虹ヶ咲のメンバーを無自覚に曇らせる転生者の話 作:投稿するヒゲ
何もなければこうなるよって。
チュートリアル終了です。
僕は栞子と共に帰路に着いていた。
夕暮れ道を二人揃ってゆっくりと歩く。栞子と若干気まずくなっていた僕にとっては、久しぶりに気兼ねなく二人で過ごせる貴重な時間だ。
しかし、栞子の様子が少し暗い。落ち込んでいるとは少し違う。
僕の少しだけ後ろを歩く彼女の顔は、何処となく不機嫌そうだった。
それでも、眉をひそめている彼女の顔は先日とは違い深刻ではなさそうに感じた。
スクールアイドルフェスティバルではあんなに輝く様な笑顔を見せてくれたのに、いったいどうしたのだろう。
「一つ、質問があるのですが」
栞子がやや聞きづらそうに声を出す。
どうしたよ?
いつも言ってるだろ。
遠慮なんか捨てて、丸腰でかかってこい!
「結は、私の……私のことは何か別の呼び名では呼んでくれないのですか?」
一瞬頭が真っ白になる。
そして意識が戻ってくる。
戻ってきたと同時に、確かにと納得する。
僕は栞子の事を何故か呼び名で呼ぼうとは考えなかった。それはいつの頃からか、自然と栞子と呼んでいたからだ。
そういえば、栞子以外の同好会のメンバーにはいまだに緊張や照れが先行してしまうが、栞子に対しては何も思わない。
なんでだ?
栞子だってラブライブのキャラクターで、僕の大好きな同好会のメンバーのはず。
それなのになぜ僕は栞子と一緒に居て何も感じないんだ?
栞子が僕の方を見て何か言っているが、少しばかり思考する。
一緒に生活して安心するようになった。
一緒に食事をして嬉しく感じた。
一緒にお風呂に入って癒されるようになった。
一緒に就寝して落ち着くようになった。
一緒に……
そうか──僕は栞子の事を家族として受け入れていたんだ。
初めからこうだった訳じゃない。でも、明確な瞬間まではわからないけれど、いつの間にか僕は栞子を身内だと考えるようになっていたんだ。
母さんですら身内とは思えない。凄まじく美人な人妻だとどこかで感じている僕が、栞子だけは家族と感じている。
──そっか、僕栞子のこと家族として好きなんだ。
「結、聞いているのですか?」
「あっ、ごめんね。少し考えてたよ」
「それで? どうなのですか?」
「うん、そうだね。栞子の事は栞子って呼びたい」
「どうしてですか?」
「好きだから」
「なっ!?」
家族として、そう呼びたい。
だって、家族なのにニックネームで呼び合うのは違う気がした。
「す、好き……なのですか?」
すっごい顔真っ赤だ。
栞子がガクガクと身体全体を揺らしている。
壊れかけのオモチャみたいだね。
そんなこと言ってる場合じゃねぇ。
なんだよ。家族として好きだから別にいいじゃん。
「お、お、女の子どうしですよ。その、私は別に良いんですけど、あの……いいんですか?」
謎の上目遣い。
クッ、クリティカルダメージをノーガードで受けてしまった!
これはヤバイ。破壊力抜群だ。
というか、寧ろ女の子どうしだからいいんじゃないの?
双子の姉妹みたいでいいよね。
「ダメかな?」
「私は全然構いません! 寧ろウェルカムです!」
急にテンション上がるやん。
でも良かった。
自覚した途端に栞子の事が今まで以上に大切に思えてきたから、ここで断られたら泣きそうだったよ。
「じゃあ、これからもよろしくね栞子」
「えぇ、こちらこそ末永くよろしくお願いします結」
お互いに夕陽の中笑い合う。
美しい黒髪を紅が染めていく中、彼女の笑顔は一際輝いて見えた。
そうだ。
これから先も彼女と共に、この世界で生きていこう。
栞子が僕の隣に居てくれるなら、きっと僕も自分を許していけると思う。
そして、叶うなら彼女達の為に生きていきたい。僕にとっては想像上の世界であったこの世界だが、紛れもない現実として受け止めたい。
転生してからようやく、僕もまともに生きていける気がした。
Happy end ??
(この作品は"曇らせ"作品なので、このようなエンディングは)ないです。