日本国召喚 ~天照の咆哮~   作:イーグル

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つかの間の平和編-07

 

第三文明圏 アルタラス王国 沖合上空

 

青く光り輝く大海原の上を白く塗られた機体が飛んでいた。

主翼下に二基搭載されたエンジンからは、青く光る粒子を含んだ空気が噴射され、その反動で機体は前へと進む。

一見すると日本が運用しているジェット機に似たシルエットを持つこの飛行機の名は、天の浮舟35型「ゲルニカ」と呼ばれる神聖ミリシアル帝国の旅客機型天の浮舟である。

 

この機体はミリシアル帝国の自慢の一品で、この機体を見せるだけで文明圏外国は勿論、並み居る文明国にも神聖ミリシアル帝国の実力を思い知らせることが出来る天の浮舟だった。

 

だが、その性能は日本からしてみればお粗末としか言えないものでもある。

4000㎞程度の航続距離はともかく、巡航速度がたった時速310㎞しかないのである。一体どのくらい遅いのかというと世界初のジェット旅客機であるコメットは愚か、第二次世界大戦前に運用されていたDC-2型とどっこいどっこいというレベルなのである。

 

一方の日本には、自国生産機であるNJ800型やアメリカ自慢のボーイング747R1000型等の大型機がわんさかおり、それら大型機と比較するとミリシアル帝国のゲルニカは小型のプライベートジェットモドキ程度なのである。

 

これで一体、どうやってミリシアル帝国の威光を示すことが出来るのだろうか?

 

話が思いっきり脱線したので修正すると、このゲルニカ35型天の浮舟はミリシアル本土の空港を飛び立ったのち、何度かの液状魔石の補給を受けながら第三文明圏の端にある国、日本へと向かっているのだ。

 

ゲルニカ35型の機内には、外交官フィアームや情報局員ライドルカ、武官アルパナ、そして技官ベルーノを中心とした先遣使節団が席についており、読書や談笑で時間を潰していた。

 

「間も無く、最後の補給場所であるアルタラス王国に到着します。ご搭乗の皆様は、着席しシートベルトを締めてください。」

 

着陸を伝える機内アナウンスが流れると、使節団の各々は自分の席に着きシートベルトを締めて着陸に備えていた。

 

「う~~~ん、長かった!あともう少しで、二ホン国に到着しますね。」

 

伸びをしながら情報局員ライドルカは、隣の外交官フィアームに話しかける。

 

「ええ、そうですね・・・。」

 

「・・・いい加減機嫌を直してください。幾ら、第三文明圏の国に赴かないと行けない事が気に食わないのは、よく理解できますが。」

 

「今回の派遣は、あなた方情報局が主体となって提案したと聞いていますが、成らば何故二ホン国を我が国に来させるように工作しなかったのですか?我が国には、世界一の強国としてのプライドがある。貴方方、情報局には列強一位の国の組織という誇りがないのか?」

 

「それについては、申し訳ありません。ですが、二ホン国はただの文明圏外国では御座いません。列強パーパルディア皇国を下し、列強ムーと対等な関係を築きつつある国です。更にこれは不確定情報ですが、あのエモール王国が二ホン国大使を好待遇で出迎えたという情報も上がってきています。フィアームさん、二ホン国に対しては、文明圏外の蛮国といった先入観なしに見た方がいいかと思います。」

 

「分かっていますよ。」

 

二人が会話をしている間に、天の浮舟はアルタラス王国のルバイル空港へと着陸していた。

中央世界の一流空港の設備に引けを取らない駐機場の一角に止められた機体から休息の為にぞろぞろと降りてくるミリシアル使節団。

 

第三文明圏にこのような立派な空港を作ったムーにフィアームが一人感心していると、今まさに滑走路から一機の双発プロペラ機が離陸しようとしていた。

 

「ほう?見たことがない飛行機械だな?ムーのラ・カオスの後継機か?この立派な空港に新型機、ムーは第三文明圏にかなり力を入れているのだな。」

 

「いえ、あれはアルタラス王国空軍の機体らしいですよ?」

 

フィアームの考察をあっさりと否定するライドルカ。

 

「なに?そんな事は有り得ないぞ。第一、天の浮舟や飛行機械を製造する技術をアルタラス王国が保有しているはずがない。」

 

「ええ、あの飛行機械。名を99式哨戒機と言うモノなのですが、二ホン国から輸出してもらった旧式機だそうです。二ホン国ではとっくに使われていない旧式機ですが、我が国の何れの軍用機よりも性能が高い可能性があります。後、このルバイル空港。開港したのは確かにムーなのですが、フィルアデス大陸解放戦争時に二ホン国が手を加え、今の姿になったそうです。」

 

「なん、だと・・・?列強であるムーではなく、文明圏外国である二ホン国があのような飛行機械を作ったというのか!?そんな馬鹿な事があるはずはない!!魔法を極める事が真理、科学は魔導を超えることが出来ない紛い物という常識は、貴方も知っているはずでしょう!?」

 

「・・・そんな「古い常識」、とっくに捨てましたよ。科学も極めれば、我々の想像を超えるモノを作り出せるのです。」

 

「なっ!?魔導を極め世界最強の地位を確立した、列強一位たる神聖ミリシアル帝国の職員の言葉ですか!?貴方方情報局には、列強としてのプライドはないのですか!?」

 

「二ホン国の真の姿を知れば、我々のプライドなんて跡形もなく吹き飛びますよ。ああ、そうそう。フィアームさん、ゲルニカ35型に乗せてきた例のお土産、二ホン国外務官に手渡さないことをお勧めします。間違いなく恥をかくことになりますので。」

 

そう言いながら空港のターミナルへと向かうライドルカの後姿を、フィアームはただ茫然と見つめる事しか出来なかった。

 

さて、此処でライドルカが何故日本の事を知っているのかという事になるのだが、読者の方々は「魔王討伐編-01」や「つかの間の平和編-01」でアルネウスが日本の情報を集めるように指示を出していた事を覚えているだろうか?

 

この指示の下、様々な資料が情報局に集められたのだがそのどれもが信じられない事ばかりだった。

島国なのに列強以上の人口、文明圏外の国としては規格外の技術と発展度、異世界から転移してきた等など、空想上の物語の設定かのような突拍子もない情報ばかりが集まってきたのだ。

これが一つ二つ程度ならば、国力を誇示する為の情報操作と考えるが、複数個所からの報告となると流石に嘘と決めつけることが出来ない。

そこで更に詳しく調べてみると、集めた情報の大部分が事実であることが証明されてしまい、情報局に努める職員の大半はこの信じがたい事実に列強一位としてのプライドがガラガラと崩れていくのを実感する事となってしまった。

 

それでも一部の職員は頑なに認めていなかったが、ある一品がその頑固者達のプライドも破壊してしまった。

カルトアルパスを拠点に活動する商人が第三文明圏で仕入れたというその機械は、片手で持てるほどのサイズと軽さながら、ミリシアルの同じ用途で使用する魔導具よりも高性能。更には、子供でも購入できるほどの低価格で販売されているというのだ。

 

情報局に持ち込まれた機械。

「電子式卓上計算機」、通称電卓と呼ばれる計算機はアルネウスら情報局職員の常識を完全に破壊してしまった。

 

神聖ミリシアル帝国の魔導式計算機は、両手でやっと運べるほどに大きく重い上にその値段は一般的な家庭の月収とほぼ同額とかなりの高額で、神聖ミリシアル帝国の中で最も数字を使う財務省でも数台しかない高級品だ。

そんな高級品であり、神聖ミリシアル帝国の技術力を示す計算機が自分達が散々見下してきた文明圏外の国で大量生産され、誰でも気軽に買えるという事実に、情報局全員が打ちのめされる事になってしまった。

 

完全に意気消沈状態となってしまった情報局の中でいち早く回復したアルネウスは、直ちに外務局に赴き日本へ外交団を派遣する事を強く進言し、その証拠として電卓を始めとした各種資料を渡したのだった。

最初は情報局が業務のせいで可笑しくなってしまったと考え、病院の受診を真剣に進めた外務局だったが、頓珍漢な内容ながらも矛盾なくまとまった資料や電卓の実物などから、情報局が狂っておらず日本が唯の文明圏外の国ではないと判断した外務局は、急遽外交団を編成し日本へと派遣する事としたのである。

 

だが、此処で外務局は一つのミスを犯してしまう。

それは情報局が挙げた日本の情報を、世界一の神聖ミリシアル帝国というプライドを守る為に外交団のメンバーに伝えていなかったのである。

ライドルカがこのやらかしに気付いたのは出発前の事であり、外務省の行動に呆れると同時に彼らを説得するのは難しいことだと判断。

話で説得する事ができないのならば事実で殴る事に決め、アルタラス王国に到着するまで日本の事をフィアームに話していなかったのである。

 

閑話休題

 

駐機場で呆然となっているフィアームら使節団を残し、ライドルカは空調の効いたターミナルに入ると事前に入手した情報を基に空港内のカウンターでミル(本作でのミリシアル帝国の通貨)を一旦ファーム(本作でのムーの通貨)に置き換えたうえで円に換金すると直ぐに画期的な機械との報告が上がっていた自販機に向かった。

 

「これが報告書に幾度なく記載されていた、自動販売機とかいう無人店舗か。・・・ふむ、硬貨を入れ飲みたい飲み物のボタンを押せば、その飲み物が一つ出てくるのか。・・・どれ、ミルクティーでも飲んでみるか。」

 

自販機に貼られている使い方のイラストを見ながら、ライドルカはペットボトル飲料を購入する。

ガタンと取り出し口に飲み物が落ちてきた時、一瞬容器が割れてしまうのではないかと思ったライドルカだが、恐る恐るペットボトルを取り出すと、彼はペットボトルの材質にとても驚いた。

 

「・・・これは!?無色透明で一見ガラスのように見えるが、ガラスと違い柔軟性がある。それに傷も見当たらない。だがこの手触り、この光沢、どこかで見たような・・・?そうだ、二ホン国の電卓の外装によく似ているんだ!同じ素材か?しかし、一体何を原材料にしているんだ!?」

 

自国で一般的に使われているガラス瓶とは明らかに違う容器に戸惑いながらも、ライドルカは蓋をひねり開けミルクティーを口に流し込む。

 

「・・・ほう、美味い。無人販売店で安く売られているが、味は我が国の物に全く劣っていないな。これを製造した二ホン国の企業は、かなりの技術力を持っているようだな。ぜひ、我が国にも商売に来てもらいたいところだが、まだまだ先のことになりそうだな。」

 

飲み終わったペットボトルをごみ箱に捨てた後、ライドルカは遅れてきた技官ベルーノら技術者らと共に休息時間一杯空港内を探索したり、屋上から空港内に駐機している日本製航空機や港に停泊している海上防衛軍第11艦隊の魔写を撮ったりした。(因みに天照率いる海上防衛軍第一艦隊はつい先日日本へ帰投しており、アルタラス王国には既にいなかった。その為、ライドルカらは日本の戦艦、空母を目撃していない。)

その一方でフィアームらミリシアル外交団の一団の大多数は、自分達の常識が崩れていくことを認めることが出来ず、ターミナルの一角に固まり、唯々呆然としていたのであった。




用語解説

NJ800型

全長 92.3m
全幅 98m
全高 20m
巡航速度 マッハ0.9
航続距離 20000㎞

日本航空機技術の粋を集めて開発された民間用超大型ジェット機。6000馬力を発揮する低燃費ジェットエンジンを主翼下に6発装備。人や貨物を最大350トン積載した状態で、巡航速度マッハ0.9で航続距離2万キロという破格の飛行性能を発揮することが出来る。更には過去の航空機事故で得た教訓を元にした何重もの安全機構を備え、例え油圧全損且つエンジン5基停止という最悪の状態に陥っても、最低300㎞は高度を維持したまま安全に飛行できる能力も有している。
日本の異世界転移後、旅客機型は収益性が落ち余り業務につかなくなってしまったが貨物機型は逆に需要が伸び、その長大な航続距離と貨物積載量を生かした日本ームー間の航路に就役。日夜異界の空を飛び、二か国の交易を支え続けている。

ボーイング747R1000型

全長 76.5m
全幅 68.5m
全高 19.5m
巡航速度 マッハ0.9
航続距離 20000㎞

アメリカボーイング社と川崎重工がNJ800型の技術を用い開発した、ボーイング747シリーズの最新型。
NJ800型では輸送力過剰となってしまう長~中距離の航路での運用に付くために設計され、その飛行性能はNJ800型と遜色ないモノに仕上がっている。
開発国である日本、アメリカ以外の国でも多数の機体が運用され、空の女王の異名が伊達ではないことを知らしめた本機は、異世界転移後クワ・トイネ公国やクイラ王国、アルタラス王国間などの航路に就役。第三文明圏の発展に大きく貢献し続けている。

99式哨戒機

全長 20m
全幅 26.5m
全高 4.5m
最高速度 540㎞/h
最高高度 9800m
武装 20㎜連装機銃 2基
   航空機用対潜誘導短魚雷 4発

日本海上防衛軍が第二次世界大戦時に運用していた双発の対潜哨戒機。
本機の最大の特徴は、高精度レーダーと磁気探知機、21発のソノブイと4発の航空機用対潜誘導短魚雷を搭載している事であり、この装備を生かした潜水艦狩りを得意としている。
当時のドイツUボート乗りから最も恐れられた存在であり、中には本機を見ただけで降伏する艦もいたほどである。
アルタラス王国で運用されている機体はエンジンをレシプロからターボプロップに換装した機体であり、アルタラス王国は本機を領海監視に用いており、日本航空防衛軍の助けを受けながら運用している。
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