神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス 帝国文化館
神聖ミリシアル帝国の他者を寄せ付けない圧倒的な国力と繁栄を象徴したかのような、豪華絢爛でありながら極めて高いデザイン性を持ち、そして列強一位としての威厳を考慮して作られた建物。それがカルトアルパスの名所の一つ、神聖ミリシアル帝国文化館である。
何処からかギリシャやローマを始めとした欧風の空気を感じる先進11か国会議の会場に、日本国外務省の近藤と井上ら日本外交団は足を踏み込んでいた。
会議場前の受付カウンターで自分達の着席位置を確認した一行は、開催までの空いた時間をロビーで潰すことにした。
久しぶりの国際会議への出席に彼らは、緊張を隠せないでいた。
彼らが緊張しているのは、日本の歴史に確実に刻まれることになるであろう会議に参加する事だけではない。神聖ミリシアル帝国を始めとしたこの転移世界の国々に自国の事を正しく認知させ、二度とパーパルディア皇国のような軍事力や経済力などを盾にした無理難題な要請をする事を回避させる。これは今後の外交を含む日本の政治にとって最も大事な事であり、決して失敗する事の出来ない事柄だった。
だからこそ、この場に日本代表としてきた外交官達はとても緊張していた。
「間もなく始まるな、先進11か国会議・・・・。これからどうなることやら。」
「そうですね。・・・・この会議、事前に全くと言っていいほど根回しがありません。こんな国際会議、人生初めてですよ。事前資料や会議すらまともにないこの状況で、果たして会議はうまく回るでしょうか?」
「そうだな・・・。見た所、他の国の代表方の服装はかなり立派なものだ。この会議に出席する人たちは、我々の様に「代行」ではなく、本当に国の権力を握っている人物なのかもしれないな。」
日本外交官らが話をしていると、日本ではなかなか見られない衣装を身に纏った何人かがこちらへ向かって歩いてきた。
外交官の一人、近藤はそのうちの一人が身にまとっている衣装に心当たりがあった。
「初めまして、二ホン国の外交官殿。私はパンドーラ大魔法公国のヴァンサンと申します。」
「初めまして、ヴァンサン殿。日本国外務省の近藤と申します。よろしくお願いします。」
二人は互いに差し伸ばした手を握り、握手を交わした。
「見覚えのある特徴的な衣装を着ていたので、もしやと思いましたがやはり貴国でしたか。故郷から離れたこの地で互いによく知る相手がいるのは、とても心強いです。」
「何を弱気なことをおっしゃる。貴国は長年のパーパルディア皇国による搾取の歴史を終わらせた、我が国にとって偉大な英雄のような国なのですぞ。もっと堂々として下され。」
「ははっ、申し訳ない。何分、このような事前の打ち合わせの無い会議等、我が国の常識では前代未聞の事なので・・・。」
「確かに。貴国のトウキョウで開かれた新大東亜共栄圏国際会議は、幾度となく事前の会議を行っていましたな。我々からすれば、慎重すぎというか色々考えすぎなのではないかと捉える者もいましたが・・・。おっと、そうだ。貴国に紹介したい者たちがいたのをすっかり忘れていました。中央世界の文明国、アガルタ法国のマギ殿だ。」
「初めまして、二ホン国の皆々様方。紹介にあずかりましたアガルタ法国外務庁に勤めるマギと申します。」
「日本国外務省の近藤です。マギ殿、お会いできて光栄です。」
近藤は自己紹介をしながら、右手を差し出してきたマギと握手を交わす。
握手をしながら、マギはにっこりと笑う。
「コンドウ殿、此方こそお会いできて光栄です。二ホン国、貴国の噂は我が国にも届いております。文明圏外の国ながらムー以上の科学技術を有し、あの大国パーパルディア皇国をわずか一か月で降伏せしめた貴国の話は、とても心躍るものであると同時に、それ以上に強い関心を持ちましたぞ。」
「我が国のどの様な点にご関心を持たれたのですか?もしよろしければ、お聞きしたいのですが。」
「それはズバリ、魔導を一切用いらずに発展している事です。私たちの今までの常識では、魔法が使えなければ、ろくな文明を築く事が出来ず、貴国にとってあまり聞こえは悪いが、蛮族というイメージが強い。だが、二ホン国は魔導に頼ることなく発展し、中央世界のどの国にも負けないような文明を築き上げた。そればかりか、第三文明圏の発展にも尽力していると聞く。我がアガルタ法国としては、二ホン国に強い興味心を持っています。私としては一度でいいから二ホン国に訪れてみたいものです。」
「お褒めの言葉、ありがとうございます。是非、一度我が国、日本にいらして下さい。盛大にとはいきませんが、我が国自慢の「おもてなし」の心で歓迎したいと思います。」
「マギ殿、二ホン国に行くときは効き目の良い胃薬と大きなカバンを持ち込むことを推奨しますぞ。美味い食い物や飲み物が腹がはちきれる程にあるし、持って帰りたいものが数えるのがばからしくなるほどありますからな。」
「ハハハッ、それはうれしい情報ですな。益々、二ホン国に行きたくなりましたぞ。」
ちょっとした笑い話に日本外交団の緊張感が解れてきた頃、会議場の開場のアナウンスが流れる。
ヴァンサンやマギと別れた一行は、先進11か国会議の着席位置へと向かった。
日本代表が着席してから、15分後。
「これより、先進11ヵ国会議を開催します。」
この会議の議長として、神聖ミリシアル帝国皇帝ミリシアル8世から直々に命名された外務省統括官リアージュの宣言により、国際会議が始まった。
会議が始まると直ぐに神聖ミリシアル帝国の代表が挙手をし、議長の許可を得て発言をする。
「神聖ミリシアル帝国のルイスだ。皆も知っていると思うが現在、列強国の席が二つ空いている。我が神聖ミリシアル帝国はこの空いた席に二ホン国とグラ・バルカス帝国を据えたい。理由としては両国ともかつての列強国を単独で下している事が挙げられる。又、二ホン国に関しては魔王ノスグーラの討伐の功績もある。列強国としての箔は間違いなくある。以上だ。」
「ありがとうございます。では、本件に関して反対意見がある国はありますか?」
この会議室には賛成、反対、棄権の数を集計し、会議場内のあちこちに設置された魔導掲示板に表示する事の出来るシステムが設置されている。又、議長席にはそれぞれの国がどのような回答をしたのかが一目でわかる用にもなっている。
掲示板に表示された結果は、賛成11、反対、棄権共に0であった。
それはつまり、日本とグラ・バルカス帝国が列強国として認められた瞬間でもあった。
「全ての参加国からの賛意を得ましたので、只今を持ちまして二ホン国、並びにグラ・バルカス帝国を列強国と認定いたします。」
次の瞬間、会議場に拍手が満たされた。
この時の二か国の反応は正反対のものだった。
近藤ら日本外交団は席を立ち、周りの国々に何度も深々と礼をしていた一方で、シエリアらグラ・バルカス帝国の面々は、列強国認定を受けるのが当たり前の事だと言わんばかりに席に座ったまま。腕を組んでいた。
次に手を挙げたのは、エモール王国のモーリアルであった。
一瞬、日本外交団に視線を向けた後、話始める。
「エモール王国のモーリアウルである。今回は、皆に伝えなければならない事がある。極めて重要な事であるため、心して聞くがよい。」
モーリアウルの物言いに、場が静まり返る。
大半の国々は何事かと疑問に感じていたが、日本外交団だけは彼がこれから話そうとしている事を知っている為、遂に公にするのかと考えながら聞いていた。
「先頃、我が国は空間の占いを実施し、未来を見た。その結果についてだが・・・、あの忌まわしき国、古の魔法帝国、ラヴァーナル帝国が近々復活すると判明した。」
モーリアウルの衝撃の発言を理解するのに、一部のモノ以外の全員が数秒の時間を要した。
脳内で反芻し、顔面蒼白となり、空気が急速に凍り付いて行く。
「遂に公にしましたね、ラヴァーナル帝国の件。自分としては列強国のみの場で話すべきだと思うのですが・・・。」
「ああ、だが現状ではこの場で発表するしか無い。定期的に開かれる国際会議はこの会議しかないのだからな。」
初接触時に他ならぬモーリアウルから直接知らされていた日本外交団は、ヒソヒソ話をする程度であったが他の国々は軽いパニック状態であった。
「な、なんてことだ!!あのラヴァーナル帝国が蘇るというのか!?」
「時期は!?復活の時期は何時ぐらいなのだ!?」
「各地に伝えられている伝承が事実ならば、我らに抗うすべはないぞ!!」
暫く騒然とした会場だったが、仮にも国家の代表としてこの場に来た者達だ。時間の経過とともに落ち着きを取り戻していった。会場が静かになり始めた所で近藤が挙手をしようとした時だった。
「クッ・・・クックッ・・・・・・ハァーッハッハッハッハッ!」
誰かが突然笑い始めた。
周囲から向けられる非難の視線にも物怖じせず、ゆっくりと立ち上がったのはグラ・バルカス帝国の代表、シエリアだった。
「いやいや、失礼。可笑しくてつい笑ってしまった。・・・私はグラ・バルカス帝国外務省、東部方面異界担当課長のシエリアという。魔帝だか何だか知らんが、過去の遺物を恐れるとは何たるレベルの低さか。そもそも、占いとかいう非科学的で確証もないモノの結果を国際会議で発言する神経が私には理解が出来ない。」
このシエリアの相手をバカにすることを隠しもしない発言に、モーリアウルが怒声をもって罵ろうとした時、これはまずいと判断した近藤が挙手をし、発言をする。
「日本国外務省の近藤です。シエリア殿、彼らの行っている「空間の占い」は唯の占いでは御座いません。彼の国の総力を結集し行われる高精度の未来予知なのです。事実、彼の国の「空間の占い」の的中率は最低でも95%を超えており、その精度はたかが占いと吐き捨てることが出来ない代物です。「空間の占い」の結果を侮辱する事は、エモール王国の全てを批判する事となります。」
「ほう?では、二ホン国はラヴァーナル帝国とやらの復活とかいう滑稽な話を信じるというのか?」
「ええ、何しろ我が国は既に魔帝の生体兵器と思われる魔王ノスグーラと戦闘しております。戦闘報告によると、何らかの力、恐らく魔導の力で宙に浮き唯の岩石を巨人に練り上げ、更には我が国の歩兵火器では有効打を与えられないほどの頑強さ、いや生命力を持っていたとの報告が上がっています。お宅の国にこのような生物兵器を、7.62㎜の銃弾に耐え、火砲並みの火力を発揮する生物を生産する技術がありますか?」
占いや過去の遺物だけならば、大した問題ではない。が、自国最大の戦艦より一回り二回り巨大な艦を運用する国が遺産の一つとはいえ実際に交戦したという事実は、エモール王国の発言の信憑性を高めてしまう。
これ以上発言すれば、墓穴を掘るだけだと判断したシエリアは一言も発せずに黙ってしまう。
「・・・ラヴァーナル帝国の存在と彼の国の復活は確定的と見るべきです。そこで我が国は全世界の力を集結するべきだと考えます。具体的には、対ラヴァーナル帝国を主軸とした軍事同盟の締結と国家の枠組みを超えたラヴァーナル帝国関連の研究組織の創設を提案します。我々に残された猶予は、わずかしかないと考えるべきでしょう。各国は早急に検討して頂きたい。」
「ムーは、二ホン国の意見に賛成します。ラヴァーナル帝国の実力が神話通りならば、我が国単体ではまともな抵抗すらできないでしょうから。」
ムーが賛同する意を示した後、他の国も次々に賛成した。
唯、近藤によって強制的に黙らされたグラ・バルカス帝国と文明圏外国であるアニュンリール皇国は、一旦本国に持ち帰り検討すると発言し、他の国からの不信感を買う事となった。
(近藤さん、グラ・バルカス帝国はともかく、文明圏外国であるアニュンリール皇国が賛意を示さないのは、なんかおかしくありませんか?)
(だな、言っちゃ悪いが文明圏外の国がラヴァーナル帝国に抵抗できるとはとても思えん。・・・こりゃ何かウラがあるぞ。)
(上にアニュンリール皇国を詳しく調べる事を上申しておきます。)
(頼む。早急にな。)
日本外交団がアニュンリール皇国に関するコソコソ話をしていると、今度はムー代表が手を挙げた。
「ムー国代表、発言を許可します。」
リアージュの許可を得たムーの代表が立ち上がり、発言をする。
「ムー外務省のデヴィッド・ベネットです。我が国はこの場において、グラ・バルカス帝国の第二文明圏における一連の侵略行為に対する非難決議を提案します。」
デヴィッドの発言に会議場の目という目が、シエリアらグラ・バルカス帝国代表団に向けられる。
「ここ数年、グラ・バルカス帝国は第二文明圏の各国に戦争を仕掛け、植民地を尋常ではない勢いで増やしております。列強国を含めた各国でも同様の事を行っているとはいえ、同国の行為はやり過ぎの域に達しております。このままでは、対ラヴァーナル帝国の前に秩序が崩壊する危険があります。従いましては、彼の国に何かしらの懲罰を課すべきだと考えます。」
「我が神聖ミリシアル帝国も、ムーと同様の懸念を抱いております。もしこのまま、第二文明圏への侵略行為を続けるというのならば、我が神聖ミリシアル帝国も介入せざるを得なくなる。よって、グラ・バルカス帝国に対して、ムー大陸からの即時全面撤退を要求します。」
世界第一位と第二位の列強国の非難に、議場はグラ・バルカス帝国非難で固まろうとしていた。
唯、グラ・バルカス帝国がこのような過激な行動に走るようになってしまった原因を掴んでいる日本側からすれば、この決議はグラ・バルカス帝国の孤立を招き、生存の為に更に過激な行動を起こす可能性があると考え、何らかの妥協点を提示しようと挙手をしようとした矢先、それまで黙っていたシエリアが立ち上がり口を開く。
「どうやら貴様らは一つ勘違いをしているようだ。我が国はこの会議に参加し、意見を言いに来たのではない。この地域の、列強国と名乗る国々がが一同に会するこの機会に、我が国の意思を通告しに来たのだ!グラ・バルカス帝国 帝王グラルークスの名において、貴様らに宣言する。我らに従え!我が国に忠誠を誓った者には、永遠の繁栄が約束されるだろう。
ただし、従わぬ者には、我らは容赦せぬ!!沈黙は反抗とみなす。・・・まずは尋ねよう。今、この場で我が国に忠誠を誓う国はあるか!?」
「オイ、・・・オイオイオイ!!正気か!?」
「全世界に対しての事実上の宣戦布告・・・。こんな事やるバカなんぞ、地球の歴史の中でもありませんよ!!」
「・・・よほど自信があるのだろうな、自国の力に。だが、幾らなんでも慢心のし過ぎだぞ、これは。」
議場内の誰もが呆れと困惑で呆然とする中、近藤ら日本外交団の面々は自分達が擁護しようとした国のトップに対して呆れの言葉を吐き出す。
「・・・やはり、今従属を誓う国は現れぬか。まあ、当然だろうな。だが、我が国を収める偉大な帝王様はとても寛大な方だ。我が国の力を知った後でも構わない。我が国に下ると決めた時は、レイフォル州レイフォリアの出張所まで来るがよい。まあ、貴様らがレイフォリアを訪れるのはかなりの被害を受けた後になりそうだがな。では、現地人ども、確かに伝えたぞ!!」
それだけを言うと、グラ・バルカス帝国代表団は全員が立ち上がり、軽蔑の視線を受けながら退室していった。
この日の会議はシエリアの発言によって混乱状態となり、収拾不能と判断したリアージュにより切り上げられる事となり、近藤はすぐに八咫烏に戻りグラ・バルカス帝国の事実上の宣戦布告発言を本国へ上げた。