虹ヶ咲のメンバーを無自覚に曇らせる転生者の話 作:投稿するヒゲ
僕とリナリーは早速、同好会へ入ろうと部室を探した。
しかし、学園があまりにも広過ぎて部室がどこにあるのかわからない。
どんな学校だよ、ここ。
もはや一つのダンジョンだよ。
途方に暮れた僕達は、ひとまず休憩しようと部室棟から少し離れた場所を歩いていた。
「──もっと振り付けを大きく!」
どこからか声が小さく聞こえて来た。
僕とリナリーはお互いに顔を見合わせながら、声の聞こえた方へと向かう。
「スクールアイドルが大好きなんでしょう!? やりたいんでしょう!? こんなパフォーマンスではファンの皆に大好きな気持ちは届きませんよ!」
そんな声を聞き、壁から少しだけ顔を出して見る。
あっ、あれは!?
同好会初期メンバーのみなさん!!
先程までダンスのレッスンをしていたのか、練習着が汗で濡れている。
これはチャンスや!
突撃して僕達も同好会に入れてもらおう。
僕が走り出そうとすると、リナリーが腕を掴んで首を横に振る。
なんだよリナリー。
びびってんすか?
確かに上級生が多いのは事実だけど、見てみ。同じクラスのかすみんやしずくさんがいるじゃろ。だから大丈夫だって、僕達一年生で徒党を組めば二、三年生なんて怖かねぇぜ!
何にせよ、ここまで来たらもう無理矢理にでも同好会に入ってもらって、僕に曲を歌ってもらうんだからね。
絶対に逃がさねぇ。
「でも!! こんなの全然カワイクないです!」
かすみんが涙ながらに声を張り上げた。
そして、僕達の横を全速力で走り去っていった。
……スゥ。
こーれ、あれですかい?
同好会が実質解散になる例のあのイベントですかい?
まずいですよ!
このままじゃ、僕達が入る前に同好会が終わってしまう。
「あれがスクールアイドル同好会……なんか凄そう」
リナリーが気押されてしまっている。
マズイ、非常にマズイ。
一刻も早く、侑たそにどうにかしてもらわないと。
いや、待てよ。そもそもアニメでは同好会は一度解散の危機に瀕しているはずだ。
なら、この解散イベントも必要なものである可能性がある。
ここで変な横入れをすると、同好会が本当に解散になってしまうのではないのではないだろうか?
ぐぬぬ、どうすればばばば!
「こんな所で何をしているのですか?」
僕達はビクッとしながらも後ろを振り向いた。
そこには、教室に残して来たはずの三船栞子その人がいた。
なんだろう。心なしか、目元に陰りがあって怖い。やっぱり何も言わずに置いて来たのはまずかったんだ。笑っている筈なのに、その笑顔に邪悪さを感じるのは僕が罪悪感を感じているからだろうか。
「探しましたよ、結。今日は用事もありませんので一緒に帰ろうと思いまして。それと、あなたは……天王寺さん、でしたよね?」
「璃奈でいい」
「では、璃奈さんも一緒にどうですか? これからは、浅からぬ付き合いになりそうですので」
「うん、これからよろしくね栞子ちゃん」
おお!
栞子とリナリーが固い握手をしている。
ええ光景や!
うん、うん。お互いに壁を取り払って仲良くなって……尊い。
これで新たな絆が芽生えましたね。
……でも、何故だろう。
寒気がする。
そして、僕の背中に変な汗が伝ってくる。
二人が仲良くなっているはずなのに悪寒がする。
というか、いつまで握手してるんだ。二人の手から絶対に鳴らない音がしだしているんだけど。
大丈夫、大丈夫なんだよね?
僕は不安になってくる気持ちを誤魔化すためにも、いつまでも互いに手を握り合っている二人の背中を押して無理矢理帰るのだった。
そして次の日、僕はかすみんに声をかけた。
授業も終わりの時間だからか、教室に残っている生徒は少ない。
今は、しずくさんや栞子も用事で居ない。ということで僕とリナリーで同好会をなんとかしようという算段だ。
あの〜、僕達、同好会ってやつに入りたいんすけど、今開いてる?
「わわっ、急にびっくりしました。それ、タブレットだよね……キャラ濃いですね……」
ごめん、ごめん。なんだかんだプリントとかを回す時は接触した事はあっても、本格的に話すのは初めてっすね。
いいでしょ、このタブレット。栞子パッパに買ってもらった最新型のタブレットなんだぜ。超小型通信機(Wi-Fi)も完備だからそんなに嵩張らないのが最高だぜ!
「それで同好会に入りたいんだよね?」
「うん。私もスクールアイドルやってみたい」
「でも同好会は……」
かすみん、暗い雰囲気の中目を逸らす。
めちゃくちゃ言いづらそう。
そらそうだ。入部したいって言っている人に、同好会が気まずくて解散の危機だなんて言えないよね。
「知ってるよ。昨日、ケンカしてた」
「なっ、あれは喧嘩というか、なんというか……そう! 方向性の違いってやつです」
解散するやん。
それ、売れないミュージシャンが解散するやつやん。
させてなるものか。
絶対に同好会は存続させてみせる!
「でも今入っても、好きなスクールアイドルにはなれないかも」
「どうして?」
「かすみん達は、ラブライブを目指してユニットを組もうとしてたんだ」
そこから始まる回想と言う名の同好会物語。
かすみんが、同好会のメンバーが、如何にスクールアイドルに向き合い、努力し続けて来たかがわかる内容だった。
「私がせつ菜さんに合わせていれば良かったのかな」
それだけに、かすみんの悲哀が伝わってくる。自分のせいで同好会が上手くいかないともなれば思い詰めるのも無理はない。
見れば、かすみんは静かに涙を流していた。
昨日の今日だ。気持ちの整理もついていないのだろう。
僕はどんな言葉をかけていいのかも分からず、タブレットを握りしめる。
「スクールアイドルって誰かに合わせるものなの?」
リナリーが俯くかすみんに声をかける。
「それは……」
「誰かに合わせるのが苦手な私じゃスクールアイドルにはなれないのかな?」
「違うよ! スクールアイドルは誰かに合わせるものじゃない。自分の大好きなもの、誰よりも自分らしくなれるようなものなんだよ!」
かすみんが思うスクールアイドルは、きっと誰よりも輝いていて可愛いスクールアイドルなんだと思わせる。そんな熱が感じられた。
「ラブライブに出るにはグループを組んで方向性をひとつにしなきゃいけなくて……でも、私達がやりたい事がバラバラでまとまらなくて」
最後の方は声が窄んでいってしまう。
リナリーが僕の方を見る。
僕はかすみんはかすみんで良いと思う。それがソロだろうが、グループだろうが君が君であれるならそれが一番だよ。
そんな想いを込めて、かすみんの腕を握る。
「そんなに苦しいなら、私はラブライブには出なくていい。同好会の動画を見て、まだファンは少ないけれど応援してくれる人を見て、私はそんな沢山の人と繋がれるスクールアイドルになりたいと思った」
リナリーの愚直なまでの素直な気持ちがかすみんに伝わる。
そうだ。
どんなスクールアイドルだっていい。同好会で自由に活動できるなら、それが一番だ。
「りな子……うん。私も、かすみんも自分が大好きなカワイイスクールアイドルになりたい。ありがとう二人とも。かすみんこのままじゃ後悔してしまうところでした」
かすみんの瞳に光が灯る。
うんうん。やっぱりかすみんには笑顔でいてほしいですね。
こっちまで元気になるわ。
「りな子、むす子? いや、むす子は何かカワイク無いよね……む、結! 早速、同好会の皆に伝えに行きますよ!」
元気になったからなのか、少し頬を赤く染めたかすみんに連れられて、僕達は教室を後にした。
◇
「ごめんなさい!」
私達は同好会の部室で集まり、話し合いをした。
誰からと言う訳じゃない。
かすみちゃんが、しずくちゃんが、彼方さんが、エマさんが、それぞれが思う事、反省した事を謝り合った。
グループで活動する事だけがスクールアイドルではない。それぞれがそれぞれにスクールアイドルとしてしたい事、伝えたい事がある。それがラブライブに出るために出来なくなるなら、ラブライブには出ずにソロで活動する。
「皆で目指す、ラブライブへの未練がない訳じゃない」
「誰かに頼れない。一人で活動していく事への不安も」
「けれど、スクールアイドルとしての"私"をもっと表現したいから」
エマさん、彼方さん、しずくちゃんが改めて覚悟を決めた。
全員まだまだ自信は無いけれど、それでもと勇気を振り絞って顔を上げる。
それが、今の虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の姿だった。
私はスクールアイドルというものを何も知らなかった。
学生が行う部活の延長線の様なものだと考えていた。
でも同好会の皆のスクールアイドルへの想いを聞いて、私は考えを改めた。
誰かの為にだとか、自分を高めたいだとか、そんな高等な理由がある訳じゃない。
私にあるのは誰かと友だちになりたい、自分の事を知って欲しい。そんな自分本位な欲ばかりだ。けど、私も彼女達の様なスクールアイドルになりたいと思った。
私か憧れたスクールアイドルはきっとこんな──
「そういえばせつ菜さんは来ていないんですね」
「やっぱりかすみんがあんな事言ったから怒ってるんじゃ」
「私達、せつ菜ちゃんがどこに居るのかも知らないんだよねぇ」
「学園の中に居るのかな?」
優木せつ菜さん。
私が結に動画を見せてもらって、スクールアイドルになりたいと思ったきっかけをくれた人。
そんな彼女は学園でも謎の多い人物の様だった。どこに居て、誰なのか、何もわからない。わかっているのは同好会のメンバーである事だけだった。
同好会を引っ張っていたのも彼女、理想のスクールアイドルを一番追求していたのも彼女。
そんな彼女がこの場に居ない。
私は、その違和感に気づく事が出来ずに、ただこの場の感動的な場面を眺めている事しか出来なかった。
そして──この場に居ない人物がもう一人。
「結?」
私は大切な友だちがこの場に居ない違和感にようやく気がついたのだった。