日本国 首都東京 総理官邸
「では、これより緊急会議を始めます。」
日も暮れ始め、空が赤色に染まり始めた頃。
総理官邸では、外交に関する緊急の会議が開かれていた。
「まず、最初の議題である先進11か国会議についてです。本日午前10時頃、ムーの日本大使館にミリシアル帝国の外交官が現れました。来訪の理由としては、先進11か国会議の説明と参加の是非を聞く為に近くミリシアル帝国の外交官が来日するので、出迎えの準備をしてほしいとの事でした。」
「先進11か国会議?・・・ああ、この世界のサミット的な会議の事か。その会議に我が国が招かれることになったという事か?」
「恐らくそうでしょう。フィルアデス大陸解放戦争に勝利した事で、第三文明圏の盟主はパーパルディア皇国から我が国へと移りました。第三文明圏唯一の列強として、この会議に招く意図があるのでしょう。」
「なるほどなぁ・・・。しかしまあ、いきなり外交官を来日させるとは案外フットワークが軽い国なのかもしれないな、神聖ミリシアル帝国は。それで、来日するのはいつになるのかね?」
「それが・・・、来月の頭だそうで。」
時が突然止まったかのように、会議室内の全ての「動作」が停止する。
誰もが固まり、思考を停止している。
体感的には数分、実際には数秒後に武田が思考を再起動をした。
「なにぃ!?来月の頭と言ったら、もう二週間もないぞ!?たった二週間で準備しろと言っているのかね、ミリシアルは!?」
「は、はい。間違いありません。」
「なんてこった、こんな事は地球ではめったにない異例な事だぞ・・・。何とか準備できそうか?」
「民間企業の手を借りてでも、必ず万全の体制を整えます。予算が問題ですが・・・。」
「それなら、わが財務省が何とか工面いたしましょう。緊急予算の一部、使用してもよいですか?総理?」
「構わん、遠慮なく使ってくれ。カネをケチってこの世界の盟主に悪い印象を与えてしまえば、我が国のこれからの外交戦略がすべて破綻するかもしれない。失敗は絶対に出来ないぞ。」
「分かりました!外務省一同、全力をもって本件に当たります!」
その後、第三文明圏内やムーから仕入れた情報をもとにした資料を読みながら、質疑応答をしていく内閣の面々。
そんな中、武田はある一文に注目していた。
「・・・この資料によると、「常任参加国は、神聖ミリシアル帝国、ムー、パーパルディア皇国、エモール王国、レイフォル帝国の五か国」とあるが、確かレイフォルはグラ何とか帝国とやらに滅ぼされたのではないか?パーパルディア皇国の代わりに我が国が参加するというのならば、レイフォルの代わりはこの帝国になるのではないかね?」
「グラ何とかじゃなくて、グラ・バルカス帝国ですよ、総理。もしこの場に彼の国の人がいたら、土下座ものですよ?」
ハハハッと笑いが会議の場にあふれるが、すぐに彼らは気を切り替える。
「だがこのグラ・バルカス帝国とやら、あまり良い噂を聞かないのだがその点について何か情報はあるか?」
「・・・噂通り色々とやばい国ですよ。次々に国を滅ぼし、現地に住む人々を馬車馬のように働かせ、富を根こそぎ自分達の懐に入れる。ハッキリ言って、欧米の植民地支配と同等かそれ以上の事を平然と行っているのです。」
「正に典型的な帝国主義、覇権主義の国か・・・。この様子だと軍事力に相当な額の金と資源を投じているだろうな。」
「はい、総理大臣のおっしゃる通りです。グラ・バルカス帝国は第二次世界大戦前後相当の技術力を持っている可能性が非常に高いです。その証拠がレイフォル帝国をたった一隻で滅ぼした戦艦「グレート・アトラスター」の存在です。これはムーから入手したグレート・アトラスターの魔写をコンピューターで補正したものです。」
そう説明しながら防衛省の役人が手元のパソコンを操作し、会議室の大モニターにグレート・アトラスターを映し出すと大きなどよめきが起きる。
何故なら、画面には日本人なら誰でも知っている戦艦と瓜二つな艦が映っていたからだった。
「これは・・・、大和型戦艦!?そんな馬鹿な、なぜ大和型がこの世界にあるのだ!?」
「・・・いや、コイツは大和ではない。両舷の対空兵装が明らかに違うし、煙突から黒煙を吐いている。・・・だが、全体的なシルエットや見かけ上の主砲や副砲の口径は大和型そのものだ。」
「他の兵器類は!?まさか、それらもかつて我が国で運用されていた兵器に似ているのか!?」
「はい、そのまさかです。確認されているものだけでも長門型モドキや金剛型モドキ、九七式戦車に90式艦上戦闘機など、我々にとって見覚えのあるものばかりです。」
「なんてこった・・・。これらの兵器の性能は我々が一番理解している。・・・グラ・バルカス帝国、仮想敵国に認定してもよいかもしれないな。」
「はい・・・。唯、彼の国を非難しかしないのは得策ではないと思います。確定情報ではありませんが、彼の国がレイフォル帝国並びにパガンダ王国に侵攻したのは自国の大使、それも帝国の皇族の方を理不尽な理由で処刑されたのが原因と言われています。先進11か国会議での態度次第では、グラ・バルカス帝国をある程度擁護するべきです。」
「そうか・・・。グラ・バルカス帝国もパーパルディア皇国の様な国によって、我が国同様運命を狂わされてしまった国なのかもしれないのか・・・。分かった、グラ・バルカス帝国を仮想敵国と認定しつつも、場合によってはグラ・バルカス帝国を擁護する事としよう。」
入手した最新の情報を基にしたグラ・バルカス帝国に対する現時点での外交対策の方針を決めた武田内閣だったが、グラ・バルカス帝国に関する事案もこの緊急会議の一つの議題に過ぎず、休む暇もなくすぐに次の議題へと移っていた。
最後の議題に関する話し合いを始めようとした時には既に日を跨ぎ、日の出の時間まで後2時間というところまで来ていた。誰もが眼をこすり欠伸を噛み殺し、強烈な眠気に耐えながら会議に臨んでいた。
「え~~、では本日最後の議題です。第三文明圏に属する各国との地道な協議の結果、第三文明圏全体の平和維持や経済体制の強化、来るべき魔法帝国との戦いに備えた国際組織「新大東亜共栄圏」の創設の目途が立ちました。各国の準備次第ですが早ければ今年末には、設置することが出来ます。」
「大東亜共栄圏」、それは日本が地球において設立した国際組織の名前で、アメリカ主導のNATO、ソ連主導のワルシャワ条約機構より2年程早く発足した近いうちに来るであろうアメリカとソ連の対決に対応する為の、経済及び軍事における共同体であった。
この大東亜共栄圏には、他には無い特徴が幾つかあった。
例えば、思想の全く異なる国、仲の良くない国同士が当たり前のように参加していたり、主な参加国がアジア、アフリカの発展途上の地域に集中しているせいで先進国の数が極端に少なく、資源輸出を国の基盤にしている発展途上国の数が異様に多いなどがあった。
一見、弱者の集まりに見える大東亜共栄圏だが、NATO、ワルシャワ両陣営からしてみれば大東亜共栄圏は何よりの脅威であった。何しろ、資源埋蔵量こそ少ないがその代わりに極めて高い技術力を持つ日本と自分たちが喉から手が出るほどに欲しい資源を多数保有しているアジア、アフリカの国々がタッグを組んでいるのだ。下手に刺激すると、数十年後相当の技術で作られた兵器が無尽蔵の資源を基に大量生産され、自分たちの重要な施設を更地に返す勢いで撃ち込んでくるかもしれないのだ。(まあ一番怖いのは、天照型の存在ではあるが・・・。)
他にも参加国がなまじ多いせいで、国連などで強い発言能力を持っていることも非常に厄介だった。
自分たちにとって不都合な案だったとしても、数の暴力でその案が通ってしまう事が多々あったのだ。(アジア、アフリカからの参加国が多いという事は、それだけ民族や宗教に関する国家間トラブルも多いという事ではあるが・・・)
その為、NATO、ワルシャワの両陣営は表向きは敵対しあっていたが、その一方で大東亜共栄圏に対しては共同で警戒に当たっており、連携を密にする為に50年にはすでに米ソ間のホットラインが引かれ、両国民には一切知らせずにコッソリと対大東亜共栄圏を想定した合同軍事演習を行ったりと、冷戦とはいったい何なの?という状況が繰り広げられていたのだ。
そんなこんなで影響力の極めて高い大東亜共栄圏。
だが、日本がこの世界に転移したことで実質消滅(他の国からすれば、天変地異による強制脱退)していた。
そんな大東亜共栄圏を武田らは、この世界の脅威に対抗する為に、そして第三文明圏を一つに纏め、他の文明圏に追いつき追い抜かす為に新たに作り出そうとしているのだった。
「・・・何と言うか、意外と早かったな。パーパルディア皇国の件があるし、解放された属領だった国々が我々力のある国の提案に簡単に乗るとはとても思わなかったのだが・・・。」
「それについて、恐らくは我が国が戦後に行っている各種支援と現地での交流が非常に大きいと考えられています。列強を打ち負かす程の国の民なのに、遥かに遅れているはずの自分達に威張り散らしたり奴隷扱いする事がないばかりか、対等に扱い時には教えを乞う・・・。これだけでも印象はとてもよい上に、インフラ整備や産業の発展をほぼ無償で支援してくれる。信用度が上がらないはずがありません。」
「・・・地球で我が国が行っていたことを実行しただけなのだがな。此処まで好意的に受け止められるとは。・・・まあ、兎も角。本世界初の常設国際組織の開設という名誉を他の文明圏から格下扱いされていた第三文明圏が得るという事実は非常に大きい。」
「はい、その通りです。更にその名誉を後押しするのが、列強ムーの参加です。第二文明圏の盟主であり、神聖ミリシアル帝国に次ぐ第二位の国が参加したとなれば、新大東亜共栄圏の信用度も上がる事となるでしょう。」
「その通りだ。だが、ムーは我が国と同じ科学文明の国家だ。出来る事なら、あともう一国。魔導文明の有力な国が参加してくれれば、更に信用度が増すのだが・・・。そういえば、確か列強第三位のエモール王国との会談が行われたはずだよな?エモールが参加する可能性は?」
「いや~~~、かなり厳しいかと。これはエストシラント共和国のクロム外交官から聞いた話なんですが彼曰く、『その圧倒的な身体能力と並外れた魔法を操る力を背景に、ミリシアル以上にプライドが高く滅多な事で他国との協調路線を築く事がない。門前払いも当たり前、列強でさえも彼らに歩調を合わせるしかない。』との事です。我々新参者の言葉など耳すら貸さないかもしれません。」
「つまり、彼の国に神託でも起きない限り、無理だという事か・・・。」
武田が諦めの言葉を呟いた時だった。
不意に吉田外務大臣の職務用携帯電話から、着信音が鳴り響いた。
吉田は周りに謝りつつ、会議中だというのに掛かってきた不躾な電話に苛立ちながら出る。
「吉田です、何があったのか簡潔に報告を・・・。は!?なに!?エモール王国が大東亜共栄圏に加入の意思あり!?それは本当なのか!?・・・すまん、詳しく話してくれ。一体何があった!?」
「・・・まさか、本当にエモール王国に神託が下りたとでも言うのかい?」
一気に騒然となった会議室で席に座ったままの武田が、ポツリと独り言を漏らす。
エモールで一体何があったのか?
それを全て把握しているのは、この場に誰一人としていなかった。
数時間前、第一文明圏 エモール王国
列強エモール王国、この国は中央世界内陸部の北側に位置する四国ぐらいの小さな国で、人口は100万人程度である。
国の規模だけではとても強国とは考えられない国だが、人口の大半を占めるのが希少種にして最強の種族と呼ばれる竜人種で、その圧倒的な身体能力から繰り出される近接戦闘術や魔導、更には風竜と言う強力な航空戦力を有している事から、「小さな巨人」として自他ともに列強国の一員として認められているのだ。
そんな王国の首都である竜都ドラグキスマキラの王城にて、この国で一年に一回行われる重要な行事の一つ「空間の占い」が執り行われようとしていた。
空間の占い、それはただでさえ魔力値の高い竜人族の中から選び抜かれた30人の高魔力保持者の魔力を限界まで使用することで、ほぼ100%の確率で未来に起こる出来事を知ることが出来る正に未来予知とも言うべきモノで、地球の占いとは月とスッポン位の差があるのだ。
竜王ワグドラーンを筆頭とした重役の見守る中、薄暗いドーム状の部屋の中で儀式は始まる。この儀式をつかさどる空間の占い師、アレースルの両手には、魔導士から吸い上げた魔力が宿り、淡い赤色に光る。
薄暗いドームの天井には、夜空をそのまま投影したかのような星空が映りだし幻想的な光景を作り出す。
「では、之より空間の神々の名の元に、未来に起きうる出来事を見る。」
アレースルが練り上げられた魔力を注ぎ込み、魔法陣を起動した次の瞬間だった。
本来ならば、彼の脳裏に浮かび下がってくるはずの文章の代わりに、彼の意識が遥か彼方へと飛ばされた。
光り輝く魔法陣の中でアレースルは、そのあまりの情報量に意識を無くし力なく倒れてしまう。
「どうした!?アレースルよ!?一体何が起きた!?」
「わ、わかりませぬ。このような事態、今まで一度たりと起きたことはございません。」
「・・・何が、何が起きているのだ?」
ワグドラグーンら、エモール王国の重鎮の面々は唯々見守る事しか出来なかった・・・。
「・・・・グ、グゥゥゥゥ。一体何が起きた?此処は何処だ?」
薄暗いドームにいたはずの私は、何故か青い空を見上げながら横になっていた。
キリリと痛む頭を押さえながら起き上がってあたりを見渡してみると、どうやら私は大海原のど真ん中の水面に仰向けになっていたようだ。
どこまでも続く青い海と空、それ以外には何もない・・・。
いや、一角だけ明らかな異変が起きていた。
血の様に真っ赤に染まった海と空、黒い雲からは雷の音が鳴り響いている。
そしてその奥から何かが、ゆっくりとこちらへと向かってくる。
目を凝らし、真っ赤に染まった方を観察した私はそれが何か知る事が出来た。
・・・・・知ることが出来てしまった。
「ま、まさか、まさかあれは、まさかあれは!!??」
空に浮かぶ異形の船と剣に海を埋め尽くす魔導戦艦、そしてそれに乗っているのは背中に光り輝く翼をもつ人族。
「光翼人だと・・・。馬鹿な!?あの悪魔の国、ラヴァーナル帝国が復活するとでもいうのか!?」
ラヴァーナル帝国。
嘗て栄えた竜の神々の国、インフィドラグーンを滅ぼした仇敵にして絶対的な弱肉強食で、数多の種族を奴隷としその命を弄んだ悪魔の国。
最終的に神々の怒りを買い、彼の国が支配するラティストア大陸に大隕石を落とされ、『復活の刻来たりし時、世界は再び我らにひれ伏す』と記された不壊の石版を残し、歴史から姿を消した国。
「そんな・・・、偉大なる竜神様の国インフィドラグーンでも勝てなかった国に、我らが勝てるはずがない・・・。」
私が絶望の言葉を呟き俯いている間に、すべてを受け入れるかのような青い海と空はいつの間にか赤に染められてしまった。
まるで、もはや我々に打つ手はない。諦めろと言い放つかのように・・・。
『・・・大丈夫、私達がまだこの世界にいる。』
「・・・何だ?女の、声?」
声のした方に顔を向けると、不気味な黒雲の隙間から一筋の暖かな太陽の光が差し込んでいる海域があり、そこだけ赤く染まっておらず、元の青い海を保っていた。
その青い海に巨大な船が浮かんでいた。
私が過去に見てきた何れの船よりも大きく、感じたことのない威圧感と力、そして何故か軍艦に感じる事のないはずの優しさを感じた。
不意に背後からの強烈な殺気を感じた私は、反射的に空へと逃げた。
すると、ついさっきまで私がいた所を、数えきれないほどの魔導弾や誘導魔光弾が通り過ぎ、三隻の巨大艦へと向かっていった。
「ダメだ!逃げろ!!かわすんだ!!」
咄嗟に出た私の叫びも空しく、三隻はラヴァーナル帝国の攻撃を受け、爆炎の中へと消えて行ってしまった。
だが数秒後、私は自分の目を疑ってしまった。
「・・・嘘だろ?あの攻撃を食らって傷一つ負っていないのか!?」
都市一つ吹き飛ばせそうな攻撃を受けても、びくともしない三隻に流石のラヴァーナル帝国も怖気ついたのだろうか?一瞬、動きが悪くなったような気がした。
その一瞬を、「彼女ら」は見逃さなかった。
反撃の咆哮と言わんばかりに彼女達は己が力を開放し、海を、空を蹂躙した。
ラヴァーナル帝国の力の象徴は、瞬きの時の間に紙切れの様に蹂躙され、その形を、存在を失っていく。
私が彼女達の力に圧倒されている内に、何処からか来たのだろうか?
幾つもの影が三隻を追いかけるように、陽光の元から飛び出してきていた。
複数の巨人がラヴァーナル帝国の空中戦艦に手にした武器で大穴を開け、天の浮舟を貫く稲光を放つ漆黒の巨鳥が宙を舞い、様々な形状の船がある巨艦を先頭に突撃し、魔導戦艦を狩りつくす。更には何処か見覚えのある軍艦や天の浮舟、風竜、ワイバーンが次々と姿を現し、一斉にラヴァーナル帝国に襲い掛かっていった。
この世とは思えない戦場の様相に私が飲まれていると、最初に見た三隻のうちの一隻が自分の近くにやって来ていた。
そのあまりの威容に私が飲まれかけながらも隅々を観察していると、竜都ドラグキスマキラで一番高い尖塔よりも高く大きな塔状の構造物の天辺に誰かが立っている事に気付いた。
塔の頂上の構造物に手を当て、此方をを見ていたのは腰のあたりまで伸びる髪は陽光を浴びて蒼く光り輝き、まるで神々が作ったのではないかと思うほどに美しい顔と体のヒト族の女だった。
だが何より私が引き込まれたのは、その瞳だ。
蒼い海の如く透き通った、強さと優しさを感じる瞳。
私は思わず、彼女に問いかけていた。
「貴方は一体何者だ?何処の国から来て、何のために戦うのだ?」
轟音の鳴り響く戦場の中、聞こえるはずのない私の声に彼女は静かに微笑みながら、私の問いに答えてくれた。
『・・・・私の名前は・・・・。』
「・・・・ースル、アレースル!!しっかりしろ!!目を覚ませ!アレースル!!」
「・・・ハッ、此処は・・・。」
「おお、気が付いたか。全く空間の占いの最中に気を失い倒れるなど、前代未聞の出来事だぞ?」
「・・・ワグドラーン様、このような醜態を晒してしまい申し訳ありません。」
「気にするな、アレースルよ。元々この空間の占いは、未来に起こる出来事を先読みするモノ・・・。今回のような事態が今まで起きなかったのが可笑しいぐらいだ。」
「・・・陛下、重大事項がございます。魔帝が、あの悪名高きラヴァーナル帝国が、もう間もなくこの世に現出します。」
「な、何だと!?それは本当か、アレースルよ!?」
儀式の途中で倒れたアレースルの元に集まっていた竜王ワグドラーンを始めとしたエモール王国の重鎮達は、空間の占い師の衝撃の言葉に驚きを隠すことが出来なかった。
「な、なんということだ!?あの悪魔の国が蘇るというのか!?」
「復活の時期は!?何時、何処で復活するのだ!?」
「・・・申し訳ありません。理由は分かりませんが、空間の位相に大きな歪みが生じています。時期と場所を読む事は出来ませんでした。」
周りの重鎮たちが騒ぎ立てる中、竜王ワグドラーンは頭を抱えていた。
嘗てのインフィドラグーンと同様に、自分達竜人種を含むすべての種族が辛酸を舐める事になるのかと。
「・・・ですが、まだ我らには希望が残っています。彼らならば魔帝を討ち滅ぼすことが出来るかもしれません。」
「なに?では、まだ我らには滅び、もしくは従属から回避する手段はあるというのか?」
「あります。たった一つだけ・・。ですが他の何よりも頼もしく、絶対に敗れることのない希望の象徴が。」
「それはなんだ?」
竜王ワグドラーンの問いにアレースルは息を整えながら立ち上がり、ドームの外でさんさんと光り輝く太陽を指さしながら話す。
「第三文明圏の東に位置し、太陽の旗を掲げ、弱き者の盾となり剣となる国。異界からこの世界へと舞い降りた科学文明の国。そして・・・、異界の太陽の神の名を関した舟が守り愛する国。その名は・・・、二ホン国。」
アレースルの言葉に官僚達は、困惑する事となる。
魔導を極める事こそが全て、科学など魔導を満足に使うことのできない者達の二流の技術と考えている者が多い竜人族である彼らにとって、魔導を極めている自国やミリシアルではなく第三文明圏外の、それも科学文明国が魔帝に対抗し得る唯一の希望とは何の冗談かと思ってしまうのは仕方のない事だろうか?
「科学文明の国二ホン国だと!?相手は古の魔法帝国だぞ!魔法に劣る科学に何が出来る!!」
「だが、私はハッキリと見た!かのラヴァーナル帝国の軍勢に互角以上の戦いを展開する二ホン国の軍隊を!彼らの力は本物であると、空間の占い師の肩書にかけて断言しよう!」
「どうだか?空間の占いは極稀に外れる事もある。今回の占い結果は外れだったのではないか?占いの儀式中に気絶するような占い師の戯言など、信用できん。」
「その言葉、我が一族への無礼にしか聞こえん!直ちに撤回し、謝罪せよ!!」
「そこまでだ、皆の者。その様なくだらない言い争いなぞしている場合か?」
儀式の最中に見た光景を信じるアレースルと信じない官僚達の言い争いは、竜王ワグドラーンの鶴の一声で何とか暴力沙汰となる前に収束する事が出来た。
「皆の言う通り、今回の空間の占いの結果は我らの常識が当てはまらぬものだ。だが、アレースルは優秀な占い師であるのも事実だ。・・・余は此度の空間の占いの結果は、信用できるものだと考えておる。それに確実に復活する魔帝に対抗する術を備える事は、我が国に何の不利益も与えないからな。モーリアウルよ!」
「はっ!!」
「二ホン国について調査を行い、必要ならば国交を締結せよ!!我ら竜人族に劣るヒト族の国とは言え、魔帝に対抗する術を有しているかもしれない国だ。早急に対応せよ!!」
「畏まりました!すぐにでも第三文明圏へと向かいます!」
「その必要は御座いません、ワグドラーン様。占いによると、二ホン国の大使がミルキー王国の砂漠を通過中です。間もなく第27番の国境の門にたどり着く事になるでしょう。彼らは異界の正装を着ています。簡単に見分けがつく事でしょう。」
「それは好都合だ。門の番人に、門前払いせぬよう魔信で伝えておけ!!」
「「はっ!!」」
数時間後
「・・・砂漠を超え国境の大門についたと思ったら、いきなり王城に招かれる事になるとは考えてもいませんでしたよ。」
「だよな・・・。パーパルディア皇国以上に気難しい国と聞いていたのに、こうあっさりと通されるのは何と言うか拍子抜けだよな。」
エモール王国の国境にある巨大な門に辿り着き、門前の列に並んでいたら門で待機していた護衛の元、王城の貴賓室へと案内され冷たいお茶のような飲み物の提供を受け、事前に聞いていた印象とは真逆の対応に困惑する日本の外交団一同。
だが、ドアがノックされると気を引き締め、身だしなみを整えながら起立する。
「お持たせして申し訳ない。我は、エモール王国の外交担当の貴族、モーリアウルという。二ホン国の大使殿、はるばるよくおいでなさった。」
「初めまして、モーリアウル殿。私は日本外務省の内田と申します。本日はお忙しい中、お時間を頂戴しましてありがとうございます。」
両者の自己紹介、握手が行われた後、両国の外交官は机を挟んでの話し合いを始める。
モーリアウルは日本人達の話を渡された資料を読みながら、真剣に聞き考察を巡らせる。
(・・・列強国を攻め滅ぼした国と聞いた時は礼儀知らずの野蛮人かと思っていたが、実際に会うと礼儀正しい大人しい者達ではないか。一見、争いごとを知らぬような者達を戦の場に引きずりこむとは、パーパルディア皇国め。一体何をやらかしたのだ?・・・しかし、何だこの紙の質は?ミリシアルの物より遥かに上なのではないか?本当に魔法を知らぬ科学文明国なのか?ううむ・・・。)
「・・・以上が我が国についてです。何か質問は御座いますか?」
「・・・そうだな。では幾つか質問をしたい。貴官らの説明によれば、二ホン国の存在したチキュウという世界には、我ら竜人族やエルフ、竜、魔法などが存在しないというがこれは本当かね?」
「はい、事実です。本世界に転移してくるまで、我が国において竜人族やエルフ、竜、魔法などは空想上の存在でした。」
「我らからすれば、信じがたいことだ。魔導なしで文明を発展させることなど・・・。まあ、この件はいったん置いておく事にしよう。国交を結べば、何れは分かる事だからな。」
頭に浮かんだ疑問への追及を切り上げたモーリアウルは、部下がお盆にのせていた羊皮紙を机の上に置くと今回一番知りたい事柄について切り出す。
「では、次の質問だ。貴官らはこの絵について何か心当たりがあるか?」
羊皮紙には絵が描かれており、モーリアウルはそれを指さしながら内田らに問い質す。
内田は最初、その絵が何なのか理解することが出来なかったが、羊皮紙を手に取ってみるとそこには日本人ならば必ず知っているものが描かれていた。
「・・・なっ!?これって、まさか天照型戦艦!?何故中央世界では知名度の低いはずの天照型を、貴方方が知っているのですか!?」
「・・・ほう、その船はアマテラス型という名なのか。確か、貴国の太陽を司る神の名だったかな?」
「!?そうです。・・・一体、何処で天照の事を認知したのですか?」
「ふむ、貴官は我が国の空間の占いを知っているかね?」
「はい、なんとなくは・・・。確か竜人族の膨大な魔力を消費して行うモノで、その予言的中精度はほぼ100%だとかなんとか・・・。」
「概ねその通りだ。文明圏外に位置している割には、よく知っているではないか。その占いの中で、この船が出てきたそうなのだよ。」
モーリアウルの語る占いの内容に、内田らは絶句する。
日本の事を殆ど知らないはずのエモール王国の占い師が、天照、須佐之男、八咫烏の三隻を中心とした日本防衛軍があの有名なラヴァーナル帝国と壮絶な戦いを行っている様子が空間の占いに出てきたのだと言うのだ。
嘘だ、偶然だと思い込みたいが、細かく描かれた天照の絵を見せられては、空間の占いの精度を疑い否定することは出来なかった
「・・・貴国と我が国以外に本件を知っている国はありますか?」
「ない。そもそもこの予言は、今日出たばかりのモノなのだ。まだ、ミリシアルにも話してはいない。」
「・・・分かりました。本件について他国に公表するのは、まだ控えた方がよいと思います。列強が二か国も降格するという前代未聞の事態に騒然となっている世界に、更なる混乱をもたらしかねません。」
「だが、ラヴァーナル帝国対策はどうなる?このままでは、多くの国々が彼奴等に蹂躙される事になるぞ。」
「・・・それについてですが、モーリアウル殿。我が国が設立しようとしている国際組織である新大東亜共栄圏に、エモール王国を招待したいと考えているのですがどうでしょうか?」
「シンダイトウアキョウエイケン?なんだね、それは?」
「新大東亜共栄圏というのはですね、我が国が・・・・。」
今度はモーリアウルが、内田の語る新大東亜共栄圏に絶句する。
この世界では、列強と一部の文明国が世界情勢を司っているといっても過言ではないのだが、日本が設立しようとしている国際組織「新大東亜共栄圏」は、列強国であろうが文明国であろうが文明圏外国であろうが一つの国として対等に扱い、国際問題の解決や経済体制の強化、ラヴァーナル帝国対策を行うことを目的としているのだ。
参加国も多く、第三文明圏外の国、旧パーパルディア皇国の属領だった国々が軒並み参加し、更にはなんとあの列強第二位ムー国も参加する方向で調整中だというのだ。
(なんだ、このとんでもない組織は!?幾ら他の文明圏と比べて遅れている第三文明圏とはいえ、その全ての国が一丸となれば他の文明圏からみても、強大な脅威になるぞ!?それにあの日和見のムーまでも参加するとは!?二ホン国は一体何を目指しているのだ!?」
「モーリアウル殿。貴殿が懸念しているような覇権を唱えるようなことは、我が国は決してしませんよ。」
つい心の中の考えを声に出してしまったモーリアウルに、内田は苦笑いをしながら応える。
「・・・では、いったい何のためにこのような組織を貴国は設立しようとしているのだ?」
「それは簡単ですよ。すべての参加国に住む人々が平和で豊な生活を送れるようにする為、子供たちが飢えに苦しまず、安心してベッドで眠れる世界を作り守る為ですよ。」
「・・・無理難題な、だが暖かく美しい願望を持っておるのだな、貴国は?・・・それで、我がエモール王国がそのシンダイトウアキョウエイケンに参加するメリットは?」
「色々とあるのですが貴国にとってのメリットを上げるのならば、対ラヴァーナル帝国戦を有利に進めることが出来る可能性が生まれる事です。」
「どういうことだ?魔帝に有効な対抗策を魔導を使えぬ貴国が、科学文明の国が出来るのか?」
「科学文明だからですよ、モーリアウル殿。魔帝事、ラヴァーナル帝国は魔導を極めた国です。という事は、「魔法を無力化する方法」を有している可能性が非常に高いです。基本的に軍事技術というのは鼬ごっこですからね。ですが、魔導に注力しすぎるあまり、科学を御座なりにしていれば・・・。」
「そうか!?万が一、我らの魔法が通用しなくても、科学の力で対抗できるという事か!?」
「その通りです。」
内田の返答にモーリアウルは、目から鱗が落ちてしまった。
確かに彼の言う通り、魔導を極めたラヴァーナル帝国ならば魔導を封じる事も出来る可能性が十分にある。いや、確実に対策を施している事だろう。もし現体制のまま行けば、魔導主体の神聖ミリシアル帝国とエモール王国ではろくな抵抗も出来ずに一方的に蹂躙されてしまうかもしれない。だが、此処に科学を極めた日本とムー、新大東亜共栄圏の参加国が加われば、あの魔帝を相手に互角に戦うことが出来るかもしれない。
アレースルが語った空間の占いの結果は、この可能性の一部を示していたのかもしれない。
モーリアウルは今回の空間の占いの結果が正しいことを認め、同時に文明圏外の新参者であるはずの日本の先見性の高さに敬服せざるを得なかった。
そして、モーリアウルの中では既に答えが決まっていた。
「・・・二ホン国大使ウチダ殿。もし、竜王ワグドラーン様のご許可が下りた時、我がエモール王国のシンダイトウアキョウエイケンの参加、貴国は承認してくださるか?」
「・・・!無論です!共に守りましょう、この世界を!」
無意識のうちに身を乗り出し、固い握手を交わす二人。
この時の二人は、ともに笑顔を浮かべていたという。
後に「ドラグキスマキラの奇跡の日」と呼ばれるこの日、第三文明圏の日本と中央世界のエモール王国の国交が無事に開かれる事となった。
用語解説
90式艦上戦闘機
翼幅 11m
全長 9.12m
全高 3.509m
自重 1800kg
最高速度 時速590㎞
最大高度 7000m
航続距離 1700㎞
武装 20㎜機銃 4門
12.7㎜機銃 2門
40㎜空対地ロケット 8発
250kg爆弾 1発 もしくは 60kg爆弾 3発
日本海上防衛軍で最後に運用されたレシプロ戦闘機。
1600馬力の空冷発動機を搭載し、採用時最速且つ高機動の戦闘機として世界中から注目された。
第二次世界大戦時には零式艦上噴式戦闘機が既に配備されていた為、制空戦闘機の座から降りていたが対地攻撃機として第一線で活躍し続けていた。
戦後は各国に払い下げられ、1950年中頃まで運用され続けた。