警視庁、刑事部長室。
「…何?目暮や杉下達と連絡が取れなくなっただと?」
内村刑事部長は、突然やってきた冠城、伊丹の報告に眉をひそめた。
「はい。事件のターゲットになる可能性の高い人物達とアクアクリスタルに入ってから一切連絡が取れなくなりました」
冠城が少し焦りを覚えながら内村に訴える。
既に2時間をゆうに経過し、一切連絡が付かなくなってしまった事を受け、二人は応援を要請する為に内村へ直談判しに来ていた。
「先行させた芹沢、出雲の報告によれば、唯一の出入口と思われるモノレールも操作不能に陥っているようです」
「つまり、入る事も出る事も不可能になっているのか」
「今回の犯人の仕業と考えて間違いありません。一刻を争います…内村部長。救出と犯人確保の為に応援をお願いします」
「俺からもお願いします。もし中に犯人がいれば、捕まえる絶好のチャンスです。お願いします!」
冠城と伊丹が内村に頭を下げる。
しかし二人の前に話を聞いていた中園参事官が割って入ってきた。
「ダメだダメだ!連絡がつかんだけで確証が無いのに捜査員を無闇矢鱈に動かす事ができるか!それに、もしその間に他の場所で村上が犯行を行えば、お前らどう責任を…」
「よし分かった!すぐ応援を送る!」
「…えぇ!?部長!?」
予想外の内村の発言に驚きの声を上げる中園。
「連絡が取れない場所に閉じ込められていて、なおかつ連続殺人未遂事件の犯人が潜んでいるかもしれないとなれば一大事。不正義を正し、急ぎ事件を解決せねばならん!」
「お待ちください!そんな簡単に動かしては…」
ピリリリリ…
中園がうろたえる中、伊丹に芹沢から連絡が入る。
「…ん?失礼。芹沢からです。もしもし…あぁ…何!?」
「伊丹どうした」
「アクアクリスタルで…次々に爆発が発生しているそうです」
「何だって!?」
伊丹の驚きの報告に、その場の一同に緊張が走る。
「…中園、急ぎ爆発物処理班とSATに出動要請だ」
「…え!?SATを動かすんですか!?」
「当たり前だろう!爆発が起きるなどどう考えても異常事態!それに犯人がいる可能性も非常に高くなった!制圧には必要だ!!」
「わ…分かりましたぁ!!」
事件は、更なる展開を迎えていた。
***
少し前。
アクアクリスタル、メインホール。
村上が犯人ではない確証を得た杉下とコナンだったが、未だ真犯人の見当が付かないでいた。
「しかし困りました。この中に奈々さんを殺害した犯人がいる事は分かっているのに、手掛かりが全くありません」
「…いえ、あるかもしれません」
「はいぃ?」
ふと何か思い出した様子のコナンは突然走り出す。
杉下が追いかけると、コナンは床に転がっているジュースの缶を調べていた。
「やっぱり…中身がこぼれてる。確か半分ほど残っていた筈だ」
「どういう事です?」
「停電が起きる前、色々あって床にジュースの缶を置いたままにしていたんですが、奈々さんが襲われた後缶が蹴られて飛んで行った音がしたんです」
「…なるほど。もしそうなら、犯人のズボンの裾にジュースがかかった跡が付いているかもしれませんねぇ」
二人は、一同の方に視線を向ける。
皆のズボンを見て回り、
一人、ズボンの裾が濡れている人がいた。
「…え、あの人が?」
「おやおや…少々意外ですねぇ」
「でも、一体どうして…待てよ」
「…また何か思い出しましたか?」
「はい。実はさっき厨房で…」
***
数分後。
「…とにかく、今は皆で固まって離れない方が良いでしょう。特に宍戸さん」
「分かってますよ。次は6、俺だって言いたいんでしょ」
犯人への警戒を強める一同に、コナンが人数分の水の入ったコップを持ってくる。
「はい、どうぞ」
「何だこれは」
「皆喉乾いたと思って…」
「お前なぁ…」
小五郎の小言を聞き流しながら、コナンは一人ずつ水を配っていき最後に杉下の元へ戻る。
皆、水分を取って緊張が少しほぐれた様子だった。
「…やっぱり、当たりでしたね」
その様子を見てコナンが杉下へ笑みをみせる。
「えぇ。あの水を呑んで平気な顔をしているとは…しかしキミは流石ですねぇ。良く気づいてくれました」
「大したことじゃ…でも、杉下警部。これで動機は分かりましたけど証拠が無い…」
「…そうですねぇ。何か、奈々さんを殺害したときにその場に居たという証拠があれば良いのですが」
「…そういえば杉下警部。奈々さんの所持品に『アレ』はありました?ほら奈々さんがさっき…」
コナンが杉下に奈々のある所持品の行方について尋ねる。
「『アレ』…いえ、そういえば見当たりませんでした」
「…奈々さんの爪、付け爪が剥がれてましたよね。つまり」
「…何かに引っかかって取れた。それも勢いよく…なるほど。そういう事でしたか」
「見つけましたよ…決定的な証拠を!」
杉下とコナンは遂に犯人を追い詰める証拠に気づき笑みを深くする。
その時。
ドゴォォォォン!!
「うわっ!」
「これは!」
突然館内を襲った轟音と揺れに皆がうろたえる。
この揺れで停電も再び起きてしまった。
「まさか、爆発!?」
「どうやら、海中で起きたようですね…」
「宍戸さんは!」
「俺なら大丈夫だ!!」
目暮が宍戸を案じるが、無事が確認できる。
ドゴォォォォン!!!
ドゴォォォォンン!!!
次々と外から聞こえる爆発音。
館内が揺れ続ける。
「一体いくつ爆弾が仕掛けられているんだ…!?」
「そんな…こんなに…」
小五郎が焦る中で、その傍で沢木は驚愕に顔を染めていた。
しばらくすると非常電源が作動しまた明かりが点いてきた。
一安心する一同だったがしかし、
ドゴォォォォォォォン!!!
今度はホールの窓ガラスが割れてしまい、海水が勢いよく中に入ってきてしまう。
「いけません!!窓ガラスが!!」
「うわああああっ!!!」
そのまま一同は激流に呑まれてしまった。
***
アクアクリスタル前。
内村の指令で捜査一課の精鋭や、爆発物処理班、SATが集結したアクアクリスタル前。
警視庁のヘリや船も出動し、辺りを厳戒態勢で取り囲んでいた。
「…くそ、右京さん。無事でいてくださいよ…」
目の前で連続していたアクアクリスタルの爆発に、もはや普段の余裕が無くなっている冠城。
「おい、冠城!」
「?伊丹さん?何かあったんですか?」
伊丹が芹沢、出雲を連れて冠城に走り寄ってくる。
「今、爆発の影響が収まっている内に何人かで建物傍の波止場へ向かう事になった。お前も来るか」
「波止場?そんなのが?」
「施設利用者向けの庭園みたいなのがあってさ、その傍に船がつけそうな場所があったらしいんだ」
「何でも資材搬入などに使う予定だったそうです」
モノレールしか出入口は無かったのでは無いかという冠城の疑問に、芹沢、出雲が続けて答える。
「分かりました。俺も行きます!」
(待っててくださいよ、右京さん…!)
事件は、最終局面へ移っていた。
***
アクアクリスタル波止場。
辿り着いた冠城と伊丹達は、急いで先へ進む。
「…ここに来るまでもまた何度か爆発がありましたよね」
「あぁ、音の大きさからしてアクアクリスタルの中だろうな…」
「…右京さんっ」
道中にも起こった爆発で最悪な予想が頭によぎる一同。
すると出雲が、目線の先に何かを見つけた。
「…あ、伊丹さん!冠城さん!あれ!あそこ!」
「ん…?あっ!警部殿!?」
視線の先には、海から上がってきたところの目暮、杉下がいた。
「おや…あぁ!冠城君!こっちです!」
「まさか応援が来ているとは…」
「実を言いますと、僕と連絡が一定時間付かなくなったら助けを呼ぶよう頼んでいまして」
「なんと、そうだったのか…」
既に外部で警察の厳戒態勢が敷かれている事に驚いた目暮に、杉下が種明かしをする。
そんな話をしている間に、冠城達も辿り着き、杉下達に続いて海から上がってくる他のメンバーを伊丹達が救出に入る。
「…右京さん、ご無事でなにより」
「命からがら…といった所ですがねぇ。それに、中で蘭さんが水を呑んでしまっていますので、体力の消耗が激しい…なるべく早めに病院へ搬送した方が良いでしょう」
「すぐ連絡します。あ、それと右京さん。今回の犯人についてですが…」
「ええ。僕達も分かっています。真犯人は…」
杉下は冠城へ真犯人を耳打ちする。
「やはりそうでしたか…」
「君も辿り着いていましたか…流石冠城君」
実は別行動の間、冠城は伊丹達からの情報を踏まえた調査で真相を掴んでいた。
「色々調べてきているので報告を…」
「助かります」
「おい、仁科!しっかりしろ!」
突如響く宍戸の声。
そちらを向くと、海からあがった仁科がぐったりした様子で倒れていた。
「仁科さん!」
「途中で水を呑んじまったみたいなんだ!!」
「私が人工呼吸をしましょう。こうみえてライフセーバーの資格を持っていますので」
危険な状態の仁科に、人工呼吸をしようと近づく沢木。
(…いけません!)
嫌な予感を覚え焦る杉下。
そこへ、
『…待ってください!人工呼吸は白鳥刑事!あなたがやりなさい!』
「え?」
突然沢木を制止する小五郎の声が響き渡った。
驚いて杉下が辺りに目をやると、物陰に隠れたコナンが杉下と目を合わせ頷きを返した。
(…そうか、蝶ネクタイ型変声機!良い判断です)
「僕からもお願いします。白鳥刑事」
コナンの意図を読んだ杉下は白鳥に人工呼吸を替わるよう頼む。
「???…分かりました」
怪訝な顔をしながらも、仁科に駆け寄り人工呼吸を始める白鳥。
一方、覚えのない自分の声に訳が分からない小五郎。
そこにコナンの麻酔銃が命中した。
「はれっ?!はへぇぇぇええ…」
素っ頓狂な声をあげ、小五郎が近くのベンチに座り込む。
「も、毛利君?」
『警部殿、今回の一連の事件…犯人は村上丈ではありません!』
「何だって!?」
小五郎の言葉に目暮が驚きの声をあげる。
『何故なら、阿笠博士を撃った犯人も、奈々さんを殺した犯人も右利きだったからです!』
「右利き!?」
「…ゴホッ!ゴホッ!」
小五郎の指摘に驚く白鳥と、タイミング良く何とか息を吹き返した仁科。
『犯人は恐らく、仮出所した村上とどこかで会い、10年前私に肩を撃たれた事や、彼が元トランプ賭博のディーラーだった事などを聞き、自分の計画に利用しようと考えたのです』
「…そして犯人は自分が『本当に』殺したいと思っている相手と自分自身の名前に数字が入っている事に気づいた訳ですね?」
『ええ。こうして犯人は、トランプの絵札と数字になぞらえて犯行を行い、村上の犯行だとカムフラージュしようとしたのです』
(麻酔銃とは、仕方ない子ですね…お手伝いしましょう。工藤君)
眠りの小五郎の推理ショーが始まった事に気づいた杉下が、コナンの話に乗ってくる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!杉下君。君も犯人が村上ではないと?」
「ええ。阿笠博士を襲った犯人がボウガンを右手に持っていたことや、奈々さんの死体の状況から右手でナイフを刺された事が分かりましたので、その時に確証が」
『…そもそもおかしかったんですよ。仮出所してたった1週間の村上が、ここまで用意周到に準備を行い、標的を調べ上げるなど無理があります』
「なるほど…じゃあ、ワシや阿笠博士、英理さんを襲ったのは!」
「村上が毛利さんへの復讐を行っていると思わせる為です」
自分達が襲われた本当の理由に愕然とする目暮。
「…では、犯人が本当に殺したかった相手とは」
『旭さんと奈々さん、それに辻さんもでしょう。彼の場合、目薬をすり替えてヘリを墜落させようとする死ぬ確率の高い方法を選んだ事からまず間違いありません』
「むぅ…犯人は一体!?」
『犯人は、この中にいます』
小五郎の指摘に一同に緊張が走る。
「まず、仁科さんは白です。仁科さんはむしろ殺される側だった筈ですから」
「えぇ!?」
杉下の推理に怯えた声をあげる仁科。
「犯人は海中レストランを爆破して、泳げないあなたを溺れ死にさせるつもりだったんですよ。あなたが犯人なら、そんな危ない真似はするはずないでしょうしねぇ」
「そんな…」
「それに、中にいた皆さんは覚えてらっしゃるかと思いますがレストランが爆発された後、脱出方法を探っている際6から2までのトランプが水に浮かんでいましたよね?」
「あぁ、それがどうか…いや、まさか」
「ええ。恐らく犯人としてはあのタイミングで全員殺すつもりだったんですよ。数合わせで呼んだ標的を纏めて始末しようとね」
犯人の恐ろしい思惑に、言葉を失う一同。
『…ところで白鳥刑事。仁科さんに人工呼吸をする際、まずどうしましたか?』
突然、小五郎が空気を断ち切るかの如く話を変えて白鳥に問う。
「どうしたかって…頭を後ろにそらせて首を持ち上げ気道を確保する事ですよ」
『では気道を確保せず、人工呼吸をするフリをして鼻と口を塞げばどうなりますか』
「死ぬにきまってるでしょう!そんな事をしたら!!…ま、まさか」
小五郎の問いで何かに気づいた白鳥が、ある人に目を向ける。
『そうです。旭さんと奈々さんを殺害し、辻さんと仁科さんを殺そうとした犯人…』
「…もうお分かりですね?それは…」
『沢木公平さん、あなただ!』
「沢木公平さん、あなたですね?」
8話でした。
なーんか爆発が多いアクアクリスタル(実はネタバレ)
ところで皆様、来年の映画「黒鉄の魚影」新予告編ご覧になられましたか。
割とマジで興奮してしまい朝から奇声をあげて喜んでいました。
来年4月が既に待ちきれません。
次回、解決編です。
30日朝7時更新。
お楽しみに。
TwitterID @esaya_syosetu