「なんですか〜? 女子高生が深夜に路上でトマトジュースを袖にぶっ掛けてて何が悪いって言うんですか〜?」
私、
銃を使う本来のリコリスと違い、ナイフで敵をぶっ殺す私は返り血を浴びるリスクが高い。なので返り血を誤魔化す為、いつも数本のトマトジュースを持ち歩いている。
今回も袖に着いた血を誤魔化す為にトマトジュースをかけながら歩いていたら、運悪くパトカーとすれ違っちゃって……うんまぁ、時間も時間だし普通に補導されたよね。
「阿部さん。やっぱりこの子……」
「あぁ、たぶんやってるな。———お嬢ちゃん、ちょっと尿検査に協力してくれるかい?」
夕焼け色のコートを着たベテラン風の中年刑事さん———阿部刑事に検尿カップを渡される。
どうやらおクスリでラリってると思われてるね……。皮肉にもちょうどさっき、そういうのをばら撒いてた悪い人達をぶっ殺した後なんだけどなぁ。
警察署にどういう話が通ってるかは知らないけど、リコリス制服を着てる私たちは荷物検査をされない。大半のリコリスは荷物検査をすると、スクールバッグから拳銃がこんにちはしちゃうからね。
一応リコリスも国が運営しているので、同じく国が運営している警察とはトラブルにならないよう水面化で対策はされてるらしい。
「えぇ〜セクハラ〜。おっさん達きもーい」
対して私は、クソガキムーブでのらりくらりと躱す。尿検査……ていうかDNAなんて警察に残したら後で絶対に怒られるもん。
そして私は知っている。JKの“きもい”はおっさんに効果覿面ってことを。
予想通り表情を強張らせて胸を抑える刑事さん2人に内心ごめんなさいしながら、私はなんとか姉御が来るまでの時間を稼ぐ。
姉御に連絡してから約20分。そろそろ来る頃かなと思っていたら、玄関から聞き慣れた足音が。
「姉御!」
「うん? この子の保護者ですか……っ⁉︎」
振り返った阿部さんが、またも表情を強張らせる。彼の視線の先には、身長190センチ近くはある熊のような隻腕の白人マッチョ。
隆起しまくった筋肉によって今にもはち切れそうな白シャツに白いスラックス。差し色として使われるライトブラウンのサスペンダーとベルト、革靴がお洒落な大男が刑事さん2人を見下ろしている。
阿部さんじゃない方の若い刑事さんなんて、今にもちびりそうな顔してるよ。哀れな。
「……この人が君の保護者なのかい?」
「うん! 姉御!」
「
「13のやつ?」
某俺の後ろに立つな系スナイパーを引き合いに出されるけど、残念ながらそのキャラの顔がパッと出てこないのでググる。
お、出てきた。……う〜ん、姉御の方が厳ついかな。
「ご迷惑お掛けしてごめんなさいね。その子の後見人をしております、アンドリュー・ヴィオラです」
「「 ………… 」」
「こら楓! ちゃんと刑事さん達にごめんなさいしたのかしら?」
「うっ…まだです」
「悪いことしたらどうするって教えたか、覚えてないとは言わせないわよ?」
「……はい。ごめんなさい」
わりと本気で怒られたので、ここは素直に謝ります。さっきも軽く暴言吐いちゃったし。
しかし刑事さん2人は私の謝罪になんて目もくれず、姉御を見たまま凍りついてる。
いや、分かるよ? 片腕しか無い白人マッチョがオカマ言葉喋ってるんだもん。個性強すぎだよね。
でも、一応人が謝ってるんだから聞きましょうよ。ね?
「アタシからもちゃんと言って聞かせますから、ここはどうか穏便に済ませて貰えないかしら? あっ、そうそう! 2人ともこんな時間だしお腹空いてない? お詫びと言っちゃ何だけど、ウチの店のハンバーガー持ってきたから良かったら食べてちょうだい? 新作なのよ〜」
姉御のマシンガントークによって、この場のイニシアチブを完全に握られた刑事さん。
呆然としてるのも構わず、食欲を唆る香りをこれでもかと発する紙袋を手渡されてコクコク頷いてるよ。
「てかそのハンバーガーって私の……」
「
「なんでもないです」
ハンバーガーの所有権を主張しようとしたら、綺麗な発音で威嚇されたので渋々引き下がる。
うぅ……そのハンバーガー、元はと言えば私のなのにぃ〜。お腹空いたよぉ。
「あとこれ割引券。ウチの店キッチンカーだから、コロコロ場所変わっちゃうのよ。だから使用期限は無いの。いつでも使ってちょうだい? あ、出店場所はSNSで告知してるからフォローしてくれると嬉しいわね。刑事さん達、SNSやってるかしら? …え、やってない? この時代、SNSは情報化社会の最前線よ? ほら、スマホ出して。初期設定やってあげるから」
姉御、店の宣伝も兼ねてスマホ強奪。まさに熊のような大きな右手だけで、器用にスマホ2台を同時操作して我が店『オータムサンド』をフォローさせた。
……絵面だけ見ると海外マフィアにカツアゲされる日本人なんだけど、それが日本の警察署内で行われてるんだから凄まじい。
他の夜勤の警察官も何事かと玄関に集まってるけど、姉御を見た瞬間関わりたくなさそうに引っ込んでいく。日本の警察は仲間意識が高いって話だけど、どうやら嘘みたいだね。
「はい、出来上がり。出店場所は毎朝7時に投稿してるから、必ずチェックしてちょうだい」
「あ、あぁ。ありがとう……っと、そうだ。これってどうやって“ふぉろー”? っつーのやるんです?」
「あら刑事さん。誰か気になる人でもいるのかしら?」
「行きつけの喫茶店がね、
「まぁいいわ。アカウントのお名前、教えてもらえるかしら」
「あかうんと…? あー“喫茶リコリコ”って店なんだが、それで分からないかい?」
「……偶然ね、刑事さん。あの店の常連さんなの?」
「そう言うってことは、おたくも? でもあんたみたいのは店で見た記憶がないがねぇ」
「アタシはあそこの店長と古い知り合いってだ・け・よ。世間って狭いわね〜」
「そうですなぁ。……ん? ってことは君、千束ちゃんの知り合いかい?」
世間話みたいな雰囲気になりつつ、話の矛先が私に向いてきた。
「うん。お友達。たまに一緒に映画観てる」
表の顔は阿部刑事が言う喫茶リコリコの看板ウェイトレスで、裏の顔は歴代最強のリコリスちゃん。
天真爛漫で超絶明るく、誰からも好かれるタイプの女の子だね。もしリコリスじゃない、普通の学校にいたらクラスメイトの男子全員が好きになっちゃうタイプの。
あと銃弾とか避けちゃう。もうちょっとで10年経つ通称『電波塔事件』を解決したらしいけど、単純計算で7歳だよね。
つまり少なくとも7歳から既にリコリスとして前線で拳銃ぶっ放していたということになる。
私はその頃日本にいなかったし、むしろリコリスにぶっ殺される側として生活してたから詳しいことはよく分かんないだよね。
そんな彼女だけど、何やらリコリスの本部であるDAから飛び出し、今は支部の“喫茶リコリコ”で活動している。
リコリコの店長さんは姉御の古い知り合いで私のコーヒーの師匠だから、その縁で仲良くして貰ってるよ。アクション映画のチョイスが絶妙に素晴らしい。王道こそ至高だよね。
3年半前、初めて会った時は
「そうかそうか! 千束ちゃんのお友達なら、悪い子なわけないな! しょっ引いて悪かった。この通りだ」
「あ、うん……こちらこそ、紛らわしいことしてごめんなさい。事情は言えないけど、私も色々あったんだ…です」
「あぁ、そうだな。
申し訳なさ半分、同情と憐れみ半分って感じの感情を目の奥に隠しながら阿部刑事は人の良さそうな笑みで手を合わせてくれた。
そりゃまぁ一般的に見れば、片腕の無い白人男性(オカマ)が保護者の女子高生なんて訳アリに決まってる。
だからとりあえず今回は何も聞かず見逃してくれるらしい。阿部さん優しい。
「ありがとうございます。リコリコだけじゃなくて、私のお店にも来てくださいね! サービスしますから。ね、姉御?」
「そうね。融通利かせてくれたお礼は、花丸満点のランチでさせてもらうわ。ありがとう♡」
私のウインクで癒し、姉御の投げキッスで現実に戻す。
『オータムサンド』名物のコンビネーションを刑事さん達かまして、私たちは押上警察署を後にした。
「あの、姉御……ごめんなさい」
「別にいいわよ。しつこいけど、怪我はないわね?」
「うん」
「だったらさっさと帰りましょ。アタシもお腹が空いたわ」
ポンと、私の頭に姉御のでっかい手が乗せられた。その温かさに安心しながら、私は聞いてみる。
「やっぱりコロコロ丸はまだ直らない? あれがあるだけで現場のやり易さだいぶ違うんだけどなぁ〜」
「スラッグ弾なんかぶった斬るからもうガタガタよ」
「うっ…だってぇ〜」
「はいはい。斬らなきゃ当たってた、でしょ? 別に責めちゃいないわよ」
「本当?」
「本当よ。でも、もう新しいのに換えた方がいいんじゃないかしら? そっちの方が手っ取り早いわよ」
「それは嫌だ。姉御のお下がりだもん」
「だったらもう少し待ちなさい。打ち直しって時間掛かるのよ」
「はーい」
頭の上に乗せられたでっかい手をほっぺに寄せてスリスリ。
ハンバーガーの匂いがするよ。私の家の匂い。
その匂いで、一つ思い出した。返ってくる答えは分かってから、自然とニマニマしちゃう口元を堪えて姉御を見上げる。
「そういえば」
「なによ」
「なんでハンバーガー2個も作ってきたの? 私、そんなに食いしん坊だと思われてる?」
「……言わなくてもわかるでしょ?」
「姉御の口から聞きたいな?」
190㎝の大男は、照れ臭そうにに目を逸らした。白人だから顔が赤くなってるのも丸分かりだよ。
チラチラと私のことを見てるけど、堪え切れなくてニマニマした口元を確認したところで観念したようにため息を1つ。
「い、一緒に食べるためよ。あんた1人で食べるの嫌いでしょ」
「うん! そんで姉御と食べるご飯が1番美味しい!」
「……わかったから、そろそろ手離しなさい。1本しか無いんだから転んだら顔からいっちゃうじゃない」
「えへへ〜♪ やーだー」
3年半前。千束と殺し合って、死に損なった。
3年前。リコリスになった。
そして今は、新しい家族を手に入れた。
これまでの人生を振り返れば、決して幸福とは言えない。
人に言えないこともたくさんしてきたし、それを開き直るつもりも悪びれるつもりもないよ。
今も昔も人を殺してご飯食べるてるけど、それでも今はそんな生活も気に入ってる。
朝起きて、行ってきますと言って、人を殺して、帰ってくる。
今と昔で違うのは、行ってきますと言えば「いってらっしゃい」と言ってくれる人がいること。
ただいまと言えば「おかえり」と言ってくれる人がいること。
そして道具を長持ちさせる為の食料じゃなくて、
折られてからもう少しで10年経つ電波塔と、作りかけの新たな電波塔『延空木』に見下ろされながら、私たちは帰路に着く。
朝日はとっくに昇ってるね。今日は昼までゆっくり寝よっと。
はい、いかがでしたか?ここまでがプロローグです。
一人称で物語を書くとあんまり名前が出てこないので、ここで復習を。
・主人公:紅葉原 楓(もみじはら かえで) サードリコリス
銃火器全般が使えない為、主にナイフを使う。本来の武器は姉御のお下がりであるコロコロ丸。
その他、昔の経験からスタングレネードやペンライトなど、光り物で相手の視界を塞ぐ手法を得意とする。
名前は本名だが、姓名は偽名。
・DA支部『オータムサンド』支部長:アンドリュー・ヴィオラ
隻腕のオネエ。身長190㎝はある白人男性。愛称は姉御。
一応楓のオペレーターだが、ちょいちょい現場にも出てくる。
武装は片手でもローディングできることからレバーアクション式ショットガン『ウィンチェスター・M1887』。デデンデンデデンのBGMと「I'll be back」が名言の映画で使われたやつ。
片腕のため弾切れになると素早いリロード出来ないので、鈍器として使われる。なので基本使い捨て。
加えて、アラン機関の技術によって作られた太刀。めちゃくちゃよく斬れる。
ハンバーガーに並々ならないこだわりがある。
これ以降の内容は物語が進んでいくうちに明かしていきます。