クワ・トイネ公国海軍第二艦隊と日本国派遣艦隊の会合から、2日後。
クワ・トイネ公国有数の港であるマイハーク港は、いつも以上に大きくにぎわっていた。
理由は、マイハーク港沖に見たことのないほど大きな艦が停泊しているからだ。
「船長、見てください。あの人だかりを。まるで、10年前のムーのグランドフリート来航の時のようですよ!」
「ああ、まったくだ。しかし・・・」
日本国派遣艦隊と最初に接触した軍船ピーマの船長ミドリは、港湾施設に鈴なりにいる見物客から沖に停泊する日本国艦隊の中で最も大きい平べったい艦へと視線を移動する。
CVT-03 いざなみ
たけみかずち型核融合炉搭載型空母の3番艦で、この派遣艦隊の旗艦を務めている空母である。
ミドリは、初めてこの艦を見たとき城が海に浮かんでいるのかと、感じてしまうほどだった。
そして、臨検の為乗船したときその甲板の広さに衝撃を受け絶句した。騎馬訓練ができてしまうと。
その後のことは、あまり覚えていない。本国にこのことを連絡したり、日本艦隊をマイハーク港に誘導したりと、大忙しであったからだ。しかし、彼はこの2日間で確信したことがあった。それは、日本国との出会いは確実にクワ・トイネ公国を大きく変えていくことになる、ということだった。
日本 東京都千代田区 首相官邸
「総理、派遣艦隊からの定時連絡です。クワ・トイネ公国の公都クワトイネにて、会談が始まったとのことです」
防衛大臣 厳田 虎からの報告に、日本総理 武田 実成ら日本の政治を司る武田内閣の面々は肩の荷が少しばかり軽くなったことを、感じた。地球なら、国際法違反ともいえる行動は良い方向に進んだようだ。
武田は、短くだが人生で最も濃い一週間を、目を閉じふりかえる。
一週間前
国土が、別の世界に転移する。常識的に考えてあり得ない、物語上の存在といえる空前絶後の現象が発生したとき武田は、日々の激務をこなし終え寝床に身を横にしようとしていた。世界最強の国の長としての重圧は、自分の考えや発言、行動で簡単に世界が変わってしまうという事実は大きなストレスとなっていた。
彼は目を閉じ疲れを癒すことにした。
「・・・!?な、なんだ?」
突然、窓の外が真昼のごとく明るくなり、夜中の1時だというのに青空が見えた。
この不思議な現象は、約10秒間ほど続き、元に戻っていった。
「いったい、なんだったのだ・・・?」
彼は、今まで感じたことのないような不安感を覚えた。
そんな、武田の不安感をさらに騒ぎ立てるかのように、携帯電話から特徴的なアラームが鳴る。
東日本大震災にいやというほど聞いた、緊急地震速報の音だった。
「地震か!!」
武田はすぐに、付近に落下物がないか見渡した。
そのとき既に、最大に慌てふためく所もあった。
ここはそのうちの一つ、気象庁。
「な、なんなんだ!これは・・・!」
通常、地震の震源は一か所だけのはずなのだが職員の前に置かれたパソコンの画面に表示された計測された震源地が可視化できるシステムには、日本領の周りを囲むように八か所の震源地が示されていた。
信じられないことが二つある。一つ目はコンピューターが推定したマグニチュードは12という、地球上ではありえない数字が示されていたこと。二つ目は震度四の地震波が一切減衰することなく内陸に駆け抜けていることである。
通常では、決してありえないこと。それが、現実で起きている。その事実に、気象庁職員は、ただただ呆然としていた。
「震源はどこだ!!」
血相を変え、彼の上司が飛び込んできたあと、パソコンの画面に表示されたデータを見て、余りに現実離れした数字に思わず叫ぶ。
「マグニチュード12だと!!そんなばかな!!」
前例のない事象に若い職員と同じように呆然とするが、すぐに我に返り
「今すぐ、各機器を再点検。データの再取得、再確認をしろ!」
と、指示をだした。
そこに、さらに悪い知らせが入ってきた。
「大変です!全気象衛星と通信が途絶しました。衛星をロスト!」
「なに、通信機器の故障?こんな時に!!」
気象庁職員は、前例のない事例に、記者会見の準備に追われる。
気象庁が混乱のさなかにあるころ、それ以上に混乱していたのが防衛庁だった。
「偵察衛星しらさぎ、おおとり、かわせみ通信途絶!全通信衛星ロストしました!」
「もう一度確認しろ!JAXSにも確認作業の協力を仰げ!」
謎の発光現象と地震の後、偵察衛星や日米英仏軍事ネットワークが突然接続できなくなってしまった。
強力なEMP攻撃を受けたか、衛星を撃墜されたか、あるいは・・・・。
防衛大臣厳田 虎は、様々な可能性を思考していた。
世界一の技術を持つ、我が国日本がこのようなことになるとは、今までとても考えられなかった。
そんななか、一つの通信が飛び込んでくる。
「厳田大臣。第一護衛艦隊旗艦天照から、大臣あてに第一級緊急通信です!」
「なに?わかった、すぐに繋いでくれ!」
国家存亡の機の時のみ、使用される最優先通信。しかも、それが日本が世界に誇る超巨大艦天照から発信されたこともあって、厳田は心にとてつもない不安を抱えることになったが、それを表情に出さずに天照からの通信に応じる。
「私だ、一体何があったのかね。手短に頼むよ、倉田艦長。」
「はっ、天照のメインコンピューターがレーダーや各種センサーの情報をもとに現在の状況を分析したところ、ここは地球ではないとの結論が出ました」
「・・・はっ?つまり、いや、まさか・・・」
「端的に申し上げるのならば・・・・。信じられないことですが、我が国が地球以外のどこかに転移したということです」
少し、時間は遡り謎の発光現象が発生する前
四国から100㎞の沖合を航行している艦隊が、存在していた。300m超えの艦が多数いる中で、ひときわ大きく存在感を放っている巨大艦がいた。
天照型超巨大戦略戦艦一番艦天照。一世紀前に、突然出現し強力無慈悲な戦闘能力と、未だに解析されつくされていない様々な技術によって、日本を世界一の強国にのし上げた戦艦である。
この艦隊の旗艦を預かる戦艦の艦橋に、この艦の艦長 倉田 昇がいた。彼は、とても優秀な人物であったからこそ、世界に三隻しか存在しない天照型の艦長に35歳という若さで就任することができた。
倉田の、父そして祖父もこの巨大戦艦の乗組員だった。倉田自身も、天照型に憧れ努力してきた。
努力してきた結果、最年少で艦長に任命された。頑張りすぎたなと、倉田は回想する。
「どうだ、倉田艦長。異常はないかね。」
「はっ、佐々木司令。全艦異常はありません。すべて、順調です。」
「うむ、それは良いことだ。ところで、このじゃじゃ馬の指揮には慣れたかね。」
「いえ、ですが我が国の象徴的な戦艦である天照がここまで繊細な艦だとは思っていませんでした。」
「私も、最初に乗艦したときはとても驚いたさ。下手に扱うとすぐに、へそを曲げる。だが、いざというときは、我々の理解を超えた力を発揮する。まるで、我々人間と同じ魂を持っていると感じるほどだ。」
「司令、持論を展開されるのは結構なのですが、この艦がデレて調子が狂ったらどうするのですか。」
「この程度で・・・・」
その時、けたたましい警報が艦に鳴り響いた。
「なんだ!いったい何が起きた!!」
「それが、天照のメインコンピューターが突然見たことのない警告を、表示しているのです!!」
「急いで、解析しろ!それと、総員起こし。第一種戦闘配置につけ!!」
天照の熟練兵たちが、各自の配置場所に素早く移動している間に、CICの情報分析担当官が、素早くキーボードをたたき、解析を進めていく。わずか、一分余りで出された。
その内容は、
「巨大ナ次元振動発生。対ショック姿勢ヲトラレタシ。到達マデ、アト十秒。」
だった。彼は、大慌てでこのことを報告した。
この報告を受け、倉田はすぐに行動を起こした。
「全艦、対ショック姿勢をとれ!でかいのが来るぞ!」
この命令を出した直後、今まで経験したことのないほどの衝撃が天照を襲った。窓の外は、強烈な光に包まれていた。この時、天照が所属する第一護衛艦隊は偶然にも日本を囲むように発生した震源地の真上にいたのだ。そのため、日本で最も早くこの異常現象に遭遇することになった。
約30秒後、すべての現象が収まり海は元通りに戻った。
「各部署、被害状況知らせ。」
「船体異常なし。」
「各兵装、問題なし。」
「防御システム、正常に稼働。」
「レーダー及び各種センサー問題ありません。」
僚艦からも、問題なしの報告が上がり一息つく、倉田と佐々木。だが・・・。
「艦長!軍事衛星とコンタクトが取れません!完全にロスト!。」
「4ヵ国軍事ネットワークにもアクセスできません!」
「自動航法衛星、通信途絶しました!GPS衛星も応答しません!」
「何、そんな馬鹿な!情報分析担当官すぐに、原因を調査しろ!」
倉田が、通信網の大規模ダウンに対応している間に佐々木は、このことについて考察する。
(おかしい、民間用衛星はともかく軍事衛星までダメになるとは。あの現象が起きてから、すべて一度に故障するとはとても思えない。まるで、全てなくなってしまったような気が・・・!?)
「倉田艦長!天照の全てのセンサーを最大出力で使用。効果範囲の全てを探知しろ!」
「?はっ!全センサー、最大出力で使用。しかし、司令なぜそのようなご命令を?」
「いや、私の中にある疑問を確かめたくなったからだよ。」
倉田は、自分の上官の疑問が理解できなかったが、情報分析官の報告に自分の耳を疑うことになる。
「艦長!解析したところ、宇宙空間の全ての人工物体が確認できません!!恒星の位置も今までのものとは、全く違います!」
「馬鹿な!そんなことが起きるとは。一体どうなっているのだ。」
この報告は、佐々木の疑問を確証に変えた。
「倉田艦長、衛星が突然消えたわけではない。我々が、地球から消えてしまったのだ。」
日本転移から、一時間後。
総理官邸では緊急閣僚会議が、行われていた。
「我が国が、地球以外の別世界に転移しただと!そんなことがあり得るか!」
「しかし、天照型各艦からの報告のほか、JAXSからも同様の報告が上がっています。これは事実なのです。」
会議は、大荒れだった。だが、時間が経つうちに具体的な意見や報告が出るようになる。
意見の幾つかをあげると
*日本周辺の偵察
*周辺国との国交確立
*農業プラントの全力稼働による食料の確保
*国民への公表
などである。
会議は、国家防衛の話題になる。
日本は、1990年頃の冷戦終結に伴い、軍事力の一部をモスボール処理を行って保管した。
それらの、現役復帰が題材である。護衛艦は、シーレーンの安全確保のために復帰がすぐに決まったが問題は、戦艦や空母などの大型艦である。
対象になるのは、きい型原子力戦艦6隻、とさ型核融合炉搭載型戦艦4隻、ひりゅう型原子力空母10隻である。
この意見は、厳田 防衛大臣から意見が出された。武田総理や半数の閣僚は、この意見に賛成だったが財務大臣ら一部は、反対した。今のままでも十分だと考えていたのだ。
現在の大型艦は、天照型超巨大戦略戦艦3隻、ふそう型核融合炉搭載型戦艦10隻、大和型戦艦2隻、たけみかずち型核融合炉搭載型空母10隻、ひりゅう型原子力空母4隻である。これで、十分であると。
しかし、厳田は強くモスボール大型艦の現役復帰を唱えた。
理由は、
*現在の戦力は米英仏の三か国との連携があったからこそである。
*周辺国の政治体制が分かっていないため、突然宣戦布告される可能性がある。
*戦力を持ち、それを示すことで日本の国力をこの世界に示す必要がある。
などである。
最終的に、とさ型4隻、ひりゅう型6隻の即時現役復帰。その他、艦艇はすぐに復帰工事が始められるように、予備工事を行うことに決定した。
このとき、日本にとって幸運なことは、天照型が全艦そろっていたことである。と言うのも、一番艦天照はつい先月まで欧州に派遣されていたのである。もし、転移が一か月早かったら天照は、地球に取り残されていたかもしれない。
とにもかくも、日本国はこの世界の偵察を各護衛艦隊に命令。
転移の翌日には、陸地と複数の都市を確認。
2日間の調査ののち、この国家が地球の中世時代レベルであることと、農業国家であると断定。
外交官朝田 泰司ら外交特使を乗せた、空母いざなみを旗艦とする派遣艦隊を出撃させた。
クワトイネ公国を騒がせた、所属不明騎はいざなみから発進したUAVF-11であった。
クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ 首相官邸
首相カナタは、これから顔合わせをする異国の外交官との会談に、応接室の前で緊張していた。
見たことのない飛行機械なる鉄竜や、要塞のような巨大艦を運用する国、日本。
本来ならば、初めての会談で首相である自分がでるのはこの国の外交の順序とは違うが、現在クワトイネ公国は人間至上主義のロウリア王国との緊張状態が続いており、準有事体制のこの状況下において少しでも、力を持つ国と友好関係を保ちたいという本音がある。
出来れば、日本国のあの超技術を、少しでも手に入れたい。
意を決して、日本国の外交官のいる応接室に入る。
カナタがドアを開くと、席に座っていた彼等は、席を立って礼をした。
「初めまして、カナタ首相。私は、日本外務局の朝田です。お会いできて、とても光栄です。」
日本の使者は、朝田のほか二人ほど随伴している。
「ええ、朝田殿。よろしくお願いします。」
ここに、日本、クワ・トイネ両国の行く末を決めることになる「第一回日桑会談」が始まった。
「この会談の司会を務めるクワトイネ外務局のリンスイです。よろしくお願いします。早速ですが、日本国の皆様、今回の我が国への来航の理由をお聞かせ願いたい。」
「わかりました。まずは、我が国についての資料を配布させていただきます。」
そう言うと、日本外交官の一人は日本についての資料を配布する。だが、
「・・・・?すみませんが、朝田殿。これは、我々は読めませんですぞ。」
「なんと、流暢な日本語を話されるので読めるものだと思っていましたが。」
「我々からは、あなた方は大陸共通語を話しているように聞こえていますぞ。」
朝田とリンスイが、そのことに驚く傍らでカナタはこの文字が謎の鉄竜から落とされた筒の中の文章と同じ言語であることに気づく。
「このようなことが起きるとは、不思議なものですね・・・。では口頭で説明させていただきます。我が国、日本はこの国から北東に約1000㎞付近に存在する国です。ところで、単位はお分かりになりますか?」
「ああ、大丈夫ですぞ、朝田殿。しかし、その付近には国は疎か、島もなかったはずだが・・・。」
「はい、我が国はこの世界とは違う「地球」という世界から転移してきたと我々は考えております。」
「馬鹿な、国が転移してくるとはとても考えられない。どれほどの、魔力が必要になるか。あなた方は、ほら話を吹いているのではないのですか?」
「国ごと、転移するという事態に我々も理解できていません。我々もそのようなことを言われては、とても信じられるものではありません。そこで、お互いをよく知るために使節団の派遣を提案します。貴国の人間が直接見てきたことなら、貴国も信じることができるでしょう。」
「しかし・・・。」
「使節の派遣、私は賛成です。」
「カナタ首相!?」
リンスイが使節の派遣という提案に、悩んでいるのを見かねてカナタが割って入った。
「卿の悩みもわかる。だが、あの鉄竜や巨大船を見ただろう。彼らの実力は確かだ。もしかすると、列強以上かもしれない。それに、日本の方々は礼節を弁えていらっしゃる。条件次第では、国交を結ぶことを前提に付き合ってもよいと、私は考えている。」
そして、朝田ら日本外交官に向き直り。
「二ホン国の方々よ。我が国に何を望む。まさか、観光に来たわけではあるまい。」
一瞬の沈黙ののち、朝田は口を開く。
「我が国は、貴国に対して第一に食料、その次に資源を。最後に貴国を介しての他国との会談、これを望んでいます。また、この世界のことについて可能な限り教えていただきたい。その対価として、我が国は貴国に、我が国が持つ技術の一部と防衛力を提供します。」
「な、なんですと!」
その提案に、クワトイネ側は息をのむ。食料については、家畜でさえうまい飯が食えるほど豊富にとれる。二つ目と三つめも、隣国であるクイラ王国を紹介すれば解決するだろう。これらを、解決すればあの巨大船を建造できる技術力を一端とはいえ、手に入れることができるうえ、その技術力をもとにした巨大な戦力が、味方となる。ロウリア王国と緊張状態にある、クワトイネ公国としてはとてつもない好条件。逃すわけにはいかない。
「わかりました。リンスイ、可能な限り使節団の準備をしてください。大使には、ある程度権限を持たせて、派遣してください。」
「承知しました。」
クワ・トイネ公国は、日本国に使節を派遣することを決定した。
次回は、今回登場した戦艦と空母についての設定を上げるつもりです。