日本国召喚 ~天照の咆哮~   作:イーグル

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パーパルディア皇国編-08

天照の事を聞き、心が大破して壊れてしまったカイオスだったが、クロムの強烈なビンタによってなんとか正常に戻ることが出来た。

正常に戻った後、心を落ち着かせるために紅茶を淹れ直し、茶菓子を口にする。30分後、カイオスは落ち着きを取り戻していた。

 

「ふぅ、すまない。みっともない姿を見せてしまったな。」

 

「いえ・・・、私も精神崩壊する一歩手前でした。・・・アマテラス型、恐ろしい存在ですね。」

 

「そうだな・・・。しかし、二ホン国の象徴たるアマテラス型が、隣国のアルタラス王国に居るとは。完全に我が国を意識して配置したとしか思えん。」

 

「はい、二ホン国は我が国を警戒していると思います。・・・ヴァルハル、その方面の情報はないか?」

 

「ああ、あるぞ。先ずは、二ホン国の政治体制だな。二ホン国の政治体制は、民主主義で国民が投票によって政治の代表者を選ぶ方法を取っている。」

 

「二ホン国には、国王は居ないのか?」

 

「一応、「天皇」という王家が存在しているようだ。ただ、我が国の様に強力な権力は持っていないし、政治に介入する事も出来ない存在のようだ。」

 

「王族が政治に介入できないだと・・・。変わった政治体制を取っているのだな。」

 

「はい、とても変わっております。・・・二ホン国の、総人口は二億一千万。二ホン国の各地に、大都市がいくつも築かれていて、とても栄えております。軍事技術と比例する様に、民間技術も非常に高いレベルであり、例えばムーの機械動力車より高性能な車が、庶民でも買えるほどの低価格で販売されています。また、全土に鉄道が網の目の様に巡らされています。」

 

「ううむ・・・。」

 

カイオスは、日本の豊かさに唸ってしまう。

ムーの機械動力車と言えば、中古でもかなりの高額であることが知られている。それが日本では、ムーの物より遥かに高性能な車が低価格で販売されているという。これだけでも、日本の技術力と生産能力の高さが伝わってくる。

 

「ただ、そんな二ホン国にも弱点はあります。」

 

「なに!?それは、本当か!?」

 

「はい、それは食糧自給率の低さです。二ホン国は島国である上に、国土の大半が山間部です。その為、食料の半分近くを輸入に頼っています。」

 

「では、航路を封鎖すれば二ホン国は干上がってしまうと?」

 

「ミリシアルやムーを遥かに超える技術力で造られた艦隊を撃破できれば、ですがね。」

 

「「あ」」

 

日本の弱点を知り、対日戦略として考えた二人にヴァルハルは現実を突きつける。

 

「それに、二ホン国には「食物プラント」と呼ばれる、作物を短期間で生産できる工場がある様です。食料関係で優位に立つのは難しいでしょう。」

 

「なんてこった。二ホン国は、クワ・トイネの加護すら再現可能だというのか・・・。」

 

「はい、更には、食料の長期保存する技術も発展しています。カイオス様、実は日本の保存食の一つをここに持ってきております。食べていただけないでしょうか?」

 

「そうなのか?しかし、保存食はおいしくないと聞くぞ?いくら、技術が進んでいるからといっても、我が国の物と大差はないのではないか?」

 

「ふふ、まあ普通はそう思いますよね。兎に角準備してきます。」

 

そう言うと、ヴァルハルは袋を持って部屋を出ていった。

何をしているのか?と、部屋に残された二人は首を傾げていた。

三分後、ヴァルハルは日本の食べ物を持って部屋に戻って来た。

カイオスとクロムは、机に置かれたコップ状の器に入った日本の食べ物を凝視する。

 

「これが日本の保存食の一つ、「カップラーメン」です。どうぞ、お食べください。」

 

「う、うむ。」

 

「これが保存食?」

 

疑問に思いつつも、二人はフォークを手にし、カップラーメンを口に入れる。

舌が味を感知した瞬間、二人は目を見開く。

 

「う、美味い!!」

 

「少ししょっぱいが、これはこれで美味い!これが保存食だというのか!?」

 

二人の、いやこの世界の保存食の常識といえば、「硬い、塩が効きすぎる、臭い」である。

おまけに保存性第一なので、味は二の次であり、ましてや温かいスープ系などあり得ないのである。

だが、日本の「カップラーメン」という食べ物はどうだ。

すこし、味付けが濃いだけで普通に日常生活で食べられる代物である。

あっという間に完食した二人に、ヴァルハルは尋ねる。

 

「味はどうでしたか?」

 

「美味かったが・・・、この「カップラーメン」とやらは本当に保存食なのか?」

 

「それに、わずか数分でどうやって調理したのだ?普通は、一時間ぐらいかかるぞ?」

 

「この「カップラーメン」は、保存環境が良ければ一年以上保存することが出来るれっきとした保存食です。そして、調理方法ですがお湯を注いで、3分待つだけです。」

 

「はぁ!?これが、これがたった3分で出来るというのか!しかも、調理に必要なのはお湯だけだと!?」

 

「何という技術力だ・・・。」

 

「私の私見ですが、二ホン国の軍隊の行軍食はこれと同じか、似た技術を使用したものを採用していると思います。」

 

「なんて国だ・・・。二ホン国からすれば、我が国の文化なぞ赤子同然だな・・・。」

 

「はい・・・。」

 

カイオスは、ソファーに深く座ると天井を見上げる。

長期保存できる食べ物でこの味なのだ。恐らく、食に関しても日本は、パーパルディア皇国を遥かに上回っているだろう。つまり、それ以外の文化も高いレベルで纏まっている事だろう。

レベルの高い文化を持っている国は、それだけ国が豊かに発展している事の証拠である。

国が豊かという事は、軍隊も強力である事も簡単に予測できる。

カイオスは、頭を抱える。

このままでは、桁外れの実力を持つ国と戦争になってしまう。

 

「二ホン国は、戦争を外交の手段として用いる事を禁止しているだと!?」

 

「そうだ、二ホン国の軍隊は「自国と同盟国の民の命と資産」を守ることが使命だ。よほどの事が無い限り、二ホン国と戦争になる事はない。」

 

「では、もしも我が国がアルタラス王国に攻め入った場合は、如何なる?」

 

「・・・間違いなく、二ホン国が介入してくる事になるだろうな。だが、どんなに馬鹿な奴でも二ホン国に、ケンカを売るような奴はいないだろう。」

 

「・・・もし、そんな馬鹿な奴が我が国の上層部に多数いると言えば、君たちはどう思う?」

 

「「!!!」」

 

カイオスの発言に、クロムとヴァルハルは目を引ん剝く。

冗談として話していた事が、まさか現実である事を知れば、誰でも二人の様な反応をするだろう。

 

「・・・どういう事ですか?」

 

「・・・我が国の上層部は、アルタラス王国の国交断絶を「蛮族の国が皇国の顔に泥を塗った」として、侵攻計画を立案、提出した。近頃、開催される御前会議で正式にアルタラス王国侵攻が決定される予定だ。」

 

「なっ!?撤回できないのですか!?」

 

「不可能だ。既に侵攻の準備が始められている上に、皇族の方々も強い関心を持っているという。私の力では、もう止められないのだ。」

 

「間違いなく、二ホン国と戦争になりますよ!?そうだ、この本や魔写を提出すれば!」

 

「やめとけ、やめとけ。どうせ、嘘八百とかしょうもない言い訳付けて揉み消されるぞ?俺がそうだったからな。上の人間は、自分達にとって都合の良い情報しか耳にしないからな。」

 

「クソ!!」

 

何とか、アルタラス王国侵攻を阻止する為に、自分達が手に入れた日本の情報を提出しようとしたクロムだったが、以前ロウリア王国での一件で正確な情報を上げたのにも関わらず、嘘と決めつけられたことがあるヴァルハルが止める。

 

「ならば、どうする!?このままでは、我が国と二ホン国との戦争が起きてしまう!何とか、回避する方法は・・・。」

 

「この国の誰よりも早く、二ホン国と接触して交渉するしかないが・・・・、ダメだ!不可能に近い!」

 

頭を抱え唸る三人。

何とか平穏にこの事態を治める方法を考えたが、結局その日のうちに具体的な案を出すことが出来なかった。

 

次の日、カイオスは早朝から頭の痛い報告を受けていた。

 

「フェン王国に向かった東洋艦隊が、壊滅状態で帰投してきただと!?それは、本当か!?」

 

「は、はい!東洋艦隊22隻の内、帰還したのは二隻のみです。また、ワイバーンロードも20騎損失してしまいました。」

 

「なんてこった・・・。艦隊司令のポクトアールは、生きているか?」

 

「はい。」

 

「何があったのか、本人の口から聞きたい。直ぐに連れて来てくれ!!!!」

 

「は、はいぃぃぃ!!」

 

大慌てで出ていく職員と入れ替わるように、クロムとヴァルハルが入ってくる。

二人とも、夜遅くまで起きていたのか、それとも満足に寝ることが出来なかったのか、目の下にうっすらとクマが出来ていた。

 

「おはようございます、カイオス様。何かありましたか?」

 

「ああ、おはよう。朝一番に最悪な情報を、君たちに伝えなければならない。監察軍東洋艦隊が、壊滅してしまった。」

 

「え!?壊滅!?何者に!?・・・と、言いたいですが犯人はおそらく・・・。」

 

「二ホン軍だろうな。何しろ、戦列艦20隻とワイバーンロード20騎を撃破できるのは、近辺の国だと二ホン国位だろう。」

 

「ですが、一つ疑問があります。二ホン国の軍隊は、防衛の為の戦闘しか出来ないはずです。」

 

「まあ、二ホン軍の仕業と決まった訳ではない。何があったのかは、指揮官から直接説明してもらおう。」

 

 

一時間後、カイオスの部屋に何とか生きて帰って来たポクトアールが、やって来ていた。

挨拶もそこそこに、カイオスが強い口調でポクトアールに問い質す。

 

「単刀直入に聞きたい、ポクトアール提督。フェン王国で一体何があった?」

 

「はい・・・。我々東洋艦隊は、皇帝陛下の御命令通りにフェン王国の軍祭を襲撃しました。私は、まず最初に竜騎士達に、フェン王国の王城と軍祭に参加している軍艦を攻撃するよう命令し、出撃させました。

フェン王国に向かうまでは、特に異常はありませんでした。ですが、軍祭が開かれているアマノキ上空に到達し、攻撃に入った直後に竜騎士隊からの全ての通信が途絶してしまいました。」

 

「攻撃に入った直後にか・・・。」

 

「我々は不審に思いましたが、確実に被害を与えられたかが不明だったため、艦隊による直接攻撃を行う為にフェン王国へと急行しました。フェン王国の領海まで、あと少しというところで二隻の巨大艦が現れたのです。奴らは、此方の魔導砲の射程の遥か彼方から、一方的に攻撃してきました。そして、奴らのマストには、カイオス様のおっしゃっていた「白地に太陽の様な紋様が描かれた旗」を掲げていたのです。」

 

「「「やっぱりか・・・・。」」」

 

ポクトアールの話を聞いた三人は、監察軍東洋艦隊を壊滅させた犯人が、予想通りだった事に同じ言葉を同じタイミングで口から漏らす。

クロムは、自分が撮った日本の護衛艦たちかぜの魔写をポクトアールに見せる。

 

「ポクトアール提督、あなたが見た巨大艦とはこの魔写に写っている船ですか?」

 

「!!そうです、こいつです!!しかし、何故奴の魔写をあなたが持っているのですか!?」

 

「実はな・・・。」

 

カイオスらは、自分達が得た二ホン国の情報を話した。

段々と、ポクトアールの顔は青白くなっていき、最後には死人の様な顔色になっていた。

 

「・・・今ここで聞いた事が、全て嘘だと信じたい気持ちです。」

 

「だが、すべて事実だ。」

 

「しかし、不味い事になりましたね。二ホン国は、我が国を完全に危険視する事になるでしょう。全く厄介な事になったな・・・。」

 

「ああ・・・。」

 

活気にあふれるパーパルディア皇国の皇都エストシラントの中で、この部屋だけ氷点下と言っても限りない程、絶望の空気が流れる。

全員の頭の中に最悪な未来が、日本の怒りを買ったパーパルディア皇国が火の海へと変わりこの世の地獄になる光景が浮かんでいた。そして、その最悪な考えが現実になろうとしている事も、彼らは理解していた・・・。

 

数日後の昼過ぎ

 

パーパルディア皇国で最も栄えた都市、エストシラントの中心部には一際巨大で豪華な城、パラディス城が存在している。この国の富の豊かさを強調する、この城の巨大な会議室で御前会議が行われていた。

 

「これより、御前会議を開始します。」

 

議長が開会の宣言をすると、最初に皇帝であるルディアスが軍の最高指揮官であるアルデに、威厳のある声で問い掛ける。

 

「アルデよ、アルタラス王国侵攻の準備は整ったか?」

 

「はい、戦列艦200隻以上、兵員数5万の出撃準備が整っております。後は、陛下の裁可を頂くだけです。」

 

皇帝の問いに、アルデは自信をもって答える。

 

「そうか・・・。余は・・・、今怒りに満ちている。」

 

皇帝の言葉を聞くと、全員の顔がサッと蒼くなる。

この国では、皇帝を怒らせたら一巻の終わりなのである。

全員が冷や汗をかきながら、皇帝ルディアスの次の言葉を待つ。

 

「文明圏外の国の分際で、我が国の顔に泥を塗ったアルタラス王国・・・。そして、アルタラス王国を増長させた国、二ホン国・・・。聞くところによれば、二ホン国はフェン王国で監察軍を退け、調子に乗っているようだな。アルタラス王国を滅し、世界に二ホン国と関係を持てばどうなるか教えさせるのだ。出来るな、アルデ。」

 

「ハハッ!!お任せください!」

 

アルタラス王国に侵攻する事が確定しかけている事態に、カイオスは焦り始める。

このままいけば、日本の怒りを買ってしまうのは明らかであるからだ。

 

「・・・しかし、監察軍を退けた二ホン軍がアルタラス王国に居ます。」

 

「心配ご無用ですぞ、カイオス殿。我が国の正規部隊は、世界最強の実力を持っています。貴方のところの情けない監察軍と比べないで頂きたい。・・・ハッキリと言いましょう、第三外務局と監察軍は栄えある皇国の恥であります!」

 

「クッ!!」

 

公の場で罵倒されたカイオスの顔が、苦痛をこらえている時の様に歪む。

アルデは、そんなカイオスを見ながら話を続ける。

 

「どうやら、カイオス殿は二ホン国を過剰に警戒しているようだ。エルト殿、第一外務局の二ホン国に対する評価は、どの様なものですか?」

 

アルデに話を振られた、カイオスの元部下である第一外務局局長エルトが、第一外務局が独自に手に入れた日本国の情報を元に話し始める。

 

「第一外務局が精査した所、二ホン国は「侮ってはならないが恐れるほどでもない国」であると判断いたしました。理由として、魔導砲の製造技術を持ってはいるもののその数がとても少ない事や、今まで第三文明圏でその名が知られていない事が挙げられます。」

 

エルトの報告にカイオスは内心で、(本当に情報を仕入れたのか?)と突っ込んでしまった。

 

少し調べれば、日本がパーパルディア皇国を遥かに凌駕する国である事は、すぐに判明する事だ。

それすら出来ていないという事は恐らく、局員が権力と地位の向上のために、パーパルディア皇国に有利になるような情報しか集めていないか、ありえないの一言で切り捨ててしまったかである。

 

呆れて黙ってしまったカイオスの様子を見て、言い負かしたと勘違いしたアルデは、満足しながら席に座る。

 

「反論する者はいないようだな・・・。では、アルタラス王国侵攻を正式に命ずる!!蛮族に、我らの力を思い知らせてやれ!!」

 

ここに、アルタラス王国侵攻が国の意思として、決定された。

それは、日本との戦争が避けられない事、そしてパーパルディア皇国滅亡へと進むきっかけを自ら作り出してしまったという事だった。

パーパルディア皇国について

  • 原作通りに存続する
  • 滅亡一択、慈悲はない
  • 作者が自由に決めて

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