「森谷教授、恐れ入りますが皆さんでギャラリーにもう一度入らせて頂けますでしょうか」
杉下は新一からの電話を切ると早速森谷に要請する。
「…あぁ、良いですよ。その前に少々書斎に寄ってもよろしいでしょうか?」
「勿論構いません」
そうして森谷は一同をギャラリーに案内する道中、書斎に寄って机の上に置いていたライターを手に取り戻ってきた。
「お待たせしました。どうぞ」
***
ギャラリーに到着し扉を空けた森谷は、布をかぶせていたギャラリーの展示物がむき出しになっている事に気づき、静かに驚愕する。
その様子を後ろで見ていた杉下の携帯がまた鳴った。
「もしもし」
『工藤です。準備は整いましたか』
「ええ。今スピーカーで出します」
杉下はそう言うと携帯を操作し、一同に新一の声が聞こえるようにした。
『僕達は、今回の事件の放火犯と爆弾犯の正体に辿り着くことが出来たんです』
「本当かね!?それで犯人は」
「ちょーっと待った!俺にも分かったぜ!!」
新一が真相を話し出そうとしたのを、小五郎が声を上げ遮った。
「え!?」
「犯人は…あんただ白鳥刑事!!」
「な、何を!?」
「森谷教授の父親を尊敬していたあんたは、その死に疑問を持ち直後に脚光を浴び始めた森谷教授を疑い始めた。もしかしたら火をつけて殺したんじゃないかってな!」
一同が驚きに包まれている中、小五郎は自身の推理を続けていく。
「そう決めつけたあんたは森谷教授の設計した建物に次々と放火した。父親への尊敬の念が、森谷教授への恨みにすり替わったんだ。しかもあんた!!爆弾犯からの電話の時は、いつもその場に居なかったよな!?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
「おう新一、杉下警部!二人もそう言いたいんでしょう!!」
『違います』
「違いますねぇ」
「はぇ!?」
二人にすげなく否定された小五郎は、脱力しその場に崩れ落ちてしまった。
『犯人は、森谷教授に恨みを持つ者の犯行ではありません』
「放火された四軒、そして狙われた隅田運河の石橋の設計者…そう
森谷教授、あなたですよ」
「何ぃ!?」
「ちょっと待てぃ!どこに自分の作品を破壊しようとする建築家がいる!!!」
「それが、もしどうしてもこの世から消し去りたかったとしたら?」
「…え?」
『幼いころから建築家として父親の才能を受け継いだ森谷教授は、30代という異例の若さで建築界にデビューした。そしてその後も数多くの建築を手掛けてきた森谷教授はある時、いや以前から思っていたのかも知れませんが、若い頃の作品を抹殺したくなった』
「森谷教授。確か、以前雑誌のインタビューでこのように仰っていませんでしたか?『今の若い建築家は美意識に欠けている。もっと自分の作品に責任を持たなくてはならない』と…」
『つまり、その発言を実行に移したんです』
「そういや前もそんな事…」
小五郎は、パーティーの時の事を思い返す。
『さて、皆さん。壁に飾られた写真をご覧になってみてください』
「放火された四軒と橋、どれも英国古典建築の様式ですが…何かおかしい所がないでしょうか」
二人に促され一同は壁の写真に目をやる。
「どれも見事な建築だと思うが…」
「…あっ!完全なシンメトリーになっていない!!」
建築に詳しい白鳥が本来森谷の信条であるはずの左右対称シンメトリーになっていない事に気づいた。
「そう、若い頃の作品はどれも微妙に左右対称となっていないんですよ。依頼主の都合か、はたまた建築基準法の関係か…どうしても妥協せざるを得なかったのでしょう。それは森谷教授、あなたにとって我慢ならない事だったのではありませんか?」
『…時を同じくして、長く続いた順風満帆の建築家人生に初めて陰が差した。長い時間をかけて完成した西多摩市の新しい街づくりの計画が、市長の逮捕によって白紙になってしまったんです』
「勝手ながら、街づくりの計画については冠城君に調べてもらいました」
「…提案チームの責任者が森谷教授、あなただったと、当時の市の担当者の方にお話を聞く事が出来ました。かなりの剣幕で担当者に詰め寄っていたそうですね。『折角の計画、何故白紙にしなければならないのか』と」
杉下に話を振られた冠城は、自身が調べた事を説明する。
『教授は俺に挑戦し高校生探偵の名を汚す事で復讐を果たし、同時にもう一つの目的である四軒への放火と橋の爆破をカムフラージュしようとしたんです』
「そして、あの二件目の爆弾…タイマーを止めた理由は、児童公園のガス灯ですね?あの公園は西多摩市に丁度入った所にありました」
『あれは西多摩市の新しいシンボルになるはずだったもの…壊したくなかったんですよ。こよなく愛するロンドンのそれに似せて作ったあのガス灯を!違いますか!』
「最初から不思議に思っていました。これほどまでに計画性のある犯人が、途中でタイマーが止まってしまうようなお粗末な爆弾を果たして用意するでしょうか。他の作品は全て破壊しようとしたのに、ガス灯だけは破壊しなかった…その点からも森谷教授に恨みを持つ者の犯行とは思えませんでした。墓穴を掘られましたねぇ…いかがでしょう。我々の推理は」
「…ふっふっふ」
二人の追及に、森谷は怪しい笑いを浮かべる。
「…素晴らしい推理だ。しかし残念だが、君達の推理には証拠がない」
『証拠ならありますよ。模型ケースの裏に』
新一の言葉に白鳥が調べてみると、そこにはサングラスとつけ髭付きのカツラが置かれていた。
「…これは、爆弾犯の変装道具!」
「馬鹿な!それは書斎の金庫に!」
「そっかー、ホントは金庫の中に隠してあるんだね!」
そこにコナンが無邪気な声を上げながら入ってくる。
「このサングラスは僕の眼鏡に水性ペンで黒く塗ったもの、カツラと髭は書斎にあった兜の飾り毛を切ってテープで繋げたんだ。これみーんな新一兄ちゃんのアイデアだよ!」
「な…」
上手く嵌められたと気づいた森谷は、あまりの事に絶句してしまう。
「…森谷教授、署までご同行を」
白鳥と伊丹達が森谷を逮捕しようと近づく。
すると森谷は一歩引き、懐からライターを取り出した。
「動くな!動くとこの屋敷に仕掛けた爆弾を爆発させる!」
「な!!」
「爆発しないよ?」
森谷の脅しに固まる一同だったが、コナンがそれを否定する。
「だってその起爆装置…電池が無いもん!」
コナンはポケットから先に抜き取っておいた電池を見せる。
森谷は慌てて確認するが、確かに電池が空になっていた。
「いつの間に…何故これが起爆装置だと分かった!!」
「だっておじさん、パイプに火をつけるのもマッチを使っていたんだもん。ライターなんて使うはずないでしょ?」
「…!!!」
「なるほど、歩美ちゃんが言っていた甘い匂いとは、パイプの事だったんですねぇ」
爆発の心配が無くなったと分かり、目暮の指示で白鳥と伊丹が森谷を取り囲む。
「…ったく、ビビらせやがって」
「森谷帝二、爆発物取締法、建造物放火、その他諸々の容疑で逮捕する!」
そして遂に、連続爆弾犯、森谷帝二に手錠がかけられたのだった。
「よーっし、これで事件は丸っと解決!めでたしめでたし!」
「めでたしじゃないですよ毛利さん!酷いじゃありませんか人を犯人呼ばわりしてぇ!」
「いやぁ申し訳ない!猿も木から落ちるってやつっすなぁ!ナハハハハハ!!」
喜びの声をあげる小五郎に白鳥が文句を言うが、小五郎はお気楽な様子で笑い声をあげた。
杉下は既に通話が終了されている電話をポケットに直すと、俯く森谷に近づく。
「…芸術家は、自分の作品に責任を持たなければならない。確かにあなたの仰ることには一理あるでしょう。しかし、だからといって決して犯罪を、ましてや多くの人を危険に晒して良いわけではありません!」
「…」
「残念ながら四軒に関しては間に合いませんでしたが、消し去ろうとした石橋も無事となりました。これで、あなたの狂った計画も…」
と、杉下は何かに気づき言葉を止める。
(何でしょう…この嫌な感覚は。何か重大な見落としをしているような…しかし、森谷教授が消し去ろうとした古い作品はこれで…はっ!)
ある事に気づき、杉下は壁にかかっている一枚の写真へ振り向く。
放火された四軒と橋の横に飾られた『大きなビル』の写真。
「…僕とした事が!」
「ふっふっふ…気づいたかね?私が消し去りたかったものはもう一つあるんだ…」
「…これは米花シティビル!まさかこれも完全なシンメトリーでは無いのですね!?」
「バブルの崩壊で建築予算が足りなくなるという馬鹿馬鹿しい理由の為にね!私の最大にして最低の作品だ!さて…10時まで後1分…」
***
米花シティビル内映画館、米花シネマ1。
ここでは今「赤い糸の伝説」という恋愛映画がオールナイト上映されていた。
プルルルル…
「…あれ?コナン君?どうしたのかしら…」
今夜ここで明日誕生日という新一を祝うため待ち合わせをしていた蘭の携帯にコナンから電話が入る。
「…もしもしコナン君?どうかした?」
『蘭姉ちゃん!!今すぐそこから逃げて!!!』
「え…」
その瞬間。
突然爆発が起き、辺りを轟音と爆風が襲った。
「きゃあああああああああ!!!!!」
***
「蘭姉ちゃん!もしもし!!蘭姉ちゃん!!!」
「貸せ!おい蘭!!どうした返事をしろ!!!」
「コナン君!蘭さんが米花シティビルにいるんですか!?」
「うん!新一兄ちゃんが明日誕生日だからお祝いするんだって、映画の約束をしてて…その事森谷教授にもパーティーで話していたんだ!!」
「何ですって!?」
コナンに事情を聞いた杉下は驚愕する。
(なるほど…その時丁度良いと判断したのですね…これが彼の奥の手…!)
「…くっそぉ!!てめぇ!蘭をどうする気だ!!!」
蘭の携帯に繋がらなくなってしまい、小五郎は怒りの余り森谷の襟に掴みかかる。
「まだあそこのロビーの出入口と非常口を塞いだだけだ…お楽しみはこれからだよ…おい工藤!どうせどこかで聞いているんだろ!早くしないと大事なガールフレンドがバラバラになってしまうぞ?」
「てめぇ!許さねぇ!!!」
「待て待て毛利君!暴力はいかん!!」
小五郎は怒りに任せて森谷を振り離し、殴りかかろうとするが、目暮達が止めに入る。
その拍子に森谷の懐から何かの紙が覗き出た。
「あれは!」
「何をする小僧!!」
コナンが素早く飛び掛かって紙を抜き取ろうとする。
森谷は振り払い抵抗するが、コナンは構わず紙を抜き取った。
広げてみるとそれは爆弾の配線図のようだった。
「これは…爆弾の配線図!」
「新一兄ちゃんに渡してくる!」
「待ちなさい!今爆弾処理班を出動させるから!」
目暮は先に行こうとするコナンを呼び止めるが、その時遠くからまた轟音が聞こえてきた。
外を見てみると、米花シティビルから炎が上がっているのが分かった。
(爆弾処理班なんて、待ってられるかよ!!)
「待てぃ!」
コナンは急いで蘭の元へ向かおうとするが、森谷に呼び止められる。
「工藤に会ったらこう言っておけ。お前の為に3分間作ってやった、じっくり味わえってなぁ!」
森谷の意味深な発言にコナンは少し戸惑った様子を見せるが、すぐさま気を取り直し走って部屋を出て行った。
「待ちなさい!白鳥君、伊丹君!森谷教授を頼んだぞ!」
「はい!」
「冠城君、我々も急ぎましょう!」
「ええ!」
森谷の身柄を白鳥達に任せ、杉下と冠城、目暮と小五郎もコナンの後を追った。
(…ふっ。解除出来るものならしてみるが良い…出来るものならな…)
その姿を見送った森谷は、自らに絶対の自信があるのか一人不敵な笑みを浮かべたのだった。
森谷「建築王の御前であるぞ。3分間待ってやる」
とか思ってしまった過去がある餌屋です。
さて、遂にクライマックスです。
次回もよろしくお願いいたします。
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