日本国召喚 ~天照の咆哮~   作:イーグル

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今回は、海軍編です。(ぶっちゃけ戦艦しか活躍していないですが)






ロウリア王国編-02

クワ・トイネ公国 マイハーク港

日桑連合陸軍が、ギム郊外でロウリア軍を撃破する少し前。

日本から、ロウリア王国軍を監視するおおとりⅡから大艦隊が接近しているとの報告を受けたクワ・トイネ公国海軍本部では、クワ・トイネ第二艦隊の提督を務めるパンカーレが出撃の準備をさせていた。第二艦隊には、およそ50隻の艦船が所属している。

 

「壮観な風景だな。」

 

パンカーレは、海を眺めながら囁く。

 

「しかし、敵は4000隻を超える大艦隊、彼らは何人生き残ることができるだろうか。クワ・トイネ級かマイハーク級、いやせめてエージェイ級が在れば有利に戦えていたんだが。」

 

パンカーレは頭を抱える、もし侵攻が1年遅ければ日本の新型艦が手に入るというのにと。

実は海軍は、陸軍、空軍と違い近代化が進んでいなかった。日本から手に入れた重機関銃を数丁取り付けた艦船はまだマシな方で、何もしていない艦船のほうが圧倒的に多かった。日本はクワ・トイネ公国の為に現在戦艦1隻と大型巡洋艦を2隻、駆逐艦を多数、急ピッチで建造しているというがどんなに急いでも戦力化するまで半年はかかるという。絶望的だった。圧倒的な敵の物量を前にどうしようもない気持ちがこみ上げてくる。

 

「提督、海軍本部から、魔伝が届いています。」

 

側近であり、若き幹部、ブルーアイが報告する。何事だろうか。

 

「読め。」

 

「はっ!本日夕刻、二ホン国の艦隊が援軍として、マイハーク沖合いに到着するとのことです。彼らは、我が軍より先にロウリア艦隊に攻撃を行うとのことです。なので、観戦武官一名を彼らの旗艦に搭乗させるようにとの本部からの命令です。」

 

「ふむ、二ホン艦隊の編成内容は解るか?」

 

「はっ、二ホン艦隊の構成は旗艦を務める戦艦イズモの他、戦艦デワ、空母セイリュウ、ホウショウ、護衛艦20隻余りとのことです。」

 

「おお!噂の二ホンの戦艦が出てくるのか、しかも二隻も!間違いではないのだな。」

 

「間違いではありません。」

 

「とても有難いことだ。しかし、観戦武官か。二ホンの戦艦の性能は、圧倒的だと聞いているが、それでも危険であることには変わりない。誰を向かわるか・・・・。」

 

沈黙が流れる。

むろん誰も死にたくはない、しかし日本の戦艦の実力をこの目で見たいとも考えていた。

 

「提督、私が行きます。」

 

ブルーアイが沈黙を破り、発言する。

 

「しかし、危険だぞ。」

 

「私は剣術では同期でNo1です。一番生存率が高いのは私です。それに、空軍に卸されたNF-1戦闘機を私は見てきました。あのワイバーン以上の性能を持つ機体を作ってしまう二ホン国です。それに私は直に見てみたいのです。二ホンの海軍の力を。」

 

「分かった。ブルーアイ、頼んだぞ。」

 

「はっ!」

 

その日の夕刻

 

ブルーアイやパンカーレ、水兵達はマイハーク沖に停泊する大型船に目を向けていた

日本と初接触した際、日本が300m以上の艦を保有しているとの報告は受けていたし、実際に見たこともあるのだが、やはりその規格外の大きさは目を見張るものである。

やがて、一際大きな軍艦から、ヘリコプターという乗り物が飛んできた。

 

ブルーアイは、以前空軍に導入されていた機体を見たことがある。初めて見たときは、どの様に飛ぶのか見当がつかなかった。機体の上にあるプロペラという回転する翼を使って垂直に飛び上がったときは、度肝を抜かれたものである。

飛んできた機体をよく観察すると、自国が購入したものより精練されたフォルムをしていた。

着陸したヘリに乗り、沖合いの日本艦隊に向かった。

フワフワのシートに座り、ほとんど揺れずにヘリコプターは進んだ。ワイバーンよりも遅いが、遥かに快適で、人が大量に運べる。しかも垂直離着陸が出来る。確かに便利なものだと、ブルーアイは感じた。

やがて、戦艦が見えてくる。

その大きさに、改めて驚愕する。

 

(理解していたつもりだが、やはりでかい!しかもなんだあの大きな砲は!?我が第二艦隊くらいなら、一撃で吹き飛ばすことが出来るのではないか?それが二隻もあるとは。)

 

彼は、ここ数か月で新たに身に着けた知識をもとに日本の力を理解しようとしていた。

やがて、BBH-008 いずもの艦尾ヘリ甲板に降り立つ。

降り立った彼は、防衛軍人に言われるがまま、艦内に入っていた。

中は電灯のお陰で、とても明るかった。

 

ブルーアイは艦内を進み、艦橋へと向かっていった。

そこには、この戦艦の艦長がいた。

 

「初めまして。私はこのいずもの艦長の山本です。」

 

「クワ・トイネ公国第二艦隊から来た、観戦武官のブルーアイです。この度は、援軍感謝します。」

 

「早速ですが、我々は、ロウリア軍の船団の位置をすでに把握しており、ここより西側500㎞の位置に彼らはおります。船足は5ノット程度と非常に遅くありますが、こちらに向かってきております。我々は明日の朝出港し、ロウリア軍に引き返すように警告を発し、従わなければ全て排除する予定なので、明日までは、ごゆっくりとおくつろぎください。」

 

「分かりました。ですが、本当に大丈夫なのですか?相手は、4000隻越えの大艦隊なのですぞ。70隻で相手に出来るものではないと思いますが。」

 

「大丈夫です。我らには秘策があります。それと、本作戦は我が艦隊のみで行いますので、クワ・トイネ艦隊の随伴は必要ありません。むろん、ブルーアイ殿の身の安全は保障します。ご安心して、仕事をなさって下さい。」

 

ブルーアイは驚く。彼らは、24隻の艦艇のみで4000隻以上の敵大艦隊に挑むつもりなのだ。

ブルーアイは、不安に思ったが、日本艦隊の戦いを見るのを、少し楽しみにしていた。

 

翌日早朝

 

日本艦隊は、マイハーク港を出港した。

 

ブルーアイは、いずもの第一艦橋にて驚愕する。

 

(速い!我が軍の軍船の最大速力を遥かに凌駕している。なるほど、これでは合同作戦は取れないな。それに他艦との距離が離れている。輪形陣というものかな?二ホンの本は読んだが、ここまで離れて行動するとは・・・。やはり、二ホンはすごい国だな。)

 

艦隊は約20ノットで西に向かう。出港から、数時間後ロウリア艦隊をレーダー上にて補足したとの報告が入った。

 

「よし、ヘリを飛ばして警告をしろ。全艦、最大船速。いずもとでわを前に出すぞ!」

 

交戦に備えて、日本艦隊は陣形を変えた。

そして、最大速力でロウリア艦隊に向かった。

 

ロウリア王国クワ・トイネ公国討伐艦隊 指揮官 シャークン

 

「いい景色だ。美しい。」

 

大海原を真っ白の帆に風をいっぱいに受けて、進む美しい帆船たち。その数4400隻、大量の水夫と、揚陸軍を乗せて、彼らは一路クワ・トイネ公国最大の経済都市、マイハークに向かっていた。

見渡す限り船ばかりである。

 

海が見えない。そう表現したほうが正しいのかもしれない。

 

パーパルディア皇国からの軍事支援と、6年という年月をかけて準備されたこの大艦隊。この大艦隊を撃破する方法は、ロデニウス大陸には無い。もしかしたら、文明圏の国やパーパルディア皇国でさえ相手取ることが出来るかもしれない。

 

野心が頭をよぎるが、パーパルディア皇国には、戦列艦という、船ごと破壊できる強力な兵器を搭載した軍船が存在しているという。そのことを思い出し、野心の炎を打ち消す。第三文明圏最大最強の列強国であるパーパルディア皇国に挑むのは、やはり危険が大きい。

 

「提督!東から何かが飛んできます!?」

 

マスト上にいる見張りの水兵からの報告で、シャークンは思考の海から現実に引き戻される。

東方向に目を凝らすと、確かに何かが飛んでくる。

クワ・トイネ公国の飛竜と最初は考えていたが、それは全く違うものだった。

 

虫のような形をした無機質な物体が、バタバタバタ、と異様な音をたて、こちらに飛んでくる。見たことの無い物体が飛んでくる様は異様な光景であり、わずかに恐怖の心がシャークンに芽生える。

 

「こちらは日本国海上防衛軍である。ロウリア艦隊に通達する。貴艦隊は、クワ・トイネ公国の領海に侵入している。直ちに引き返せ。繰り返す、直ちに引き返せ。」

 

白い体に赤い丸が入ったそれには、人が乗っていた。そして自分たちに引き返すように、警告をしている。

バタバタバタ、と音を立てながら船団の上空を周回するそれに向かって、水兵がバリスタや弓を使って矢を射る。しかし、当たらなかった。暫くの間、上空で警告を発し続けたそれは、やがて東の空へと消え去っていった。

 

「ん?提督、小島が二つ見えます。」

 

「馬鹿な、この辺に島はないぞ。貴様の目は節穴か?」

 

「しかし、そこにあ・・・!!!島が動いている!?」

 

「何!!」

 

再度、東の方向に目を凝らすと、確かに二つの小島があり、動いていた。

まさか、船か!?

 

「あれは、敵船だ!!距離は!?」

 

シャークンはすぐさま、対象との距離を測るように命令を出す。

命令を受けた熟練の水兵が、計算して距離を求める。その導き出した値をみて、水兵は顔を青くする。

 

「嘘だろ。こんなことがあるなんて・・・。」

 

「どうした!?何があった!?」

 

「提督!敵艦との距離は、10km以上離れています!」

 

「馬鹿な!もっと近いはずだぞ!」

 

間違いありません、と水兵は返してきた。

シャークンらは、驚愕する。この事実から導き出されること、それは、相手が桁外れに大きいということだ。

そうしている間にも、小島と見間違えるほどの大きさの敵艦は凄まじい速度で接近してきた。

その姿に、またも驚愕することになる。

 

(なんだ、あの大きさは!今まで見たこともないぞ。しかも甲板に備えられているあれは、まさか魔導砲か!?まるで、ムーの軍艦ではないか!)

 

シャークンが驚愕している間に、巨大船は3㎞の距離を保ちながら、平行に走り始めた。

 

「これが最終警告である!直ちに引き返せ!さもなくば、発砲する!直ちに引き返せ!さもなくば、発砲する!これが最終警告である!」

 

いくら船が島のように大きいとはいえ、たったの二隻。こちらは4400隻の大船団だ、数の差で何とかなるだろう。

そう考えたシャークンは、攻撃を命じた。

命令を受けた帆船は、右に旋回し敵艦との距離を詰める。

距離が200mを切ったところで、帆船から一斉に火矢が、敵船を襲う。放たれた矢は、届かないものがほとんどだったが、運良く届いたものもあった。が、全て弾かれた。

 

「矢を弾いた!奴は、金属をその身に纏っているというのか!」

 

矢を放った帆船の船長が驚く。彼の常識では、金属でできた船など存在しないと考えていたからだ。

敵船の、舷側に並べられた何かがこちらを向いた。

 

(何をしようとしている?)

 

シャークンが敵の行動に疑問を抱いた時、敵船の舷側がパッパッと光る。

 

次の瞬間、バリバリバリ、と轟音が響く。

 

そして、敵船と並行に走っていた帆船が光弾によって、あっという間にハチの巣になり大爆発を起こした。爆散した帆船の部品や、人間だった物があたりに撒き散らされる。

いずもとでわの舷側に装備された、パルスレーザーと近接防御火器が火を噴いたのだ。

一分足らずで、二隻と並行に走っていた帆船は全滅した。

 

「!!なんだ!!あの威力は!それに連射をしただと!」

 

経験したことのない攻撃に、それを見ていた船団全員が驚愕をする。

次は自分たちの番ではないかと、恐怖に体を震わせるものもいた。

 

「まずい!!このままでは、手も足も出せずに全滅する。通信士!今すぐにワイバーン部隊に上空支援を要請しろ!!敵主力船団と交戦中とな。」

 

いずも艦橋

 

「これで、驚いて引き上げてくれると良いのですが・・・、艦長はどう思われます?」

 

戦艦いずもの副長の海原は、無用の殺傷をしたくはなかった。こちらの実力を見せて、勝てないと理解させ撤退させる。平和ボケと言われても仕方ないが、彼は敵が帰ってくれることを願った。

だが、艦長の山本は違った。

 

「驚いているようだが、撤退はしないだろう。まだ、敵には切り札の航空戦力が残っている。」

 

「あっ!!ワイバーンのことですか!?」

 

「そうだ。陸さんの話によると150騎は撃墜確実らしいが、おおとりⅡで確認されたワイバーンの総数は、500騎とのことだ。まだ敵には、350騎は残っている。全部とまではいかなくても、200騎は出してくると、私は考えている。」

 

「なるほど・・・。理解しました。」

 

海原は、山本の考えに納得し対空警戒を厳にするように命令を出した。

 

 

「ふ・・・・。あれほどの威力の魔導、そう連発できぬようだな・・・・。」

 

シャークンは、いずもとでわが更なる攻撃をしてこないため、このように判断していた。

 

「艦隊の速度を落とせ。ワイバーン隊の航空攻撃と同時に、一気に接近して畳みかけるぞ。」

 

ロウリア王国 ワイバーン本陣

 

今回のクワ・トイネ公国侵攻作戦の為に用意されたワイバーンの内、350騎が配備されているこの基地に、ロウリア艦隊からの魔伝が入ってきた。

 

「司令、シャークン様が指揮される討伐艦隊から魔伝が入りました。敵の主力と思われる船と現在交戦中、敵は島のように巨大であり、苦戦中。航空支援を要請する。」

 

「ほう、蛮族どもの主力か・・・。よろしい。350騎全騎を差し向けろ。」

 

「し・・しかし、司令。全てのワイバーンを差し向けてしまうと、本隊からワイバーンが全ていなくなってしまいます。先遣隊とも連絡が取れませんし、ここはもっと慎重に判断されたほうが宜しいのでは?」

 

「聞こえなかったのか?全騎だ。敵の主力なら、大戦果だ。戦力の逐次投入はすべきではない。」

 

「・・・・了解しました。」

 

基地司令の命令を受けて、ワイバーン隊が次々と飛び立ち、日本艦隊に向かった。

 

このワイバーンの大編隊は、いずも、でわのレーダーにて既に探知していた。

 

「敵の陣地からワイバーン隊が出撃しました。総数350騎です。」

 

「まさか全てのワイバーンを出してくるとは・・・。艦長、敵はまだ諦めていないようですね。」

 

「さすがにすべて出してくるとは、思っていなかったがね。とにかく中途半端な攻撃をしては、こちらが危険だ。全力でやるぞ。主砲、対空殲滅弾装填!対空戦闘用意!」

 

「了解!主砲、対空殲滅弾装填。目標、敵ワイバーン大編隊!!砲術長頼むぞ!!」

 

「はっ!!一撃で決めて見せます!」

 

いずもの象徴である61㎝砲に砲弾が装填され、ロウリア王国ワイバーン隊の飛来する方向に指向する。

でわもまた、主砲を敵に向ける。いずもより口径が小さいお陰で、いずもより早く射撃準備が完了する。

 

「でわより通信。我、射撃準備完了とのことです。」

 

「早いな、でわの奴ら張り切っているな。」

 

「何しろ現役復帰後の初の任務で、いきなり主砲を撃てるのです。張り切ってしまうのは、仕方のないことでしょう。」

 

「そうだな・・・・。でわに返信。敵の戦意を削ぐ為に目視圏内で発砲する。本艦との同時射撃を求む。」

 

「了解しました。」

 

 

先程、大きな砲を上に向けたが、それっきり敵艦は沈黙を守っている。

もうすぐワイバーン隊が到着するという。300騎以上のワイバーンと船団による同時攻撃。必ず、あの巨大船を葬ることが出来るだろうと、シャークンは確信していたが、彼の心の隅には嫌な予感が漂っていた。その、不安をかき消すようにシャークンは、彼の経験に基づく最良の選択を命じる。

 

「そろそろ、ワイバーン部隊がこの海域に到達する。全軍突撃せよ。」

 

シャークンの命令を受けた船団が、最大速力で敵艦に突撃を開始した。

ワイバーン隊も、自分たちの上空を通過し、敵艦に突っ込んでいく。

 

 

「敵ワイバーン隊接近、距離約3㎞。」

 

「誤差修正完了、いつでも撃てます!」

 

「総員衝撃に備え!」

 

「ブルーアイさん!耳を固く閉じて、口を大きく開けてください!」

 

「わ、分かりました!」

 

海原の指示に、ブルーアイは素直に従って、耳に指を入れ口を顎が外れるくらい大きく開けた。

それを確認した艦長の山本は、命令を下す。

 

「主砲、一斉射。攻撃始め!!!」

 

「全主砲、てっぇぇー--!!」

 

いずもの61㎝砲と、でわの51㎝砲が轟音と共に、火を噴いた。

 

 

「何だ、敵が爆発したのか?」

 

シャークンは、二隻の戦艦の主砲発砲を最初、敵が勝手に自滅したのかと勘違いした。それは、ほかの水兵も同じで、中には頬を緩める者もいた。頬を緩めたものはこの海戦に、勝ったと考えていたのだろう。

直後、空に幾つもの太陽が現れるまでは。

 

ワイバーン隊は、自国の大船団の前に立ち塞がっている巨大な二隻の船に驚愕していた。

 

「何なんだあれは!?」

 

「船なのか?大きすぎる!!」

 

「クワ・トイネの連中、いったいどこで手に入れたんだ!」

 

シャークンの要請を受けてきた竜騎士隊は、目の前に現れたいずもとでわの規格外の大きさに恐れおののくが、隊長騎の命令を受けると心を落ち着かせ、二隻に向かっていく。

 

「恐れるな!確かに規格外の大きさだが、たった二隻、数で襲えば恐れるに足らず。全騎突撃!!ロウリア王国、バンザイー----!!!」

 

竜騎士隊は、いずもとでわに向かって突っ込んでいく。

だが、敵艦が爆発したかのように見えた瞬間、彼らは経験したことのない光と熱、衝撃を感じた。それが、彼らの最後の記憶となった。

 

「な、何が起きたというのだ・・・。」

 

シャークンは呆然とする。敵が爆発したと思ったら、突然自分たちの上空で巨大な火球がいくつも発生した。今まで体験したことのない光と熱波、衝撃、そして轟音。それが収まった時、空を飛んでいたはずの350騎のワイバーン隊は、跡形もなくなっていた。ただ、燃えカスのようなものが海に落ちてくるのみである。

この時、いずもとでわの主砲から発射された砲弾は「99式対空殲滅弾」というものだった。砲弾に仕込まれた燃料気化弾頭の起爆によって発生した高熱は、3万度に達すると言われている。ワイバーン隊は、文字通りに焼き尽くされたのである。

 

「りゅ・・・竜騎士隊。全滅、いや消滅しました・・・。」

 

その事実に、誰もが信じられずに、声を出すこともできない。沈黙が彼らを支配する。一撃、たった一撃で空前絶後の350騎のワイバーン大編隊が、一騎も残らずに全滅した。シャークンは、海面に漂う撃沈された船の破片や、ワイバーン隊だった物が漂流しているのを見て、戦慄、いや、恐怖以上の何かを感じていた。

 

「我々は、一体何と戦っているのだ・・・。」

 

海将シャークンは、悲壮な心境でつぶやく。

なんと表現していいのか解らない。

しかし、悲劇は自分たちを見逃してくれなかった。

 

「う・・うわー--!また、攻撃してきたぞ!!」

 

いずもとでわの舷側が、パッパッと光り、爆音が轟く。

竜騎士隊への対応の為、中止していたロウリア艦隊への攻撃が再開したのだ。

今度はパルスレーザーと近接防御火器だけでなく、127㎜単装速射砲や、副砲も発砲を開始した。

まだ、4000隻近く残っていた艦隊が、信じられない速度であっという間に数を減らしていく。

 

「化け物、いや悪魔だ・・・。奴は、海の悪魔に違いない・・・。」

 

「畜生!!あんなのに勝てる訳がねえ!!くそったれーーー!!」

 

僅かな時間のうちに、味方の船は1200隻のみになっていた。

 

「・・・・もう、ダメか。」

 

シャークンは絶望していた。どうやっても、あの二隻の悪魔に勝てる方法が浮かばない。

このままでは、部下の命をいたずらに失うだけである。しかし、降参して捕虜になった場合、自分たちの国を滅ぼそうとしたロウリア人を、彼らが許すわけが無い。

ロウリア艦隊に残された道は、撤退のみであった。

ロデニウス史上最大の船団の3分の2以上を失っての大敗北、国に帰ったら、確実に死刑になるだろうし、自国の歴史書にも、無能の将軍として名が残るだろう。

しかし、部下をこれ以上死なすわけにはいかない。

彼は決断し、命令を下す。

 

「通信士、魔法通信で全軍に通達。「全軍撤退せよ、繰り返す、全軍撤退せよ。」と。」

 

魔法通信が各艦に流れ、各々回頭をして、撤退を開始する。

シャークンの乗る旗艦も、撤退するために回頭を始めた時、でわから発射された127㎜の砲弾が直撃をした。

船に大穴が空き、浸水が発生する。シャークンは、着弾の衝撃で海に投げ出された。

海上に浮かびながら見た光景、彼の乗っていた船は、真っ二つに割れ、沈んでいくところだった。

 

「艦長、敵は撤退を始めました。追撃しますか?」

 

「いや、追撃はしない。完全に戦意がなくなったようだからな。それよりも、海に浮かんでいる敵兵の救助のほうが重要だ。生存者を探し出し、救助せよ。」

 

ここに、ロデニウスの歴史に大きく名を遺す「ロデニウス沖大海戦」が終結した。

 

いずもの第一艦橋で、この海戦を観戦していたブルーアイは、この海戦で日本の力の一端を感じた。

特にそれを感じたのは、ワイバーン大編隊迎撃の時だった。

いずもの主砲発射時の爆音と衝撃は、今まで体験したことのないものだった。そして、敵ワイバーンが光に包まれた後、完全に消滅していたことに、驚愕した。ロデニウス最強の戦力をいとも簡単に、殲滅してしまう日本に、友軍だというのに恐怖を感じてしまった程だった。

 

ブルーアイは、この後パンカーレにこの事をどの様に報告すればいいのか、大いに悩むことになる。

 

 

敗走するロウリア艦隊の一隻の部屋の中で、パーパルディア皇国から派遣された、観戦武官ヴァルハルは、震えていた。彼の乗る船は船団の最後尾にいたことで、運よく撃沈されなかった。

しかし、彼の見た光景は大きな恐怖をもたらしていた。震えを取ろうと、何度も酒を飲んだが思い出すたびに震えが、ぶり返してきた。

彼の任務は、この戦争でロウリアの大艦隊が、どの様に戦いクワ・トイネ公国を滅ぼすかを記録することだった。蛮族にふさわしいバリスタと、船員による切り込みといった原始的戦法でこれだけの数をそろえたらどうなるのか、個人的興味もあり、彼はこの任務を楽しみにしていた。

 

しかし、この船団の前に立ち塞がる様に現れた船は、彼が持つパーパルディア皇国の常識を遥かに超えたものだった。

島のように大きい二隻の敵船は、「風神の涙」はおろか、帆すら無いのに圧倒的に速かった。

そして、甲板に備え付けられた巨大な砲に彼は驚愕する。

なぜ、文明圏外のロデニウス大陸に、自国のものより巨大な大砲があったのには驚いたが、数門しか積んでいないことに疑問を覚える。

彼の常識では、大砲とはそう当たらないものだった。なかなか当たらないから、「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」の理論で作られた、100門級戦列艦が存在するのだ。

しかし、彼らの船は3㎞離れているのにも関わらず、一発で当ててきた。一撃で船が撃沈されていく。

しかも口径の小さな砲は、連射が出来るらしく船を一秒足らずで、穴だらけにしてしまった。

さらに驚くべきは、ワイバーン隊を一撃で消し飛ばしてしまったことである。

我がパーパルディア皇国なら、艦隊に随伴させている竜母から、ワイバーンを発進させて対抗する。

我が国の主力のワイバーンロードは、蛮地のワイバーンより性能が遥かに良いため、同数なら必ず勝つことが出来ると言われている。

そもそも、大砲は空を飛ぶものに当たらない。それが、常識だった。

しかし、敵は砲弾から巨大な火球を発生させて、ワイバーンを吹き飛ばしてしまった。

とても、人間の力とは言えないナニかとしか、ヴァルハルには理解できなかった。

彼らの存在を知らずに、事を進めると、近い未来パーパルディア皇国をも脅かすかもしれない。ヴァルハルは、そう確信した。

 

ヴァルハルは、部屋に置かれた魔伝に向かうと、見たまま、ありのままを本国に報告した。

 




用語説明
クワ・トイネ級戦艦、マイハーク級大型巡洋艦、エージェイ級駆逐艦について
クワ・トイネ公国が海軍近代化のために、日本に建造を依頼した軍艦。
(詳しい性能などは、後日あげる予定です。)


最後に
いつも、超日本国召喚をご愛読していただきありがとうございます。
次回は、ロウリア王国への逆侵攻に関する話になると思います。

パーパルディア皇国について

  • 原作通りに存続する
  • 滅亡一択、慈悲はない
  • 作者が自由に決めて

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