※9/19、誤字修正。報告ありがとうございました。
2-1「新たな出会い」
東京地裁。
この日、特命係の二人は以前関係した経産省・機密情報漏洩事件の再審裁判を傍聴していた。
「良かったですね。無事、無罪になって」
「ええ。真犯人が全てを自供している以上、検察側も有罪を言い張るなど出来るはずがありませんしねぇ」
裁判も終わり、無事被告人に無罪判決が言い渡されたのを見届け、杉下と冠城の二人は帰路に就こうと廊下に出た。
「あれ?杉下さんに冠城君。お二人もいらっしゃっていたんですね」
その背中に声がかかる。
振り向くと、そこには今回の裁判で弁護人を務めた倉田映子がいた。
「おや、倉田さん。お疲れさまでした」
「これで一件落着、かな?」
「ええ。彼女には辛い思いをさせてしまったけど…ようやく償いが出来たと思うわ」
倉田映子。
元東京地検の検事で、冠城の法務省時代の同期だった。
以前とある事件で自分が犯した不法行為を特命係に暴かれてから、責任を取る形で検事を辞め弁護士に転職。
その後、検事時代に担当した今回の事件の真犯人が判明し、今度は弁護士の立場として関わっていた。
「そういえば事務所の方は大丈夫?今回の事件、弱みになるだろうって言ってたけど」
「ああ…確かに足を引っ張ろうとする動きはあったけど、事務所の上の方が守ってくださっていてね」
「それは何よりですねぇ」
「『自分の検事時代の失態を見逃さず、真実を追求して無実の人間を救った女』って逆に美談にしようとしていてね…私としては複雑なのだけど」
「まあ…良いんじゃない?仕事続けられているんだし…」
倉田は微妙そうな顔をするが、冠城は苦笑いしながらフォローを入れる。
と、そこに更に声がかかった。
「…あら?倉田さん?」
「はい…あぁ、妃先生!ご無沙汰しています」
声がかかった方を向くと長身の美女がこちらに歩いてきていた。
「まさかこんな所で会えるとはね。今日って、例の再審裁判かしら?」
「ええ、無事終わりました」
「そう!それは良かった。ところでこちらの方は?」
「こちらは警視庁特命係の杉下さんと冠城さん。今回の事件で助けて頂きまして」
「あなた方が特命係の…初めまして、妃と申します」
倉田に紹介された二人は頭を下げて挨拶する。
「こちらは妃英理先生。弁護士をなさっていて、私が検事を辞めて弁護士になる時に相談に乗って頂いた事がありまして…」
「あぁ、知ってます!無敗記録更新中の敏腕弁護士さんだとか。ついたあだ名が『法曹界のクイーン』でしたっけ?」
「あらやだ、勘弁してください!勝手に周りがそう呼んでるだけですよ」
冠城にあだ名を呼ばれて英理は苦笑いを浮かべる。
その隣で倉田が時計に目をやった。
「あ、そろそろ私事務所に戻らなければならないのでこれで…」
「じゃあ、また機会があれば」
「お疲れさまでした」
「またね」
「すみません、それでは」
挨拶を済ませ倉田は小走りで地裁から出て行った。
倉田を見送った英理は二人に向き直ると頭を下げる。
「そういえば、お二人には先日娘がお世話になったそうで…」
「娘さん、ですか?」
「毛利蘭、覚えてらっしゃいますか?実は私の娘なんです」
「おや、そうでしたか!という事は毛利さんは…」
「ええ、私の夫です。といっても今は別居中なんですけれど」
「そうでしたか。苗字が違うので気づきもしませんでした」
「戸籍上は変わっていないのですけどね。普段は旧姓の妃を名乗っているんです」
「それでは、妃さんにとってはご不安な事もあるでしょう。毛利さんと蘭さんと今はコナン君しかいないのですから」
「実はそうなんです。ホント、あのへっぽこ探偵に娘を任せて良いのやら…」
「ハハハ…」
杉下としてはあくまで一人で家を離れている英理の心情を察しただけだったのだが、英理の小五郎に対しての言い草に杉下と冠城は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「あの人の事は置いておいて…先日の爆弾事件では大変お世話になったとお伺いしました。本当にありがとうございました」
「いえいえ、蘭さんが無事で何よりでした」
「既にご存じだったんですね」
「先日、あの人たちと食事をした時に娘から…」
「おや毛利さんとお食事をされたのですか。仲がよろしいんですね?」
「いえ…娘が仲を取り持とうと良く計画するんです。無下にするのも悪くて」
「そうですか。良い娘さんですねぇ」
「それに…」
「?それに、なんです?」
「あぁ、いえ。大したことではないので…」
英理は何かを言いかけるが、少し頬を染めながら笑ってごまかす。
その時、地裁の館内放送で時間を知らせるチャイムが鳴った。
「あ、私もそろそろいかないと…お呼び止めしてすみませんでした」
「とんでもない。お会いできて良かったです」
「また何かありましたら」
改めて二人に頭を下げると英理は地裁の奥へ進んでいった。
「いや~、綺麗な方ですね。あんな美人な方と別居だなんて、何があったんでしょう?」
「まあ、蘭さんの仲立ちがあるとはいえ食事を一緒にされているようですし、そこまで悪い関係ではなさそうですがねぇ」
そうして英理を見送った二人は、改めて帰路へつくのだった。
***
翌日朝、特命係。
今日も相変わらず、二人は暇を持て余していた。
正確には、暇にならざるを得ない状況だった。
「やれやれ…工藤君から聞いた組織の男、テキーラでしたっけ?そいつが犠牲になったっていうこの間の爆弾事件の資料を見ても、結局何も手掛かりなかったし…やっぱ誰にも怪しまれないように調べるには限界がありますね…」
「ええ…例のジェットコースター殺人事件の資料も特に情報はありませんでしたし…」
先日、コナンより黒の組織の人間と遭遇した一件について聞いた二人は、何か情報が無いかとあくまで興味本位として警察の資料を調べてみた。
しかし結果は芳しくなく、何か特別有力な情報がある訳ではなかったのだった。
「これ以上調べようとするとどうしても何かしら理由が必要になりますね…」
「ええ。ジェットコースター殺人事件の資料から、工藤君を襲った二人、ジンとウォッカの存在が載っていなかった事からも、組織の人間が裏から手を回したと見てまず間違いないでしょう。恐らく…警察内部にスパイが混ざっています」
「爆弾事件も上から捜査終了のお達しが出て、結局被害者の正体は分からずじまいって目暮班の人たちが不満そうに言っていました」
「やはり下手に動くと危険ですねぇ…次に工藤君から新しい情報が届くまで、動くのは控えた方が良いでしょうね」
「ですね…」
手詰まりとなり残念そうにする二人。
そこに角田課長が血相を変えて飛び込んできた。
「…おい!二人とも聞いたか!」
「課長?何かあったんです?」
「一課の目暮が、ジョギング中にボウガンで撃たれたらしい!!緑台の警察病院に運び込まれたそうだ!!」
「…何ですって!?」
突然の凶報に二人の顔がこわばる。
「取りあえず命に別条は無いらしいが、一課の連中ぶちぎれてるみてぇでな。絶対に犯人を捕まえてやるって息まいているらしい」
「目暮警部が…一体何があったんですかね」
「…僕達も行ってみましょう!」
***
『…それで?組織の人間が関わった事件を調べている警察官というのは?』
とあるオフィス。そこで一人の男が電話で誰かと話をしていた。
「はい。警視庁・特命係の杉下右京警部と冠城亘巡査です」
『特命係?確か彼らは…』
「はい、何度か『出店』関連や前管理官の件で我々と遭遇していますね。まあ、我々といっても部署は全然違いますが…」
『なるほど…彼らが動き出すとは困った事になったな』
「ええ…今はまだ殆ど動きはありません。何件か捜査資料を閲覧した程度なので。ただこちらの邪魔になるようなら何らかの強硬手段を取って排除する必要もあるかと…」
『いや、こちらの事情もあるが、むしろ彼らが奴らの標的になりかねない事が不安だ。要らない犠牲はなるべく避けたいからな』
「はあ…」
『俺が言うのもなんだが、正直『出店』のやり方は不愉快だったし失態を犯したのは奴らだ。別に気にしてはいない。それに噂に聞く杉下右京の性格なら俺たちのやり方に不満を持つのは当然だからな』
「しかし、このまま放っておくわけにも行きませんが…」
『分かっている。ただ今は軽い監視で構わない。現時点では人員を割く訳にもいかないしな。盗聴器も今は無しだ。何か大きく動きがあればまた報告しろ。彼らについての方針はその都度伝える』
「分かりました」
『注意しろ。特命係を甘く見ていると軽い監視でも気づかれる可能性があるからな』
「了解しました、降谷さん」
第1話でした。
自然に英理と面識を作るために(メタ)相棒シリーズより倉田映子さんにゲスト出演して頂きました。
彼女の話は、割と好きですね。相棒らしいというかなんというか。
2回目の出演は彼女の名誉回復な面もあったのでしょうが、良い話な相棒って感じでこちらも好きですね。
無事2回目の出演の際の事件にちゃんとケリついたんだよ的な事を書きたかったので再審裁判終了の描写からスタートしました。
さて、今回から「標的」シリーズがスタートしましたが、これ以降多少コナン原作から変える展開が出てくるかと思います。
また時系列もコナン原作から少々変わる事があるかと思います。
…まあぶっちゃけると劇場版とテレビ、漫画時系列の順番がはっきりと分かんないからなのですが笑
あらかじめご了承ください。
それでは、また次回。
僕はイカになって筆を振り回しながらナワバリバトルしてきます。
TwitterID @esaya_syosetu