を受け取りに来てたやつから」

「それで?」

「父が東の帝国と手を組むのは理解出来る。でも皇帝が父と組む理由は無い筈だ。流石に父の出生を皇帝が知らないとは思えない。ならば、父の目的が己の目的と反する事だって理解している筈だ。何で...手を組んだのかな?」

「何が言いたい」

「まるで...皇帝とは“別の誰か”が手を組んでるみたいだと思ってさ。だから───ッ!」

 

 

まるでその続きを言わせないように、もしくは否定するように。言葉を繋ごうとするより前に、首に達也の手が回った。

壁に打ち付けられ、微かにつま先が浮く。

もはやギィとの戦闘で体は疲弊し切り、指先一滴すら液体には出来ない。

 

俺自身の体は、呼吸を必要としない。

しかし、まるで息が詰まったように苦しいのだ。剣を握るタコの出来た手が首の骨すらも折ろうと力を入れる度、体の内側へと達也の魔素が流れ込んでくる。

 

 

「なんだ......っ、図星か?」

「黙れ。貴様一体何を考えている? もし仮に陛下が別人だとして貴様はそれを何に利用しようと考えた? 返答によっては今すぐにオレがこの手で始末してくれる」

「はっ...口調、乱れてんぞ......ぃぐ、ぁぁ」

 

パッと達也の手が話される。

地面に滑り落ちた俺の体を今度は、足で踏みつけ額に銃を打ち付けたてきた。

俺もよくやる体勢だ。まぁ、今は立場が違うらしいが。

 

「ゴホッゴホッ、あーあ懸念してたブラック上司に巡り会ったみたいだ」

「まだそんなに喋れる元気があるとは流石だな」

「ははっ、でもこれで答え合わせができたな。皇帝は“誰か、もしくは何かに支配されようとしている”。そして十中八九、お前はなぜ皇帝が父と手を組んだのか聞かされてない。

だから俺に聞いたんだ。何を考えたか、だって俺と父は同じ目的で動いているから」

「質問にのみ答えろ」

「あぁ、構わない。皇帝はきっとこれから先の戦争で命を落とすだろう。そして、完全に別物へと成り果て...新たな目的へと動き出す。

俺は皇帝の別人が成す何かが俺自身の目的を達成する為に必要だと考えている」

「陛下を殺すつもりか」

「違うな、皇帝を殺すのは俺じゃない。

きっとそれは───“お前なんだろうな”」

「............」

「今ここで俺を裏切り者として始末するのは避けるべきだ。父の制御はもう出来なくなるし、何よりテンペストに対する大きな武力を失う。言っておこう、今の東の帝国の軍力ではテンペストには勝てない。俺を手放すか? 達也

............俺は“時が来るその時まで”お前の指示を全て聞こう。お前が、俺を裏切らせなければいい...違うか?」

「時とはなんだ?」

「皇帝が死ぬ時だ。正確には、“お前にとっての皇帝が死ぬ時”だ」

 

 

達也は数秒考える素振りを見せて、俺の上から足をどかした。

案の定軍服にはくっきりと足跡がついている。

これだから白色だなんて乗り気がしなかったのだ。

 

 

「聞け」

「性急だな」

「オレは貴様のその案に乗ろう。これは余りにも例外的な出来事だ。いいか? その時が来る時、それは貴様の命日だ。貴様がオレの命令を聞かなくなった瞬間に始末する」

「それで?」

「これは命令だ。『裏切るな』 時が来るその時まで......」

「今の話をくっつけると、使い潰されて死んでいけって言われてるようだけども」

「返事は肯定のみだ。

応えろ、“帝国情報局特殊諜報員兼帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)奇襲兵 神代誠也”」

「──────仰せのままに」

 

 

“帝国情報局特殊諜報員兼帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)

俺の役職名な訳だが、やっぱり長すぎると思うんだ。

 

 

「はぁ、終わったなら飯にしよう。ほら早く連れてって、そしていい額を奢らせてやる」

「自分の気に入っている店が君の口に合うかは保証しない」

「大丈夫、何となくお前とは食の好みは合いそうだ。ただの勘だけどね」

 

 

夕暮れが濃くなった廊下を白が二人歩く。

先程までの殺気は消え失せて、片方に着いていた靴跡も気づけば消えていた。

一方的な雑談は笑顔を孕んでいる。

 

奇妙な主従関係が確かに今生まれた。

果たして、“時”とやらは本当に来るのか。時が来た先に待つのはどんな関係か。

確かめることが出来るのは、その時が来てからだ。




次の話も東の帝国のお話。
数話リムルside挟んで、セイジお父さんにバトンタッチ。書籍11巻はほぼセイジがメインです。
ここでセイジの過去とか色々書きたいと思っていたりいなかったり......。
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