その後、奈々が仁科のグルメエッセイが当てにならなかったと文句をつけ、土産に持ってきたワインの銘柄当てを仕掛けるというトラブルが起きた。
なお結果は奈々の思惑通り。仁科はまんまと外してしまい、代わりに沢木が正解を当てた。
場の雰囲気が悪くなる中、目暮は皆に村上と関係があるかどうかと、今回集まった事情を聞く。
実際に村上と関係があったのは、仁科と宍戸のみ。
二人とも、過去に仕事の関係で犯罪者として村上を取材した事があっただけだった。
問題は、アクアクリスタルにやってきた理由。
「…皆さん、旭さんの秘書から連絡を?」
どうやら皆、旭の秘書を名乗る人物から『一度会ってからすっかりファンになったので、是非オープン前に招待したい』と連絡を受けたとの事だった。
「桝山さん、あなたも同じですか」
「あぁ、いや。私は旭君に直接呼ばれて来たんだよ。オープン前にレストランで食事でもどうかって」
「ほう。旭さんとは親しくされているのですか?」
桝山が他のメンバーとは違う理由を話した事に興味を持った杉下が更に問いかける。
「経済連だったかなにかのパーティで一度話をしてから、経営者同士気が合ってね」
「ちなみに、旭さんからお声がかかったのはいつでしょう?」
「えー確か…2日前だったかな?」
「なるほど、2日前ですか…皆さんも2日前に連絡が?」
杉下の問いに皆がうなずく。
(2日前というと、ちょうど目暮警部が襲われた日ですねぇ…その頃はまだ旭さんは生きておられた)
「あ、そうそう。あたしはプレゼント貰っちゃったのよねー!このマニキュア、フランス製ですっげえ高いんだー」
そう言って奈々はカバンからマニキュアを取り出し皆に見せびらかす。
「…ん?なんだよ奈々ちゃんその落書き」
「じゃーん、見てみて可愛いでしょ」
「何だそりゃ、狸か?」
「何言ってんのよ、猫よ猫」
そのマニキュアでワインのコルクに猫の落書きを描く奈々を宍戸がからかう。モデルとカメラマンという立場から、普段から親しいようだった。
「…ン?沢木サン、アナタ宛ノ手紙デス」
そんな時、フォードが床に沢木宛の手紙が落ちている事に気づく。
旭より、遅れるかもしれないからワインセラーに皆を案内するようにとの手紙だった。
***
ワインセラー。
旭からの手紙に従い、一同はワインセラーを覗きに来ていた。
(おや、この部屋…少々暖かいような…)
杉下が部屋の温度に違和感を覚えていると横で沢木が、涼しいと漏らす蘭に解説していた。
「本来ワインは10℃~14℃くらいが理想的なんですが、ここは17℃と高すぎますね」
(…ワインのコレクターが部屋の温度設定を間違えていると?この部屋には希少ワインが山ほどあるというのに、妙ですねぇ…)
頭に引っかかるものを感じて思案していた杉下。
その時。
「危ない!!」
「うわっ!!」
奥の方に進んだコナンと沢木が叫び声を上げた。
急いで皆が向かうと、そこにはブービートラップが仕掛けられておりワイン樽の陰に隠されたボウガンから矢が発射されていた。
そして、ボウガンの横にはトランプが1枚。
「…スペードの8ですね。これは沢木さんを狙ったもので間違いないでしょう」
「ならあの置き手紙は沢木さんを誘き出すために村上が?」
「しかし何で9が飛んで8が…まさか!」
「…もう旭さんは襲われている。そう考えるのが妥当でしょうね」
杉下の指摘に愕然とする一同。
「警部殿、一度この建物から避難しましょう」
「うむ、そうだな」
これ以上危険な場所にいてはならないと考えた目暮達は、外へ逃げる為入り口前のレストランへ戻る事にした。
しかし。
レストランに戻ってきた一同の目に飛び込んできたのは。
「キャアアアアアアアアア!!!」
「!!」
海の中を漂う息絶えた旭の姿だった。
その胸にはスペードの9のトランプ。
「旭さん!」
「スペードの9!やはり村上の仕業か!」
「…警部!出入口のドアが、電子ロックされていて開きません!」
「何!?」
その後電話も圏外で繋がらず、施設内の固定電話も使用不能な事が分かり、あげくの果てに非常口も塞がれている事が判明。
完全に、アクアクリスタル内に閉じ込められてしまったのだった。
***
最悪の状況下に、一同の雰囲気は地に落ちていた。
「結局、村上が順番を変えていなかったって事はだ。次に狙われるのは奈々ちゃん、君って事になるな」
「そうだな。旭君の9、沢木さんの8と来ている…次は7と考えるのが自然だろう」
「や、やめてよ!何でそんな名前も知らない男に狙われないといけないのよ!」
冷静に状況を見ている様子の宍戸と桝山が奈々に警告する。
それに対し関係ないと反論する奈々だったが、コナンがそれに疑問を投げかけた。
「でも気になる事あるんでしょ?」
「え?」
「だってさっき、村上って人の出所した時期をわざわざ確認してたじゃない」
「それは…だから気のせいだったって言ったじゃない」
コナンの指摘に目に見えてうろたえる奈々。
「…関係ないかどうかは我々が判断します。話してください」
強い口調で奈々を諭す目暮。
隠しきれないと悟った奈々はポツポツと喋りだした。
3か月前。
夜道をいつものように猛スピードで走っていた奈々は、赤信号に気づき急ブレーキをかけて止まろうとした。
スピードの出し過ぎで停止線を大きく超えた奈々は交差点の真ん中で何とか停止。
しかし、丁度その時青信号で直進してきたバイクがいた。
バイクは奈々を避けようと大きく動き、そのまま転倒。
接触は無かったのだが、奈々は怖くなりその場を逃げたのだった。
「…バイクの型は?オフロードじゃなかった?」
「ううん。普通のバイクだった…」
コナンは阿笠襲撃の際に使われたバイクがオフロードだった事から奈々に確認するが、当てが外れる。
目暮達は今回の事件とはやはり関係ないと見たが、杉下はどうしても気になってしまった。
(奈々さんのバイク事故…本当に関係が無いのでしょうか。確かに村上の犯行ならば全く関係がないでしょうが…もしその事故が奈々さんが狙われる理由になるならば、一体…)
「警部、脱出する方法を探しましょう!」
「そうだな、いつまでもここにいては危険だ」
小五郎の提案に、目暮達と男性陣は手分けして館内を探索する事にする。
蘭とコナン、そして次に狙われる可能性の高い奈々はホールに待機する事になった。
***
杉下は館内を一通り見て回った後、ある場所を目指した。
(旭さんの書斎に行けば、何か分かるかもしれませんね…)
と、その道中桝山とすれ違う。
「む?杉下君だったかな。何故こちらへ?」
「おや、桝山さん。ああ、こちらが桝山さんの担当方面でしたね」
「ああ。この先に旭君の書斎があったが、外に出れそうな場所はどこにも無かったよ」
「おやおやそうでしたか。それは残念ですねぇ」
桝山と言葉を交わす杉下。
すると突然。
「!?」
館内の照明が全て落ちてしまった。
「な、なんだねこれは!」
「停電でしょうか…っ!いけません!奈々さんが危ない!」
桝山が喫煙用のライターを取り出し明かりを灯す。
それを頼りに二人はレストランへ戻る事にした。
「アアアアアアアアアア!!!!」
「この叫び声は!!」
「奈々さんです!」
尋常ではない奈々の悲鳴に、緊張が走る二人。
そして。
道中明かりが戻りホールに辿り着いた時には、
背中にナイフを刺され、既に奈々は息絶えてしまっていた。
***
「背中をナイフで一突きか…」
「この様子では心臓まで達していそうですねぇ。相当の力で刺したようです」
「しかし一体あの暗闇でどうやって…」
「マニキュアだよ。暗闇の中で奈々さんの爪だけ光ってたんだ」
「なるほど…蛍光塗料が仕込まれていたようですね」
「そうか!奴はそれを目印にして!」
目暮と杉下、そしてコナンは奈々の遺体を検死していく。
そしてコナンが目撃したマニキュアの仕掛けにより、これも犯人の計画の内である事が証明された。
「警部殿!」
そこに村上を探しにいった小五郎と白鳥が帰ってくる。
「ダメです。村上はどこにもいません」
「そんな馬鹿な!」
「きっとどこかに潜んでいるんじゃねえのか!?」
一同が村上の所在について話しているのを眺めつつ、コナンと杉下が考えを話し合う。
「…どう思います?杉下警部」
「村上の犯行だとしたら準備が良すぎますねぇ」
「仕込みマニキュア、ワインセラーのブービートラップ…準備が出来過ぎていますよね」
「えぇ…ん?これは…」
と杉下が奈々の背中に跡がついているのに気づく。
それは左手で強く奈々に掴みかかった跡だった。
「左手の跡、という事はナイフを持っていたのは右。犯人は右利きですか…
…右利き?」
「…っ!杉下警部!確か村上の利き手は!!」
「…左利きです。コナン君、阿笠博士が襲われた時、犯人はどちらの手にボウガンを持っていましたか」
「確か…右手だ!!」
「…僕としたことが。今になって気づくとは…しかしどうやら我々の推理は正解のようですねぇ」
「ええ。犯人は村上丈じゃない…
この中にいるって事ですね」
7話でした。
駆け足で進んでやっとここまで来ました。
実は後3話程の予定だったりします。
そして毎日更新レベルじゃないと間に合わない事に気づいたので明日も朝7時に更新です。
頑張れ俺。唸れ脳内。走れ筆。
それでは次回もよろしくお願いします。
TwitterID @esaya_syosetu