「江戸川コナンです!」
そう言って、コナンは笑顔で杉下と冠城に自己紹介した。
「そうですか、君が噂のコナン君でしたか」
「へ?噂?」
「目暮班の人が言ってたよ。小学生ながら頭が良くて、面白い事に気づくって」
冠城がコナンの前に目線を合わせてしゃがみ込み、噂の内容を話す。
「いやぁ~、コイツガキの癖に変な事ばっか知ってるんすよ~ガハハハ!」
小五郎がそう笑いながら言うと、コナンはまた「ガキは余計だ」と言いたげに白い眼を向ける。
「ところで、お父様はどちらに?」
部屋に主人の黒川大造がいない事に気づいた杉下が大介に尋ねる。
「あぁ、何でも仕事が片付いてないとかで朝から部屋に籠りっぱなしなんですよ」
「全く、自分で呼んでおいてだらしがないったらありゃしない」
あきれ返る大介と三奈に苦笑いを浮かべるしかない一同。
「やはり、黒川医院の院長ともなるとお忙しいんでしょうねえ」
「いやいや、親父はアル中かって位酒が大好きでねえ。どうせ大した量もないのにずっと放ったらかしにしていただけでしょう」
「どうせ今日もあの人、仕事しながら昼間からお酒でも呑んでいるんでしょう?ねえ、真那美さん?」
三奈が真那美に問いかけると、真那美は困った笑みを浮かべた。
「え、えぇ…実はお昼を召し上がった後ウイスキーをご所望になられて…」
「おやおや、大造氏はそこまでお酒好きでしたか」
「ええ、ちょっと前も大事な手術だってのに酒で酔っぱらったまま「大介さん!!!」…っとこの話は余計でしたな。はっはっは」
大介の口から漏れかけた爆弾発言を三奈が焦ったように遮る。
「さ、さてと!真那美さん、食事の準備は済んでるんだろ?そろそろ親父を呼んできてくれないか?」
「は、はい。かしこまりました」
発言に耳を疑う一同を見て、大介は取り繕うように笑いながら真那美に指示を出す。
真那美は一礼すると、黒川大造を呼びに部屋を出て行った。
「さ!親父が来るまで事件のお話を聞かせてくださいよ毛利さん!」
「え、えぇ…それは勿論」
少々引き気味の小五郎であったが、気を取り直して大介と話し始める。
その様子を眺めつつ手近な所に座ろうと杉下に、隣に座った冠城が小声で話しかけてきた。
「右京さん、さっきの酔ったまま手術って」
「えぇ、当時週刊フォトスに掲載されて話題になった例の噂の事でしょう」
「あれってやっぱり本当だったんですね…あの『黒川大造』の黒い噂って」
二人の脳内には一年前、話題になったある記事が蘇っていた。
「一年前、黒川医院で当時院長だった黒川大造氏の心臓外科手術が失敗。しかし遺族が『黒川大造が酒に酔ったまま手術を行った事による医療ミスの疑いがある』とフォトスに話を持ち込んだ」
「しかし黒川大造を始めとして、病院関係者が揃って噂を否定…フォトスもそれ以上の情報が無かったのか、続報は無かったですよね」
「その頃からです。黒川大造氏の政財界との太いパイプと黒い噂が一部で囁かれるようになったのは。そういえば今日はその患者の方が死亡して丁度一年でしたね」
「噂は本当だったか…どうします右京さん」
「本当だとすれば、極めて重大な事件です。とにかく一度大造氏に話を聞いてみましょう」
その時。
「キャァァァァァァァァァ!!!!!」
「何だ!?」
突然屋敷に響き渡った叫び声に広間にいた全員が驚き立ち上がる。
「上です!!」
杉下が声がした方を指摘すると小五郎と冠城、そしてコナンが即座に反応し部屋を飛び出していった。
三人に続いて杉下が先頭に他の皆も二階へ向かう。
階段を上がると部屋の前でへたり込んでいる真那美とそれを気遣いながらも部屋の中に視線をやる小五郎と冠城がいた。
杉下が部屋の中を覗くと、黒川大造が頭から血を流して床に倒れ死んでいた。
***
三十分後。
「なるほど。つまり黒川氏を呼びに来て部屋をノックしても返事が無い事を不審に思い、扉を開けると既にこの状態だったという訳ですな?」
「は、はい。間違いありません」
「その後、遺体には近寄っていますか?」
「い、いえ…一切。あまりの事に部屋の前で腰を抜かしてしまって…」
通報を受けやって来た警視庁捜査一課の目暮警部は、発見時の状況を整理して真那美に確かめた。
「…しかしまた何で君がおるんだね毛利君」
「いやぁ~こればっかりは私に言われましても…」
呆れた顔を見せる目暮に苦笑いを浮かべるしかない小五郎。
「しかもまさか杉下君達までいるとは思わなかったよ」
「ご無沙汰しております。目暮警部」
「先に言っておきますけど、今日は僕ら勝手に来たわけじゃないんで」
「食事会の参加者だと聞いたが?」
「はい、甲斐さんの代理でして」
「甲斐さんの?それはまた大変なようだね」
いつもは勝手に首を突っ込んでくる特命係だったが、今回は仕方ないんだと弁明する冠城。
「まあワシはあまり口うるさくは言わんが、スマンが面倒事だけは避けてくれ」
「それはもう」
「勿論です」
目暮としては特命係の事を認めているのだが、立場上釘を刺しておく。
ニッコリと笑みを浮かべて了承する二人に苦笑いを浮かべる目暮だった。
「それで警部殿、この状況は…」
話の間を見計らい、小五郎が事件の話を振る。
「うむ、恐らく黒川氏はお酒を呑みながらパソコンに向かっていた所を後ろからブロンズ像で殴られたと見て間違い無いだろう。殴られて倒れた拍子にキーボードに手をひっかけ倒れたといった所か」
「ええ、自分もそう思います」
「問題はこの画面に表示された『JUN』の三文字か…まあまずは今日の流れを整理するところからだ」
そう言って目暮は全員に向き直る。
「では皆さん、お一人ずつ今日の行動をお伺いします。まずは…」
***
目暮による簡易的な事情聴取が進む間、杉下は現場を一人見回っていた。
否、正確には杉下だけではなく、もう一人。
(このキーボードについた血…ん?)
杉下が目をやると、コナンが床についた血痕を眺めて思案している所だった。
(あの血痕…途中で途切れているような。なるほど、これで証拠も問題ないでしょう…しかし彼も同じところに目を付けた?)
(探偵ごっこ…にしては落ち着いて鑑識の方々の邪魔にならないように気を遣っているようですね。で無ければ今頃問答無用で現場から出ていかされているでしょう)
実際に、周りの警官や鑑識も「またこの子か」といった具合に呆れた様子ではあるが連れ出そうとは一切していない。
杉下はコナンの真剣な、まるで探偵のような事件を推理している雰囲気に、目を引かれ続けた。
(江戸川コナン…非常に興味深い子ですね…)
杉下がコナンへの興味を湧き立たせているとそこに冠城が近寄ってきた。
「右京さん。全員の話、聞き終わりました」
「どうもありがとう。それで、どうでした」
「死亡推定時刻は13時から18時の間。18時に毛利さん達が来てから誰も二階へ上がった様子が無いとの事です」
「つまり容疑者は黒川家の皆さんに絞られた訳ですね」
「ええ。ですが、その間全員一度は一人きりになって他は全員外出していたタイミングがあったようで全員アリバイが無いみたいでして…」
冠城は困ったように頭をかく。
「しっかしまさか黒川大造が殺されるとは…これで例の医療ミス事件も闇の中ですかねぇ」
「そんな事はありませんよ?大介さんも三奈さんも大造氏の医療ミスに関して真実を知りながらも口をつぐんでいたようです」
二人の脳内には先ほどの大介と三奈の慌てた様子が思い出されていた。
「確かに、あの様子じゃ全員反省もしていなさそうですしね」
「この件は、しっかりと追及する必要があるでしょう。僕には放っておくことなどできませんから」
「流石は、杉下右京」
杉下は正義を貫くいつもの真剣な眼を見せるが、冠城はどこか楽しそうな様子だった。
「ま、何にせよ。この事件を解決してからですか…しかし一体誰が犯人なのか…」
「大丈夫です。犯人は分かりました」
「本当ですか!?」
「はい、僕の推理が正しければ恐らく犯人は…」
「犯人は…?」
「…いえ、今は止めておきましょう」
思いもがけず肩透かしを食らった冠城は戸惑いの表情を浮かべる。
「えぇ!?そりゃ無いですよ。分かってるんだったら早く事件解決しちゃいましょうよ」
「いえ、少々あの有名な毛利さんの推理を一度聞いてみたくなりまして」
「まあそれは僕も気にはなりますけどそんな悠長な…」
(それに彼…一体何を見せてくれるのでしょうねえ)
杉下の目線の先には、ニヤリと笑みを浮かべるコナンの姿があった。
第2話でした。
時計仕掛け冒頭で解決編しか描かれていない事件なのですが、まあ詳細に書こうと思うと意外と大変な訳でして…
文章力もっと出てくれ。
あと1話だけプロローグが続くんじゃよ。
その後は時計仕掛け本編突入です。
※追記(8/15 12:33)
皆様沢山のUA、お気に入り、感想、評価、本当にありがとうございます。
プロット組んでいたのですが、どう考えても短編のくくりで収まりそうに無いなと思い直したので、小説カテゴリを短編から連載に変更しました。
急な変更で申し訳ありません。
後次回ですが明日予約投稿します。いつも通り朝9時更新です。
よろしくお願いいたします。