「第三文明圏外の新興国二ホン国、魔王を討伐す」
第三文明圏からもたらされたこの衝撃的なニュースは、第三文明圏外に大きな衝撃を与える事となった。
かつて、勇者と騎士で構成されていた精鋭の勇者パーティでも倒す事が出来ず、封印する事しか出来なかった魔王ノスグーラがぽっと出の国の部隊によって、討ち果たされたのだ。
驚くなと言うのが無理な事だろう。
この事実に各国は、様々な反応を示していた。
・クワ・トイネ公国の場合
この世界に転移してきた日本と初めて接触した国、クワ・トイネ公国。
第三文明圏の中でも発展の遅れていた国だったが、異世界からやって来た日本の力によって、今や第一、第二文明圏の文明国すらも凌駕する発展ぶりを遂げている国である。
特に数か月前に始動した、クワ・トイネ公国とクイラ王国の国境を跨ぐ形で建設されたロデニウス大陸最大の工業地帯では、クワ・トイネの豊かな自然に配慮した自然環境への影響を極限まで抑えた生産設備が日夜フル稼働していた。現状は、日本人が主となって運用されているが、ゆくゆくはクワ・トイネ公国、クイラ王国主体で運用される予定である。
そんな「超高度経済成長」と表現されてもおかしくない成長を遂げている、クワ・トイネ公国の首都クワ・トイネの首相官邸ではカナタが在日大使館からもたらされた報告書を読んでいた。
「・・・列強パーパルディア皇国を僅か一か月余りで下した時も大変驚きましたが、まさか100人足らずの軍勢であの魔王ノスグーラを討ち取るとは。あの国の力は、全く予想する事が出来ませんね。」
カナタの手の中にある報告書には、派遣された日本陸上防衛軍のトーパ王国内での活動内容が細かく記されており、その内容にこの世界で最も日本と接している国の首相であるカナタでさえも、驚きの感情を隠す事が出来なかった。
特にノスグーラと魔王が操るエンシェントカイザーゴーレムを、巨大な鋼鉄の機人によって撃破したと知った時には、驚きのあまり椅子から転げ落ちそうになったほどだった。
「やはり二ホン国は強い、これは間違いないの無い事でしょう。例の報告が正しければ、以前の魔王軍侵攻を撃退した「太陽神の使い」も、二ホン国が関わっている可能性が非常に高いとの事ですし・・・。いつの時か復活すると言い伝えられている魔帝が再びこの世に現れた時、二ホン国は矢面となって戦う事となるでしょう。だからこそ、我が国は出来る限り、早急に二ホン国の力に頼らない体制を構築しなければならないですね。」
同盟国の負担を無くす為に、どの様な政策を執るべきかを夜遅くまで考えるカナタであった。
因みに一般市民は、前人未到の偉業を成し遂げた同盟国を大々的に祝い、各地で大規模な宴を開いていた。
・アルタラス王国の場合
正式にフィルアデス大陸解放戦争と命名された戦争によって、長年の悩みであったパーパルディア皇国関連の問題が全て払拭された島国、アルタラス王国。
国の主要な産業である魔石の最大の取引相手が消滅したことにより、一時期国の経済が停滞する事となったが、日本の手入れにより、現在は経済回復の傾向となっていた。
また、戦争終結後に締結された日本との協定により、アルタラス王国の高純度の魔石を利用した新たな魔導技術の獲得の為に、二か国共同の魔導研究所が旧パーパルディア皇国大使館跡地に建設中である。
旧体制から脱却し、更なる発展を成し遂げようと日夜努力するアルタラス王国の国王、ターラ14世の下にも魔王討伐の報が届いていた。
「皆、偉大な盟友である二ホン国が又もや偉業を成し遂げた。僅かな軍勢で、あの伝説の魔王を討ち取ったとの事だ。」
「なんと!?それは、真実なのでありますか!?」
「間違いない、これは二ホン国政府から正式に発表されたモノだ。」
王前会議の場にて、ターラ14世から伝えられた衝撃的なニュースに、外務大臣を除く各大臣達は、おぉと驚愕の声をあげる。
「まさか、あの魔王すらも討ち取ってしまうとは・・・。味方成れど恐るべし、二ホン国。」
「ああ、全くだ。あの国が温厚な性格で良かった。もしも、パーパルディア皇国のような性格だったら、我が国はあっという間に蹂躙されてしまっただろうな。」
「そうだな。あの国は味方の国には親切かつ対等な立場で接してくるが、一度敵対すれば一切容赦しない一面もある。本当に彼の国が、我々の味方に付いてくれたのは僥倖だったな。」
ざわざわと騒めく臣下達を見ながら、ターラ14世は日本と初接触したあの日の決断が間違っていなかった事を確信していた。パーパルディア皇国の様に、一方的に理不尽な要求をしてくる事もなく、そればかりか自分達の事を気遣う国と強い信頼関係を結ぶ事が出来たのは、あの日、偉大な先人達が力を貸してくれたから出来たのではないかとも考えてしまう程だった。
「現在、我が国はエストシラント共和国から賠償として受け取った魔導技術を、二ホン国と共に昇華させるために研究を行っています。そのうちの一つが、小型高出力の魔導機関の開発です。これが成功すれば、我が国は新たなる産業を手にする事が出来ます。」
「うむ、新規技術の開発は一夜で出来る事ではない。二ホン国に見習い、研究には多大な予算を用意する様にしてくれ。それから、軍事関係にも力を入れてくれ。少なくとも、自分の身は自分で守れるようにならなければならないからな。」
「「「はっ!!!」」」
ターラ14世の言葉に、大臣達は力強い返事を返す。
更なる発展の為、アルタラス王国の努力は終わる事が無い。
・エストシラント共和国の場合
日本との戦争に敗戦し、長い年月を掛けて手に入れた圧倒的な経済力や軍事力、列強国としての影響力などを全て失い、現在は日本を筆頭にした戦勝国の厳しい監視下の中で復興活動を行っている旧パーパルディア皇国こと、エストシラント共和国。
旧第三外務局、現エストシラント共和国首相官邸の屋上で、今やこの国の政治の重要人物となっているクロムとヴァルハルが話をしていた。
「二ホン国が魔王を新兵器を用いて討伐したとの報告が上がってきたが・・・。この新兵器とは何なのだ、ヴァルハル?」
「え~と、ちょっと待てよ・・・。お、在った在った。二ホン国政府の発表によると、新兵器の名前はバラム。アーマーフレームと言う全く新しいカテゴリーに分類される、巨大人型兵器との事だ。」
「巨大人型兵器?それって、ミリシアルが開発している魔導ゴーレムみたいなものか?」
「簡潔に言うと科学文明で造ったゴーレムもどきなのだが・・・。性能がかなりヤバいことになっているぞ、これ。俺の大雑把な予測が正しければ、バラム一体で旧三大陸軍基地を壊滅させることが出来るはずだ。」
「そんな馬鹿な!?いくら二ホン国の新兵器とは言っても、そんな事が出来るというのか?」
「まあ、嘘だと信じたいのは理解できるが・・・。何しろ、ムーのラ・カサミの主砲以上の砲弾を大量にばら撒く事が出来る機関砲に、魔王が作り出したエンシェントカイザーゴーレムの攻撃に耐える事が出来る装甲、おまけに馬を凌駕する速度で走れるときたもんだ。人の形をした戦艦だぜ、コイツは。」
説明しながら、手に入れた雑誌をクロムに手渡すヴァルハル。
クロムは雑誌をひったくる様に奪い取ると、ページを開き食い入るように読み始める。
最初は懐疑心が表情に出ていたクロムだったが、数ページ分を読み終えた頃には、それはすっかりなくなっていた。
「・・・現実の事だと理解したかい?」
「ああ・・・、しかし信じられない。こんな化け物を二ホン国がこっそりと作っていたとは・・・。」
「何でも二ホン国が元居た世界、確かチキュウだったかな?半世紀以上前の大戦でのトラウマを克服する為に作っていたとか何とか・・・。」
「チキュウか、聞けば聞くほど魔境な世界だと思うよ。あの二ホン国と張り合える国が複数存在している世界が存在しているなんて、初めて聞いた時には耳がおかしくなったのかと思ったほどだよ。だが、私はこの事実以上に恐ろしい事に気付いてしまった・・・。」
「恐ろしい事?」
「この雑誌によれば、バラム自体は我が国との開戦前に既に完成していたという。もし、戦争が長引いていたら我が国の領土を、魔王すら打ち倒す鋼鉄の巨人が蹂躙することになったかもしれないぞ。」
クロムの話を聞き、今度はヴァルハルがサッと顔を蒼くする。
「いや、そんなこと、は・・・。」
「あり得る話だ。あの蝙蝠野郎のせいで、ニホン国は戦争を早期に集結させなければならない状況に陥った。事実、ニホン国の大使は我々のクーデター計画が無ければ、エストシラントへの強行上陸すら検討していたと話していた。その時に、このバラムが囮兼残存戦力撃滅の為に運用されていれば・・・。」
「エストシラントが文字通り、消し炭になるという事か・・・。」
自分達は日本の足元にすら及ばない、同一の見解に達した二人は、顔を見合わせると盛大に溜息を吐いた。
「全く,元皇国のお偉いさんはとんでもない国にケンカを売ったもんだ。」
「だからこそ、二度とあのような事が無いようにしなければならないぞ。あのような一方的な蹂躙を経験するのは、もうこりごりだ。」
「ああ、そうだな・・・。おっと、時間だ。そろそろ戻ろうぜ。」
おう、と返事を返すとエストシラント共和国の為に奔走する二人の若人は建物中へと戻っていった。
エストシラント共和国の新たな歴史は、まだ始まったばかりである。
・神聖ミリシアル帝国の場合
「なに!?二ホン国が魔王ノスグーラを倒しただと!?それは本当なのか!?」
「は、はい。魔王軍が襲撃したトーパ王国をはじめ、第三文明圏の各国、更にはムーでもこの件は報道されています。疑いようのない事かと。」
「しかし、信じられん!二ホン国は、ムーと同じ科学技術立国。魔法なしであのラヴァーナル帝国の先兵たる魔王を討ち取るなんて、一体何の冗談だ!」
この世界において、他の国の追随を許さない国力を有する列強神聖ミリシアル帝国の首都ルーンポリス。
この世界有数の都市にある帝国情報局は、てんやわんやの大騒ぎとなっていた。
文明圏外の国が単独で魔王を撃破したという事だけでも驚異的な事実だが、この騒ぎを大きくしたのが魔王を倒した国が、科学技術立国という事だった。
この世界では、科学を研究している国はムーやマギカライヒ共同体などほんの極僅かであり、その他の大多数の国々は魔法文明の国として発展してきた。
その為、世界の常識の一つとして、「魔法を極める事が真理、科学が魔法を上回る事は無い。」という物があった。この常識は、世界最強の国である神聖ミリシアル帝国、そして幾多の国々から恐れられている古の魔法帝国が魔法文明である事が後ろ盾となり、当たり前の事として広く認知されている知識だった。
だが、古の魔法帝国の生み出した最強の魔導生物を、文明圏外の科学文明国が僅かな兵力のみで撃破してしまったことで、この「当たり前の常識」が崩れてしまったのだ。
「ありえん、絶対にありえん!!魔法無しで魔王を倒すなんて、絶対にあり得ない事だ!!」
「だが、実際に魔王は科学技術立国の手によって、撃破された。これは覆しようが無い事実だぞ。」
「それはどうだか。魔王を倒したのはバラムとか言う名の巨人だという。この巨人は、魔帝のゴーレムを奴らの手によって、科学文明らしい見た目に仕立て上げただけではないのか?それなら、この圧倒的な戦果も納得する事が出来る。」
「いや、それは難しい。ニホン国人に会った事のある商人の話によると、彼らは魔法を全く知らないと言う。魔法を知らないニホン国が、魔帝の遺産を操る事が出来るとはとても考えられない。」
「では、なんだ!?貴様は我が国が作る事が出来ない様な代物を、文明圏外の科学文明国が魔法無しで作り上げたとでも言うのか!?そちらの方があり得ない事だ。貴様は、もう一度学問を学び直した方が良いのではないかな?」
「なんだと!?無礼だぞ、直ちに撤回しろ!!」
今回の一件を受けて急遽開かれた会議は様々な意見が飛び交い、一部では取っ組み合いが始まりそうな空気すら流れていた。そんなピリピリとした空気の中、情報局の長であるアルネウスはキリキリと痛む胃を押さえながら、最早罵詈雑言の嵐となっている話し合いの場を強制的に中断すると、自らの意見を話し始める。
「皆、常識外の事が起こり、気がたっているのは十分に理解できるが少し落ち着いてほしい。・・・さて、パーパルディア皇国敗北の件に加え、今回の一件。もはや、ニホン国をただの第三文明圏外の国として、扱う事は出来ない。それは皆、理解している事だろう。」
アルネウスの意見に、先程まで激しい口論を繰り広げていた職員全員が、同意の頷きをする。
「それに今ここで、僅かな情報のみで彼の国の事を判断するのは、非常によろしくない事だと思う。そこで、私は外務省にニホン国に使節を派遣する様に要請するつもりだ。」
「しかし、外務省が文明圏外の国に使節を向かわせるでしょうか?此処で言うのもアレなんですが、連中のプライドの高さは超一級品ですよ。文明圏外国はともかく、文明国や下位の列強にさえも、「我々はお前達に用がある、だからウチに出向いてこい。」のスタンスを取る奴らが、我らの要請を受け付けるでしょうか?」
「それについても考えがある。来年は、カルトアルパスで「先進11ヵ国会議」が開かれる予定だ。この会議に、ニホン国をパーパルディア皇国、いや今はエストシラント共和国か・・・。エストシラント共和国の代わりに参加させる為の使節の派遣だと言えば、流石の連中でもニホン国に自ら赴かざるを得ない。この際に、ニホン国の真の力を見極めるのだ。」
「なるほど・・・。」
「確かにそれなら、ニホン国の力を見極める事が出来るぞ・・・。」
「皆、納得してくれたようだな。では、私はこれから外務局にアポを取る。皆は、外務局のお偉い方々がニホン国に足を運ばざるを得ないと考えるような資料を、大至急用意してくれ。・・・それでは、解散!」
ドタバタと会議室から出て行く職員達を見送ると、アルネウスは力が抜けたようにドサッと机に崩れ落ちる。
「はぁ~~~~、なんでただの情報局員だったはずの俺が、こんな地位にいるんだ。・・・ひどい胃痛の為、業務出来ませんと言えば、局長の座から降りられるだろうか・・・・。」
ギュルギュルとなる腹に、回復魔法を掛けながら愚痴をこぼすアルネウス。
ミリシアルの政治に多大な影響を与える情報局の若き長である、彼の苦労は当分終わる事が無い・・・。