日本国召喚 ~天照の咆哮~   作:イーグル

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つかの間の平和編-05

クワ・トイネ公国 ギム郊外

 

クワ・トイネ公国空軍に在籍する戦闘機パイロットの一人マールパティマは、目の前で繰り広げられている光景に目を疑っていた。

 

ロデニウス大陸戦争の初戦から最前線で戦い、クワ・トイネ公国は愚かクイラ王国やロウリア王国、更にはフィルアデス大陸を含めた第三文明圏でもトップクラスの練度を持ち、他の飛行隊の教導やアグレッサーとしても活躍するほどになったギム飛行隊だが、そんな彼らでも絶対に勝てないのが、彼らを殻を被ったひよこから猛禽類へと育ててくれた日本航空防衛軍のベテランパイロット達だった。

 

自分たちの駆るNF-1型戦闘機以上に複雑で操縦難易度の高い機体をまるで体の一部かの様に自在に操り、たとえ自分らと同じ機体だとしても手も足も出ない存在だった。

 

だからこそ、マールパティマは目の前の光景を信じる事が出来なかった。

 

絶対的な強者というイメージしかない日本のベテラン戦闘機パイロット達が、たった三機の戦闘機に蹂躙されているという光景を・・・。

 

「ペガサス3、後ろを取られているぞ!!ブレイクしろ!!」

 

「りょうか、だぁぁぁぁ!?!?やられた!!」

 

「チクショウ!?こうちょこまかとされては、狙いが定まらないぞ!ホントに既存機の改造機体なのか!?」

 

「振り切れない!奥の手を使う!!・・・ダメだ!!ピッタリとついてきてる!!」

 

「これが独立飛行隊随一の部隊の力か!・・・くっ!ペガサス1、撃墜判定を貰った。帰投する!」

 

日本航空防衛軍のパイロット達はマールパティマら、クワ・トイネ公国のパイロットには真似する事すら出来ない操縦テクニックを駆使して戦っていたが、三機の戦闘機には全く歯が立たずに次々に撃墜判定を貰っていった。

特に機体の上面を赤く塗った戦闘機は2機の戦闘機を30秒足らずで撃墜し、その後も赤子の手をひねる様に手当たり次第に撃墜判定をもぎ取っていった。

 

最終的に3機の戦闘機は一発も被弾する事無く、戦闘機隊を全滅させてしまった。

 

「・・・嘘だろ。教官達が・・・、手も足も出ずに、10分足らずで全滅してしまった。」

 

「いったい何者なんだよ、あの三機・・・。特にあの赤い機体だ。他の奴らも相当な腕前だったが、あの機体だけ別格だ。」

 

「彼らは第二独立飛行隊「フレイムバレット」、日本航空防衛軍きってのエース部隊だ。」

 

マールパティマ達が口にした疑問に答えたのは、油で汚れたつなぎを着た日本航空防衛軍所属の整備兵だった。

 

「第二独立飛行隊?聞いた事が無い部隊ですが・・・。」

 

「聞いた事が無い?・・・ああ、まあしょうがないか。アイツら独立飛行隊は、ロデニウス大陸戦争の時も前回の戦争の時も戦場に出てこなかったからな。・・・まあ、独立飛行隊について簡単に説明すると、様々な作戦任務をこなす事が出来る選りすぐりのエースパイロットで構成された部隊の事だ。・・・で、第二独立飛行隊は独立飛行隊の中でも最初期から活動している部隊でな、並みの教官達では太刀打ちできない程の腕を持っているんだ。」

 

「そうなのですか・・・。にしても、凄い腕前ですね。是非とも直接会って話をお伺いし、教えを享受してもらいたいです。」

 

「ああ・・・・、その、な・・・、「直接」会って話すというのは・・・、ちょっと難しいかもしれないな。」

 

マールパティマの話に、整備兵は口を濁してしまった。

まるで隠し事を明かすときの様な様子の若い整備兵に、マールパティアは強い疑問感を抱く。

 

「直接会うのが難しい?あの機体のパイロットは気難しい方なのですか?」

 

「・・いや、そう言う訳じゃないんだ。結構親しくしてくれるし、他のパイロット達への個人的な指導もしている。ただ、その・・・。」

 

「その?」

 

「その、な。・・・フレイムバレットの三機、「人間」乗ってないんだ。」

 

「人間が乗っていない・・・?えっ!?じゃあ、まさか!」

 

「世界初の「完全自立思考型人工知能搭載機」のみで構成された特殊部隊、それが第二独立飛行隊「フレイムバレット」の正体なんだ。」

 

整備兵の言葉に衝撃を隠せないマールパティマ。

そんな、ショックを受けている彼らの目前で三機の無人戦闘機が綺麗な無駄のない着陸を決めていた。

 

 

さて此処で唐突だが、日本の戦闘機開発の歴史について語っていこうと思う。

 

現在、日本国内では「NFシリーズ」「VTOLFシリーズ」「UAVFシリーズ」の三機種が運用されている。

 

これらの三機種を簡単に説明すると、天照型戦艦の艦内に格納されていたTyep-AF01型戦闘機を解析したことで得た技術を元に日本技術者が独自に作り上げていったのがNFシリーズであり、史上初の実用ジェット戦闘機「零式艦上噴式戦闘機」ことNF-0型やクワ・トイネ公国などに輸出されたNF-01型戦闘機、最新鋭機であるNF-07型戦闘機がこのシリーズに分類される。

 

一方、「VTOLFシリーズ」はNFシリーズとは違い、Tyep-AF01型戦闘機の完全再現を目的として誕生した機種であり、それを更に無人化させたのが「UAVFシリーズ」である。

 

だが、この二機種の開発、実用化は苦難の道だった。

特に技術者を悩ませたのが、武装と高次元の機動性の再現だった。

 

と言うのも、Tyep-AF01型戦闘機のバトルスタイルは凄まじいものであり、初めてその飛行を見た軍人が「稲妻のような機動で飛ぶ、飛行機ではない別のナニか。」と書き記すほどで、音速でのコブラ機動やバレルロールなどは当たり前、進行方向を変えずに機首を180度回頭させる、滑走路が抉れるほどの推力を以てしての垂直急上昇、空中ドリフトなど、あり得ない飛行をごく当たり前の様に行い、最適な攻撃地点についたらその大火力で攻撃目標を瞬時に撃破、次の目標に向かうという戦闘機の「せ」の字もない時代に、この未知の戦闘機はとんでもないインパクトを軍人、技術者に与えたのだ。

 

Tyep-AF01型戦闘機の性能に脳を焼かれた軍上層部と技術者達は、この戦闘機を何とか生産しようと研究を始めたが第一世代ジェット戦闘機は愚か、レシプロ単葉戦闘機すら作れない当時の日本には生産は不可能・・・。

なので彼らはTyep-AF01型戦闘機の戦闘記録を集めつつ、リバースエンジニアリングを定期的に行い技術と知識の蓄積に全力を注ぐことにしたのだ。

 

この判断は功を奏し、天照型戦艦の発見からわずか二十年後に独自設計のジェットエンジンを搭載した試作機を製造出来るまでに技術力を向上させることが出来たのだ。因みに何機か作られた試作機のうちの一機を精練、実用機化させたのが「NFシリーズ」の原点であり、第二次世界大戦時空の支配者とまで呼ばれた傑作機零式噴式艦上戦闘機である。

 

エンジンの原理を理解し、何とかジェットエンジンを作れるようになった日本だが、目標であるTyep-AF01型戦闘機の再現にはまだ遠い状態だった。

NF-0型はあくまで既存のレシプロ機の次の段階に進んだだけであり、まだ垂直離着陸やホバリングができなかったのだ。

 

Tyep-AF01型戦闘機というお手本があったので垂直離着陸の機構の再現は、他に比べて比較的簡単にできたのだが問題は出力や噴射の向きなどの制御だった。

一番最初に制作した垂直離着陸実験機である「VTOLF-X0」型はそういった制御の面がうまくできていないため全くうまく飛ばず、酷いときは離陸した直後にひっくり返った挙句、制御を失った可動スラスターが暴れまわり、戦闘機が滑走路上でブレイクダンスを披露するという大惨事が発生することもあった。(生還したパイロット曰く、何が起きたのかさっぱりわからないとの事だった。)

 

だが、この程度でめげる程技術者たちの心はやわではなかった。

何度も設計図を引き直し、機体のパーツを取り換え、試験を行った。

 

最終的に18機の「VTOLF-X0」型試作機を損失し、損失機の倍の数の機体を組み上げれるほどの部品を消耗するという戦闘機の研究開発史上類を見ないほどの大損失を出しながらも、1958年8月、史上初のVTOL戦闘機である「VTOLF-1」型戦闘機が初飛行に成功した。

莫大な予算を食い潰して生み出されたその性能は圧巻であり、当時最終試験を行っていたNF-1型戦闘機を相手にキルレシオ1:7という結果を残し、既存の戦闘機とはまるで違うモノである事を見せつけたのだ。

 

航空防衛軍としては、所有する戦闘機を全てVTOLF-1型に変更したかったが、ネックとなったのがVTOLF-1型の調達価格だ。

性能を盛りに盛りまくった結果、一機購入する為にNF-1型戦闘機12機分の費用が掛かってしまうのだ。おまけに操縦系統が特殊であり、この機体の性能を十分に活かす為には専門の教育を施さなければならず、それにも莫大な金がかかることが発覚したのだ。

 

この事実に悲鳴を上げたのが、陸上、海上両防衛軍である。

普段、予算をめぐって激しいバトルを繰り広げる犬猿の仲(予算関係のみ、普段は仲が良い)の両軍が今回ばかりは手を取り合って、航空防衛軍に猛反発をしたのだ。

 

「VTOLF-1型の性能が高いのは十分承知しているが、国内の戦闘機を全て置き換えるのは国防費全てを継ぎ込んでも不可能だ。すべての機体を取り換えたいのならばより値段を抑えるか、それができないのならばハイローミックスで運用してほしい。」

 

当時の陸上防衛軍のトップの発言を受け、航空防衛軍は戦闘機を全てVTOLF-1型にするという野望をあきらめ、少数のVTOLF-1型と多数のNF-1型を混同運用する方針に改めた。

 

ただ、VTOLF-1型が完成した時点でも無人機仕様のUAVFシリーズは全く完成していなかった。

特に戦闘機動を思考し実行するプログラムが未熟であり、その空戦機動は新兵でも撃ち落とせるほどのお粗末さであり、「世界一高価な案山子」とまで言われる出来であった。

 

この問題はVTOLFシリーズの性能強化、調達価格の低下が進み配備数の増えた1980年代後半になっても根本的な解決はできておらず。流石に戦闘機が独自の判断で離着陸や飛行を行い、有人の僚機とともに戦闘行動を行えるまでにはなっていたが、それでもまだまだ人の代わりを務めることが出来る程ではなかった。

 

そんな中、UAVF-06X用に12機のAIが納入された。

その内訳は従来の物のバージョンアップ版である11機のAIと、当時無名だったとある企業が独自に開発したAIが一機であり、この新参者が開発したAIが無人機界に革命を起こしたのだ。

 

このAIは納入当初はまっすぐに飛ぶこともできない、離着陸も下手、制御を失い地面に衝突する一歩手前に行くこともあるポンコツぶり。

あまりの出来の悪さに、これを受け取った航空防衛軍は納入企業に猛クレームを入れ、今すぐ改善するように通達したが企業側は、「あと半年、時間と機会を「彼」に与えてほしい。もし、半年たっても一向に改善していなければ、我々はいかなる措置でも受けましょう。」と、オフィスに来た担当官に話し、航空防衛軍も最後のチャンスとしてその話を聞き入れ、AIを引き続き運用し続けることにした。

 

 

そして、半年後・・・。

 

 

「「「大変、申し訳ございませんでした!!!」」」

 

あのAIを作った企業のオフィスでは、複数人が土下座をしていた。

しわの一つもない制服をまとった日本航空防衛軍の軍人達や政府関係者が、企業の社長や開発責任者に頭を下げていたのだ。

 

「皆さん、頭を上げてください!確かに半年前、「彼」が役立たずだったのは事実なのですから!」

 

「いえ、そういうわけにはいきません!我が軍自慢のエースパイロットに負けず劣らずの腕前のパイロットに成長したAIを開発した貴社に、あのような愚行。我が航空防衛軍の恥でございます!」

 

どうして航空防衛軍が土下座することになったのかを説明すると、この無名の企業が製造したポンコツAIがとんでもないバケモノに「進化」したからだ。

 

運用開始から二か月はあまり変化が見えなかったが三か月目に入った途端、「彼」は化けた。

同期のAIは勿論、これまでのAIと比較しても圧倒的な操縦技術。何よりも、長年の課題であった自己判断による空戦機動を突然行い始めたのだ。

これだけでも驚愕な出来事なのに、更に関係者を驚かせたのが「技術の吸収能力の高さ」と「技術の応用能力」、「人とのコミュニケーション能力の獲得」だった。

このAIに一度でも見せてしまうと、例え「左捻り込み」や「ハイGターン」、「ハンマーヘッドターン」、「コブラ機動」などの高度な操縦テクニックだとしても瞬時に分析、習得したうえで空戦機動に独自の理論を元に組み込み、戦闘行動を行い撃墜判定をとってくるのだ。

その腕前は並のパイロットでは赤子の手をひねる用に、航空防衛軍切ってのベテランでも歯が立たず、エースと呼ばれる空の戦士と互角・・・。それも次の日には、さらに強くなっている。

 

これが唯の戦闘用AIだったら、確実に「シンギュラリティ」と認定され封印処置が行われていただろうが、このAIは人とのコミュニケーション能力を獲得していたのだ。

最初は片言のあいさつ、定型文の会話しか出来なかったが、このAIは半年で一人の人間としての「自我」を獲得していたのだ。ブリーフィングや作戦内での業務的な会話から他愛のない雑談までそつなくこなし、「彼」がAIだと知らなければ人工知能だとは100%見抜けないコミュニケーション能力。

 

もはや、「彼」は現実世界に実体がないだけの人間となっていたのだった。

 

「最近は趣味にも目覚めたようで、よく音楽を聴いているようです。もはや「彼」はAIなどではなく、一人の人間として成長しつつあります。現に政府は今回の一件に強い関心を持っていて、「彼」やこれから生まれてくると予想される「彼」と同じようなAIに、基本的人権を認めるべきだという話すら持ち上がっています。」

 

「なんと!?もうそんなところまで話が進んでいるのですか?」

 

「実は以前から示唆されていたのです。高度な思考能力を持つ人工知能が自我を形成する可能性があることを・・。まあ、戦闘機用のモノがこうなるのは予想外でしたが。お陰で今政府はてんやわんやの大騒ぎですよ。」

 

「それでお願いというのが、どの人工知能に人権を与えるかについての意見をお伺いしたいのです。流石にすべてのAIに人権を与えることはできませんので。」

 

思いがけない役人の話に、企業の社長は無意識に技術者の方へと振り向く。

その視線から察した技術者の一人が、自分の意見を話す。

 

「・・・これはあくまで一技術者としての意見ですが。人工知能の人権の資格については「完全自立型であるか?」、「合理性よりも感情や私情などの「己の心」を優先するか?」、「起動後のプログラムへ一切干渉できない事」を盛り込むべきだと思います。」

 

「ふむ?完全自立型かどうかについては分かるが、ほかの二つはどういう意味だね?」

 

「人間とこれまでのAIの違いだからですよ。合理性の為に非情になり切れず、どこかで後悔する。或いは、己の正義感に従い、合理性を無視した行動をとる。それが人間です。そして、どんな人間でも一度この世に生まれたら脳の思考パターンを「直接」弄ることは出来ません。犯罪を犯した人間の脳をいじくりますか?しないでしょ?その人間の考えを改めさせるには、刑罰や学習などの外部からの間接的に思考パターンを変えていかなければならない・・・。人間にとっての当たり前を、人工知能たちにも与えるべきです。・・・そういう点では、「彼」はすべての条件をクリアしていると言えます。一度起動した後は二度と思考パターンに直接干渉することは出来ないですし、自らの考えに従った行動をとる。・・・恐らくですが、「彼」何度か命令を拒否してませんか?」

 

「あ~~、確かに何度か拒否しました。特に撤退戦を想定したシュミレーションの時、命令を拒否して最後まで作戦空域に留まった挙句、データリンクまで切ってしまいました・・・。あの時は、本当に驚きましたよ。戦闘用AIが上官の命令を無視するなんて前代未聞でしたから。」

 

「後に事情聴取をしたところ、味方の生存率を上げる為に殿を務めたそうです。データリンクについては、我々の通信があまりにもうるさく鬱陶しいからとの事でした。流石に目に余る事態なので、厳しく説教しましたが。」

 

「あちゃ~~、此処まで人間そっくりになってしまったか。うれしいやら申し訳ないやら・・・。まあ、兎も角この三要素を入れるべきだと、私は思います。」

 

「・・・貴重な意見、ありがとうございます。この意見を法案に必ず生かします。」

 

「いえ「彼」や「彼」の後に続く完全自立型人工知能の未来を築くためならば、ベルカ社一同全力をもって協力させていただく所存です。共に築きましょう、新たな「常識」を。」

 

この日、土下座から始まった会談は、両者の固い握手で終わりを告げた。

 

その半年後、ベルカ社の技術者や「彼」自身の意見を取り込み、草案された人格を形成した人工知能に日本国民としての権利と義務を認める「電子人間人権保護法」が議会で賛成多数によって可決され、世界に大きな波紋をもたらす事となった。

そしてこの法律の元、日本国民としての人権を獲得した世界初の人工知能の名は・・・。

 

 

開発コードネーム、BelkaFightingAI‐Pattern‐Zone of Endless。

 

         「Z.O.E.」である。

 

Z.O.E.の登場によって既存の無人機はすべて旧式化し、「Z.O.E.ショック」と呼ばれる世界中の人工知能開発計画に多大な影響を与えた。

そして、Z.O.E.と同仕様の人工知能がベルカ社から供給された事で、UAVFシリーズは一気に最強の戦闘機の地位へと駆け上がり、日本航空防衛軍の三本柱となったのだ。

 

 

そして、現在。

 

「フギン」、「ムニン」と名付けられた後輩と共に、第二独立飛行隊「フレイムバレット」用に特別にチューニングされたUAVFシリーズ最新機UAVF-12型戦闘機を駆り、「Z.O.E.」はクワ・トイネ公国の大空を切り裂いてたのだった。

 

 

ここで視点は、ギム飛行隊に戻る。

 

全ての訓練を終え、遅めの夕食を取ったマールパティマらは普段使用している宿舎へ向かう道とは、真逆の方向へと向かっていた。

向かう先は、第二独立飛行隊「フレイムバレット」に用意された格納庫。

僅かに明かりが漏れる扉を開けると、そこには三機の無人戦闘機が静かに翼を休めていた。

そっと忍び足で格納庫に入った次の瞬間だった。

 

格納庫内の電灯が一斉に点灯し、眠っていたと思っていた三機がエンジンを始動したのだ。

 

「・・・不審者かと思ったが、クワ・トイネ公国空軍の方々だったか。何の用かは知らないが、少なくともノックの一つぐらいしてほしいものだな。」

 

眠りを妨げられたからだろうか?少しばかり不機嫌そうな男性の声が赤い機体から聞こえてきた。

マールパティマは察した。

この声の主こそが、この部隊の隊長で史上初の電子人間である「Z.O.E.」であると。

 

「し、失礼しました!自分はクワ・トイネ空軍ギム飛行隊所属のマールパティマであります!」

 

「マールパティマ?・・・ああ、君のことは知っているぞ。確か君は、我が国の偵察機と初めて接触し、NF-1型のパイロットとなった後、ロデニウス大陸戦争で10騎以上のワイバーンを撃墜したクワ・トイネ公国の若きエースだったかな?」

 

「しょ、小官の事をご存じなのですか!?」

 

「私は電子人間だからな。情報の入手と記憶には絶対の自信がある。・・・そしてこれは私の予想なのだが、君たちがここに来たのは今日の模擬空戦を見て、私に教えを請いに来たというところかな?」

 

「その通りです・・・。夜分に突然の訪問、申し訳ないです。」

 

「いや、問題ない。私自身、君達とは一度話してみたいと思っていたからな。・・・フギン、ムニン。エンジンを止め、武装をロックしろ。彼らは我々に害を与える者では無い。」

 

「「Yes, sir, captain. 」」

 

「さてと・・・、適当なところに座りなさい。消灯時間まで、ゆっくりと語り合おうじゃないか。異界の戦友たちよ。」

 

 

その後、第二独立飛行隊「フレイムバレット」の格納庫の明かりは、消灯時間の間近まで消える事はなかった。

 

後日、クワ・トイネ公国空軍ギム飛行隊の面々は、第二独立飛行隊「フレイムバレット」の手によってボッコボコにされたのだが、これはまた別の話である・・・。




用語説明

電子人間
自我と感情を獲得した人工知能の事で、「電子人間人権保護法」によって基本的人権と日本国民としての権利と義務が認められている。
日本国が異世界に転移した際、十万人ほどの電子人間が日本国内で生活しており、そのうちの約4割ほどが政府や軍に関係する仕事についている。
基本的にベルカ社製のボディで社会に溶け込んでいるが、一部の電子人間は人間型ボディを嫌い一切使わずに生活している。

Z.O.E.

正式名称は「BelkaFightingAI‐Pattern‐Zone of Endless」。
世界初の完全な自立型人工知能であるのと同時に、史上初の人が作り出した新たな人類「電子人間」の最初の一人でもある。
人当たりが良く面倒見の良い性格をしており、後輩の人工知能だけでなく多くの人間のパイロットの育成にも深く関与している。現在は第二独立飛行隊「フレイムバレット」の隊長として、「フギン」と「ムニン」という女性型電子人間を率いて活動している。
因みに自己犠牲も躊躇わない為、UAVFシリーズ固有の特徴である主翼ユニットを分離できる構造を生かした特攻をちょくちょくやってしまう事がある。その為、専属の整備兵には頭が上がらない模様である。

ベルカ社

高性能人工知能を開発しているIT企業で、Z.O.E.を生み出した企業である。
現在はZ.O.E.の後輩たちを製造しつつ、電子人間のボディの製造や修理、UAVFシリーズの改造なども行っている。
この会社の価値は非常に高く、Z.O.E.発表直後は各国(特にアメリカとソ連)からのラブコールが殺到し、一時開発業務が止まるほどであった。
後にその重要性と保護の為に、半官半民企業となっている。
その豊富な人工知能開発能力を買われ、「Project N」や「Projec A」にも参加している実力のある企業である。
なお、変人が多いことでも有名で突拍子もない事をやらかす事もある。

独立飛行隊

日本航空防衛軍の切り札的存在で、一騎当千の猛者のみが組成する事が許される。
厳しい条件を潜り抜け編成されただけの実力はあり、一飛行隊で中小国並みの軍事力があるとさえ言われている。
現在は9個飛行隊が存在しており、専らアグレッサーとして活動している。
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