どーも。みんな元気にしてるかな。俺は……まあ、ぼちぼちって感じかな。8月のうだるような暑さに出不精の俺が勝てるはずがないし、9月も残暑とやらが俺を外へ出すまいと必死の抵抗をしてくるから仕方なく負けてあげてる。それに配信スタジオに行く理由が無くなったから余計に外出する必要性もなくなった。そういう事情も相まって俺は今、施設暮らしの出不精ハッカー兼、施設の子供の遊び相手をするお兄さん兼、にじさんじ箱推しオタク、黛灰に戻ってる。
施設暮らしとは言ってもこの施設にもう師匠が来ることも無いし、それに少し長く世話になりすぎてるような気がして、そろそろ施設を出るべきか、それともこのまま施設にいながらお手伝いを続けるべきか悩んでるんだけどね。施設の人に聞いても居てくれて構わないって言うだろうし、子供たちなら尚更だろうから第三者の相談役が居ないためこの問題は今のところ保留になってる。枠でも開いてリスナーに相談しよう、なんて考えが思い浮かぶあたりまだ俺はライバーに少し未練が残ってるらしい。
それもそう、もうみんなご存知だろうけど、俺、黛灰は2022年7月28日をもってにじさんじと契約を解除してライバー活動を終了した。まあ、理由とかその辺は話せる部分はもう話し尽くしたから割愛させて貰うね。そんなわけで配信者としての肩書きと生活を失った俺は施設の仕事を手伝ったり、ライバー活動に取り組むため制限してたハッカーとしての仕事を増やしたり、子供たちの相手を前よりもしたりしながら何となく生きてる。
ただ、引退したっていう自覚が湧いてきたのは活動終了から2ヶ月経った今から見てもごく最近になってからだった。
同僚という関係性が無くなって他人や知り合いと呼ぶには深く関わっていて、でも友達と呼んでいいのか分からない、形容する言葉のない宙ぶらりんの関係性に戸惑っているからか、discordにあれほど頻繁に来ていた連絡はまるで嘘だったかのように無くなった。コラボや企画の誘いはライバーを辞めて来るはずもなく、仲の良かったライバーからの日常のちょっとした出来事の報告もめっきり少なくなった。こうして通知がめっきり減ったdiscordを開く必要性が少しずつ減って、日常的にdiscordを確認しなくなった自分に気づいてようやく引退したんだなって自覚した。まあ、友達として今も交流してる人達はLINEで連絡してくるしね。
そして俺はいつまでもスマホにdiscordを入れているのがなんだか未練がましく感じてアプリを削除した。配信者を引退してただのバーチャルの人間に戻ったのに俺が未だにライバーからの連絡を待ってるように思えていつまでもライバーとしての自分を忘れられないようなそんな自分が女々しく感じた。
そんなことないのは分かってるし別に見られてもどうということは無いけど配信者からただの人間に戻るための必要工程、というか一般人に戻るための儀式、というのもなんか違うな。なんて言うんだろう、これをすることで自分の中で踏ん切りがつくんじゃないかと思った。
そして返信速度がゆっくりになっていった俺のdiscordから少しずつ話をする人達が減っていって今では引退前後に話していた人のほとんどとの会話が途切れてしまっている。
ただ、俺やリリさんが霞に連絡を送れなかったように連絡を送りたくても送れないライバーが居る、なんて考えるのはあまりに自惚れすぎてるかな。まあ、リリさんは普通に連絡来るから自惚れだな、これは。
そうやってにじさんじ所属ライバーとしての生活が失われつつあった9月半ばの昼下がり、1件のメッセージがLINEに届いた。
◇◇◇◇◇◇
改札を抜け数分歩いた先の待ち合わせ場所に向かうと既に待っていたういはは、私、不機嫌ですよ! というのを前面に押し出したかのように頬を膨らませていた。
「黛さーん! 遅いですよ! このわたしを待たせるとはいい度胸ですね!どういうおつもりでしょうか?」
2週間前に来たLINEは相羽ういはからのものであった。内容はぶるーずで遊びたい、ということと集合場所と時間だけが記されており、最後には拒否権は無いので!では!と締められていた。相変わらずの猪突猛進で傍若無人な振る舞いに少し懐かしさを感じた。
そういえばういはの私服姿を見るのはいつぶりだろうか。……いや、そういえばこの前健屋との3Dオフの時に見たな。収録中はアイドル衣装だったから忘れてたけど収録前後は普通に私服だった。ほんの数ヶ月前のことがずっと昔のことのように感じるのは活動を辞めてからライバーとして忙しい毎日を送っていたのが嘘だったかのような平穏な日々に変わってしまったからだろうか。
「ごめん……いや、遅れてないんだけどね。なんなら五分前だしまだアルスいないじゃん」
「アルスさんは良いんですよ! なんかアルスさんが時間ちゃんと守れるイメージないじゃないですか。ほら、チョコレートハウスの時も寝坊して遅刻してましたし?」
「まあそうなんだけどさ、もうちょっとオブラートというかさ。あるじゃん」
もう少しこうなんというか……手心というか……
「あ、アルスさんから連絡来てますよ? えーっと、『あと10分以内に着く! 多分!』だそうです」
「やっぱりアルス遅刻じゃん」
「これくらいは誤差ですよ誤差!5分や10分程度なら遅刻には入らないんですよ。黛さんは心が狭いなぁー……」
「えぇ……」
やれやれと言わんばかりの態度のういはについ1分前の自分の言動を振り返って欲しい。
とは言ってもここで反論してもういはに勝てる未来が全く見えないので俺が悪いことにしておこうか……。ういはの主張通りだと俺自分は人を待たせておいてそのくせ人の遅刻には口うるさいやつになるんだけど。誰だそいつ。最低だな。俺そんなやつ許せないんだけど。
「いやー、それは置いといてですね、黛さん」
突然ういはが畏まった様子でこちらを真っ直ぐに見て来た。
「ん?なに?」
「改めて、お疲れ様でした!」
「ああ、ありがと。この前も言ってもらったけどね」
「オンラインで言うのと直接会って言うのは違うじゃないですか!」
「確かにそうだね」
こういう真っ直ぐで素直なところがういはのいい所だと俺は思ってるしそれが今も変わってないようで少し嬉しかった。やっぱり俺は女々しいのかもしれない。
「ごめん遅れたわぁ……っていうか2人ともすっごいキラキラしてて入りにくいんだけどぉ?」
そんなやり取りをしていると少し汗を滲ませながらアルスがやってきた。
「キラキラってなんのことですか?」
「なんか美男美女が向かい合って微笑みあってるからさぁ……いやまあそんな話は置いといて、ごめん!待たせちゃったよね?」
「いえ、全然ですよ?わたし達も今来たとこですから!」
「うん、アルスの遅刻は想定内だしね」
「どういうことだよぉ」
「え、だってアルスさんいつも遅刻してくるじゃないですか?」
「ぐ……そうだけどそこまで言うかぁ?ボクだって傷つくことあるんだよ?」
そう言いながらアルスとういはがコロコロ笑っているこの光景がとても懐かしい事のように感じた。
「いやー、このやり取りとかなんか久しぶりだねぇ」
「そうだね。ホントはそんなに間空いてないかもだけど……久しぶりって感じがするね」
「黛さん配信辞めちゃいましたからねー……リスナーさん含めみんな黛灰不足症なんですよ?どうしてくれるんですか!」
「そうだよぉ、なぁんで辞めちゃうんだよぉ」
「それに関しちゃ俺ちゃんと説明したでしょ。全部言ったじゃん」
「それに納得いってないんですよ!」
「今からでもまだ間に合うからさぁ、ね?事務所行こ?」
「俺を犯罪者みたいな扱いしないでよ。あと事務所はもう俺部外者だから行けないからね」
俺はもうにじさんじ所属のライバーではない。事務所に行っても何一つやることも出来ることも無い。
「田角さんも社員さんもいつでも顔出しに来てねって言ってたじゃないですか!それなのに忘れるなんて黛さんの薄情者……およよ……」
「はわわ……じゃなくってさ。今日行くとこあるんでしょ?俺今日どこ行くか知らされてないんだからわかんないけど」
先程も言った通りLINEに送られてきたのは日付と待ち合わせ時間、そして集合場所だけだった。これで運動するなんて言われた日にゃ俺は死ぬ。あとアルスも。
「結局ボクも教えて貰えなかったんだよねぇ……ういはちゃん今日はどこ行くのぉ?」
「着いてからのお楽しみです!じゃあ行きますか!」
そう言うとういはは俺の左側に立ち、歩き始めた。……いや、なんでわざわざ車道側に?
「黛さんはか弱いので私がお守りしないとバーン!ってなってビューン!ってなるじゃないですか!なので車道側は歩かせません」
「そんな可愛らしい擬音語じゃ絶対ダメな事故今起きてなかった?」
「細かいこと気にしてたら長生きできませんよ?それじゃあレッツゴー!」
ういははもうちょっと細かいことを気にした方がいいと思う。
「ね、アルス」
「うぇ、ちょ、え?何が?」
◇◇◇◇◇◇
「そういえばさぁ、まゆくん最近なにやってんの?」
「あー、まあ、何となく生きてるって感じかな」
「なんですかそれー!」
「説明するの難しいんだけど、ライバーやる前に戻ったって感じ?ハッカーして子供達の相手してみんなの配信見て、って」
「あー、見てくれてるんだぁ?」
「うん。アルスのモンハン見てるよ。他にもレオスの3Dも見たし、何よりにじさんじ甲子園は全部見た。俺をエースにして思い出の延長戦を作ってくれた葛葉さんには感謝してる」
「熱かったねあれは」
「熱かったですねー」
この前葛葉さんと叶さんとの3人でレムナントしてた時にありがとうって伝えたら無言で通話抜けてったけどね。逆になんか返してくることを想定してなかったからそれでいいけど。
「なんかにじさんじ甲子園終わってああ、俺ってもう引退したんだなってめちゃくちゃ思ったわ。俺がもうどこの配信からもいなくなったからね」
「私たちまだ引退したって思ってませんけどねー。ね、アルスさん?」
「そうだよぉ……もう2ヶ月なの?」
「まあ、そうなるね」
「じゃあ復活じゃん?」
どうしてそうなる。
「ほら、笹木さん2ヶ月弱くらいで復活したじゃないですか!まゆずみさんも復活しましょ?」
「いや、俺炎上するって。あんな額のスパチャ投げられてあんなに多くの人に見送ってもらった奴がどの面下げて復帰するんだよ」
「別に炎上しても良くないですか?」
「「えぇ……」」
やはり相羽ういはは今は亡きぶるーずにて永遠に最強(物理&精神)
「まあ、まゆくんがやっぱりライバーやりたいなって思ったならいつでも戻ってきてね、ってことだよ!ね、ういはちゃん?」
「流石アルスさん!そういうことですよぉ」
「まあ……ありがとね。そうやって思ってくれてることは素直に嬉しい」
「はぁー……あざといわぁ……ねぇ、アルスさん」
「ねぇ、ういはちゃん」
「いや、そうはならないでしょ」
こうして2人がころころ笑っているのを眺めていると突然ういはが歩みを止めた。
「はい、ここです!」
「普通にオシャレなカフェだね」
「だねぇ……」
「なんですか不満ですか!?」
「いやぁ、ういはちゃんが秘密にして連れてくっていうからなんかすっごいとこ連れてかれるのかと思って……」
「そんなわけないじゃないですかぁ!わたしが今までそんなことした事ありますか?」
「俺思いっきりマイクラで拉致されたけどね」
森中さんとマイクラでどれだけ人を集められるか、という対決(の名を冠した茶番劇)で俺は北小路さんとういはに殴られて拉致られた過去がある。あとなんか甲斐田もいた。
「それはゲームの話でしょ!現実じゃやりませんよぉ、出来ませんし」
出来たらやるんだね……。
「まあ、それは置いといて!とりあえず入りましょ!」
「そうだね、店の前で突っ立ってるのもなんだし、ういはが連れてきてくれたお店だしね」
「うん、楽しみだねぇ」
◇◇◇◇◇◇
「いやぁ、美味しかったねぇ」
「でしょ!連れてきた甲斐が有るってもんですよ!」
ういはの連れてきてくれたカフェは紅茶と茶菓子のセットが有名らしく店内には沢山の客がいた。美味しい紅茶とカヌレやマカロンを片手に思い出話に花を咲かせているとあっという間に3時間近く経っていた。
3人で話していたのは最近の近況報告からはじまりこれまでのコラボであったことや配信外で遊んでいた時のこと。どの思い出もつい先日あったことかのように鮮明に覚えていた。
「紅茶もお菓子も美味しかった。連れてきてくれてありがとね、ういは」
「なんかボクだったら絶対来ないとこに来れて良かったよぉ。ありがとう!」
「いえいえ、どういたしまして!わたしからしても絶妙に遠くて行きたかったんですけど行けてなかったんですよねー……だからこうやって3人で来れてとっても嬉しいです!」
「また来ようね」
「はい!」
「そうだね!」
「それで、次どこ行くとかは決めてんの?」
「いや、わたしはあのカフェに行きたいっていうこと以外は何も考えてませんでして……」
「えぇ!?」
「とにかく3人で遊びたいとしか考えてなかったです!あはは!」
「あははじゃないんだよね」
むしろカフェに行くことを決めてたことにすこし
「それだったらさぁ、ボクこの前事務所に忘れ物したから取りに行きたいんだけどいい?」
そうこうしているとアルスが申し訳なさそうに切り出した。事務所はここから歩いて15分ほどの場所にあるし何ら問題は無い。その移動中に考えるのもありだろうしね。
「分かった、行こうか」
◇◇◇◇◇◇
行く場所を決めようなんて言ったものの何も決まらないまま歩いていると酷く見慣れた建物が現れた。
「なんか久しぶりだわ、事務所」
「どうですか? 懐かしいですか?」
「まあ、そりゃぁね。最後の配信終わってから次の日にスタッフさんとかに挨拶して以来だから……いや、2ヶ月振りとかなら全然所属してた時もあったわ。全然久しぶりじゃなかった」
事務所所属とはいえインターネットで活動してた以上直接会って打ち合わせをしなければならないような事はそう多くない。それこそ公式番組や案件などがない限り事務所にあまり用はなかった。
「あはは……確かにボクもまゆくん引退してから1回も事務所来てないからボクの方が久しぶりかもしんないや……」
「いや、じゃあ何忘れたのさ」
「あ、えぇーっとぉ……あれだよぉ、ほらぁ……なんだっけ?」
少なくとも2ヶ月間放置していても問題ない忘れ物ってなんだ?って思って聞いてみると、これ以上なく分かりやすくアルスの目が泳ぐ。こんな分かりやすく目って泳ぐんだな……。
「いや、俺が知るわけないでしょ」
「まあまあ!とにかくお2人とも入りましょ!不審者だと思われますよ!」
「いや、俺そもそも部外者だし不審者なんだけd痛っ……!」
強引に後ろからういはに突き飛ばされるような形で事務所に入れさせられた。自動ドア開き切る前に突っ込まれたから肩をドアに打ち付けてしまった。普通にめちゃくちゃ痛い。
「ねぇ、折れたんじゃない?結構鈍い音したよ?ねぇ、聞いてる?ういは?」
「そんなの唾つけときゃ治りますって!ひ弱ですねぇ黛さんは……私の唾付けますか?」
「いや、それは遠慮しとくけど……。そこで転がってるアルスの心配してあげたら?」
ふと下を見るとしゃがみこんで頭を抱えたアルスの姿があった。こうしてみると饅頭って最初に言い始めたやつ天才だなって思う。他意はないけど。
「あぅ……あうぅ……」
「どうしたんですかアルスさん?頭抱えて……」
「ういはが俺たちを押し込んだ時にアルスの頭がドアにぶつかってた。頭デカイから肩より頭が突っかかったんだとさ」
俺は肩で済んだけど頭を角にぶつけられたら相当痛いんじゃないかな。あの勢いだったし。
「あー、それは仕方ないですね!頭削りますか?」
「待って、ういはちゃん頭削りますかって何!?怖いんだけど!?」
「ゴリゴリーってしたらいい感じに削れるんじゃないですか?やってみますぅ?」
「やってみますぅ?じゃないがぁ?グロいよぉ……」
さて、事務所に入るや否や騒ぎ始めるのはいいんだけど、さっきちらっと見えた顔なじみの社員さんを「うるせぇな、引退したのになんで事務所来て騒いでんだよあいつ……」みたいな顔にしたくないので俺は早々に退散しよう……
「何帰ろうとしてるんですか黛さん?」
「オレ、部外者。ココ、ダメ」
「細かいこと気にしてたらモテませんよ!ほら、アルスさんも行きましょう!」
「いや、だから俺もうえにからに関係ない人間だから事務所無断で入っちゃダメなんだって。警察呼ばれても仕方ないレベルだよ?」
「大丈夫ですよ?ちゃんと許可ありますから」
…………え?
「………………え?」
「とりあえずまゆくん行けばわかるからさ、行こ?」
アルスも仕掛け人側だったという事実に驚きを隠せないんだけど、それ以上にアルスのドヤ顔が凄く腹立つ。それによく見たらさっきの社員さんも特に俺に対して出ていけオーラは出してなさそう……いや、ちょっとうるさかったか。ごめん。
「はぁぁぁぁぁ……分かった。行こう」
「はい! こっちですよー!」
ういはが満面の笑みを浮かべて先導する。この笑顔を見れたなら骨の1本や2本……いや、良くないわ。まだジンジンしてるし。というかこの笑顔の時だいたい俺不幸な目に遭ってる気がする……手錠繋がれたり……あとなんかあったっけ。まあいいや、それよりも俺の骨ほんとに折れてないよね?というかういはの力で壊れなかった自動ドアがすごいな……。凄くないですか!?
「まゆくん後で湿布貰う?」
「腫れてたら貰おうかな……てかアルス全部知ってたんだ。カフェのことも」
「りょーかぁい……あ、カフェのことはボクも知らなかったよ?どこ連れてかれんのかほんとに知らなかったから怖かったよぉ……あはは……」
「まじか」
「うん」
ふとういはが立ち止まり振り返った。
「着きましたよ黛さん!準備はいいですか?いいですね?」
「ちょちょちょ、待って、驚かすやつじゃないよね?ホラーとかそういうのじゃないよね?だったら俺本気で帰るけど、違う?」
有無を言わさずに覚悟の準備をさせられそうになったがさすがに心の準備をさせて欲しい。ホラーだったら心臓止まるし。俺。
「びっくりするかもですけどホラーでは無いので大丈夫です!」
「ああ、じゃあ大丈夫だ。いいよ」
「それじゃあ行きますね?アルスさんそっちのノブ持ちました?」
「ぐし!」
ぐしってなんだ?
「じゃあ行きますよ? せーの……」
「「「「「「「誕生日おめでとう!!!!」」」」」」」
◇◇◇◇◇◇
扉の向こうにはハヤトさんや不破くん、明那、花咲、緑仙や健屋、そしてリリさんが居て、俺の誕生日を祝ってくれた。どうやらういはとアルスが声をかけてくれて、当日は施設でお祝いするだろうから次の日に事務所でサプライズのお祝いをするのはどうか、ということで集まってくれたらしい。
引退してもうなんでもない部外者の俺に大きなケーキも大量のクラッカーもそして飾り付けもしてくれた、という事実に胸が熱くなったが、それを伝えるとみんなからは勝手に部外者面するな。お前はいつまでもにじさんじの一員でライバーじゃなくてもにじさんじなんだよ、勝手ににじさんじ抜けられると思うな。と怒られた。最後に至ってはそういう組織みたいになってるけど指定暴力団にじさんじとか言われてるしそんなもんなのかもしれない。
強引で身勝手で頭のおかしい人達ばかり。でも優しくて人の笑顔が大好きでいつだって全力で、どうしようもないくらいに今を生きてる。そういう人達の集まりがにじさんじなんだと、そしてそんな人達と共に活動できたことがとても誇らしいなと改めて思った。
デビューする前に不安で不安で仕方がなくって天井を見つめることしか出来なかった俺、師匠を失って悲しみに暮れていた俺、引退を決めた後自分の決断に自信が持てなくって本当に正しい決断だったのか、もっといい道はなかったのかと悩んでいた俺、引退してにじさんじとしての自分が薄れていくのが怖かった俺。今なら、彼らが居る今なら、過去の俺に向かって胸を張って言える。
「ありがとう、俺幸せだわ」