虹ヶ咲のメンバーを無自覚に曇らせる転生者の話 作:投稿するヒゲ
拙い作品ではありますがよろしくお願いします。
初夏に入り、ジメジメとした梅雨の季節になった。
学園からの帰り道、尋常じゃない程の雨が僕に降り注いだ。道路が水没し、車すら走れない量の豪雨。
学園に残っている栞子から速攻で連絡が入る。迎えに行こうかとの件だが、僕を迎えに来れば栞子が危ないと思い、是非迎えに来て今すぐ家に直帰したい所存ではあったが断念した。
どうすんべ、これ?
近くのマンションで雨宿りしている状態の僕だが、身体はびしょ濡れでポタポタと床を濡らしている。
こんな制服のままだと風邪を引いてしまう。その場合、過剰に栞子が心配して僕の心が死ぬ。この結末だけは何とか避けなければいけない。僕はスマホの連絡先を確認した。
僕は友だちが少ない。
あれ? なんだか聞いた事ある字の羅列だな。ラノベとかにありそう。
じゃなかった、今は数少ない連絡先から誰を頼るかを考えないと……と言っても、僕の連絡先は同好会のメンバーしかいない。
誰を頼って良いかわからねぇ!
いや、別に普段から気軽に連絡し合っている中ではあるんだけども。だからと言ってこちらから迷惑をかけるなんて僕にはできない!
最終手段としては、自力で家まで辿り着かないといけない訳だが……もはやこの状態では溺れてしまう。僕は金槌なんだ。恥ずかしい程の金槌だ。足の付かないプールでは入った瞬間に沈む。
僕の身長が百四十台な事をここまで恨んだ事はない。
……終わった。
はい、終わりました。
ここで僕の冒険は終わりました。
おぉ、死んでしまうとは情けない。
思考停止していた僕の手に握られたスマホが震えた。
リナリーからの電話だ。
「結、大丈夫?」
だいじょばない。
小刻みに身体が震えている気がする。
メッセージアプリで簡潔に状況を伝えた。
どうすればいいすか?
リ↑ナ↓リーぼすけて。
「私の家そのマンションだから、良かったら家来る?」
うち……くる?
うちくる。
家来る?
僕の脳内でリナリーのクソカワボイスが反復する。
なんと魅惑的な言葉だ。純粋な心配百パーセントだとしても邪な想像が僕の脳内に過る。
これはいけない。即禊ぎ案件だが、今は背に腹はかえられぬ! 倒れるか、倒れないかの瀬戸際なんだ。手段は選んでいられない。
僕は急ぎ、指定された部屋へ向かった。
扉を開けると、そこに居たのはリナリーではなく、パーカーとショートパンツに身を包んだ愛さんだった。
「ちーっす、ずぶ濡れだねー。じゃあ、服脱いじゃおうねー」
なぜかリナリーの家に居る愛さんに、手慣れた手つきで服をひん剥かれ、僕はお風呂に直行させられた。
「脱いだ服は洗っておくから、代わりの服置いておくね」
何から何まですまんのう。
わしゃ、もう感激の嵐じゃ。
僕はシャワーをサッと浴び、置かれていたTシャツに袖を通す。僕の裸Tシャツって需要あるのか? 僕は自分の姿を鏡で見て、ガワだけは美少女なのを再確認して外に出た。
二人して何かカメラに向けて話している。
なになに、『天王寺璃奈のツナガルラボ』。動画配信ってやつですか。まったく最近の若いもんは迂闊に顔を出しよって(老害)……もっとやれ(豹変)。
良い時代になったものだ。ネットに繋げば推しに会える。この世界って基本充実してるよね。
「戻ってきた」
「ではでは、愛さんが髪を乾かして差し上げよう」
僕はベッドの上へと座らされ、愛さんにドライヤーを当てられる。優しく髪をすかれるのは気持ちよくて、眠くなってきてしまう。
寝るな、眠るんじゃない。愛さんとリナリーの貴重な絡みだぞ。間近で見られるチャンスを棒に振る訳にはいかんのだ。
・なんだあの可愛い子
・新たな同好会のメンバー?
・誰よその女!?
・銀髪目隠れ属性キター!
「私達をサポートしてくれている同好会のメンバーなんだ。璃奈ちゃんボード『むっふん』」
ドライヤーの音と眠気が凄くて話が入ってこないけど、リナリーがカメラに向かって話している。アーカイブは残るんだろうか? 僕も後からチェックしたい。
「髪の毛サラサラだねー。キューティクルなんてキラキラしてて神がかってるね、髪だけに」
愛さんのギャグで少し眠気が飛ぶ。
キメ顔で言われても笑ってくれるのは侑たそだけだよ。
・同好会にもサポーターっていたんだ
・愛ちゃんのあんな顔初めてみた
・スクールアイドルやってほしい
・結
「今日の配信はここまで。皆、また観てね」
丁度、髪が乾き切ったタイミングでリナリーが動画を終わらせた。
僕が邪魔してしまったかもしれないと思えば申し訳なくなる。
「大丈夫だよ、結」
優しくベッドに寝かされる。
両隣りにリナリーと愛さんが居るこの状況。眠気が吹き飛び、胸がドキドキと鼓動が速くなる。
さっきまで楽しく動画配信をしていた二人が静かになり、部屋に静寂が訪れる。
僕の鼓動の音だけが響く中、二人が僕の両腕を掴む。
「むーちゃんはさ、アタシ達の事どう思ってる?」
質問の意図がわからない。
少し考えて、すぐに答えを出す。どうせ僕とは住む世界の違う二人だ。僕が思考しても何が言いたいのかわからんだろうよ。
「友だちだって思ってくれてるなら、結はもっと私達を頼って欲しい」
おうおう、頼ってるよ?
そもそも僕はサポートで、お二人が主役なんだから、二人に活躍してもらわないと始まらないよ?
「これは、わかってない顔だ」
「むーちゃんは一人で頑張り過ぎたよー」
分からん。
心配してくれているのはわかるんだけど、何をそこまで心配するのかがわからん。
腕を掴まれたまま抱きつかれる。
あーダメダメ、え◯ち過ぎますー!!
僕の意識が強制的に刈り取られる寸前に思った。これ、僕が何をどうすれば禊げるのかわからない程の幸福だ、と頭の片隅で考えたのだった。
◆
よほど疲れてしまったのか、すぐに寝てしまった結を見る。
私──今の天王寺璃奈が明るく過ごせているのは、今も幼げな表情で眠る仲谷結のおかげだった。
初めて彼女と出会ったのは保育園の頃まで遡る。その頃は、感情を出す事が苦手で誰とも友だちになれなくて一人で過ごしていた。
そんな時、話しかけてくれたのが彼女だった。
「一緒に遊ぼうぜ!」
陽の光を反射するキラキラとした銀髪。浮かべた笑顔には、私を見ても不快感など一切無く。ただ無邪気に私へと笑いかけてくれた。
その日から彼女は、一人部屋で過ごそうとする私を外に連れ出してくれた。砂場で水を流して泥団子を作ったり、二人で紙飛行機を作ってそれを飛ばしあった。
表情が変わらない私を気にすることのない結と遊ぶ時間が楽しみで、保育園も行く事が楽しみになった。
そして、意を決して聞いてみた。どうして他の子達の様に私を気味悪がらないのか、どうして私と遊んでくれるのか。
「楽しい時は楽しいし、悲しい時は悲しい。別に表情が変わらなくても、それは変わらない。それに気味悪がられてるって……それって貴方の感想ですよね?」
そんなことないんだよ。別に誰も私を怖がって無い。ただ、どう接していいかわからないだけだと教えてくれた。
そして、結の好きなアニメに出てくるキャラがボードに予め表情差分みたいに絵を描いておいて、感情表現してると言ってイラストボードとピンク色のペンをプレゼントしてくれた。
それから私は少しずつ友だちが増えていった。その後保育園を卒業し、結とは会えなくなった。
その間に、結がどれだけ悲しい目にあっていたのかも知らずに過ごしてしまった。
栞子ちゃんに結が受けた惨事を聞いた。
私が結に貰った幸せを享受している間に、結は人生のドン底に突き落とされていた。
私はひたすらに悔しくて泣いた。
大切な友だちが酷い目にあっている時に側に居られなくて、何が友だちなんだ。
私が餌を上げていた猫──はんぺんが足に擦り寄ってくる。
はんぺんと同時に私の隣に座る愛さん。
愛さんも、結とは昔からの友だちのようで私と同じく悔しさでいっぱいだったみたいだ。
それから私達は仲良くなった。それは目的を一緒にしたのが大きかったと思う。
──結をまもりたい。
それは身体的にもだけど、もちろん心もだ。
結は今、同好会の事となると一人で頑張ってしまう。いや、頑張れてしまう。
それは、昔から辛い事を一人で耐えてしまった弊害にも感じる程だ。
でも、私達は結が頑張らなくても良い様にはしない。それは結の心を殺してしまう可能性があるからだ。
あくまでも自然に、自発的に、自ら私達を頼ってくれる様にしないといけない。
だから、結を私達は甘やかす事にした。
どれだけ辛くても、どれほど頑張っても、彼女の心が壊れない様に、彼女自身が本当の意味で死んでしまわない様に、ドロドロに甘やかす。
それは他の人には出来ない事だ。
私と愛さん。結と出会い、離れ離れになってしまった私達にしか出来ない事なんだ。
結を挟んで反対側に居る愛さんもきっと同じ事を思っている。
──だから、私達を頼って。私に……逃げて来て、結。
そんな想いを込めて、私は結の首に顔を埋めた。
この作品は一応のプロットは完成しております。
オリ主&栞子編が第一期終了地点になり、クライマックスです。
後に、第二期編も今後の皆様の評価次第で気まぐれに制作しようと考えております。