虹ヶ咲のメンバーを無自覚に曇らせる転生者の話 作:投稿するヒゲ
あれから数日経った。
せっちゃん説得及び侑タソ錯乱事件の後、僕は何度かせっちゃんに接触してなんとか同好会に戻ってきてもらおうと試みた。
しかし、何度話しかけても爆速で逃げられてしまい失敗。学園内で遭遇しても壁に隠れてガルルルルと唸り声をあげて威嚇してくる。
お前は犬か?
心なしか、背後に小型の柴犬が幻視できる。なに? あの子可愛いんですけど。
同好会のメンバーはせっちゃん以外は無事に集合した。
侑タソもあれから変わった事は言わないし、していない。あの時に感じた違和感が掴めずにモヤモヤとした気持ちは依然として消えないけれど、今は頑固な生徒会長をスクールアイドルに戻す方法を考え中だ。
「あぁー! もうどうしてせつ菜先輩は戻ってこないんですかー!」
かすみんが部室で叫ぶ。
ここ数日、原因が自分にあるのだと責任を感じて落ち込んでいたのが嘘の様だ。
「せつ菜ちゃん全然見つからないもんね」
「本当にどこに行ったんだろう」
言いたい。
ガッツリと生徒会長が優木せつ菜だと言いたい。でも、本人に了承を得ていない僕が勝手に正体を暴露する訳にもいかないジレンマ。
「ねぇねぇ、むーちゃんは今日はどうするの?」
僕の腕に身体ごと抱きついて覗き込む。そんなナチュラルあざといムーブを使い、僕を誘惑してくるのは宮下愛その人だった。
上目遣いでパチクリと瞬きを繰り返す。そして、なによりも感じるのが彼女の柔らかな双丘の感触だ。いくら僕が女だからと言ってもドキドキするのはやめられない止まらない。心は童貞で身体は処女なのだよ、ワトソン君。迷探偵もびっくりな真実に今更ながら動揺が隠せない。
ど、どうするって何がスか?
「むーちゃんなら何か良い方法が思い付いてるんじゃないかなーって」
ナメないで頂きたい。
自慢じゃないが、僕の成績は中の中。成績表の五段階評価ではオール3を記録した平凡を人の形に押し込めた様なステータスだぞ。本当に自慢じゃないな!
『可もなく不可もない成績です。クラスでは少し他人と壁を作りすぎているかも知れません。これからはもっと自分を出せていければいいですね』
じゃかましいわ!!
先公に何がわかるってんだ馬鹿野郎!
グレてやる!
アウトロー一直線で、盗んだバイクで走り出して学校中の窓ガラスを砕き散らかしてやるぜええええ!
ふぅ、落ち着いた。
久々にトラウマが蘇ってきてしまいブルっちまったよ。
ふん、怒りの矛先を鎮めて大人しくしている僕に感謝して震えて眠れ。
「伏兵がこんな所にも」
栞子がボソボソと呟いているがいつものことなので華麗にスルー。
部室内はせっちゃんが来ていない状況から混沌と化していた。もっと言えば纏まりがなく、部活としては支柱がいない状態だった。
「ハイハイ、一旦落ち着いて」
果林先輩が手を叩く。
「戻って来るかもわからない人間に、いつまでも構っている暇はないんじゃないかしら?」
少しだけ厳しい意見が場を一気に引き締める。
果林先輩の先輩ムーブが始まったよ。わざわざ悪役を買って出る必要ないんだよなぁ。
と、言う事で、僕は果林先輩が言いたい事をやんわりと説明した。
「つまり、果林さんはせつ菜さんが帰って来たいと思える様な同好会にするために頑張れって言いたいって事?」
そうだぜ、しずくさん。
果林先輩は根本的に優しすぎる部分があるからね。そんな所を素直に出せないのも魅力だぜ!
「果林ちゃんは素直じゃないからね」
「……別に私は」
「照れちゃって可愛い」
エマかりてぇてぇ。
一生イチャイチャしてろ。
「コホン、そ、それで前回撮った同好会のPVはどんな感じなのかしら?」
「いい感じ」
リナリーが編集した動画を見せてくれる。
「上手いじゃない」
「凄いですね。エフェクトなんかも入れて、こういうのってプロとかがする手法ですよね」
「そんなにストレートに褒められると照れる。璃奈ちゃんボード『テレテレ』」
皆に囲まれているリナリー。
いつも一人で過ごしす事の多かったリナリーが中心で同好会の活躍している。
この光景もまたてぇてぇじゃねぇか。
友だちが欲しいとか、誰かとの関係に怯えていたリナリーが楽しそうに皆と過ごしているだけでも同好会に入って良かったと思える。
この調子で活動していって、無事にせっちゃんも帰って来てくれたら良いな。
『これで……映っているんでしょうか」
動画の冒頭にはかすみんが撮影されている事に気づいていないのか顎の下からローアングルで鼻の穴までばっちりと映った、女の子としては途轍もなく恥ずかしい映像が流れていた。
「どうしてかすみんの動画だけNGテイクまで使われているんですかー!」
「いいじゃない。これはこれで可愛いじゃない」
楽しい時間が過ぎていく。
しかし、そんな時間は長くは続かないという事を今の僕達には想像も出来なかったのです。
僕は心の中でそんなデスポエムを呟いてこの後の時間を過ごした。
◇
私は家に帰ってパソコンの電源を付ける。
鞄を置いて、お気に入りのエナジードリンクを飲む。これが私が学園から帰ってのいつものルーティンだった。
動画配信サイトの同好会の公式アカウント。それぞれのメンバーの動画のコメント欄を確認する。
・かすみんって矢澤の系譜だよね
・世 界 の 矢 澤
・ここは虹ヶ咲の動画だぞ
・ぽむって正統派アイドルっぽさある
・彼方ちゃんねむねむで草
・エ マ マ
・しずくちゃんマジしずくちゃん
・オタクに優しいギャルすこ
同好会の各メンバーに対して、概ね好意的な意見が多くて安心した。
・りなりーの変わらない無表情堪らん
・踏んで欲しい
・馬鹿野郎、上目遣いで見つめられるのが最高なん
だろjk
・( ゚∀゚)o彡゚ニーハイ!( ゚∀゚)o彡゚ニーハイ!!
私についても意外な事に好印象だった。
他のメンバーと比べて、私はもっと変な意見、もっと言えばアンチコメントが多いと考えていたぐらいだ。
私は嬉しくなってどんどんコメントを更新して読み漁っていく。そうしていると、一つ気になるコメントを見つける。
・後ろに映っている黒髪ツインテと銀髪メカクレの
女の子って誰?
少しのカットに映った侑さんと結の事だった。
侑さんについてはそこまでコメント数は多くなかったけれど、結については意外と多かった。概ね結の容姿についてのコメントが多く見られる。
ピロン。
メールの通知音が鳴る。
同好会の公式サイトに届いたご意見フォーム宛だった。
内容は結の昔のクラスメイトからの連絡だった。今何をしているのか、スクールアイドルとして活動するのか、と言った少しの疑問への質問だった。
そして、最後にこうまとめられていた。
『これからも応援しています』
私は嬉しくなった。
自分の事ではなくとも、誰かと誰かが新しく繋がる。それは私が目指す夢であったり、スクールアイドルとして活動していく上での目標でもあったからだ。
そんな繋がりを作る事ができて誇らしい気持ちと、これからももっと頑張りたいと思える私にしてはポジティブな感情が湧いて来た。
「よし! これからももっともっと頑張るぞー!」
えいえいおー、と私は腕を高く上げてやる気を充填したのだった。