虹ヶ咲のメンバーを無自覚に曇らせる転生者の話   作:投稿するヒゲ

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第十三話 Resolve to EMOTION's 3

 それから目まぐるしく日々は過ぎた。

 

 僕はスクールアイドルフェスティバルを開催する為に準備を全力で行なっている。

 

 他校のスクールアイドルを招いたり、Web配信や、各種イベント関係のお偉方との話し合い。

 

 全て滞りなく終わらせる為に寝る間も惜しんで準備した。

 

 そして、栞子にメッセージを送る。

 

 大丈夫。

 僕や同好会全員、そして学園の皆が一緒だ。

 だから大丈夫。

 栞子ならきっと──

 

 

 こうして、スクールアイドルフェスティバル当日を迎えた。

 

 

 

 

 結に呼び出されて、私は最後の準備を他の人に任せてステージ裏まで来ていた。

 

 結と向かい合う。

 いつになく真剣な表情に、私は戸惑いを隠せずにいた。

 

『凄い賑わいだね』

「そうですね。これも、結が一生懸命準備したおかげです」

 

 きっと虹ヶ咲学園だけではなく、この近辺ではラブライブ関係を除けばスクールアイドルのイベントでこれ程大きなものは初めてだと言えた。このイベントを訪れる人が皆スクールアイドルを好きで集まっている。

 皆が笑顔でイベントを楽しむ様子を見て、どこか誇らしく、何より協力できているのが嬉しかった。

 

 なのに結は私にこう言った。

 

『栞子、歌ってよ』

 

 まただ。

 また結は私に歌ってと言う。

 

 どうしてだ、と思う。

 私にスクールアイドルの適正は無いと言うのに、どうして結は私をスクールアイドルにさせたがるのか。

 

 私は一気に感情が昂るままに言葉にした。

 

「私はッ! 私には結を笑顔にできる存在(スクールアイドル)の適正は無いんです!」

 

 嗚呼、言わなくてもいい事を私は言っている。遠くから別の私が、私を冷ややかに見つめていた。

 

「あなたの人生を狂わせた私には、私にはその資格は無いのです」

 

 ずっと考えていた。

 あの時の選択は正解だったのか。

 あの時、感情のままに結を引き取った事は間違えではないのかと。

 

 その先に、今とは違った、あなたの幸せがあったのではないかと。

 そう、考えてしまうのだ。

 

 

 雨が降り出した。

 

 

 降り続く雨は、容赦なく私と結を打ち付ける。

 

 イベント用の服が濡れていくのを気にせず、結はタブレットを投げ捨てた。

 タブレットは少しの点滅の後にショートしたのか、役目を終えた様に電源を落とす。

 

「僕は……僕は栞子と出会えて幸せだよ」

 

 雨の中聞こえた声は、懐かしいあの頃とは少しだけ違う声だった。

 

「僕は栞子と過ごした日々を後悔した事なんて一度もない。だから、だから歌ってよ栞子。僕に君の歌を聞かせて」

 

 そのまま言い終わると同時に私の手を掴む。

 そして、無理やりステージに立たせると、観客席の方へと行ってしまった。

 

 

 一般のお客様や、他校のスクールアイドル、そして同好会のメンバーが見守っていた。

 

……歌えない。

 

 私には曲が浮かんでこない。

 スクールアイドルどころか、胸を張って結の友だちとも言えない私には。

 

 その筈なのに、私の胸から自然と歌詞が浮かび、口から漏れ出していた。

 

雨のあとの道にはいろんな色が集まる

 

 ステージは変わらない。

 衣装も変わらない。

 雨は止まず、私は何もあの頃から変わっていない。

 

 辿々しい歌も、雨に掻き消えて何も聞こえてはいないのだろう。

 

 それでも皆は、結は私を固唾を飲んで見守っていた。

 

 その姿を見て私は、また口から浮かぶ歌詞を零す。

 

自分は今の自分だけ本当に変われない?

 

 頭の中に何かが過ぎる。

 

 あの頃の、まだ姉さんがスクールアイドルをしていた頃の思い出。

 

踏み出せないハッキリしない気持ちのままいれば

 

 姉さんがスクールアイドルを辞めてしまって落ち込んでいる結が、私にせがんできていた。

 

大好きなことに嘘つくかな

──歌ってよ栞子

 

 私の中の何かが弾けた。

 胸の内から溢れ出る何かは涙となって私の頬を伝った。

 

 忘れていた思い出。

 思い出の中の彼女が私に笑いかけてくれた。

 

 そうだ。

 この曲は、あの時の──

 

「がんばれえええぇーー!!」

 

 ざわめきの中から、いつの日か忘れかけていた声が通る。

 

 あの日から私の隣に居て、私を支えてくれた特別な人。

 そんなあなたの為に、不器用な私が歌とも言えない曲を紡いだあの記憶。

 私はあの時には、もう──

 

 雨の音さえも置き去りに、私へと放たれた想いがそれを私の中でカタチにしてくれた。

 

 ステージが変わる。

 時を進める様に廻る懐中時計と沢山の本棚。

 それは、私の中の心象風景を映し出した世界そのものだった。沢山の本の中にあるアルバムの中で、幼い頃の私が彼女へと歌う。

 

 そして、いつの間にか私の衣装も変わる。

 昔、姉さんに憧れて自分の衣装を夢想した時の、憧れが形となった衣装。違うのはリボン。彼女がくれた赤色のリボンが、私を勇気づける。

 

 私は涙を振り払い、思い出した曲を紡ぐ。

 

素直でもっといたい

 

 歌いたい。

 もっと、もっと歌いたい。

 

心を隠したり。あの日の私はまだ弱くて簡単に泣いたけど

 

 涙は依然として止まらない。

 

 時計が廻り、アルバムはパラパラと音を立てて現在へとページを進める。

 

 彼女に歌いたい。

 皆に届けたい。

 

ちょっと背伸びして臆病もバイバイする

 

 全ての過去が走馬灯の様に私の頭を駆け抜けた。

 

解き放ってここで

 

 泣いている誰かを笑顔に出来る歌を──

 

あなたに届け

 

 私はすっかりと雨が上がり、青空が広がる空に向かって叫ぶ。

 

──あの日に届け

 

EMOTION

 

 雨と汗と涙でぐちゃぐちゃになった顔で、私は虹のかかる空を見つめていた。




初のライブシーン。
これがやりたかっただけ。
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