「Project T」
正式な計画名称は、「Project Titan」。
ギリシャ神話に登場する巨大な体を持つ1柱、タイタンの名を冠されたこの計画は、陸上防衛軍が対陣地、対要塞攻略用兵器として巨大な人型兵器を開発する事を目的として企画されたものである。
何故、対陣地用の兵器として人型兵器と言う誰も作った事のない、奇想天外な兵器の開発を陸上防衛軍は、長い年月をかけて実行したのか?
それを説明する為には、第二次世界大戦の頃まで時を巻き戻さなければならない。
二度目の欧州大戦の際、連合国軍の一員として参戦した日本が派遣した欧州救援部隊は正に破竹の勢いで、枢軸国の軍勢を打ち倒していた。
海では、旗艦たる天照型一番艦天照や新鋭戦艦大和型戦艦が大暴れし、空中では当時零式噴式艦上戦闘機と呼ばれていたNF-00型戦闘機が、制空権を確保し続けていた。
無論、陸でも最新の99式戦車が大活躍していた。
ドイツの誇る無敵の重戦車、VI号戦車ティーガーを真正面から撃破することが出来る99式は、連合軍の怒涛の反撃の主要戦力として活躍していた。
だが、この当時世界最強の99式戦車でも歯が立たない存在があった。
それは、ドイツが自国領内や占領地域に多数建設した鉄筋コンクリート製の高射砲塔やトーチカであった。
最低でも数十センチの厚さを誇るコンクリートの建築物相手には、艦艇用の高射砲を転用した99式の主砲をもってしても撃ち抜くどころか、有効な被害を与える事すら出来なかったのだ。
こういったドイツ軍のコンクリート製施設を放っておくと、下手をすると前後から攻撃を受けることになり、被害を大きくしかねない。
その為、挟撃を防ぐためには一つ一つ確実に制圧するしかなく、侵攻の停滞を招くことになった。
最も戦争の終盤には戦艦の砲弾を改造した特殊爆弾を用いて施設を破壊したり、重要度の低い建築物に対しては、最低限の兵を監視に付けて無視を決め込む事で後れを挽回した。
だが、この一件は陸上防衛軍に大きなトラウマとして刻まれる事になった。
このトラウマを克服するべく、日本陸上防衛軍は大戦後直ちに新型兵器の研究開発を開始した。
「陸上防衛軍のみで運用できる対要塞用兵器」をコンセプトに始まった研究開発だが、最初から迷走することになった。
分厚いコンクリートの壁を破壊する為には、大質量の物体を高速でぶつけるのが手っ取り早いので、大口径の砲を搭載し運用する事が決まっていたが、同時にこれが研究開発の大きな足枷となっていた。
何故なら、大口径の砲は砲身だけでも桁外れの重量になってしまうし、装填機構や弾薬庫、それを守る為に装甲を施すとさらに重量が嵩んでしまう。
この重量問題のせいで、幾つもの兵器案が白紙となっていった。
最も提案されたのが「陸上戦艦の建造」だった。
これは、無限軌道もしくはホバーで移動する巨大な重装甲車を製造するという案だった。
だが、ここでも重量の問題が陸上戦艦案を実現させなかった。
陸上防衛軍の要求する破壊力を持つ砲を搭載し、それなりの装甲と近接防御火器、機関や生活設備を積み込むと、最低でも重量が2000トンを超える事が発覚したのだ。
無限軌道、つまりキャタピラでは自らの重量で地面に沈んでしまうし、履帯を破壊されれば敵地のど真ん中で孤立無援になる可能性が非常に高かった。
ホバーなら、履帯の破壊による行動不能という問題は解決されるが、その代わり空気の力だけでこれだけの重量物を移動させることが出来るか不明だった上に、ホバーに使う空気のせいで他の車両が同行できない可能性があった。
更には、平時には陸上戦艦を何処に格納するのか、戦場までどの様に運搬するのかなどの様々な問題があり、結局陸上戦艦案は廃案となった。
その他にも、超巨大自走砲案や砲にこだわる事を捨てた超大型ミサイルの開発案が上がったが、運用に手間がかかる事や破壊力の低下などの問題で白紙となっていった。
数年間、具体的な案が出ず暗礁に乗り上げていたこの計画だが、ある呟きで一気に進むことになる。
何度目かの会議の閉会直前の時、窓の外を見ていた一人がこう呟いたのだ。
「馬鹿でかい巨人の兵士がいて、そいつが大砲を抱えてぶっ放してくれればこんなに苦労はしないのにな。」
次の瞬間、会議室の数人の脳に電流が走った。
そうだ。
小さくて非力な人間では運用できないのならば、それが出来る巨大な人間に運用してもらえばいいのだ。
この事が切っ掛けで、この新型兵器開発計画は大きく進行することになった。
人型兵器のメリットを幾つか挙げると、
・タイヤや履帯以上の地形適性を有する。
・武装に必ず装甲を施す必要が無い。
・手を使って装填出来る為、装填機構を簡略化することができ、重量を低減する事が出来る。
・弾薬が無くなっても、手足を使った攻撃を行う事が出来る。
・設計次第では、一人で運用する事が出来る。
などがある。
逆にデメリットを挙げると、
・人型と言う不安定な形状の機体を造らなくてはいけない。
・繊細な機体各部の関節にかなりの負荷が掛かる。
・操縦系統が他の兵器とはまるで違う為、人型兵器専用の訓練をパイロットに施さないといけない。
・そもそも誰も作った事が無いので、全てを無から作り出さないといけない。
などがある。
前代未聞の難題を抱える巨大人型兵器だが、完成させればトラウマを克服する事が出来るだけでなく、他国に対して人型兵器に関する圧倒的なアドバンテージを得る事が出来る。
こうして、「Project T」の前身である「機動要塞開発計画」が1950年代後半に開始された。
だが案の定、この計画は茨の道だった。
推定数百トンにもなる巨体を支えるメインフレームの設計がようやく完了したと思ったら、既存の合金では強度不足になる事が発覚し、新たな合金の研究を始めなければならない。
数年かけ、目標以上の強度を持つ合金を作り出したと思ったら、今度は各関節に使用する予定のモーターの出力不足が発覚し、休む暇もなく新型モーターの開発に取り掛かる事となった。
これまた数年かけ、小型でありながら既存の物を遥かに上回るモーターを完成させたと思ったら、次は搭載予定の動力炉では出力不足になる問題が露呈し、死に体を引きずりながら小型高出力炉の開発を開始する事になった。
ボロボロの状態になりながらも、何とか新機軸の動力炉を完成させたと思ったら・・・と、問題発覚、解決、また問題発覚のループを幾度も繰り返し、気付けば計画開始から二十年以上の時が流れ1985年となっていた。
量産どころか、試作機すら作り出す事の出来ていない現状に、開発チームの中では計画打ち切りもやむを得ないという空気が流れていた。
ところが開発チームの予想と裏腹に「機動要塞開発計画」は、新たな要求を加える事を条件に人員、物資の大増量が行われ、拡大継続されることが決定した。
この予想外の出来事に、開発チームの面々は目が点になったが、心機一転する事を誓うと、再び「壁」の攻略と破壊に挑む事となった。
なお、1985年の大規模化の条件として出された要求は、
・要塞攻略用の機体とは別に、対地、対空、対艦をオールラウンダーにこなす事の出来る機体を新たに最低でも二機種制作する事。
・要塞攻略型に関しては、遅くとも2020年までに実用化する事。
・同時進行することになる他の計画に合うような計画名に変更する事。
である。
結果として「機動要塞開発計画」は、2015年までに試作する目標を立てた要塞攻略用の機体に加え、新たに二種の新型機を開発する事となり、計画名称も「Project Titan」、略称兼秘匿用名称として「Project T」と改められる事となった。
更に時は流れ、2017年。
結局、目標だった2015年には間に合わなかったが、第二次世界大戦から70年余りの時が経ったある日。
既に遺影となった故人も含めた全ての計画関係者が見守る中で、「PTX-001 戦術歩行要塞 バラム」と名付けられた鋼鉄の巨人はゆっくりと足を動かし、地響きと砂埃を上げながら自らの力のみで大地を踏みしめ、歩き始めた。
その日、「Project T」の全ての関係者の目には、大粒の水滴が浮かんでいたという・・・。
そして、2018年・・・。
半世紀以上の長い年月の間、奇想天外な発想を諦めずに追い続けた研究者達の執念とも言える機体が、地球から遠く離れた北国の雪原でその力を思う存分発揮していた!
トーパ王国 トルメス郊外
「な、なぜだ・・・。何故、こんな事が起きている!?」
つい先程まで余裕を嚙ましていた魔王ノスグーラは、目の前の光景に頭がおかしくなりそうだった。
自身の魔力の大半と半日近くの時間をかけて作り上げたエンシェントカイザーゴーレムに、太陽神の使いの鉄竜が何一つできずに周りを走り回る様子に、優越感を覚えていたはずだった。
それは今も変わらない筈だった。
その・・・筈、だった。
「何なんだ、何なんだお前は!?」
叫ぶノスグーラの瞳に写っていたのは、自慢のエンシェントカイザーゴーレムが異形の鋼鉄の巨人によって殴り飛ばされる光景だった。
トルメスの街を囲む防壁を背に雪の大地に降り立ったバラムは、少し腕を動かすとその巨大な足を動かし岩石の巨人へと向かう。
最初はゆっくりと、徐々に速度を上げ、最終的には一流の陸上選手のようなフォームで走り、エンシェントカイザーゴーレムの懐へと飛び込むと、大きく振りかぶりながら握りしめた右手でゴーレムに殴り掛かり、エンシェントカイザーゴーレムもまたバラムと同じように右腕でバラムに反撃の一撃を放った。
二体の巨人の腕が甲高い音を上げてぶつかった次の瞬間、バラムの腕がエンシェントカイザーゴーレムの腕を粉々に粉砕していた。
よろめくエンシェントカイザーゴーレムに立て直す暇を与えず、バラムは左腕をゴーレムの腹部に叩きこみ、ゴーレムを吹き飛ばした。
この光景に日本陸上防衛軍トーパ王国特別派遣部隊とトーパ王国トルメス防衛軍の士気は、最高潮に到達していた。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!いけぇぇぇぇぇぇ!!!」
「そうだ!!右フック、左ストレートだ!!」
「いいぞ!!奴に止めを刺せーーー!!!」
両軍の兵士から大きな歓声が上がる中、城壁にいる犬神は冷静に戦況を観察していた。
そして、ある事に気付いた。
「不味いな・・・。あのデカ物、あれだけの質量攻撃を受けてもなお、くたばらないのと言うのか?このままでは、正真正銘ジリ貧だぞ。」
一見有利に思えて、実際は不利の状況に陥っている現状に冷や汗をかく犬神だが、彼の元にこの状況を打開する事が出来る情報が届く。
「うわっ!?なんだこの状況は!?私が屋敷に引き返している間に、何がどうなっているのだ!?」
「ようやく帰ってきたのか、モア!何を取りに行っていたのか知らないが、アレを見てみろよ!!魔王のゴーレムを二ホン国の巨人が圧倒しているぞ!!」
「あの巨人は、二ホン国のものだったのか・・・。って、それどころじゃない!イヌガミ殿、今すぐにあの巨人の主に胸の「コア」を狙うように伝えて下さい!!」
「「コア」?モアさん、それは何なのですか?」
「簡単に言うと、奴の心臓であり脳である物です。「コア」さえ破壊してしまえば、いくら魔王のゴーレムと言えど、忽ち岩石の塊に逆戻りするはずです!!」
「!!、・・・・情報提供、感謝します!!」
モアの説明を聞きながら、手にした本の挿絵を見た犬神は直ぐに無線機を操作すると、バラムのコックピットにこの情報を伝える。
バラム コックピット内
バラムのコックピットではパイロットである竹中相馬が、犬神と同じように焦りを感じていた。
「ちっ!この野郎、どんなに殴り砕いても再生しやがる・・・。いくらコイツでも、無限に殴り合いは出来ないぞ。どうすれば・・・。」
相馬はメインモニターに写っているゴーレムを睨みつけながら、どの様に目の前の岩石巨人を倒すかを思考していると、無線が入って来る。
「此方、日本陸上防衛軍トーパ王国特別派遣部隊分隊長犬神!!竹中少尉、奴の胸部の「コア」と呼ばれる物を破壊して下さい!」
「その「コア」と呼ばれる物さえ破壊すれば、あのデカ物に引導を渡せるのか?」
「トーパ王国の古い書物にそう記されているうえに、15式戦車が撃破したゴーレムも胸部に攻撃を受けていた。この情報は間違いない!」
「了解!今度こそ、奴に止めを刺してやります!!」
犬神に返信しながら、相馬はバラムを後退させエンシェントカイザーゴーレムと距離をとる。
距離を取るとコックピットの機器を操作し、ホバーモードに移行するとアイススケーターの様に雪原を滑りながら、勢いをつけてゴーレムに殴り掛かる。
一方の魔王ノスグーラも自らの目的を果たす為に、その最大の障害であるバラムに引導を渡す為に、再生を完了したゴーレムに、全魔力を込めた拳攻撃を命じた。
二体の巨人の影が交わり・・・、遂に決着がついた。
バラムの右腕はエンシェントカイザーゴーレムの最強の攻撃を打ち破り、ゴーレムの胸に隠されていた赤色のコアを砕いていた。
自身の体を維持するために必要な唯一且つ、最も破壊されてはならない部位を失ったエンシェントカイザーゴーレムはその体を維持する事が出来なくなり、轟音を立てて幾つもの岩石へと戻っていた。
「ば、バカな・・・。そんな馬鹿な!?我の作り上げた最強のゴーレムが!!偉大なる魔帝様の作り上げた魔法式を元にしたエンシェントカイザーゴーレムが、下等な人間の人形ごときに敗れるなんてあり得ん!!」
ノスグーラはゴーレムが崩れ去る光景を前に、極度の激昂状態に陥っていた。
奥の手が下等種に敗れた事に対する怒り、鋼鉄の巨人への憎しみ。
そして・・・、恐れ。
ノスグーラは、バラムに恐れを感じていた。
あの巨人の相手をすれば、今度こそ完全に殺されるのではないか?
死を迎えるのは下等種である人類ではなく、自分なのではないか?
今まで感じた事のない恐怖を感じたノスグーラは、咄嗟に生存本能に従い、この場から逃げ出そうとしていた。
だが、魔王を討ち取る絶好のチャンスを、移動要塞バラムが見逃すはずがなかった。
「逃がすか、この野郎!!ミサイルの嵐を喰らいやがれ!!」
相馬が操縦桿のトリガーを引くとバラムの両肩や両膝、バックパックなどの各部の装甲が展開し、内蔵されたランチャーから発射された地対空ミサイルがノスグーラへと殺到した。
バラムの隠された武器の存在に驚愕しながらも、魔王ノスグーラは防御魔法を展開し、ミサイルを受け止める。
いくら魔力を消費しているとはいえ、まだまだ十分な魔力を有するノスグーラは幾多のミサイルを受け止め続ける。
この攻撃さえしのげれば、後はどうにでもなる。
そう考えていたノスグーラだったが、突然激痛が両足に走るのを感じた。
何とか防御魔法を維持しながら、自分の両足へと視線を移すと自分の足の大半が消え去っていた。
一体どこから攻撃されたと周りを見渡すと、城壁の上で異形の大型銃を構えた男が此方をスコープ越しに見据えていた。
「き、貴様か!?この我に傷を与えた愚か者は!?」
「どうだい魔王様?敷島の爺さんが作った「礼賛」の味は?」
この予想外の被弾と怒りの叫びが、魔王ノスグーラの運命を決定した。
両足を失った痛みと、人間への怒りからの集中力の低下により防御魔法を維持できなくなった魔王に、残りのミサイルが次々に被弾した。
咄嗟に防御姿勢を取り、何とか頭と胴体を守る事は出来たが飛行魔法のバランスを崩し、地上へと落下する魔王ノスグーラ。この時、魔王ノスグーラは非常に運が付いていなかった。
何故ならバラムの真正面を、バラムの全内蔵火器の射線に落下してしまったのだ。
「これはおまけだ!!遠慮なく!!全弾受け取りやがれーーーー!!!!」
相馬が叫んだ瞬間、頭部に備え付けられた八門の35㎜機関砲が、胸部の装甲内に格納された四門の200㎜ガトリング砲が、腰部の八連装地対地ミサイルと二基の155㎜連装速射砲が、機体各部の地対空ミサイルが満身創痍のノスグーラへと襲い掛かった。
「おのれ!おのれ!!おのれーーー!!!下等な人間共がぁぁぁぁぁ!!!」
ノスグーラは怨嗟の叫びを上げながら、塵一つ残すことなくこの世から消滅していった。