パーパルディア皇国 デュロ防衛軍基地 総合指令部
史上初めての防衛体制に移行したデュロ防衛軍基地の司令部では、軍の幹部達が一つの大机の周りに集まり、敵の迎撃策を練っていた。
「なんてこった・・・。あれが二ホン国の航空戦力だというのか・・・。」
「精鋭の竜騎士が操るワイバーンロードが一方的に、しかも一瞬で撃破されるとは・・・。ムーのマリン、いやミリシアルの天の浮舟以上の性能だぞ!」
第三文明圏において、最強と言われているワイバーンロードが手も足も出ずに撃破されたことに幹部たちはもちろん、日本の事についてある程度知っている筈のストリームとブレムですら、額に冷や汗をかいていた。
その額の汗を拭うと、ブレムは現状を打開するために口を開く。
「敵は、この後本格的な攻撃をこの基地に行うだろう・・・。此方の竜騎士団に甚大な被害を与えたのは、対地攻撃に集中する為に制空権を確保するためではないかと思われます。」
「つまり飛竜隊を全滅させたのは、敵の主力ではないという事か?」
「恐らくは・・・・。でなければ、陸上設備が攻撃を受けていない理由が説明できません。必ず攻撃があると断言できます。ただ、問題は敵の迎撃方法です。敵騎の速度は桁外れであり、通常の対空戦闘では対抗できません。そこで、「対空魔光砲」の使用を考えております。」
「なに!?た、対空魔光砲を実戦投入するだと!?」
対空魔光砲とは、この世界の誰もが認める世界最強の国(ただし、一部例外を除く)である神聖ミリシアル帝国で、正式採用されている対空魔導兵器である。
第三文明圏のあらゆる対空兵器より、遥かに強力なこの対空兵器を自国で製造する為に、秘密裏に行われた取引の結果、一基の対空魔光砲がミリシアルから密輸され、皇国最高峰の製造技術を有するデュロへと運ばれていた。
デュロへと運び込まれてから、これまで長い調査が行われてきたが、この兵器の重要な基盤となる魔術回路があまりにも複雑で、複製はおろか解析すらも非常に難航していた。
検証・解析の為に密輸されたので一門しか存在していないが、パーパルディア皇国に存在している対空兵器の中で、最も高性能な兵器なのである。
「あれは非常に貴重な代物だが・・・、このままむざむざと破壊されるよりは遥かにマシだろう・・・。それにあれを使えば、敵に皇国に凄まじい兵器があると警戒させることが出来るだろうしな・・・。よかろう、使用を許可しよう。」
ストリームの許可を得たブレムは、すぐさま対空魔光砲を工廠の建物から見晴らしのいい場所に移動させ、砲撃の準備をさせ始めた。
数分後、パーパルディア皇国 工業都市デュロ
デュロに住む多くの市民は、もう間もなく夕食の時間になるというのに食事の準備をせずに空を見上げ、精鋭の竜騎士達が爆発し撃墜した飛行物体や基地から鳴り響いた警報音に、今度はこの都市が謎の敵に狙われ、攻撃を受けるのではないかと戦々恐々としていた。
その時、誰かが上空から聞いた事のない不気味な音が聞こえてくることに気付き、空を見渡した。
数秒後、彼はその音を発している物を見つけた。
見つけてしまった。
「おい!ひ、東の空に何かが沢山いるぞ!?」
「竜騎士団を攻撃していた奴よりもデカいぞ!?」
「もう終わりだ・・・。デュロはもう終わりだ!!!」
夕暮れの空に幾つもの白い尾を引きながら、大きな灰色の飛行物体がデュロへと向かってくる。
この光景に、デュロの一般市民は大パニックに陥った。
ある者は荷車に荷物を載せて街から出ようとし、ある者は「どうせ死ぬなら、愛する家族と愛しき家の中で最期を迎えよう」とドアを閉めて家族で抱き抱え合い、またある者は一方的に自分達を攻撃しようとする敵に、憎悪の感情を向けながら見上げていた。
同時刻 デュロ防衛軍基地
デュロ市内が阿鼻叫喚の状態に陥っていたのと同じ頃、迎撃策を練っていたストリームの下に悲痛な声で報告が届く。
「敵飛行機械と思われる飛行物体が、高高度より此方に多数接近中!!先程の物よりかなりの大型です!!」
「遂に来たか!?総員、戦闘配置!!」
ストリームは指示を出しながら手にした望遠鏡で、空を見上げた。
(かなり高いところを飛んでいるな・・・。しかも、やたらに速いな。もしかすると、ワイバーンオーバーロードよりも速いかもしれないな。やはり頼りになるのは、対空魔光砲だけか・・・。頼むぞ・・・。)
ストリームは自分達の無力を感じながら、対空魔光砲に最後の望みを託したのだった。
同じく同時刻 デュロ工業地区 中央公園
防衛軍基地の近くにある工業地区の一角にある広い公園の真ん中に、デュロ防衛の最後の望みである対空魔光砲が設置され、射撃の準備を整えていた。
第三文明圏には無いはずの兵器である対空魔光砲の射撃準備を監督をしているのは、陸軍新兵器研究開発部に所属するハルカスである。
彼は、対空魔光砲の発射位置固定や動力源である魔石の接続作業、エネルギー充電作業を監督しながら、高空からデュロに侵入してくる敵を睨みつけていた。
「かなりの高高度を飛んでいるな・・・。しかもあの巨体であの速度・・・。敵の飛行機械は、ムーの物より遥かに高性能な可能性があるな。出来れば鹵獲して、分解調査してみたいが難しいだろうな・・・。」
上司の忌々しそうな呟きに、彼の部下の一人が答える。
「この対空魔光砲ならば、あの高さと速度でも十分に対応できます!!奴らに一泡吹かせてやりましょう!!」
「だといいがな・・・。しかし・・・。」
対空魔光砲に接続された人間が5人くらい入りそうな大きさの鉄製の筐体が六つと、モニターとしての機能を持つ魔動圧計や水晶板を眺め、ハルカスは苛立ちを隠すことが出来ない。
「使用許可を得てから直ぐに準備を開始したのに、未だに魔力充電が終わらないのか!?!?一体どれだけの魔力を使うんだ!?この兵器は!?」
「これを持ってきたミリシアルの技術者は「魔力充電はすぐに終わる」と言っていたのですが・・・。これほど魔力を使用する兵器を当たり前に運用する事が出来るミリシアル帝国は、流石自他ともに「世界最強の国」と言われている国ですね。」
皇国は第三文明圏最強であり、唯一の列強ではあるが、魔導技術についてはミリシアルの足元にも届きそうが無い。皇国に数人しかない、大魔導士の称号を持つハルカスだからこそ、この事実を認めざるを得なかった。
「魔力充電・・・、98%・・・、99%・・・、100%!!ハルカス様、魔力エネルギー充電完了しました!!」
空に向かって突き出された筒状の銃身の発射口が仄かに赤く光り始め、球状の小さな粒子が発射口に吸い込まれていく。
「属性比率、雷14、風65、炎21、呪文高速詠唱開始」
人には聞き取りにくいほどの速度で自動的に詠唱が開始される。
その詠唱速度は人間が聞くと不快に聞こえ、思わず何人かの技術者が耳をふさぐ。
「詠唱完了!射撃モードは連射モードを選択!対空魔光砲、発射準備完了!」
ハルカスが望遠照準器の十字マークの真ん中に敵が来るように調整すると、見た事のない大きさと形の飛行機械が照準器いっぱいに写った。
「皇国は・・・、皇国は蹂躙させん!!」
彼は飛行物体への敵意をむき出しにし、発射ボタンを強く押し込んだ。
光の弾が地上から超高速で、連続で上空へと撃ちあがっていく光景はまるで、地から天へと光が昇っていくかのようで、とても美しいものであった。
同時刻 デュロ上空
パーパルディア皇国最大の生産拠点であるのと同時に、同国最後の一大軍事拠点が存在するデュロへと爆撃を行おうとしている日本航空防衛軍爆撃隊。
その爆撃隊の右後方の位置する、最新鋭機NF-7型戦闘機を操る樋口は、地上からの攻撃を警戒していた。
眼下に見える敵国の工場群。その工場群の一角の開けた場所で、幾つものフラッシュを確認する。
彼は直ぐに無線を入れ、仲間に警告を送る。
「地上からの対空攻撃を確認!各機、警戒!」
樋口が警告を送った瞬間、爆撃機天神の内の一機の横を敵の対空砲弾が掠めた。
一瞬だけぶれた機体に再度光弾が襲い掛かり、天神の胴体と右翼のエンジンの一基に命中した。
「しまった!!敵弾を貰った!!」
被弾した天神のパイロットは、焦りの声をあげながらも機体の制御に集中する。
胴体とエンジンに命中した幾つもの光弾に内装されていた爆裂魔法は、光弾分の爆発を生んだ。
だが、「地球上でもっとも頑丈な航空機」の一機に数えられる天神は、たった数発の光弾程度ではびくともせずに飛行していた。
「此方、11番機。胴体と一番エンジンに被弾した!外見上に何かしらの異常は確認できるか?」
「此方、ライダー2。燃料漏れ、及び火災の類は確認できない。」
被弾した天神のすぐそばにいた樋口が、11番機の通信に応える。
「11番機、右旋回で基地に帰投せよ。」
「了解。後を頼みます。」
被弾した天神には目立った外見上の損傷はなかったが、内部構造にダメージが入っている可能性を考慮して、編隊長からの帰投命令が下された。
「敵対空兵器を確認!破壊を要請する!」
「ライダー2、了解!敵対空兵器を破壊する!」
「了解!敵からの反撃には注意せよ。」
樋口はNF-7型戦闘機の機首を下げ、敵の対空兵器へと降下していく。
「此方、ライダー2。敵対空兵器沈黙状態。再装填中と思われる。これより、攻撃を開始する!FOX-3!!」
機銃発射の符丁をコールした後、樋口はトリガーを引き絞った。
毎分4000発の機関砲が咆哮し、20㎜の弾丸が対空魔光砲が設置された公園へと降り注ぐ。
その直後、デュロ防衛軍基地の最後の希望である対空魔光砲は、20㎜弾丸によって穴だらけになり、破壊しつくされた。粉砕された魔導エンジンと魔石が砕け、対空魔光砲の周りにいたハルカスや技術者を巻き込んで、色とりどりの派手な誘爆を起こした。
デュロ防衛軍基地 総司令部
「対空魔光砲、敵からの反撃で大破!!沈黙しました!!」
「敵飛行機械へ与えた被害は!?・・・・何!?一機損傷させただけだと!?」
「敵超巨大飛行機械、デュロ上空に侵入!」
悲鳴のような報告が次々と総司令部に入ってくる。
対抗策をすべて打ち砕かれた事実に、ストリームやブレム、幹部たちの顔は青白くなっていた。
そこに、更なる最悪の報告がやって来る。
「敵飛行機械が何かを投下しました!かなりの数です!!」
「なに!?何を投下したんだ!?」
雨の様に落下してきた黒い物体の一つが地面に接した次の瞬間、爆炎を上げ地面を大きくえぐった。
この光景に彼らは、死の予感を確かに感じた。
たった一発であれだけの破壊力なのだ。それが雨あられの様に降ってくるという事は、つまり・・・。
「に、逃げろ!!高威力の爆弾が降って来るぞ!!」
「退避、退避ぃぃぃぃ!!!基地の外に逃げろ!!」
命の危機を感じた兵たちが、一目散に基地の外や建物の中に逃げようとするが、爆弾の雨は彼らに逃げる時間を与えなかった。
猛烈な炎と爆風の嵐が、何度も発生し、基地や工場を破壊していく。
この攻撃によって、パーパルディア皇国三大軍事拠点の最後の生き残りであったデュロ防衛軍基地と、パーパルディア皇国の生命線であるデュロの生産施設は、全て破壊し尽くされ壊滅してしまった。
デュロ市民の多くは、軍の基地と工場群が僅かな時間で文字通り消滅してしまった事に、パニックを通り越して、唯々呆然となってしまった。
工業都市デュロ 港湾エリア
皇都エストシラントの物には及ばないが立派に整備されたデュロの港では、この港に残っていた戦列艦をかき集めて編成された即席艦隊が出撃の準備を駆け足で行っていた。
この即席艦隊の旗艦を務める100門級戦列艦ムーライトの艦長サクシードは、副長らと話し合いを行っていた。
「なんて、こった・・・・。鉄壁の防御力を有していた筈のデュロ防衛軍基地が・・・、手も足も出ずにやられるとは・・・。」
「敵の飛行機械の性能は、予想以上だったという事か・・・。あのような飛行機械を保有する国に、我らは果たして一矢報いることが出来るのだろうか・・・。」
「おい!?変な事を言うな!?我らは精強のパーパルディア皇国軍だぞ!!油断をしなければ、蛮族相手に決して負けるはずがない!」
「貴様は現実を見ろ!!奇襲を受けたとはいえ、精鋭の部隊が何も出来ずに壊滅したのだぞ!!相手を蛮族と侮れば、何も出来ずに敗れることになるぞ!」
「何だと!?」
喧騒に包まれる部屋の中で、一人サクシードは考えを巡らせていた。
(おかしい・・・、あれだけ徹底的に防衛軍基地と兵站に不可欠な工場に攻撃を加えて来た二ホン軍が、我々海軍に全く攻撃を加えてこないのは、余りにも不自然だ・・・。一体なぜだ?爆弾の量が足りなかったからか?いや、これは私がそうあってほしいと願っているだけだ。では、他に理由は・・・?もしや、爆弾による攻撃を行う必要が無い?敵には、別の攻撃方法があるという事か。考えられるのは・・・、まさか!?)
思考を巡らせていたサクシードは、ある一つの恐ろしい答えにたどり着いた。
彼は、顔を蒼くしながらある事を部下に聞く。
「・・・副長、デュロ近辺で二ホン国の艦隊は確認されていないのか?」
「いえ、確認はされておりませんが・・・。どうされました?」
「不思議に思わないか?あれだけ防衛軍基地が苛烈な攻撃を受けたのに、何故我々海軍は攻撃を受けていないのかと。」
サクシードの指摘は、部屋にいた幹部たちの頭になかった事であり、部屋にいる全員が指摘されて初めて気づいた事であった。
「この状況に対して私は、二ホン国は海軍戦力を動員して我々を攻撃するのではないかと考えている。でなければ、敵の飛行機械の攻撃を受けていない現状を私は説明できない。」
「そ、それでは、艦長は敵艦隊がすぐ近海まで、接近している可能性があると考えているのですか?」
「そうだ。だが、このままむざむざとやられるつもりはない。今直ぐに出撃だ!先手を取るぞ!!」
「「「はっっっ!!!」」」
このサクシードの命令は直ちに実行に移され、ムーライトを囲うように40隻余りの魔導戦列艦は、此処に迫ってきているであろう日本艦隊を迎え撃つために、デュロの港から出撃していった。
同時刻 日本艦隊
順調に敵の工業都市への攻撃を行っていた日本海上防衛軍デュロ攻略艦隊。
だが、作戦の最終段階に入った直後、彼らに緊張感を与える事態が発生する。
「司令、敵港湾都市から敵艦隊が出撃しました!」
「なに?敵艦隊の数は?」
「大小複数の戦列艦で構成された艦隊で艦隊総数は42隻、事前に確認されていた隻数と同数です。」
「此方の作戦を読んだのか、若しくは別の港への退避か・・・。どちらにせよ、逃がすわけにはいかん!本艦とあさひ、ゆきかぜを敵艦隊迎撃に充てる!他艦は作戦通り、敵港湾都市へと侵攻せよ!!」
「了解!艦橋、増速黒二十!!」
パーパルディア皇国即席艦隊の出撃を確認した日本海上防衛軍デュロ攻略艦隊は、戦艦さつまは護衛艦あさひと護衛艦ゆきかぜを護衛に付けて、パーパルディア皇国艦隊へと向かって行った。
30分後、パーパルディア皇国艦隊
港から慌ただしく出撃したパーパルディア皇国艦隊。
艦隊を構成する戦列艦は、他国の船を圧倒する性能を保有している。
その強力な戦列艦が42隻。
パーパルディア皇国が今まで敵対してきた国ならば、それだけで圧倒することが出来る打撃力を有していた。
だが、艦隊旗艦ムーライトの面々の表情はあまり良くなかった。
「・・・もう間もなく、敵艦と接触することになるだろう。副長、我々は二ホン国艦隊に勝てると思うか・・・?」
「今まで敵対してきた国ならば、圧勝することが出来ると断言できますが・・・。率直に申し上げると、勝利どころか痛み分けですら難しいと思われます。相手の兵器に使われている技術のレベルは、皇国を遥かに凌駕しています。恐らくは、それを扱う兵の練度も相当高いと思われます・・・。」
「そうか・・・。願わくは、敵が慢心して油断している事を期待するしかないな・・・。」
今まで相手にしてきた国とは、明らかに違う日本との実力差に不安を隠しきれないサクシードだったが、その不安感を兵たちに与えない様に、遠く彼方の水平線に目を向けた。
日が沈み、空には満天の星が写っていた。
その光景は戦場に向かっている事を忘れてしまう程に、美しい物であった。
そんな中、マストの上で見張りをしていた見張り員が、大声をあげた。
「艦長、水平線上に艦影を確認!隻数は3隻!此方に接近してきています!」
「遂に来たか!?総員戦闘配置!!」
報告を聞いたサクシードは、直ちに戦闘態勢に移行する様に命令しながら、手にした双眼鏡を敵艦発見の報告を上げた見張り員が見張っていた方向へと向けた。
暫くすると、水平線上に艦影を確認することが出来た。
「中央の敵艦はかなりデカいな・・・。」
「はい・・・。残りの2隻も本艦より大型のようです・・・・。ん?」
双眼鏡で敵艦を観察していた副長は僅かな違和感に気付き、ほぼ同時にサクシードも猛烈な違和感を感じた。
「すまん、俺は疲れているようだ・・・。敵艦が異常な速度で接近している気がするのだが・・・。」
「・・・艦長、私の目にもそう見えます。」
「という事はつまり・・・、敵艦がとんでもない速度を出しているという事か!?」
受け入れがたい現実を認識したサクシードは、吼える様に叫ぶ。
敵艦は、フィシャヌス級より巨大な船体を持っているのにもかかわらず、此方より遥かに高速で航行できるようだ。
中型艦は艦前方に一門の魔導砲、大型艦はその船体に見合ったサイズの巨大な魔導砲を六門搭載しているようだった。
「敵艦、高速で此方に接近中!!桁外れの速度です!?」
「なんて速度だ!あんな速度を出せる舟がこの世に存在しているとは!?」
「おのれ・・・、海の魔物め!!各艦に射程範囲に入り次第、攻撃を開始する様に伝達せよ!!」
海上防衛軍 護衛艦ゆきかぜ戦闘指揮所
パーパルディア皇国艦隊の迎撃を行う為に、本隊から分かれた三隻の海上防衛軍所属の戦闘艦。
艦隊の中で最も防御能力が高い戦艦より先行するのは、日本海上防衛軍内で最も有名な護衛艦と言われている護衛艦ゆきかぜであった。
「敵艦隊、主砲射程圏内に捕捉しました!」
「主砲撃ち方用意!!パ皇の連中に俺達にケンカを売った意味を教えてやれ!!」
血気盛んであり、ガンガンと攻める戦闘スタイルを得意としている、ゆきかぜ艦長古代徹が拳を振り上げながら、艦の指揮を執る。
ゆきかぜは最大戦速に加速しながら、砲撃を行う準備を行う。
「主砲照準、完了!!」
「主砲、撃ちぃ方始め!!」
「主砲撃ちぃ方始め!」
徹の指示を受けた砲術長が主砲発射トリガーを強く引き絞ると、艦首に備え付けられた127㎜速射砲が火を噴いた。
最新鋭のFCSによって正確に命中軌道を飛翔した127㎜砲弾は、パーパルディア皇国艦隊の最前列を航行していた80門級戦列艦グリールに着弾した。
パーパルディア皇国自慢の対魔弾鉄鋼式装甲を、まるで紙の様に易々と貫通した127㎜砲弾は、弾薬室で爆発した。爆発によって発生した爆炎が、弾薬庫内の砲弾や魔石に誘爆を発生させ、強烈な爆圧を発生させた。
強烈な爆圧が艦内で発生したグリールはまるで船体を風船のように膨張させ、轟音を海上に轟かせながら轟沈していった。
「ぐ、グリール、轟沈!?」
「馬鹿な!!」
グリールの轟沈は、パーパルディア皇国艦隊に大きな衝撃を与える。
多少旧式化していたとはいえ、パーパルディア皇国の誇る魔導戦列艦が、たった一回の砲撃で撃沈されることなど端から想定されていなかった事だった。
「敵艦、更に発砲!!後続の敵艦も発砲を開始した模様!!」
「戦列艦ライサー、パタール轟沈!!」
悲観に浸る暇もなく、次々と撃破されていくパーパルディア皇国の戦列艦。
艦隊旗艦ムーライトの船尾楼甲板で艦隊を指揮していたサクシードは、魔導通信機を使用して現存している戦列艦に命令を下す。
「艦隊司令より全艦へ!全艦、増速!!先行している敵艦を撃破しろ!!」
サクシードの命令を受けた魔導戦列艦は、風神の涙の出力を最大まで上げ、船体が悲鳴を上げるほどの速度を出して、今も砲撃を続けるゆきかぜへと向かって行く。
しかし、その間にも味方の戦列艦は海の上から続々と姿を消していく。
数分後、海上には片手の指ほどの数しか戦列艦は残っていなかった。
「副長!残存している味方艦は!?」
「本艦の他には、100門級戦列艦のレイモンド、60門級のアレク、サハケ、40門級ルーンのみです!!」
「40隻以上もいた我が艦隊が、わずか数分で壊滅するとは・・・やはり、勝ち目はなかったか・・・。」
艦隊の被害状況に、皇国と日本との力の差を肌で感じるサクシード。
戦闘前は圧倒的な数の差があったというのに、こちらは一方的に撃破され、敵の船を一隻も沈める事も出来ないばかりか、損害を与える事すら出来ない。
「皇国は・・・、皇国は決して敵対してはいけない国に戦争を仕掛けてしまったのだな・・・。」
「艦長・・・。」
「・・・総員退艦!!今すぐに海に飛び降りろ!!海に飛び降りた後は、敵艦に救助してもらえ!!」
「し、しかし果たして敵が我らを、救助してくれるのでしょうか?」
「デュロへの攻撃に鑑みると、二ホン国は攻撃をする意思のない者には攻撃を加えないと、私は考えている・・・。生き残る可能性が少しでもあるのならば、その可能性にしがみつけ!!」
「っ!?・・・りょ、了解しました!!」
副長ら、ムーライトの幹部たちは、サクシードにパーパルディア皇国流の敬礼をすると、
「総員退艦!!総員退艦!!」
と叫びながら、海へと飛び込んでいった。
退艦していく水兵達の姿を見ながら、サクシードは舵輪を両手で掴み、前方に見える敵艦を見据える。
「・・・二ホン国よ、我らパーパルディア皇国はお前達に敗れた・・・。せめて、せめて部下の命だけは助けてくれよ・・・。」
そう言うと、サクシードは目を瞑り、自分に最後の時が訪れるのを静かに待った。
数秒後、ゆきかぜから発射された127㎜砲弾がムーライトに命中した。
甲板を突き破るように火柱が立ち上がり、ムーライトは真っ二つになりながら轟沈していった。
その後、サクシードの最後の命令によって海上へと逃げ延びたパーパルディア皇国水兵達は、さつまとゆきかぜ、あさひの三隻によって、救助された。
その際、サクシードの判断がムーライト副長ら生存者によって日本側に伝えられることになった。
部下の為に命を散らしていったサクシードの行動に感銘を受けた一部の日本人の手によって、彼の名前は後世に長く伝えられ、戦後にデュロの港に彼の名前が彫られた石碑が建つことになったのは、また別の話である。
此処にパーパルディア皇国最後の軍事拠点であり、皇国最大の生産拠点であった工業都市デュロは壊滅し、その機能を完全に停止する事となったのである。
パーパルディア皇国にとって、地獄の様な一日がようやく終わりを告げた。
だが、パーパルディア皇国の悪夢は一日程度の地獄を経験した程度では、覚める事は無かった。
そして、彼らは気付かなかった。
悪夢にうなされている自分達の首元に、皇国を破滅へといざなう刃が突き付けられていた事に・・・。
用語説明
護衛艦ゆきかぜの武勇伝について
護衛艦ゆきかぜは、海上防衛軍に就役してから、幾つもの伝説を打ち立てた船である。
その一部を、下に記す。
・就役直後、国籍不明の不審船の拿捕に成功する。
・中東での海賊退治に従事。拿捕、若しくは撃破した海賊船の数は派遣された艦の中でも突出しており、その数は全体の二割を上回っていたと言う。
・国際演習の場において、縦横無尽の活躍をし、一隻で演習相手に大損害を与えた事で各国に軽いトラウマを与えた。特に戦艦二隻を食われたアメリカは、ゆきかぜの乗組員をヘッドハンティングしようとしたほどである。
・日本転移後、ロデニウス大陸での海賊対策に従事。海賊からは「灰色の悪魔」と呼ばれ、大いに恐れられた。