私・黒鉄秋雲は、NTRを題材に次の本を描くことにした。
特に大した理由があるわけじゃない。
先日某サイトで、NTRが人気第一位のジャンルであるという統計を見かけたからだ。
正直なところ、私自身はNTRってのはあんまり好きじゃない。
でも、こうしてNTRがダントツの人気を得てるって
それに、NTRというジャンルで名を馳せている「秋雲」も何人か居るという話も聞いた。
それで…
「一つ描いてやろうじゃない!黒鉄秋雲のNTRってヤツをヨォ!」
…と、思い立ったというわけ。
NTRを題材に次の本を描くに当たって、まず私は「NTRとは何か?」というところから問い直してみることにした。
私の蔵書の中からNTRモノを持ち出せるだけ持ち出して、私は甘味処「間宮」に赴いた。
NTRモノを再度読み込んで研究するためだったんだけど、それなら自室に篭もっていても良かったような気もする。
でも、自室を出て「間宮」でNTRモノを読み耽っていたことで、思わぬ成果を得ることが出来た。
…ふと顔を上げると、金剛さんが私の正面に座っていて、私が持参したNTRモノの本を読んでいた。
そして私が顔を上げたことに気づいてか、金剛さんも私の方に視線を向けた。
「Hi!秋雲、研究熱心デスね?…次の本は寝取られモノなのデスか?」
「え?ええ。何かダントツの人気ジャンルになってるって聞きましてね?一つ私も挑んでみようと思いまして。」
「…金剛さんもNTRモノはお好きなんですか?」
「寝取られモノ、デスか?そうデスね、ワタシは…。」
「…大っ嫌いデスよ。そりゃあもう、反吐が出るほどに、ネ。」
金剛さんは
(何か創作のヒントが掴めるかもしれない!)
金剛さんの答を聞いて、あまり論理的じゃないけど、私はそう直感した。
そして「創作のヒント」を掴むために…私は金剛さんとの
「嫌いですか!それはやっぱり、彼氏が理不尽に彼女を奪われるってのは、見てられないからですか?」
「んー…まあ、ソレもあるのデスが…。」
「寝取られモノに出てくるヒロインが、ワタシの目には醜悪に映ってしまうのデスよ。」
「醜悪ですか?でも、どの娘も皆、見た目はカワイイと思いますけど…。」
「マア見た目はネ。」
「するとやっぱり、醜悪って言うのは…。」
「Yes,彼女たちの内面、人間性というヤツですネ。」
金剛さんは紅茶を一口して、話を続けた。
「うちの武蔵デスが。」
…どうしてここで武蔵さんの話が出てくるのだろう?とりあえず続きを聞いてみた。
「武蔵には大和という
「マア一口に言ってwhore…ビッチですよネ、うちの武蔵は。それは否定しようがありマセン。」
「デスが…武蔵はこうして多くの人間や艦娘を悦ばせ、慰め、癒やし、時には救いさえもしてきマシタ。」
「武蔵はビッチだ売女だと罵倒されても、多くの人間や艦娘を悦ばせ、慰め、癒やし、救ってきたのデス。」
「…提督も、ワタシも、そして大和も…そんな武蔵が愛おしくて堪らないのデスよ。」
…実を言うと、私も武蔵さんには
私も武蔵さんのことは、結構好きだ。
他所の鎮守府にいる艦娘からは色々言われてるのは知っているけど、
「対して、寝取られモノに出てくるヒロインどもはどうでショウか?」
「特に間男を選んで彼氏を捨てるようなヒロインどもは?」
「彼女たちは何故間男を選んで、彼氏を捨てるのでショウか?」
思い当たる答はあったけれど、私が答える前に金剛さんは答を言ってしまった。
「それは彼女たちが、自分は彼氏と間男で二股を掛けるようなビッチじゃないと、自分はまだ純愛モノのヒロインなのだと思っているからなのデス。」
「愛は誰か一人だけに捧げるもの。自分を気持ち良くしてくれた間男こそ自分が愛すべきただ一人の相手。自分は間男にこそ愛を捧げなければならない、間男にこそ操を立てなければならない。」
「だから彼氏を切り捨てるのは当然だし、そうすることは正しい…という論理が、ここにあるのデス。」
「武蔵のような
「ビッチ呼ばわりされても、人間や艦娘を悦ばせ、慰め、癒やし、時には救う
「自分はビッチなんかじゃない、自分は純愛モノのヒロインだと
「ワタシの目には見るに堪えないほど醜悪に映るのデスよ。」
「あー…そうですよねぇ。」
「特に、間男がハーレム作るようなNTRモノだと。」
「自分以外の女にも手を出すような男に操を立てて純愛ヒロイン気取りって、アホなの?バカなの?って思っちゃいますよねぇ。」
そう言って、私はお茶を一口した。
「…でも、金剛さん。金剛さんはNTRモノは反吐が出るほど大嫌いなんですよね。」
「でもそう言う割には、私がここに持ち込んだ資料を熱心に読んでませんでしたか?」
「それに、NTRモノのどんなところが嫌いかってことを、割とハッキリ論じていたような…。」
「NTRを見て腸が煮えくり返る奴はNTRを楽しめる素質がある。」
「…って、よく言われてるそうですけど。」
「もしかして、金剛さんも本当はNTRを楽しんじゃったりしてますか?」
私としてはちょっと意地の悪いことを言ったつもりだったんだけど。
…金剛さんは私の質問を聞いて、満面の笑みを浮かべた。
”待”ってたぜェ!!この”
金剛さんの笑みはあくまでも和やかな笑みだったんだけど、どういうわけかそう言っているように見えた。
「Yes,楽しんではイマスよ。」
「デスが、それはあくまでも『大嫌い』を楽しんでいるのデス。」
「『大嫌い』を…楽しむ?」
「ワタシの場合は…そうデスね…。」
「彼氏を裏切り傷つけておきながら、純情可憐な純愛ヒロイン面をしている寝取られヒロインに、どうやって身の程を思い知らせてやろうか。」
「そんなことを考えて楽しんでイマスよ。」
「それは…。」
「人間の心…ワタシたちの心というヤツは、奇妙に、そして頑丈に出来ているのデスねぇ。」
「『大嫌い』な事物を前にして、それを受け止め『楽しむ』ことすらできるとは。」
「これが生きるということ…『適応する』ということなのデショウかねぇ。」
「…それで、最近こんなことを考えマシタ。」
…金剛さんは「最近考えたこと」を説明し始めた。
ある王国がある帝国に滅ぼされ、王国の(王女様)は帝国に囚われの身となった。
(王女様)と想いを交わし合っていた(主人公)は帝国に対する抵抗運動に身を投じ、囚われた(王女様)を奪還するため、文字通り命を賭けて戦い続けた。
戦い続けること数年、(主人公)はついに(王女様)を奪還するが…。
(主人公)と想いを交わし合っていたはずの(王女様)は、(主人公)が命を賭けて救い出そうとした(王女様)は…幽閉中、親身になって接してくれた(敵将)にすっかり心を移していた…。
あるゲーム…RPGのエピソードだけど、この文章を見ている人にはこの(王女様)とか(主人公)とか(敵将)とかが誰なのかということは明らかなんじゃないかと思う。
金剛さんの話を聞いていると、金剛さんがこの(王女様)に対してマジでムカついているということがわかった。
「…で、こんなsituationを考えてみたのデスよ。」
場面:(王女様)、(主人公)、(敵将)を含む十人前後が集うプライベートな場。
状況:一人の女性キャラが、(王女様)の正面に向き合う。(この女性はゲームの中から適任と思われるキャラを選ぶ、必要ならこのためだけにオリジナルキャラを設定する。)
「で、(王女様)に向き合ったこの女性キャラが、(王女様)にこう言い放つのデス。」
「(王女様)、貴女が(主人公)を要らないと言われるのであれば、(主人公)は私が貰い受けます。」
「…とネ。」
「えーと…それって…。」
「(王女様)が構いませんと言ったら、命がけで自分を救出した(主人公)を『要らない』と言ったということになって…。」
「(王女様)がいけませんと言ったら、(主人公)と(敵将)の二股を掛けようとでも言うんですかと言われる…。」
「Yes,そういうことになりマス。応じても拒んでも、(王女様)の立場は悪くなりマス。」
「あ、でも(主人公)について『要る』とか『要らない』とか『あげる』とか『もらう』とか言う表現は、ちょっとアレなんじゃ?」
「この状況で女性キャラが(王女様)の
「実際この言い方はかなりアレな言い方デスが、この状況でそのことをこの女性キャラに指摘できるのは正面に立たれた(王女様)だけデス。」
「それで(王女様)が、要るとか要らないとかいう言い方をするのは失礼すぎるとでも言おうものなら…。」
「むしろそれこそがこちらの狙い目デス。」
「え…と、言うと?」
「この女性キャラは、こう応ずるだけデス。」
「ならば(王女様)は、貴女を救うために命を賭けて戦い続けた(主人公)をどう思われているのですか。」
「…と、ネ。」
「ここで場面がprivateな場であることの効果が出てきマス。」
「officialな場…会議とか軍議とかの場なら、(主人公)は軍にとって、王国にとって必要であると言う答え方もできマスが、privateな場でそんな答え方は出来マセン。」
「一私人として、女として、人間として、(主人公)をどう思っているのかを答えなければなりマセン。」
「デスが…。」
「果たしてこの(王女様)に、マトモな答を返せるのデショウかね?」
「どう答えても、あるいは答えなくても、この(王女様)はその愚劣で浅薄な人間性を周囲の人間に曝け出してしまうと言うわけデス。」
「そしてこの女性キャラは(主人公)を連れ出し、そのまま結ばれて二人に関してはHappy end…デス。」
「ゲーム中で(王女様)は(王女様)として王国を、世界を救うためにそれなりに活躍して勝利を掴むことになるのデショウが。」
「国や世界を救うなんてことはあくまでも『仕事』であり『手段』であって『目的』ではないのデス。」
「(王女様)が(王女様)として王国を、世界を救うという『仕事』を成し遂げたとしても。」
「果たしてこの(王女様)は、幸せに生きるという『目的』を達することができるデショウか?」
「愚劣で浅薄な人間性を周囲の人間に晒して、私生活の上では多くの人から背を向けられるであろう(王女様)は?」
「マア(敵将)は(王女様)を愛し、支えてはくれるデショウが。」
「愛し、支えてくれる人が(敵将)しか居ない人生というのは、本当に幸せデショウか?」
「世界が救われて平和になっても、(王女様)を待っているのは、多くの人から背を向けられた、灰色の未来だけ。」
「灰色の人生を、(敵将)だけに縋って生きていくだけの人生。」
「それが、交わし合った想いを蔑ろにした女の末路。」
「…と、こんなシナリオを考えてみマシタ。」
「如何デショウか?」
「失礼を承知で言わせてもらいますけど…金剛さん、結構陰険なんですね。」
マジで失礼だとは思ったけど…金剛さんは微笑んで返してくれた。
「フフフ…悪魔の頭脳を持つ金剛、と呼んでクダサイ。」
「実際自分でも陰険で残酷なシナリオを考えたものだ、とは思うのデス。」
「でもこうして、自分の内に陰険で残酷な側面を見出すことは、意味のあることだとは思いマセンか。」
「NTRを見て腸が煮えくり返る奴はNTRを楽しめる素質がある。」
「こう言われると『違う!俺は寝取られなんて大嫌いだ!寝取られモノなんて全平行世界から駆逐されるべきだ!楽しむなんてあり得ないぜ!』と怒りを顕にする方も居られるようデスが。」
「『大嫌い』を『大嫌い』のままで楽しむことは、それほど悪いことではないと思いマス。」
「現にワタシは『大嫌い』な寝取られモノを『大嫌い』なまま楽しむことで…。」
「自分にとって許せないことは何なのかを理解し。」
「許せない事物に対して、いくらでも陰険・残酷になれる自分を見出しマシタ。」
「『大嫌い』を楽しむなんてことは、本来であれば確かに異常なことデス。」
「でもそんな異常な自分を認め、受け容れることは。」
「自分が決して正義と善を体現する、清らかな存在ではないと自覚することは、生きていく上で大きな意味があると思いマス。」
「人にも自分にも異常な側面があるのだと思えば、人に対して寛容にもなれマスし。」
「自分に陰険で残酷な側面があると自覚できれば、自分を律することもできマス。」
「自らの異常さを認め、受け容れ、理解し、自らを律することが出来る人間は…。」
「自らの清らかさ、正しさを疑わず、人を傷つけようとする自分を制することもしない人間とは違いマス。」
「自分を純愛モノのヒロインと思い込んで、彼氏を傷つけ切り捨てるような寝取られヒロインのような人間とは、ネ。」
「Ah,ついつい一人で話し込んでしまいマシタ。退屈じゃありマセンでしたか?」
「あ、いえいえ、実に興味深かったですし、参考にもなりましたよ。」
「そうデスか、それは良かった…。では、ワタシはそろそろ失礼しマス。…新作、楽しみにしていマスよ…Bye.」
そう言って金剛さんは「間宮」を後にした。
創作のヒントでも掴めればと思っていたけど、ヒントどころかストーリーの中核を得ることが出来てしまった。
さあ、金剛さんが提供してくれたこの素材、どう料理したものか…。
素直に例のゲームの二次創作という線で行くか。
それともエッセンスだけを抽出して、背景や人物は一から設定するか。
(王女様)の具体的な「対応」をどうするか…まあ何を言わせても破滅は免れないだろうけど…。
破滅を回避するような台詞はあり得るかな?ま、これも検討要ね…。
…それより、これって実質殆ど金剛さんのアイディアよね…本には金剛さんの名前出した方が良いかな…。
いずれにせよ、本は一冊進呈しなきゃ、だよね。
それよりまずは、具体的なストーリーを構成しないとね…。