魔王ノスグーラが機動要塞バラムに撃破された直後、戦場は今までの激しい戦いが噓の様に静まり返っていた。
幾多の書籍に記された伝説上の怪物である魔王ノスグーラが、あの勇者ですら封印するのがやっとの化け物が、目の前でたった一体の巨人の手によって撃破されたのだ。
伝説が書き換えられる光景を目にして、黙り込むなという方が無理だろう。
体感で数分間、実際には一分にも満たない静寂は、突如として涌いた大歓声によって塗り潰された。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
「魔王ノスグーラがくたばったぞーーーーー!!!!」
「すげぇぞ、あの巨人!!ノスグーラを倒しやがった!!!」
「あの巨人の事、二ホン国の軍人に聞いたぞ!バラムっていう名の二ホン国の新兵器らしいぞ!!」
「二ホン国万歳!!バラム、万歳ーーーーー!!!」
何代にも渡ってうなされて来た悪夢の源である、魔王が倒された事を祝うトーパ王国兵の大歓声を聞きながら、日本陸上防衛軍トーパ王国特別派遣部隊もまた、静かに喜びを嚙みしめていた。
一方、魔王軍は絶望のどん底まで陥る事となった。
自分達の偉大なリーダーである魔王ノスグーラが、切り札たるエンシェントカイザーゴーレム諸共人間によって討ち取られてしまったのだ。
元々、魔王軍とは魔王ノスグーラを筆頭とした強力な魔物によって統率された組織だったが、その組織の頭と頭に成りうる存在を全て失ってしまったのだ。
つまり、統率というものは無くなり、士気は最低限まで下がってしまった。
統率と士気の無くなった軍隊が、敵の勝鬨を聞けば何が起こるだろうか?
それは、戦線の崩壊である。
一匹のゴブリンが敵に背を向けて走り出したのを機に、魔王軍は蜘蛛の子を散らす様に逃走を開始した。
無論、敵軍の敗走に気付かない日本陸上防衛軍ではない。
隊長の百田は、城壁近くに退避していた15式戦車と09式装甲戦闘車に追撃命令を出した。
いくら敵の主戦力を倒し、敵軍を敗走させたとはいえ、魔王軍の残存戦力は未だに脅威であった。
トーパ王国の為に、そしてフィルアデス大陸に住む多くの人々の為に、少しでも敵残存戦力を撃破する為に追撃を始めようとした矢先、百田の下に通信が飛んできた。
「百田隊長、防衛庁から緊急連絡です。」
「なんだ?こんな時に?とりあえず、通信機をこちらに貸してくれ。」
部下から通信機のインカムを受け取ると、百田は通信を飛ばして来た相手との会話を始めた。
「はい、代わりました。隊長の百田です。・・・はい、魔王の撃破に成功し、これから追撃を行いますが・・・・。・・・はい!?追撃するなってどういう事ですか!?政府はフィルアデス大陸の脅威を残すつもりなのですか!?」
最初はごく普通に話していた百田だったが、途中から口調が激しくなった。
一体何があったのだろうかと、周りの隊員の視線を向けていると、明らかに不満を感じている表情をした百田が通信を終え、無線機のインカムを少々乱暴に外した。
「・・・全車に連絡、敗走する魔王軍に対する追撃を直ちに中止、我が部隊はトルメスの街の市民救援活動に移行する。」
「なっ!?敗走したと言っても、未だに魔王軍の戦力は脅威なのですよ!?」
「そんなことは分かっている!!だが、厳田防衛大臣直々の命令なのだ。・・・我々は軍人だ。上からの命令は絶対だ!!」
突然もたらされた、厳田による追撃中止命令。
このあり得ない命令に日本陸上防衛軍トーパ王国特別派遣部隊の面々は、大きな不満を感じながらも渋々追撃を取りやめ、トルメスの街の救護活動に移っていった。
その後、日本陸上防衛軍トーパ王国特別派遣部隊は怪我人の救護、戦闘によって破壊された家屋の瓦礫撤去に尽力をした。
災害の多い国である日本で鍛えられた日本陸上防衛軍は、異国の地でもいかんなく発揮されていた。
特に有難られたのが、戦術歩行要塞バラムだった。
バラムの巨体から発揮される怪力は、瓦礫の撤去作業にも大活躍をしていた。
ただ、この活躍がトーパ王国内におけるバラムの神格化に拍車をかける事となってしまったが・・・。
数日間の救護活動を終える頃には、日本陸上防衛軍トーパ王国特別派遣部隊がトーパ王国を後にする日となっていた。
トーパ王国滞在最後の日の夜、魔王討伐と救護活動への感謝として、トルメスの街を挙げた盛大な宴が開かれた。
トーパ王国自慢の郷土料理と地酒に、日本陸上防衛軍トーパ王国特別派遣部隊は舌鼓をうち、トーパ王国の国民との会話を楽しんでいた。
そんな騒ぎの蚊帳の外で、隊長の百田が一人で酒を飲んでいた。
笑顔で料理を食べている部下達を眺めながら盃を傾けていると、彼の隣に誰かが腰を下ろした。
「トーパ王国救国の部隊の頭がこんな所で何やってるんですか?百田隊長?」
「それを言うのならば、魔王を討伐した英雄であるお前こそ、何で此処にいるんだ?竹中少尉?」
「そりゃまあ、バラムを神として祭るトーパ王国民に「神の使い」として担ぎ上げられ、もみくちゃにされたので、何とか逃げて来たんですよ。」
「ふっ、俺も似たようなもんだ。折角ここに来たんだ、一杯飲むか?」
苦笑いをしながら話す竹中に、自分が飲んでいた酒を薦める百田。
竹中が礼を言いながら酒の入った杯を受け取ると、二人はただ静かに盃を傾ける。
数分後、ぽつりと竹名が話を始めた。
「・・・百田隊長、魔王軍追撃中止命令を出した際、無線の向こう側にいる相手さんと物凄い言い争いをしていたと、噂になっていますが、あの時、何があったんすか?」
「それは・・・、すまない。この件は広める訳にはいかないのだ。」
「隊長、俺は確かに若輩者ですが、「Project T」のテストパイロットして、今まで防衛軍に従事してきました。口の堅さには、自信があります。今日、この場での会話は、決して誰にも話しません。教えてください、あの日一体何があったのですか?」
「・・・分かった、他言無用で頼むぞ。」
此処で話は、数日前に戻る。
「・・・・・・はい!?追撃するなってどういう事ですか!?政府はフィルアデス大陸の脅威を残すつもりなのですか!?」
「落ち着きたまえ、百田隊長。」
「これが落ち着いていられますか!?いくらトップが居なくなったとは言え、あの戦力は依然として脅威です!新たなリーダーが誕生する前に、容易に立ち直る事が出来ない程の損害を与えるべきです!!」
「だがしかし、君たちの部隊はここ数日の戦い・・・。特に魔王戦においてかなりの弾薬や燃料、物資等を消耗したはずだ。万全な状態ではない君達を敵の占領下に進軍させるような事は、私はしたくない。」
「では、貴方は魔王軍の残党が奴らの故郷に逃げ帰るのを、ただ黙って見ておけと言うのですか、厳田防衛大臣!?」
百田は通信を入れて来た人物、厳田に疑問を強い口調で問い質す。
そんな不満感を隠し切れない百田に、厳田は落ち着かせるように話す。
「そんな事は無い、既に手は打ってある。・・・魔王軍残党の討伐に関しては、「特一号艦」に任せる事とする。」
「「特一号艦」?一体何なのですか、それは?」
「・・・「特一号艦」については、最重要軍事機密によりあまり話す事は出来ないが・・・。次世代の艦艇の礎となる艦だ。彼女の火力ならば、魔物の数万ぐらい簡単に撃破する事が出来るだろう。だから、君たちは安心して救護活動に移ってくれ。」
その後、厳田から他の部隊員には「特一号艦」の事は適当にはぐらかす様にと伝えられた後、通信は終わったのだ。
時は最終日の夜に戻る。
「・・・と、言う事があったのさ。」
「そうだったのですか・・・。しかし、「特一号艦」ですか。存在しているという噂を耳にした事はありますが、まさか本当に実在していたとは・・・。」
「そんな噂、私は聞いた事が無かったが、硫黄島では「特一号艦」に関する噂があったのか?」
「ええ・・・。ただ、かなり曖昧な噂ですよ?光学兵器を中心とした巨大艦とか、新機軸の機関を搭載しているとか・・・。兎に角、防衛軍内で最も軍事機密に関わる最新技術の開発を行っている硫黄島に努めている自分ですら、信憑性の低い噂話程度にしか聞いた事のないものです。本土勤務の百田隊長が聞いた事が無いのは、無理もありません。」
「そうか・・・。その「特一号艦」がどの様な艦なのか、我々には知る術が無い・・・。私たちに出来るのは、「特一号艦」が魔王軍の残党の一掃に成功する事を祈るだけだな。」
そう話す二人の上では、満天の星が瞬いていた。
後日、トーパ王国から帰還した日本陸上防衛軍トーパ王国特別派遣部隊は、全員が厳田防衛大臣から直々に勲章を授与される事となった。
この勲章式と同時に、「Project T」が正式に公表され、本計画において開発された人型兵器を「アーマーフレーム」、略称「AF」と命名。AFの記念すべき一番最初の機体であるバラムは、ギガンティックアーマーフレーム「GAF-001 バラム」と型式番号が改められ、正式配備、量産されていく事が発表されたのだった。
フィルアデス大陸 世界の門
幾多の魔物が住み着くグラメウス大陸から、魔物のフィルアデス大陸への侵入を防ぐ為に建設された巨大な城壁にして城塞、「世界の門」。
今回の魔王軍によるフィルアデス大陸侵攻の最初の戦場となり、大破したこの要塞にボロボロとなった魔王軍残党がたどり着いたのは、魔王ノスグーラが討ち取られた日から二週間程たっていた。
ただでさえ、日本陸上防衛軍による攻撃で半数以上が撃破された上に、退避行の中で怪我や空腹、衰弱で力尽きた魔物も多数おり、この「世界の門」に辿り着いたのは最盛期の二割にも満たなかった。
だからこそ、「世界の門」に辿り着いた魔物達は、皆心底安心した表情をしていた。
「世界の門」を通り抜けた細長い地峡を通り抜けさえすれば、人間達の手の及ばない安全な魔物大陸であるグラメウス大陸だ。グラメウス大陸に辿り着くことがさえ出来れば、寿命が尽きるまで安全に暮らす事が出来るだろう。
安全地帯まであと少しという事で、魔王軍残党軍全体が小走りで移動していた時、一匹のゴブリンがふと何か違和感を覚え、海の方向を見た。
次の瞬間、ゴブリンの目に飛び込んできたのは、音さえも振り切って飛翔してきた光弾から発生し拡大していく光球だった。
この異様な光景がゴブリンの、いや魔王軍残党が見た最後の光景となった。
フィルアデス大陸とグラメウス大陸を繋ぐ地峡の直上で発生した、太陽の如き二つの光球はあっという間に地峡を包み込み、そこにいた魔物の大群を地面ごと吹き飛ばし焼き尽くした。
光が収まり、全ての破壊が終わった時、そこには魔王軍の生き残りはおろか、二つの大陸を繋ぐ地峡すらも跡形もなく消滅していた。
フィルアデス大陸 沖合い
陸地から100㎞程離れた霧の立ち込めた海域に、「ソレ」は存在していた。
それのシルエットは一見船の形をしていたが、その姿はかなり異様であった。
桁外れの全長に、同じく桁外れの全幅。
船の彼方此方からは、様々な大きさの砲身が飛び出し、それらは塔のごとく聳え立つ構造物の周りにずらりと並び、その姿は誰もに力強さと頼もしさを与える雰囲気を纏っているように見えた。
この異様な姿の船・・・、防衛庁直属の特務戦闘艦「・・・・」、秘匿名称「特一号艦」は船体の一部を変化させながら、艦首を大海へと回頭していた。
「・・・艦長、無人機から通信、「敵部隊ノ殲滅ヲ確認」との事です。」
「了解した、全艦武器収め。通信士、防衛庁に秘匿暗号通信。「敵部隊の殲滅を確認、次の指示を請う。」」
「特一号艦」の艦橋でこの巨大艦の艦長を務める前原は、各所に指示を出しながら自分達の上司からの新たな指令を待っていた。
秘匿技術の塊である「特一号艦」は、その運用には非常に厳格な規則が設けられている。その為、この船は兵装一つ動かすだけでも、防衛庁からの許可が無ければ出来ないのだ。
幸いな事にそれは、直ぐに前原の下に届いた。
「艦長、防衛庁から通信。「「特一号艦」は直ちに現海域を離脱し、硫黄島の秘密ドックに帰投せよ。」との事です。」
「了解、艦の進路を硫黄島に向けろ。速力、40ノット!」
回頭を終えた「特一号艦」は、その巨体に見合わない加速度で速度を上げていくと、霧の立ち込める大海へと姿を消していった。
用語説明
GAF-001 バラム
全高 50m
機体重量 550トン
主動力 大型プラズマジェネレーター 一基
補助動力 小型核融合炉 二基
内蔵兵装
頭部35㎜機関砲 八門
胸部200㎜ガトリング砲 四門
腰部八連装地対地ミサイル 一基
腰部155㎜連装速射砲 二基
肩部32連装空対地ミサイル 二基
膝部18連装空対地ミサイル 二基
背部21連装空対地ミサイル 二基
(現在、開発中)背部610㎜砲 二基
手持ち兵装
330㎜二連装リニアガトリング砲
510㎜対要塞低反動砲
バラム用大型対要塞刀
バラム用大型防盾
陸上防衛軍による新型兵器開発計画「Project T」によって開発された、対要塞用の超巨大人型兵器。
人類史上最初の人型兵器として、半世紀近い年月を掛けて開発された機体で、対要塞、対地攻撃を主体にした武装を装備している。
攻撃力、防御力共に現最強戦車である15式戦車を遥かに上回り、唯一劣る機動力もホバー能力を用いる事で時速100㎞を超える速度で移動する事でカバーできる。
一部兵装が未完成ながらも、試作二号機がエンシェントカイザーゴーレム戦に投入され、圧倒的な性能で相手を圧倒。
最終的に、エンシェントカイザーゴーレムとゴーレムの主である魔王ノスグーラを撃破し、その初陣に華々しい戦火を飾った。
なお本機の型式番号は、元々「AF-001」となる予定だったが、現在開発中の機体と比べて二倍ほどの巨体を持つなどの理由によって、「GAF-001」となった。
特一号艦「・・・・」
形式上、海上防衛軍所属となっているが、実際は防衛庁直属となっている特務艦。
全長、全幅、排水量、速力、武装、装甲など全ての情報が機密事項となっており、一部の関係者以外には真の艦名すら秘匿されている。
その為、母港とされている硫黄島ですらも、信憑性の低い噂しか出回っていない。
メタい話 何故バラムが登場したのか?
作者「何か、他にはないオリジナル要素追加したいな~~。(ようつべを見ながら、ネタ考案中)」
とあるゆっくり実況動画「システムチェック、オールグリーン。耐衝撃体制に移行。バラム○○、行きまーす!!」
作者「・・・・・・!これじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
あとがき
読者の皆様、お久しぶりです。
作者のイーグルです。
最初に多くの感想、ありがとうございます。特に魔王討伐編-04の驚愕の嵐には、してやったりと拳を握ってしまいました。
最近、全く返信する事が出来ていないですが・・・・。
オリジナル要素が多く執筆に苦労した魔王討伐編も、何とか完結させる事が出来ました。
ただ、これからオリジナル要素がより多い「つかの間の平和編」に移行する事となるので、更新速度が更に落ちるかも知れません。
それでも、良いという方は気長にお待ちください。
最後に、これからも「日本国召喚~天照の咆哮~」をよろしくお願いします。