トーパ王国 王都 ベルンゲン
日本人の大半が想像するような中世ヨーロッパの街並みの城下町とその街を見渡すようにそびえる中世ヨーロッパ風の城。
白い雪化粧が似合う趣のある町、それが北国トーパ王国の王都ベルンゲンの第一印象である。
「何!?二ホン国の援軍がもう到着したというのか!?」
「はっ。間違いありません。昨日、港に二ホン国の軍船3隻が到着しました。現在二ホン国軍は、城塞都市トルメスに向かっているとの事です。」
トーパ王国国王ラドスは軍務局からの報告を受け、非常に驚愕していた。
第三文明圏最強の国であった列強パーパルディア皇国を僅か一ヵ月で、しかも自軍への被害を全く出さずに圧勝するほどの軍事力をもちながら、その力を動かす事があまりない不思議な国である日本が、援軍の派遣を即座に決定した。
外務局からの報告を聞いた時、ラドスは援軍が到着するまでに一か月程度掛かると考えていたが、実際には一週間という短い時間で援軍がこの国にやって来た。
ラドス達は、トーパ王国での一般的常識を遥かに上回る移動速度に驚いてしまうのは、仕方のない事だろう。
ただ、日本側が寄こした援軍は100人程度と、かなり数が少ないという事もラドスに届いている。
幾つもの伝説的戦果を挙げている日本軍だが、この程度の数で勝てるのだろうかという不安がラドスの心の内にあった。
一体、彼らはどのような姿をしているのだろうか?
全員が歴史に名を残すほどの魔力を持った魔導士なのだろうか?
あるいは、超一級品の白馬に跨り、ミスリル製の金色の鎧を身に纏い、マントを羽織った騎士団なのだろうか?
ラドスの思考は、陸上防衛軍トーパ王国特別派遣部隊がトルメスに着くまで延々と続く事となる。
城塞都市 トルメス
魔王軍の攻撃を受けた「世界の扉」から、命からがらこの事を伝えた騎士モアと傭兵ガイはトルメス騎士団から日本からの援軍を案内する命を受け、南門で待機していた。
日本からの援軍は、港で合流したトーパ王国軍騎士団の護衛を受けながら、もう間もなくこの南門に到着する。
南門からは、案内の役割を騎士団から受け継ぎ城まで案内し、その後自分達は援軍に観戦武官として同行する予定だった。
「なあ、モア。俺達が案内する予定の二ホン国軍って、どんな奴らなんだ?小隊規模しか来ていないと聞いたが、そんな少数の援軍があの魔王軍に通用するのか?」
「二ホン国の軍は、正確には「二ホン国防衛軍」と呼ばれているらしいが。しかし大規模な、それこそ万単位の大軍勢なら嬉しいが、100人程度の小規模の部隊が来て、しかも指揮権も異なっていると逆に混乱と戦力の喪失を招くだけだとは思うが…。だがあのパーパルディア皇国に短期間で勝利した二ホン国だ。私達の常識だけでは測りし得ない。ただ二ホン国についての情報はかなり、な…。」
「ん?何か可笑しいのか?」
「ああ、内容が突拍子もない事ばかりでな。パーパルディア皇国の竜騎士隊を一切の犠牲を出さずに、数分で殲滅したとか、アマテラスとかいう軍艦が300隻以上の戦列艦を沈めたとか、だな。」
「うーん…。そりゃウソだな。自国を強く見せようとするための情報操作ってやつだぜ。」
「そ、そう思うか?やはり?」
間違いないぜ、と返したガイは、断定したように話し始める。
「俺は、幾多の戦場を見てきた。圧倒的に強い軍もいたが、いくら武具や戦略、策略が優れていても、死者数に大きな差は出ることはあれど、ゼロなんて数は聞いたことがない。いくら卓越した技術を持とうが、奇想天外な戦略を生みだし駆使しようが、最前線で兵が死なないなんて事は、絶対にありえない事なんだ。
多分、二ホン国は噂通りに強い国だろう。そこは認めるぜ。
だが、1人も死者が出ないなんて、話を盛りすぎだな。
そんな上辺だけを気にする国なんて、俺は大嫌いだぜ。外聞を重んじる国なら、どうせ先遣隊も金ぴかな鎧を着こんでいるんじゃねえか?」
「う~む、そうか…。しかしまあ、彼らは国賓の様なものだ。些細な出来事が王国と二ホン国の政治に影響が出る可能性が、十分にある。嫌いだからと言って、無礼を働く事はくれぐれも内容にな。」
「へっ、そんな事ぐらい解ってらぁ。」
二人が雑談をしながら、時間を潰していると城門の上にいた衛兵が大声を張り上げた。
「モア様、見えました!!二ホン国軍の方々が来られました!!」
「そうか!彼らはどの様な装備で来ているのだ?」
「そ、それが・・・。見た事のないバケモノを従えて、此方に向かって来ているのです!」
どういう事だ、と二人が疑問に思っていると二人の耳に「ブゥゥゥゥゥゥグオォォォォォォン」という、今まで聞いた事のない音が飛んできた。
二人が目を凝らすと、深緑色の体色をした魔獣が遠くから近づいてきているのがはっきりと見えた。
咆哮をあげながら近づいてくる魔獣は、一本若しくは二本の角を前方に向け、地面を揺らしながら馬と同じ速度で走っていた。
そんな異様な魔獣の周りを走っている王国軍の兵達をよく見ると、全員の顔色が優れない。
「何なんだ!!??この世の物とは思えないバケモノたちは!!??」
「私が知るわけが無いだろう!?」
この世とは思えない光景に固まっていたモアとガイの前で、一団はピタリと停車する。
当たりに響いていた異音がいくらか静かになると、日本からの援軍を先導してきた国軍の騎士が馬から降り、モアに近づく。
「此方が、二ホン国軍の方々だ。後の案内を頼む。」
「はい、了解しました!!」
何とか再起動を果たした二人が話をしているうちに、日本の化け物の内の一騎の側面の扉が開き、中から人が降りて来た。
その人物の服装を見て、二人は首を傾げてしまった。
降りて来た男性は、ただ丸いだけの飾り気のない兜を被り、緑の斑模様の服を着ている。
更には、戦闘においては必ず身に着ける装備であるはずの鎧の類を身に着けていなかった。
モアやガイの想像していた、華のある姿どころか騎士の格式を表すものすら全くない。
一言で言い表すのならば、「蛮族」である。
「日本陸上防衛軍トーパ王国特別派遣部隊、隊長の百田太郎です。ご案内感謝いたします。これからお世話になります。」
この言葉に、更に二人は驚愕する。
目の前にいる装飾の類を一切していない冴えない男が、日本からの援軍のトップだとは、夢にも思っていなかったのだ。
「トーパ王国「世界の扉」守護騎士のモアです。これよりトルメス城にご案内した後に、隣にいるガイと共に貴方がた二ホン国軍に、観戦武官として同行いたします。此方こそよろしくお願いします。」
モアは何とか表情を崩さずに、百田に挨拶を返す。
その時、彼は目の前にいる変わった格好の軍人の左肩に描かれていた模様に気付いた。
(ん??どこかで見た事のある模様だな・・・?ええと、何処だったかな?)
モアは、彼らの模様に少しばかり疑問を抱いたが、それを一旦おいておいて、日本からの援軍をトルメス城に案内する。
城に至る最中、トルメスにすむ人々はこの世に何か異物が入り込んできたかのような目で、異国の軍隊を見ていた。
数分後、奇妙な車列はトルメス城付近に到着した。
ここから先の城内には、車両は入れないので、隊長である百田を含んだ4人の武装をした防衛軍人が下車し、モアの案内の下、トーパ王国軍魔王討伐隊長のもとに挨拶に向かった。
挨拶に向かっている間、他の者達は此処で警戒態勢で待機となった。
トルメス城、何処からか懐かしさを感じる中世ヨーロッパ風のこの城は、遥か昔の神話の時代の魔王軍侵攻の後に建設された歴史ある建造物である。
勿論、時代の流れと共に、大規模な改修が数十年単位で行われており、建築された時の面影はほぼ無い。そんな歴史的建築物の中を百田たちは歩いていく。
静まり返った廊下を歩いていると、異国の観光名所に来た気分になるが、耳をすませば、遠くの方から人の叫び声や気迫の籠った声、何かの唸り声が聞こえて来る為、此処が戦場の最前線にある事を再認識し、浮かれた気分を振り払う。
騎士モアの後について、階段を上り、何度か角を曲がると、重厚な扉が一行の前に現れた。
その扉をモアはノックする。
「入れ。」
中から入室の命令が聞こえると、モアは扉を開き入室する。
「失礼します。二ホン国軍の方々をお連れしました!」
モアの後に続き、百田が中に入ると、巨大な円卓が部屋の中に置かれ、その奥にいる男が立ち上がり此方に歩いてくる。
年齢40歳くらい、身長180cmくらい、筋肉質で白色短髪、白い髭、銀色の鎧を着装し、赤いマントを羽織り、腰に帯剣をしたがっしりとした男性が百田の前に立つ。
「おお、二ホン国の方々、この様な僻地によく来て下さった!私はトーパ王国トルメス駐留軍団長のアジズです。」
「日本陸上防衛軍トーパ王国特別派遣部隊、隊長の百田太郎です。これからよろしくお願いします。」
お互いに挨拶を交わし、握手をすると一同は円卓に座り状況の確認を行い始める。
状況確認の内容を要約すると、
・魔王軍の数は約二万であり、「世界の扉」を瞬く間に陥落させた。なお、守備隊は全滅したものと思われる。
・その後、魔王軍は城塞都市トルメスの北側に位置するミナイサ地区に侵攻、これを陥落させる。
・ミナイサ地区陥落の直後、トーパ王国軍の援軍が到着、被害を出しながらもミナイサ地区から先への侵攻を食い止めている。
・ミナイサ地区の住民の大半は安全な場所に避難できたが、600人ほどの民間人が取り残されている。
・取り残された民間人は地下のシェルターに避難しているが、いつまで隠れていることが出来るか分からない為、早期の救出が必要である。
である。
説明を聞き終えた百田は、戦場の状況は想定以上に切迫している事を理解する。
「なるほど。これは早急に魔王軍をミナイサ地区から一掃し、民間人を救出しなければなりませんね。」
「そうなのだ。無論我らも何度も救出作戦を行っている。だが、ことごとく失敗しているのだ。あの忌々しいオーガ共のせいで。」
「失礼、オーガとは?」
「力がとても強く、並みの人間の何十倍もあるが、問題は彼らが疲れを知らない事だ。食事が出来る限り永遠に力が落ちずに動き続けられる、文字通りの化け物だ。
さらに奴の毛は針金のようになっており、剣や槍を受け付けない。バリスタならば有効打を与える事が出来るだろうが、素早い動きをする彼らに全く当たらないのだよ。」
「では、まず最初に鬼を退治する必要がありますね。」
「出来るのですか?相手はあのオーガなのですぞ?」
「恐らく我が国の兵器ならば、奴に引導を渡す事が出来ます。それに民間人救出の最大の障害である鬼を撃破できれば、民間人を安全に避難させることが出来ますし、魔王軍の有力な戦力を削ることが出来ます。奴を討伐する事さえ出来れば、我々の仕事は半分終わったも同然です。」
「おお!!列強を圧倒する力を持つ二ホン国軍が動いてくださるというのならば、百人力、いや万人力です!!我々も貴国に合わせて騎士団を繰り出しましょうぞ!!」
「では、民間人救出並びにオーガ撃破作戦の協議を行いたいと思います。」
「なら、地図などを準備するので今から一時間後に行いたいと思う。」
民間人の救出とオーガの撃破を同行して行う事が決まり、会議は休憩に入る。
その直後だった、黒い物体が一体、窓ガラスを割り室内に飛び込んできた。
漆黒の翼を生やし、白い服を着た乱入者に誰かが叫ぶ。
「ま、魔王の側近、マラストラスだと!?」
モアを始めとしたトーパ王国の騎士達が剣を抜き、構える。
敵に囲まれた絶望的な状況にもかかわらず、マラストラスは不敵にも笑みを浮かべる。
「ホホホ…人間の頭を討ち取るために、魔王様の側近たる我が足を運ばねばならぬとはな…。長き時を経て、なかなかの知恵を手にしたようだな、人間どもよ。」
マラストラスは話しながら、アジズに手を向ける。
その手には魔力の炎が現れていた。
「ヘル・ファイ「敵性生物確認!!射撃開始、てぇーーーー!!!」
マラストラスが今まさに魔法を放とうとした時だった。
マラストラスの声を遮るように百田が射撃指示を下すと、百田らが持っていた試製18式小銃が耳を塞ぎたくなるような爆音をたてながら、7.62㎜の銃弾を撃ちだす。
7.62㎜弾を使用しながら、一般的な12.7㎜口径の銃弾を使用する機関銃を凌駕する威力を発揮する試製18式小銃の銃撃を前に、唯の空を飛べて強力な魔法を使える程度の力しかないマラストラスが耐える事は出来なかった。
「がっ!!!!!」
断末魔の悲鳴を上げる暇もなく、手足の一部が消滅し、上半身と下半身が千切れたマラストラスが円卓に崩れ落ちる。
それと同時に、マラストラスの後ろの石壁も穴だらけとなり、一部が崩れ落ちた。
静寂が支配した室内に粉塵が舞い、血と硝煙のにおいが立ち込めた。
用語説明
試製18式小銃
異世界に転移してから、急ピッチで開発が行われた小銃。
本小銃を開発するにあたって、最も重要視されたのが「現行の小銃と同じ弾薬を用いながら、威力と射程を大幅に強化する」であった。威力向上を重要視した理由として、地球の生き物より遥かに生命力の高い魔物に対し、現行の小銃では威力不足が発生する可能性が出て来たからである。
この難題に対し、開発チームは装薬の爆発エネルギーのロスを極限までに減らす事で、この課題をクリアする事に成功した。
ただし、威力向上の代償として制作難度が大幅に上がり、コストが二割ほど上がってしまった。
その為各種試験を通じて、データを取得しコストを下げる為の開発が日夜続けられている。
因みに完成まで数年かかると見られていたが、とある武器開発のマッドサイエンティストの活躍により完成が大幅に早まる事になった。