日本国召喚 ~天照の咆哮~   作:イーグル

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パーパルディア皇国編-10

 

「第三文明圏の新興国二ホン国、パーパルディア皇国に宣戦布告。」

 

このニュースが、世界に向けて発信される三日前の事。

 

パーパルディア皇国での会談を終えた朝田と篠原の二人を乗せた第11艦隊は、会談結果を政府に報告すると、命令に従いアルタラス王国へと直行した。

半日後に、アルタラス王国に到着すると二人の大使は、日本が改良工事を行い軍民共用の空港となったルバイル空港で、飛行機に乗り日本に帰国した。

 

一方、連絡を受け取った日本政府では、非常識なパーパルディア皇国の要求と罵倒に、政治に関係する全ての人間が猛烈な怒りを感じていた。

その怒り具合は、普段は温厚な武田ですら、頭から湯気が出るほどだった。

日本政府は、すぐさま日本と同盟国の国民とその財産を守る為の行動に移った。

まず、国交を開いている全ての国にパーパルディア皇国からの、各国国民の退去を強く求めた。

 

「パーパルディア皇国と戦争になる、その戦争に貴方がたの国の民を巻き込むわけにはいかない」と。

 

日本の実力を知っている同盟国は、日本の要請にすぐさま応じ国民にパーパルディア皇国への渡航を控え、パーパルディア皇国に滞在している国民には即座に帰国するように通達した。

なお各国に要請を行う際、幾つかの国が観戦武官の派遣をしたいと、提案して来た。

日本政府は、機密事項の持ち出しと作戦の漏洩をしないという条件を守れるのならば、許可すると返答した。

 

次に、日本国防衛軍全体に戦時体制に移行するように命令を下した。

海軍は、アルタラス王国の防衛任務に第11艦隊を加え、他の全ての艦隊も戦闘行動可能な状態へと移行させた。

陸軍は、万が一パーパルディア皇国軍が上陸した時に備える為に、各大隊に指示した場所に移動する様に命令を出した。

空軍は早期警戒機のシフトを変更し、いつでも反撃できるように整えるのと同時に、戦略爆撃機「天神」70機をアルタラス王国ルバイル空港に移動させた。

 

最後に日本国内に向けて、今回の一件を包み隠さずに報道した。

この報道は反パーパルディア皇国感情が高まっていた国民の怒りの火に、航空機用燃料を注いだかのように一気に大きくなった。

 

「パーパルディア皇国を許すな!」

 

「傲慢なパーパルディア皇国に、怒りの鉄槌を下せ!」

 

そんな怒りに満ちた言葉が、日本の彼方此方で叫ばれた。

 

こうしてパーパルディア皇国での会談があった日から、僅かな時間で戦争準備を整えた日本は、ムーの報道機関の助けを借りて、全世界にパーパルディア皇国と正面から戦う事を伝えた。

 

このビッグニュースは、世界中に瞬く間に広がっていった・・・。

 

クワ・トイネ公国 首都クワ・トイネ

 

異世界転移した日本が初めて接触し国交を開いた国、クワ・トイネ公国。

いまや、第一文明圏の国以上に豊かな国となった国である。

 

日本と接触する前から政治を決める重要な場所である「蓮の庭園」では、緊急会議が開かれていた。

 

「・・・というわけで、二ホン国はパーパルディア皇国との戦争に踏み切る事を決断したようです。」

 

「パーパルディア皇国は、二ホン国の事を完全に舐めているようだ。」

 

「如何やら自分達の力を過信するあまり、盲目になってしまったようですな。」

 

会議場の彼方此方から、パーパルディア皇国を馬鹿にする声が聞こえてくる。

暫くして、首相であるカナタが話し始める。

 

「二ホン国政府は自分達だけではなく、我々同盟国の為にも戦いに挑む覚悟を決めました。・・・私たちも、彼の大国には良い思いがありません。彼らの戦いを、少しでも助けたいと私は考えています。二ホン国への更なる物資供給を考えていますが、他に良い案はありませんか?」

 

「では、私から・・・。」

 

クワ・トイネ公国は、第三文明圏にある全ての国の為に戦う日本を、自分達にできる限りの支援をする方向で、調整を始めた。

 

 

ロウリア王国 王都ジン・ハーク

 

パーパルディア皇国の一部にそそのかされ、クワ・トイネ公国に侵攻するも日本国防衛軍に返り討ちにあったロウリア王国だったが、日本の助けを借りてある程度国力と防衛能力が回復していた。

王都に聳え立つハーク城では、臨時の国家元首となったパタジンが報告書を受け取っていた。

 

「二ホン国が、パーパルディア皇国と戦争か・・・。しかも、我らの時とは違い全力を出す可能性が高いか・・・。どうなると思う、ターナケイン空軍大将?」

 

パタジンは傍に控える王都近郊で繰り広げられた日本との戦闘で唯一生き残った竜騎士であり、現在は日本からの支援を受けながら竜騎士団の立て直しと日本製戦闘機を採用した空軍の創設に奔走している若き軍人ターナケインに尋ねる。

 

「間違いなく、二ホン国の圧勝で終わることになるでしょう。」

 

「ほう?そう考えた理由は?」

 

「はっ、理由として二ホン国の兵器の性能が我が国や他国の物と比較にならない程の高性能である事です。音より速く飛ぶ戦闘機、城のように巨大な軍艦、百発百中の誘導兵器・・・。古の魔法帝国ですら霞んでしまうような技術を山の様に持っているのが二ホン国なのです。二ホン国の前では、パーパルディア皇国など赤子も同然です。」

 

「そうか・・・。ニホン国の大使に伝えてほしい。「我が国は、いつでも貴国に援軍を派遣する用意が出来ている」と。それと、ターナケイン空軍大将、君に新たな任務を与える。此度の戦争に観戦武官として二ホン国に出向いてほしい。君は、数少ない二ホン軍と戦って生き残った戦士だ。君ならば、二ホン国の力を正確に測ることが出来るだろう。」

 

「・・・分かりました。ターナケイン空軍大将、二ホン国の戦いをこの目に焼き付けてきます!」

 

「頼んだぞ。」

 

ロウリア王国史上最も若い指揮官は、以前戦った時の経験から日本が戦争に勝つと断言した。

パタジンは彼の判断と異常な速度で国力を回復させた実績を参考に、日本に味方をすることを決めるのと同時に、ターナケインを観戦武官として派遣する事にした。

 

 

フェン王国 王都アマノキ

 

 

「剣王様、遂に二ホン国が立ち上がりました!!」

 

「おお!真か!!」

 

パーパルディア皇国の監察軍の襲撃の被害から立ち直りつつあるフェン王国の王シハンは、部下からの報告に思わず立ち上がった。

日本の大使から、「同盟国でないのならば、我が国は動かない。」と言われた時は彼は生きた心地がしなかったが、結局日本はシハンの選択に呆れつつも、国家の存亡が懸かっていた事を考慮して国交の締結を行い、艦隊まで派遣してくれた。

パーパルディア皇国のワイバーンロードを一蹴してしまう程の強大な力を持つ日本が、遂にパーパルディア皇国との戦争に挑むという。

 

「二ホン国のお陰で、我が国は救われたと言っても過言ではないだろう。しかし、我々はその恩人を騙し、争いに巻き込んでしまった・・・。この事実は消すことが出来ないだろう。・・・二ホン国に、二度とあのような事に巻き込まない様に、後世に伝えていかなければな・・・。」

 

シハンら、フェン王国の武士達は強大な悪に果敢に戦いを挑む日本国に、最大の感謝をするのと同時に後世の人々が自分達と同じような過ちを犯さない様にする為に、自分達の行ってしまったことを伝承していく事にした。

 

ムー 首都オタハイト

 

日本が転移した第三文明圏から遠く離れた第二文明圏でも、日本がパーパルディア皇国との戦争状態になったというニュースは、大きな影響を及ぼしていた。

一部の人々は「パーパルディア皇国が勝つだろう」と考えていたが、大半の、特に日本の力を知っている者は「二ホンが圧勝する」と考えていた。

 

ムーの軍部では、日本とパーパルディア皇国の戦争に観戦武官を派遣する一件を巡って会議が行われていた。

 

「第三文明圏の列強パーパルディア皇国と、我が国が元あった世界から転移して来た二ホン国。どちらに観戦武官を派遣するべきでしょうか?」

 

「我が国の方針は、勝つ方に派遣する事だ。当然、二ホン国に派遣すべきだろう。」

 

「確かに、あの国は桁外れなまでの科学技術を有しております。初接触の時にやって来た二ホン国の艦隊が、それを裏付けています。しかも此度の戦争では、二ホン国最強の戦艦アマテラスも参戦する可能性が非常に高いとの事です。二ホン国に派遣すべきです!」

 

「よし、二ホン国に派遣する事にしよう!それで、誰を向かわせる?二ホン国の技術を理解する事のできる、知識と柔軟な考えを持つ人間でなければならないぞ。」

 

「それなら、うってつけの人物がいます。情報分析課の技術士官のマイラスです。我が軍随一の秀才である彼ならば、二ホン国の実力を測ることが出来るでしょう。」

 

この場に居る全員の頭に、日本との国交開設、同盟締結に大きく関係した若い技術士官の顔が浮かんだ。

日本についての会議が行われた日、彼は不眠不休で可能な限り集めた日本の情報を基に日本との国交開設、そしてたとえ中立国としての立場を失う事になったとしても日本と同盟を結ぶ事を強く求めていた。

この会議での発言で、マイラスはムー軍内でかなり有名な人物になっていた。

 

「ああ、あのレポートを提出した技術士官か。確かに、彼以上に適任の人物はいないだろうな。他に誰を派遣する?」

 

「若くて優秀な人物が良いでしょう。我が国が現在把握している物だけでも、常識外れの物ばかりなのです。更なる力を二ホン国は、隠している可能性は十分にあると思います。」

 

「そうだな、では・・・。」

 

会議に出席している軍の幹部たちは、20代から30代までの若い軍人を中心に、観戦武官の任を与える軍人を選定していく。

 

 

ミリシアル帝国 カルトアルパス

 

この世界において、誰もが(一部例外を除く)認める世界最強の国、神聖ミリシアル帝国。

そんなの第二の心臓とも言われている港町カルトアルパスは、中央世界こと第一文明圏の貿易の中心であり、数多くの商人が訪れる活気のある都市である。

 

この町の一角にあるとある酒場では、一日の仕事を終えた商人や海の男たちが様々な雑談を交えながら酒を楽しんでいた。

ある一人の商人が、最近耳にしたある話題を話し始める。

 

「おい、聞いたか?第三文明圏の列強パーパルディア皇国にケンカを売った新興国があるらしいぞ。」

 

「なに?それは本当か?」

 

「ああ、ムーのニュース放送や新聞で扱っていたから、間違いないぜ。」

 

「そうか・・・。しかし、これでまたパーパルディア皇国の領土が、増えることになるな・・・。そのケンカを売った恐れ知らずの国の名前は、なんて言うんだい?」

 

「たしか、二ホン国だったかな?」

 

「もしかしたら、負けるかも知れねえぞ。パーパルディア皇国。」

 

日本の名前を聞いた時、一人の商人がパーパルディアが負けるという衝撃的な事を口にする。

 

「は!?何で、そんなこと言うんだ?」

 

「何でかって?簡単な事だ、俺は二ホン国に行ったことがあるからさ!!」

 

「二ホン国に!?おい、本当か!?」

 

その言葉に、酒場の全員の視線が彼へと集中した。

中央世界や第二文明圏の商人の中で、日本に入国できた商人は極僅かである。

その理由として、第三文明圏に行くまでに何度も船を乗り換える必要があり、その分金が掛かってしまうというのもあるが、一番の障壁になっているのが、入国資格の獲得と入国審査がとても厳しい事が一番の要因である。

日本国政府が発行している「パスポート」なる身分証を取得しなければ、入国できないという事実が各国に出回った後、一獲千金を狙う商人や貴族たちが日本との同盟関係にある国にある日本大使館に殺到した。余りの申請数に対応する為に日本政府は、「一回に限り、パスポート申請書だけで入国可能とする」という対策を取らざるを得なかった。

と言っても、パスポート申請書を取得する為にも、かなりの数の書類を用意する必要があるうえに、発行までに最速でも一ヵ月以上は掛かってしまうのだが。

 

第三文明圏の「ネーツ公国」の出身だという男は、日本国の事を聞くや否や、すぐさま行動に移り何とかパスポートを手に入れることが出来たのだった。

 

「二ホン国がロウリア王国に勝利したと聞いた時、俺はあの国は間違いなく世界へと進出していくだろうと考えた。そこで、俺はムーの機械式腕時計を数個仕入れて、二ホン国へと入国したんだ。」

 

「なるほど、手軽で持ち運びやすい上に、高価だから売るにはちょうど良い品物だな。ニホン人がムーの機械式腕時計を見た時、ものすごい驚いていただろう?」

 

「ああ、俺もそんな反応を期待していたが・・・。」

 

「なんだ、歯切れが悪いぞ?」

 

男は顔を伏せ、なぜか落胆の表情を顔に浮かべた。

周りで聞いていた客や店員たちは、何があったのかと疑問に思った。

 

「何があった?」

 

「・・・二ホン国は、とんでもない規格外の国だったのさ。俺は二ホン国に向かう為に、二ホンの商船会社が運航している船に乗る事にしたんだ。それで、クワ・トイネ公国の港に向かったら、見た事のない巨大で真っ白な船が、停泊していたんだ。帆やマストが無かったから、魔導動力か機械動力で動いている船に乗った時、俺はこう感じたのさ。俺は宮殿に入ってしまったのかとね。」

 

「「「・・・・・。」」」

 

男の話に、全員が沈黙する。

小話すら聞こえない中で、男は話を続ける。

 

「その船は、今まで乗って来た船と一線を画する快適さだった。清潔な船内、適度に保たれた温度、真っ白なシーツが掛けられた大きなベッドが備え付けられた個室、陸の物と大差がない美味い食事・・・。全てが規格外だった。その船で一日半航行した後、俺は二ホン国の港町「フクオカ」に到着した。デッキから都市を見た時、俺の中の新興国としての二ホン国のイメージが完全に崩れてしまった。」

 

「ど、どんな街だったんだ?」

 

「見た事が無いほどの高さの建物が、幾つも天に向かってそびえていた。その建物の足元には、ミリシアルやムーの様な四輪駆動の動力車が、沢山走っていた。道路も石畳でなく、継ぎ目のないナニかで造られていた。交差点も事故が起きにくいように工夫が凝らしてあった。空にはムーの飛行機械より、遥かに巨大な飛行機械が飛び回っていた。しかも、これだけ発展しているというのに、フクオカ市は単なる地方都市の一つだという。二ホン国の国力は、計り知れないものだった。もしかすると、ミリシアル以上に発展しているかもしれない・・・。」

 

最後の言葉を聞いた客や店員たちは、大きな笑い声をあげた。

 

「はっはっはっは!!!あり得ないだろ!そんなこと!!」

 

「酔い過ぎだぜ、おっさん!!そんな国、あるわけないだろうが!!」

 

日本国の事を思い出し、酔いがすっかり抜けていた商人は日本で購入したある品物をカバンから取り出すと、爆笑している周りの客に見せつける。

 

「では、こんな代物を作ることが出来る国があるか!?」

 

突然の大声に驚いた客たちは、笑うのをやめて男が掲げる物に視線を向ける。

そして、全員が驚愕の表情を浮かべる。

男の手には、明らかにムーの物より洗練された機械式の腕時計が握られていた。

 

「この腕時計の前では、ムーの時計なんぞ玩具も同然だ!光をエネルギーに変えて、壊れない限り半永久的に時を刻み続けることが出来る上に、十数年たっても一秒程しか狂わない程、正確な時間を示し続ける!しかも、アホみたいに頑丈だ!よく見てろ!」

 

そう言うと、男は手に持った日本製腕時計を床に叩きつけたうえに、何度も踏みつけた。

周りの客は男が狂ってしまったのかと考えてしまったが、男が床から腕時計を拾い上げると、店にいる全ての人間の口が顎が外れたかのように大きく開いていた。

そこにはムーの物なら、壊れてスクラップになってしまう程の衝撃を与えた筈なのに、傷一つ付かずに時を刻み続ける時計があったのだ。

 

「これを作った会社によると、動力車が踏もうが水の中に落とそうが、壊れる事が無いという。こんな代物を庶民でも手に入れることが出来る値段で、販売できる国が存在するか!?」

 

あり得ない。ムーの機械時計はねじ巻き式であり、半永久的に時を刻むことはできない。

ましてや、派手に落とそうが踏みつけられようが、動き続けることが出来る、おまけに庶民でも手に入れやすい値段の時計など、彼らは聞いた事が無かった。

ミリシアルでも作ることが出来ない、この場に居る全員はそう理解した。

 

「ま、まあ・・・。二ホン国が凄いってことはよくわかったよ・・・。」

 

客の一人が、そうつぶやく。

その後も、酔っ払いたちの雑談は夜遅くまで続いた。

 

 

アルタラス王国 ル・ブリアス

 

パーパルディア皇国からの攻撃が確定してしまった国、アルタラス王国。

第三文明圏の国から、最も恐れられている列強国から宣戦布告を受けたのにもかかわらず、国王ターラ14世や官僚達、国民は、とても落ち着いていた。

彼らが落ち着いて生活できる最大の要因は、王都のどこからでもその姿を見ることが出来る要塞艦が、ル・ブリアスの沖合に停泊しているからである。

 

その巨大艦こそ日本が派遣した、地球史上最大最強の軍艦、天照型一番艦天照であった。

 

ターラ14世はそのあまりにも頼もしすぎる後ろ姿を自室の窓から眺めながら、彼の船がやってきた日の事を思い出していた。

 

日本から、アルタラス王国防衛の為にやってくる艦隊が到着する日、ターラ14世は海軍艦艇を可能な限りかき集めて、盛大な歓迎式を行った。

初めて日本最大の戦艦をその目にしたとき、彼や官僚、軍関係者、そして父に同行して来た王女ルミエスは、自分の目を疑ってしまった。

最初に見た日本の巨大戦艦が小舟に見えてしまう程の巨体と、今まで感じた事のない雰囲気を纏った巨大な要塞艦は、米粒の様なアルタラス王国の戦列艦とゆっくりと並走しながら、港に滑り込んできた。

 

天照が完全に止まってから少しした後、王国が震えるような歓声が上がった。

ある者は何処からか取り出した日本の国旗を振り、ある者は跪き顔を覆っていた。

パーパルディア皇国の脅威に日々怯えていたアルタラス王国国民は、日本から遥々やって来た天照に幾数年ぶりの安心感を覚えていたのだった。

 

更に彼らを安心させたのは、日本人の素行の良さだった。

誰もが行儀よく親切であり、他国の軍隊では日常茶飯事の無銭飲食や暴行事件を一つも起こさない。圧倒的な国力を持つ国の軍人なのに、その国力に威を借りて威張る事もない。

パーパルディア皇国という日本とは対照的の事をしている国の兵士の対応を長年してきた彼らの間で、「二ホン軍は、正義の軍隊だ」という考えが広まっていく事になるのは仕方のない事だった。

 

そんな考えがアルタラス全土に広まっていた時に起こったのが、日本とパーパルディア皇国の開戦決定である。日本と日本の軍隊への信頼感から、絶対に日本があの悪魔のような国を倒してくれると確信していたアルタラス王国は、日本への恩を少しでも返すために、パーパルディア皇国への「実体のない最強の剣」の準備を始めた。

 

 

パーパルディア皇国 皇都エストシラント

 

日本との会談が終わった後、パーパルディア皇国政府は直ちに全軍にアルタラス王国侵攻へのGoサインを出した。出撃が決まるまで積み込むことが出来なかった、日持ちのしない物資を船に積み込んでいる最中に、日本が全世界に向けて声明を発表した。

この放送をレミールとエルト達は、第一外務局で視聴していた。

放送が終わった後、エルトがレミールの方を見てみると、彼女は怒りで顔が真っ赤になっていた。

 

「一体何なのだ!!これは!!」

 

遂に我慢できなくなったレミールは、自分が座っていた椅子から立ち上がり、発狂したと見紛うばかりに感情を爆発させる。

この放送の中で日本は、パーパルディア皇国の行いを許されざる悪と非難し、この様な非道な行いから日本と同盟国の国民を守る為に立ち上がる事を画面の中で声高らかに宣言した。

この日本の宣言は、パーパルディア皇国の指導者であるルディアスの考えに心から心酔している、レミールの怒りに火を付けた。

激怒の言葉を叫びながら彼女は、数日前の夜の事を思い出していた。

 

その日の夜、レミールは皇帝ルディアスの私室を訪れていた。

二人は、高級酒で満たされたワイングラスを片手に、ベランダからエストシラントの美しい夜景を眺めていた。

 

「レミール、この世界のあり方について、そしてこのパーパルディア皇国について、お前はどう思う?」

 

夜景を眺めていると、ルディアスがレミールに不意に質問をする。

 

「はい、陛下。数多くの国がひしめく中、皇国は第3文明圏の頂点に立っています。多数の国を束ねる方法として、我が国では武力を背景にした恐怖による方法を取っていますが、これは非常に有効的であると私は思います。」

 

ルディアスの問いにレミールは自らの考えを言うと、ルディアスは満足そうにうなずきながら話を続ける。

 

「そう、恐怖による支配こそ、国力増大のためには必要だ。神聖ミリシアル帝国や、ムーは近接国と融和政策をとっている。そんな軟弱な国よりも我が国が下に見られている事自体が我慢ならない。

我が国は、第3文明圏を統一し、大国、いや、超大国として世界に君臨する。

何れは第1文明圏、第2文明圏を配下に置き、パーパルディアによる世界統一により、世界から永遠に戦争を無くし、真の平和が訪れる。

それこそが、世界の国々の人のため・・・。そうは思わぬか?レミールよ。」

 

自信に満ちた声で、自分の世界平和の為の考えを話すルディアス。

レミールは感動に心が震え、瞳に涙を浮かべた。

自分が愛する偉大な陛下は、なんという器が大きな方なのだろうかと、感動していた。

 

「へ・・・陛下がそれほどまでに世界の民のことをお考えだとは・・・。レミール、感動でございます。」

 

もしも、この場に日本人がいれば、彼らの考えが間違っている事に誰もが気付く事だろう。

なぜ、間違っている事を知っているのか?

その理由は簡単で、地球での歴史が恐怖政治の脆弱性を教えてくれるからだ。

恐怖政治を敷いていた国は短期間こそ繫栄する事が出来るが、長期的に見れば必ず破滅へと向かってしまう。恐怖を強くすれば政治体制こそ維持できるものの、出来るのはそれだけである。

経済は停滞し国力は落ちていき、他国の影響を受けやすくなってしまい、結局破滅へと向かってしまう。

ルディアスが軟弱と罵ったミリシアルやムーはその事に気付き、国の方針を変える事で破滅への道から逸れることが出来た。

その事実に、彼らは気付いていないのである。

 

「そのためには、多くの血も流れるだろうが、それは大事を成し遂げるための小事、止むを得ない犠牲だ。そして、皇国の障害となる者たちは排除していかなければならない。レミール、我に協力してくれないか?」

 

「はい!!!喜んでお力になります、陛下!!」

 

涙を拭うとレミールは、この世で最も愛する人の夢を叶える為に全力を尽くすことを心の中で決めた。

 

 

そして今現在、彼女は我を忘れてしまう程の怒りを感じていた。

 

「・・・陛下の御心を理解しないばかりか、我らを許されざる悪だと!?ふざけるなよ!!文明圏外の蛮族め!!!」

 

怒りを隠すことのないレミールを横目に書類仕事に没頭するエルト。

 

「蛮族が・・・滅亡に向かって突き進む・・・か」

 

不意に耳に飛び込んだエルトの言葉によって、怒り心頭のレミールは怒りの言葉を吐くのをやめる。

エルトは続ける。

 

「トップが馬鹿だと大変ですね。二ホン国はすべての民が消滅の危機にさらされているという事が、全く理解出来ていないのですから。」

 

エルトは日本に対し、もはや憐れみすら感じていた。

皇国は今まで多くの国々を滅してきたが、今回もその1つとなるだろう。

淡々と処刑される蛮族の姿がエルトの脳裏に浮かんだその時、コンコンとドアがノックされた。

 

「入りなさい。」

 

エルトが入室を許可すると、先程まで各国の大使の対応をしていた第一外務局の次長である、ハンスが顔色を蒼くし冷や汗をかきながら、入室して来た。

 

「どうしました?」

 

エルトが尋ねると、ハンスは冷や汗をふき取りながら話し始める。

 

「今回の戦争に関して、各国の観戦武官の派遣の有無を確認してきました。ミリシアルなどは、派遣しないとの事です。」

 

「いつもの事ですね。それで、ムーはいつ派遣してくるのですか?」

 

「そ、それが・・・。」

 

ムーが観戦武官を派遣するかどうか尋ねると、ハンスは言いよどんでしまった。

 

「どうしました?」

 

「そ、それが、ムーは、ムーは我が国ではなく、二ホン国に観戦武官を派遣する事にしたとの事です!それと同時に、ムー国民を我が国から退去させることを通達してきました!!」

 

その瞬間、レミール、エルト、そして部屋で作業していた全ての人間が、突然凍り付いたかのように固まってしまった。

 

「「「「「えっ!!??」」」」

 

そして、全員が同じ反応をする事になった。

 

 

 

こうして日本の宣言と行動は、国内外に大きな影響を与えることになった。

日本とパーパルディアの決戦の時は、近い・・・・。




用語解説
55式戦略爆撃機 「天神」
全長 55m
全幅 59.7m
全高 12.4m
最高速度 1100㎞
最高高度 15000m
武装 20㎜近接防御火器 3基
爆弾搭載量 40000㎏

1955年に正式採用された巨大爆撃機。
前年に採用された、NF-1型戦闘機との運用を想定して設計されており、当時の爆撃機では最速と言われた速度をたたき出すことが出来る。
実戦に参加する事はあまりなく、抑止力として運用する事が多かった。
なお、機体設計が優秀かつ、様々な機種に転換できるように設計されていたこともあって、輸送機型や早期警戒機型などの派生型も複数運用されている。
ちなみに、現在ではかなり珍しい旋回式の対空火器を装備している爆撃機でもある。
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