虹ヶ咲のメンバーを無自覚に曇らせる転生者の話 作:投稿するヒゲ
数ヶ月後。
学園生活にも少し慣れてきたけれど、まだまだ夏は遠い今日この頃。今日も今日とてやって来ました虹ヶ咲。初日と違って授業終わりで即帰宅せず、みんなで集まって学園探索と洒落込む予定だぜ。
「私達が案内してあげるね」
「泥舟に乗ったつもりでしっかり危機感を持ってね」
「侑ちゃん……」
パイセンである侑たそとあゆぴょん、そして栞子とリナリーで集まって学校を見て周る。目の前で麗しい美少女達が戯れているだけで胸が高鳴りますね。
そして何より、実物大の虹ヶ咲を見てテンションは爆上がりって訳よ。
えっ、クラスに友達は出来ましたかって?
んにゃぴ……よくわかんないっすね。
というかですね。かすかすとかしずくさんに話しかけようとしても、休み時間も放課後もすぐに何処かに行ってしまうもんだから、交流を深めるなんてできないのだ。同好会と演劇部なのか?これじゃあ好感度上がんないよ。
「一周しましたが至って普通の学園ですね」
「普通って何なのか分からなくなってくる。璃奈ちゃんボード、『あせあせ』」
うん。僕もリナリーと同じで困惑している。
思った以上に虹ヶ咲、デカイ。
いくつもの学科が存在しているのだろうが、部室棟だけでも普通の学校の校舎と同じ大きさだ。それに加えてフリースペースや体育館等の施設の数自体が桁違いに多い。もはや何の学校かわからなくなってくる。
そんなバカデカい学園のバカデカい大広間にて、ガヤガヤと人集りが出来ていた。
あ、あれは!?
いや、あの御方は!!
虹ヶ咲の『優木せつ菜』サン!
この世界にしては珍しい黒髪ストレート。小さい身体からこれでもかと繰り出されるエネルギーは僕たちに元気を与えてくれる。
そんなスクールアイドルであり、現同好会メンバーである本名『中川菜々』がそこに居た。
いやぁ、毎回の如くだけれどネームドキャラとの出会いは驚きと共に感動するものだ。
僕がそんな感慨深く頷き見つめていると、せっちゃんが歌い始める。
ラブライブ特有の固有結界と共にせっちゃんの心象風景がカタチとなり”ステージ”が展開された。
彼女の背後から焔が爆ける。熱に充てられた客席は異様なまでの静寂が包んでいた。
一瞬で観る者全ての意識を収束させたのは、単に彼女から溢れ出る直向きなまでの”好き”と言う想いに他ならなかった。
ここからだ。ここから高咲侑のときめきが始まり、同時に虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の本格的な物語が始まるのだ。
曲が終わり、集まった観客が沸く。
僕は思わず何も考えず走り出していた。
◇
私は胸の内で渦巻く感情を抑え込むのに必死だった。
隣でスクールアイドルを見つめる結。
今だに昔のトラウマからか声が出ず、表情も変わらない。側から見れば異様に映る彼女はいつも一人で孤立していた。
世界が憎い。
どうして誰よりも明るく、誰よりも優しい彼女がこんな目に遭わなければいけないのか。そして、それを理解しようともしない周囲の人間に吐き気がする。
だからか、私はいつしか結以外の人間の事に関心を抱けなくなっていった。彼女を愛せない、許せない、受け入れない、そんな人間達を私が認められる筈がない。
しかし、そんな彼女の周囲にも関わりのある人間が居る。
今も目の前で歌うスクールアイドルに興味も示さず、結を凝視し歪な笑みを浮かべている高咲侑。
そして、その隣で結を野獣の様な眼光でねっとりとした視線を絡ませている上原歩夢。
教室でもどこでも距離感が近く、いつの間にか結の膝に収まっている天王寺璃奈。
彼女達はいずれも結に対して異常なまでの好意を持っていると思われる存在だ。
今までの害意しか持たない人種と比べればマシだが私の直感が厄介だと告げていた。
自然と結へと手を伸ばす。しかし、その手が届く前に結は歌っていたスクールアイドルの元へと走り出してしまった。
──あぁ、まただ。
スクールアイドルという女学生から成るアイドルに触れる度に思い知る。私はどうしようもなく無力で、かつてと何も変わってはいないのだと。
姉である薫子がアイドル活動で起こした奇跡。結果だけ見れば失敗で終わったものだけれど、結が立ち直るきっかけになったスクールアイドル。
私が出来なかった事を容易くやってのける異常な存在だ。
今も、柱の向こうで結がスクールアイドルにサインを貰っていた。
いつもだ。
いつも彼女の心を動かすのはスクールアイドルだけ。
悔しい、恨めしい、憎たらしい、妬ましい、あらゆる暗い感情が私の心をぐちゃぐちゃにする。
──行かないで……私を置いて。
唯一、結の心に光を灯すスクールアイドル。
こんな私では彼女達と同じものには成れないのだろう。
──結を、奪わないで。
どこまでも澱んだ感情しか抱かない私には、
基本的に短文です。