日本国召喚 ~天照の咆哮~   作:イーグル

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パーパルディア皇国編-22

 

パーパルディア皇国 皇都エストシラント

 

 

「それでは、これより仮称「フィルアデス大陸解放戦争」の講和会議を始めます。」

 

日本、アルタラス王国、フィルアデス大陸解放軍とパーパルディア皇国の戦闘が終結してから、一週間がたったこの日。

長年にわたってパーパルディア皇国の行政の中心として機能してきた行政大会議場にて、本戦争に関する全てを終わらせるための講和会議が開かれていた。

パーパルディア皇国側には、暫定政府のトップとなったカイオスや彼の右腕であるクロム、その優秀な能力から外交官としての地位を維持する事となったエルト、軍事の関係者としてヴァルハルが参加していた。

一方、反対側には日本政府の代表者としてやってきた朝田と篠原ら数人の外務局員や、アルタラス王国の国王であるターラ14世と各官僚、クーズ王国再建軍のハキを始めとしたフィルアデス大陸解放軍を構成していた各属領の反乱軍のリーダー達が集まっていた。

 

因みにだが、何の通告もなく勝手にこの戦争に参加しようとしていたリーム王国についてだが、信じられない事にこの会議への参加を要請してきた。

彼らは、「自分達が大軍を動かしたことでクーデターが起きた。したがって、この戦争を真に終わらせたのは我々リーム王国であり、講和会議に参加するのは当たり前の事である。」という言い分を唱えていたが、日本・アルタラス両政府はこの言いがかりを完全に無視し、リーム王国にオブザーバーとしての資格すら与えなかったのだ。

勿論、駄々をこねる子供の様に喚いたリーム王国だったが、いくら喚けどもこの決定は覆る事は無かったのである。

 

閑話休題。

 

司会が会議の開会を宣言をした直後、朝田が席から立ち上がり発言をする。

 

「日本政府の朝田です。前置き無しで申し訳ありませんが、早速我が国からのパーパルディア皇国に対する請求を改めて伝えます。」

 

そう言うと、朝田は手元にある資料に書かれた日本政府の請求を読み上げ始めた。

日本政府の請求は、以前カイオス達にしたものとほぼ同じだが、要求の一部が変化、削除、追加が行われた。

なので、ここに改めて掲載しておく。

 

日本政府は、以下の要求をパーパルディア皇国に通達する。

 

・パーパルディア皇国の国名と政治体制の変更。

 

・パーパルディア皇国の軍事力の制限。

 

・日本、アルタラス王国への正式な謝罪と賠償。

 

・全属領の解放、並びに各属領、他国から徴収した奴隷の即時解放。

 

・日本が要求した人物の身柄の引き渡し。

 

・パーパルディア皇国の領土内に、日本防衛軍の基地を建設する事をパーパルディア皇国政府は了承する。

 

・一定期間の間、軍事、若しくは軍事転用出来る技術を日本政府の許可なく、勝手に開発してはならない。

 

などである。

 

この請求に対して、クーデター前に日本政府の要求を知っていたカイオスらは余り驚いた様子はなかったが、この場で初めて知ったエルトや他の官僚達は誰が見ても分かるぐらいに、驚いた表情で固まっていた。

 

「…以上が我が国からの請求の全てです。」

 

「…な、なんだ、この要求の山は!? 貴様らは栄えある列強パーパルディア皇国を解体するつもりなのか!?」

 

「ほう?他の国なら兎も角、貴国にそのような批判は出来ぬはずです。貴国は幾つもの国を亡国にし属領として長年搾取してきました。そのような行いをしてきた貴国に対し、国名や政体の変更が求められるとは言え、国家の存続が許されているだけでも感謝するべきなのではないでしょうか?」

 

「何だと!?きさ――」

 

「黙れ!!国家の存続が掛かったこの会議をややこしくするな!衛兵、この馬鹿者をつまみ出してくれ!!」

 

朝田の発言が終わると同時に、一人の若いパーパルディア皇国官僚(クロムとほぼ同じ歳、因みにクロムは、彼の様子を見て天を仰いでいた)が噛みつき、会議の空気が悪くなりかけたがカイオスがすぐさま命令を出し、暴走した若い官僚を会議から排除した。

 

「申し訳ないアサダ殿。彼は若くて優秀なのだが、その…。」

 

「貴国の位の高い若者には、皇国の偏った教育のせいで他国を見下す者が多いと言う噂を聞いておりましたが、まさかここまで酷いとは…。今回の件は旧政権の教育方針のせいという事で水に流すとしましょう。」

 

「二ホン国の温情に感謝します…。」

 

最初にごたごたがあったが、此処にパーパルディア皇国の行く末を決める会議が始まった。

 

まず最初に、パーパルディア皇国政府としての正式な謝罪が行われた。

無論、亡国の機に陥ったアルタラス王国や属領として圧政下に置かれていた各属領からは不満の怒声が幾つも上がったが、「日本政府が独立保障と戦後復興に力を貸すので、怒りを抑えてほしい。」と、朝田が発言しその怒声を抑え込んだ。

その後、パーパルディア皇国の新たな国名と政治体制に関する話し合いに移った。

 

「…ということで、我が国の新たな政治体制につきましては、二ホン国の政治体制を元に、我が国に合う最適な政治体制に再構築を行っていく予定です。」

 

「ふむ、では、新たな国名は?」

 

「我々としては、「パールネウス共和国」と改名したいのですが。」

 

「なに!?パールネウス共和国!?パーパルディア皇国が皇国となる以前の国名ではないか!我がアルタラス王国は断固として反対する!!」

 

「クーズ王国も同じく反対だ!!」

 

結果として日本以外の全ての国家が猛反対し、「パールネウス共和国」への改名は無しとなり、カイオスが第二案として提示した「エストシラント共和国」が新たなパーパルディア皇国の国名となる事が決まった。

 

次の議題はパーパルディア皇国の軍事力の制限についてだった。

日本の軍事力(日本は防衛力と主張)と比べるとかなり劣るとはいえ、長年第三文明圏唯一の列強国として君臨してきたパーパルディア皇国の軍事力は多くの国々にとって脅威であり、それは日本の攻撃によって壊滅した現状でも変わらない。

その為、パーパルディア皇国、もといエストシラント共和国の軍事力に上限を定めるのは至極当然であった。

 

「エストシラント共和国の軍事力の制限についてですが、パーパルディア皇国の主力兵器として運用されていた兵器の新造、運用の禁止を提案します。新造禁止の兵器の一例を挙げるのならば、ムー国のマリンに匹敵するワイバーンオーバーロードや100門を超える砲を積載した戦列艦などです。これらの兵器は、第三文明圏の国にとっては脅威以外の何物でもありません。」

 

「確かに…。我が国も二ホン国に新たな海軍創設の為の機械動力の軍艦や空軍用の飛行機械の発注を行いましたが、現状の軍事力では壊滅状態にある皇国軍にさえ引き分けがやっとでしょう。」

 

朝田の発言に、アルタラス王国国王ターラ14世が同意の発言をし、他の国の代表者達も賛同の頷きをする。

 

「…我が方としても、領土拡大施策の為に大規模な軍事力を保有していましたが、その過剰な軍事力が財政に大きな負担を掛けていました。なので軍事力の制限については反対はありません。また、ワイバーンオーバーロードや超フィシャヌス級の製造禁止なども受け入れる覚悟があります。…ですが、現在エストシラント港に停泊している艦隊だけは、航路防衛の為に引き続き我が国で運用したいのです。」

 

カイオスのこの発言に、又もや会議場は騒めく。

その理由として、カイオスが挙げた港に停泊している艦隊の編成が問題だったのだ。

カイオスらによるクーデターが成功した翌日にエストシラント港に入港してきたパーパルディア皇国海軍最後の艦隊の内訳は、150門級超フィシャヌス級戦列艦1隻、120門級超フィシャヌス級戦列艦2隻、フィシャヌス級戦列艦10隻、竜母2隻である。

開戦前と比較するととても貧弱な艦隊だったが、第三文明圏に属する多くの国にとってはこの艦隊でさえも対抗する事が出来ない。

 

なので当然戦時賠償艦として接収したいが、カイオスの言い分も理解できるものであった。

何しろ様々な資源を産出していた属領が全て独立したことで、エストシラント共和国は国の運営に必要な資源を外国から輸入しなければならなくなる。

エストシラント共和国の生命線となる交易にとって最も重要な航路を守る為には長距離航海のできる海上戦力が必要だが、そのために必要な戦列艦の多くは日本海上防衛軍との戦いでほとんどが海に沈み、更には造船所も最重要攻撃目標の一つとして苛烈な攻撃を受け、破壊し尽くされてしまった。

 

そんなまともな船もない、更には新たに造る事すらも出来ない現状のエストシラント共和国にとって、戦争に参加する事無く無傷で港に帰還したこの艦隊の保有は、たとえどんな非難を受ける事になったとしても譲ることが出来なかったのだ。

 

この提案に会議場の意見は、最後の艦隊も賠償艦として接収するか、航路防衛などに限定して保有を許可するかで、真っ二つに分かれた。

その内接収派は内陸国が多く、保有許可派は島国などが多かった。

接収派の言い分は「第三文明圏において強力な戦力となる超フィシャヌス級を含んだ艦隊は、他の国に潜在的な脅威になる」という物だ。

一方、保有許可派の言い分は「海の交易路を守るのは非常に重要な事であり、航路を守る為ならば艦隊の保有は許可せざるを得ない」であった。

 

この議題を参加者全員が納得するよう導くのに長い時間が掛かったので結果だけを言えば、カイオスの主張した艦隊の保有は認められる事となった。だが、保有の条件として竜母の搭載騎はワイバーンのみとし、更には10年間日本製の発信機を取り付け、その所在を常に確認できるようにする事が決められた。

 

その後も様々な議題について話し合いが連日行われた。

議題の一例を挙げると、独立した属領の領土に関する問題やフィルアデス大陸での通貨の為替、戦後の第三文明圏での国際的な組織設立の下準備などである。

 

数日後、講和会議最後の議題についての話し合いが行われていた。

それは、各国からのパーパルディア皇国の要人の引き渡しについてである。

最初に意見を出したのは、日本政府の代表として参加している朝田であった。

 

「まず日本政府からの要人の引き渡し要求です。我が国が求めるのは貴国の皇族の一人レミールです。我が国としては貴国のトップであるルディアス陛下の身柄を求めたい所なのですが、カイオス殿からパーパルディア皇国の皇族の方々を二度と政治の世界に関わらせないことを条件に、身柄要求を取り下げました。ですがレミールだけは別です。理由として、彼女の発言が本戦争の始まりの原因となった事や他の国に対しても同様な事をしていた事を確認したからです。ですので、何が何でも彼女の身柄を確保し、我が国の法律で裁きたいのです。」

 

朝田の発言に、ターラ14世や各属領の代表者たちの多くが頷く。

その中には多くの民間人をレミールの手によって虐殺された過去がある属領の代表者もいた。

彼らは拳を握りしめていて、その手からは血がにじみ出ていた。それだけレミールが属領の人々から憎まれている事を表していた。

 

「此方としてもレミールの引き渡しに異議はありません。講和が終わり次第、直ちに二ホン国に引き渡します。」

 

「分かりました。カイオス殿の手際に感謝します。」

 

「いえ、レミールを確実に引き渡す代わりに、他の皇族の方々を引き渡さなくてもよいという条件を提案してくださった二ホン国政府のお陰でもあります。寧ろ感謝したいのはこちらのほうです。」

 

日本政府の要望が通り、レミールの身柄が日本政府の手に引き渡されることが決まると、アルタラス王国や各属領からの身柄引き渡しの要求合戦が始まった。

 

アルタラス王国は、私利私欲でルミエスを奴隷にしようとしたカストを始めとした旧在アルタラス大使館職員全員の身柄(無論、クロムはこの中に入っていない)を要求し、その他の属領もそれぞれの属領統治機構の職員の引き渡しを要求した。

余りの数に会議の書記の筆記が追い付かず、涙目で作業をする女性書記の姿に見るに見かねた日本側が筆記(持ち込んでいたパソコンを使用した)に協力するという珍事も発生したほどだった。

 

一議題ごとに必ず一回会議室が大荒れになったり、最後にはちょっとした珍事が起きたりもしたが、無事に講和会議は終わりを迎えることが出来たのだった。

後は調印式を行い、本当に戦争を終わらせる事だけである。

調印式の為に更なる準備や調整を行う為に二日間ほどの時間が掛かる事になった。

 

 

二日後 エストシラント港

 

 

「まさか、我の最後の仕事がパーパルディア皇国の歴史に幕を下ろす事になるとはな…。」

 

「陛下…、最後の最後に重大な役を負わせてしまって申し訳ありません。」

 

「よい、カイオス。第三文明圏唯一の列強国パーパルディア皇国の歴史が終わることになったのは、元を正せば我が世界統一という野望達成の為に多くの事に目を瞑ってしまったのが原因だ。いや、それだけではない。パーパルディア皇国がこのような最後を迎えることになってしまったのは、我々皇族の驕りが原因なのだ。元々、我がパーパルディア皇国も唯の第三文明圏の小国の一つだったというのにな…。」

 

「陛下…。」

 

調印式が行われる日本の軍艦に向かう為に、エストシラント港にて迎えの船を待っている二人の人物がいた。一人はパーパルディア皇国の最後の皇帝になったルディアス、もう一人は新たに国家元首となるカイオスである。

 

「我は、パーパルディア皇国こそが世界を統治することが出来る唯一無二の国であり、パーパルディア皇国による支配こそが世界に平和と発展を与えると考えていた。だが権力を剝奪され、政治から隔離された後、何故、属領や属国を持たぬ二ホン国が我が国に勝る力を手に入れる事が出来たのかをじっくりと考えることが出来た…。考え導き出した答えは「二ホン国の外交戦略が我が国の外交よりも数段、いや比較にならぬほど優れていた」だ。カイオス、お前ならばなぜ我がこの考えに達したのか理解できるだろう?」

 

「はい、我が国の外交戦略は簡潔に纏めるのならば「自国優先主義」です。我が国が発展出来るのならばそれでよい。他の国がどうなっても構わないというものです。この政策は自国を急速に発展させることが出来ますが、その代わりに他国からの印象が最悪となります。国がそのまま発展していければ特に問題は起きませんが、問題は自国より強大な国が現れた時です。自国が滅亡しない為に此方の顔色を窺っていた国々の多くは、その強大な国に鞍替えをする事となるでしょう。一方の二ホン国は「共存繁栄主義」とでも言うべき政策を取っていました。この政策は自国の急速な成長が出来ず、更には各国への支援などで自国への負担が増大することになります。ですがその代わりに多くの国を味方に付けることが出来ます。」

 

「その通りだ。加えて我が国が軍事力を背景にした恐怖政治を取っていたのも問題だ。結果として、どれほど国力に差があったとしても対等に扱い、共に歩いていくという外交戦略を取っていた二ホン国に我が国に虐げられていた全ての国や属領が味方をする事となった。…我は以前、ミリシアルやムーの政策を弱腰と貶していた。だが今なら判る。我の方が間違っていたという事に。」

 

穏やかな海を眺めながら、今までの自らの行いを冷静に分析し、過ちを犯してしまった事を語るルディアス。その表情は、憑き物から解放された様な顔をしていた。

その表情を見てカイオスは、目の前にいるパーパルディア皇国皇帝もまた、パーパルディア皇国の大いなる野望に巻き込まれた内の一人ではないかと考えていた。

 

数分後、二人がいる埠頭に日本の軍艦からやってきた短艇が接岸した。

 

「パーパルディア皇国皇帝ルディアス陛下とカイオス国家元首ですね?お迎えに上がりました。」

 

「お出迎えご苦労様です。では、行きましょう陛下。」

 

「うむ。」

 

防衛軍人の手を借りながら、二人とその護衛が短艇に乗り込むと、短艇は搭載されたエンジンが甲高いエンジン音を響かせながら、調印式が行われる予定の軍艦へと向かって行った。

 

 

同時刻、エストシラント郊外

 

ルディアスとカイオスが埠頭から出発した頃、パーパルディア皇国の犯罪者留置所の牢屋から一人の女性が連れ出されていた。

彼女の名前はレミール。

日本大使との会談の場において、アルタラス王国への侵攻と日本の主権を脅かす要求をし、更には多くの国に非道を行ったパーパルディア皇国の皇族の一人である。

 

「お待たせしました。こいつがレミールです。ご確認をお願いします。」

 

「…確認しました。間違いなくレミール本人です。」

 

「では、これより彼女を二ホン国に引き渡します。」

 

「分かりました。では、我が国の手錠に交換するので首輪と手首と足首の拘束具を外してください。」

 

淡々と進められる引き渡しの事など彼女の頭に入ってこなかった。

彼女の頭にあったのは「何故、この様な状況になってしまったのか」ただ一つであった。

 

何故、列強たるパーパルディア皇国が解体されないといけないのか?

何故、皇族であり、未来のパーパルディア皇国皇后となる自分がこんな目にあっているのか?

何故、周りの兵士たちは自分を蔑む様な目で睨みつけているのか?

何故、なぜ、ナゼ……?

 

いくら考えても、自分が納得することが出来る答えが出てくることはなかった。

 

「…これで良しと。しかしこの女、全く暴れませんね。捕らえた時、物凄く暴れたと聞いていたのですが。」

 

「恐らく自分の信じていたもの全てが否定され、生気を失ってしまったのでしょう。…まあ気の毒には思いませんがね。この女のせいで、いったい何人の人の命が失われ心に傷を負ったのか…。はっきりと言って、自業自得という言葉しかありませんよ。」

 

「そうだな。我が国やアルタラス王国だけじゃない、彼女の愛するパーパルディア皇国の人々にも多大な迷惑をかけたんだ。しっかりと我が国で罰を受けてもらおうじゃないか…。おっ?どうやら調印式が始まったようだぞ。」

 

「調印式」という単語にレミールは、無意識に日本人たちのほうに視線を向ける。

視線の先には、この部屋に備え付けられた魔導通信機に、彼女の想い人がパーパルディア皇国の歴史に終止符を打った男、カイオスと並んで歩いている様子が映されていた。

 

「…ルディアス、陛下……。」

 

誰にも聞こえない様な小さな声で、愛する人の名前を口にするレミール。

そんな弱った様子の彼女を他所に、戦争を本当の意味で終わらせる調印式が始まった。

 

此処で時間は数分前に巻き戻る。

 

自国の手漕ぎボートよりも速く、そして滑らかに航行する短艇の上でカイオスとルディアスら、パーパルディア皇国の面々は目の前に広がる光景に目を疑っていた。

 

「デカい、余りにもデカすぎる!!」

 

「こ、これが二ホン国の守護神アマテラスだというのか!?」

 

彼らの前には、日本海上防衛軍第一艦隊旗艦天照が静かに浮かんでいた。

天照が纏う圧倒的な強者の雰囲気に、天照の存在すら知らなかったルディアスは当然の事、天照を知っていたカイオス達も、顎の骨が外れたかのような大口を開けて固まっていた。

 

そのまましばらくの間、驚愕の表情で固まっていた一行だったが、短艇が天照に接舷すると、何とか気持ちを切り替え、天照の甲板に続く階段を上り始める。

驚く事はもうないと考えていた一行だったが、甲板に足を踏み入れた時、再び彼らの常識には無い予想外の出来事が彼らを襲った。

 

「総員!パーパルディア皇国皇帝ルディアス陛下と、カイオス国家元首に、敬礼!!」

 

なんと天照の乗組員たちが、敗戦国の代表である自分達に敬礼をしてきたのだ。

ある程度の罵倒を受ける事を覚悟してきた一行は少しばかり呆けてしまったが、直ぐに現実に戻ってくると彼らに返礼をしながら、調印を行う机のもとへと歩き出した。

 

(敗戦国の人間に対しても礼を欠かす事が無いというのか…。二ホン国、なんて国だ…!!)

 

(これは、我が国は国力云々の前に、国民一人一人の精神すら劣っていたという事か…。)

 

たとえ敵国の人間であったとしても、決して非礼な事をしない日本軍人に驚きながらも、机のもとにたどり着く一行。

机の前には、朝田と第一艦隊の司令官佐々木が直立不動で立っていた。

 

「ルディアス皇帝陛下、カイオス国家元首、此方におかけください。」

 

朝田に言われるがまま席に着く二人の前には一つの薄い本が置かれていた。

その表紙には「フィルアデス大陸解放戦争終戦調印状」と書かれていた。

これに署名すれば戦争が正式に終わる。だがそれは同時にパーパルディア皇国の歴史も終わりを告げることでもある。

 

「それでは陛下。ここに署名をお願いします。」

 

朝田に促され、日本側が用意したペンを震える手で取るルディアス。

一刻、目を瞑ると意を決し、彼は署名欄に自らの名を書き込んだ。

その後ペンをカイオスに渡すと、彼もまた少しばかり動きを止めた後、ルディアスの署名の下に自らの名前を書きあげた。

 

最後に、日本政府代表として朝田と佐々木が自分の名前を書き込み、朝田が調印状をパタンと閉じると、佐々木が部下から手渡されたマイクを手に取った。

 

「最後に本戦争で祖国の為に戦い、死んでいったパーパルディア皇国、フィルアデス大陸解放軍の戦士達に一分間の黙祷を行う。第一艦隊総員、姿勢を正せ!!」

 

佐々木はそこまで言うと、一旦間を空け、多くのパーパルディア皇国の戦士達が散っていった海の方へと向く。

 

「最後まで勇敢に戦い、散って逝った全ての戦士達に、黙祷!!!!!」

 

ザっ、と全ての軍人達が海、若しくは陸に向かって敬礼をし、外交官達は深々と頭を下げた。

 

その光景に驚きつつも、ルディアスとカイオスは日本の軍人達と同じように、海に向かってパーパルディア皇国流の敬礼をした。

 

「…パーパルディア皇国は終わりを告げた。我からの最後の命令をお前に下す。我らと同じような過ちを犯すなよ。カイオス。」

 

「…かしこまりました。陛下。」

 

 

西暦2018年、中央暦1640年。

此処に日本、アルタラス王国、フィルアデス大陸解放軍とパーパルディア皇国の間で発生した戦争「フィルアデス大陸解放戦争」は、後に「アマテラス終戦条約調印式」と呼ばれる事になる調印式をもって、パーパルディア皇国の敗北という形で終結を迎える事となった。

 

この戦争によって、長年第三文明圏を支配し続けた列強パーパルディア皇国は解体され、新たにエストシラント共和国として再出発をする事となった。

それは同時に、第三文明圏の盟主が変わり、第三文明圏の技術、文化、影響力が大きく変化していく事を表していた。

 

 

そして、第三文明圏全体にある一つの言葉が広まっていく事となった。

 

それは、「第三文明圏に二ホン国在り。二ホン国にアマテラス在り。」である。





あとがき

パーパルディア皇国編ー01を投稿してから一年、ようやく完結させることが出来ました。
何度か見えない大きな壁にぶつかり、とても大変でしたが読者の皆様の応援のお陰で最後までやり切ることが出来ました。本当にありがとうございます。

これからの予定ですが、「魔王討伐編」、「つかの間の平和編」、「カルトアルパス編」と、投稿していくつもりなので、気長にお待ちください。

最後に、これからも「日本国召喚~天照の咆哮~」をよろしくお願いします。
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