『沢木公平さん、あなただ!』
「沢木公平さん、あなたですね?」
眠りの小五郎と杉下に真犯人であると名指しされた沢木。
しかし沢木はうろたえて、杉下達に反論する。
「待ってください!私だってボウガンで狙われたじゃないですか!」
『あれはあなたが自分への疑いを逸らすために仕掛けた物です。2日前、ここに来て旭さんを殺害した後でね!』
「ここにいる全員が、2日前に呼び出しを受けている事から、まず間違いないはずですねぇ。恐らくその時、桝山さんとの約束がある事を知って利用したんですね?」
「…」
「なるほど…私だけが旭君から直接誘いを受けていたからおかしいと思ってはいたが…」
杉下の指摘に桝山が腑に落ちたという様子をみせる。
「じゃあ、旭さんの秘書というのは…」
『全て沢木さんです!勿論、奈々さんに夜光塗料入りのマニキュアを送ったのもね!』
「しかし動機は?動機はなんなんだ!」
『…恐らく、沢木さんが味覚障害に掛かっている事が関係あるかと』
「味覚障害!?」
「…っ!何故それを!」
小五郎の味覚障害ではという指摘に驚く沢木。
「味覚障害は、精神的ストレスや頭部外傷などによって起こる事があるそうですね」
「頭部外傷…それじゃあ奈々さんが起こした交通事故の相手が沢木さん!?ちょ、ちょっと待ってくれ!沢木さんは奈々さんが持ってきたワインの銘柄を当てたじゃないか!」
『彼は、ワインの色と香りだけで銘柄を当てたんですよ』
「そんな…」
『…沢木さんは限られた情報だけでソムリエを続けていましたが、限界を感じ、また凄腕のソムリエという誇りが汚されたと感じて、味覚障害の原因となった人達を殺そうとしたんです』
「…沢木さんのマンションにあった、あの床が削れた跡。恐らくあれは、余りにもの悔しさと怒りで、宝物のワインを割ってしまった時についたのではないですか?」
「あの傷はそれだったのか…しかし君達は何故彼が味覚障害だと」
「実は、沢木さんが厨房でチリパウダーを味見していたのをコナン君が目撃していましてね」
「チリパウダー…そんな刺激物、ソムリエなら普通は口にしないですね」
杉下の解説に白鳥が同調する。
「それに、僕がコナン君にお願いして水を配ってもらった時、沢木さんの物にだけ塩を混ぜていまして…」
『沢木さんはそれに気づかず、何事もなく水を飲み干してしまった…それで分かったんですよ』
「…ストレスについても、実は調べがついています」
冠城が推理の合間を縫って口を挟む。
「辻さんと沢木さんがご友人と聞いて、少々調べたのですが…沢木さん。数か月前の辻さんの誕生会であなた、酔った辻さんに相当絡まれたそうですね」
「…」
「ソムリエの格好を下手な仮装で馬鹿にされたり、色々酷い事を皆であなたに言ってしまったと、他の参加者の方が仰っていました」
「…」
「仁科さんについては、同僚の方が仰っていましたよ。『仁科の書く本は全てデタラメだらけ。グルメ気取りでワインの事など何も分かっちゃいない』とよく愚痴をこぼされていたそうですね」
「…」
冠城の追及に反応を見せない沢木。
冠城に続いて杉下が沢木へ追及を始める。
「旭さんについては…恐らくあのワインセラーでしょうねぇ」
「ワインセラー?」
「沢木さん自身も仰っていましたが…あのワインセラーは通常ワインを保管するのにはおよそ適さない程に温度が高く設定されていました。ワインのコレクターなら知っていて当然であろう温度設定が違っている…恐らく旭さんはただワインブームに目を付け希少ワインを買いあさっただけの、いわば『にわか』だったのでは無いでしょうか」
「にわか…」
「そんな彼らのふるまいに、ソムリエとして誇りのあるあなたなら怒りを覚えても不思議ではありません」
杉下の指摘に、一つ笑みを零した沢木は更なる反論を始める。
「…ふっ。色々調べられたようで…確かに、私は味覚障害です。仰った通り、彼らの振る舞いに怒りを覚えていたのも事実だ。しかし、だからといって私が奈々さんを殺したという証拠はどこにも…」
『証拠ならありますよ』
「…え?」
『あなたの上着、左右どちらかのポケットにね』
「…全く。毛利さん…眠りの小五郎とも言われるあなたがこの期に及んで何を…ん?」
ポケットをあさりながら呆れた笑いを見せる沢木は、覚えのない物が入っている事に気づき訝しむ顔をする。
恐る恐る沢木が中から取り出したそれは、
奈々が落書きをしていたワインのコルクだった。
「な!!」
『奈々さんが殺される直前まで持っていた筈のそのコルク、何故あなたのポケットにあったんですかね?』
「…目暮警部、奈々さんの付け爪が取れていた事を覚えていらっしゃいますか?」
杉下は目暮に、奈々の死体の状況について思い出させる。
「あ、ああ…」
「通常、そう易々と付け爪が取れる事はありません。それこそ、何かに引っかかって強い力が掛からない限りは」
「ま、まさか!」
『そうです!沢木さん。あなたに襲われた奈々さんが咄嗟にしがみついたその時!ポケットにコルクが入ったんです。付け爪はその時取れたものだ』
「ソムリエのあなたがワインのコルクで犯行を証明されるとは、皮肉なものですねぇ」
「くっ…」
『更にもう一つ!恐らくあなたのポケットの中にまだ眠っているはずだ…
犯行に使われた物と同じ絵柄のトランプ…使い残したスペードの1が!
工藤新一のカードがね!!』
「…はぁ」
小五郎の追及に、ため息を一つ零し、沢木は懐に手を伸ばす。
そこから、スペードの1が出てきた。
「…毛利さん、杉下さん。全てあなた方の推理通りですよ」
「…では、奈々さん達を襲った動機も…」
「…あぁ!その通りだ!!私に怪我を負わせ!!!常日頃からストレスを与え!!!私のソムリエとしての品格!!名誉!!!プライド!!!全てを踏みにじった仁科、奈々、旭、そして辻!!奴らを葬らねば気が済まないと考えたんだ!!!」
「…一つ、確認があります。村上丈は…殺したのですか?」
怒りに吠える沢木に、冷静に杉下は村上の処遇について問う。
「…あぁ。奴とは、仮出所してきた日に偶々会ったんだ…奴から毛利さんとの因縁や、今はそれも無くなってただ謝罪したいと思っている事を聞いた。その時、今回の計画を思いついたんだよ。酔いつぶれた村上を殺すのは簡単だった…」
「…では、目暮警部や毛利さんには何の恨みもなく、桝山さんや宍戸さん、フォードさんを利用したのは足りない数字を埋めるためという事で間違いないですね?」
「その通り。旭を殺した時、机の上にあった予定表に桝山との会合の予定が組まれている事が分かってな…有難く利用させてもらった。本当は1の工藤新一が来てくれる事を期待していたが、叶わなかった」
「…関係ない人を巻き込む事は、考慮していなかったと」
「レストランを爆破したのはただ仁科を殺すため。他の連中は死のうが生きようがどうでも良かった…後は村上の行方が結局掴めず、迷宮入りになるはずだったんだがな…」
「…いい加減にしなさぁい!!!」
沢木の言い様に、杉下が怒りを爆発させる。
「…ソムリエの品格だとか、名誉だとか、仰っていますが…あなたはただの人殺しですよ!品格も、名誉もプライドも何も無い、ただの犯罪者です!!」
「…っ!」
「…これからあなたは思い知る事になるでしょう。あなたの愚かな行動が、どれほど罪深い事なのか…暗い監獄の中でね」
沢木に冷たい目を向ける杉下。
何はともあれ、これで事件は解決
したかに思えた。
「…まれ…」
「はいぃ?」
「…黙れぇぇぇ!!」
もはや狂気と言って良いほどの顔を浮かべた沢木が懐からリモコンを取り出しスイッチを押す。
するとすぐさま爆発が起こり、大きな揺れが一同を襲った。
「…ふぉっ!?なんだぁ!?」
揺れで流石の小五郎も目を覚ます。
「…いけません!!」
「ヤバい!!」
沢木の意図に気づいた杉下とコナンが体勢を立て直した頃には、沢木は水を呑んで体力を消耗し、ぐったりとしていた蘭の元へ辿り着いていた。
ナイフを取り出した沢木は蘭を引き寄せ、首元に刃を当てる。
「来るな!動くとこの子の命は無いぞ!!」
「…は?何で沢木さんが蘭を」
「何を言っとるんだ!君と杉下君が沢木さんの犯行を暴いたんじゃないか!」
「へ?あたしが?」
状況がいまいち掴めていない小五郎を目暮が叱り飛ばす。
「逃走用のヘリか船を用意しろ!!この子が死んでも良いのか!!」
「ら、蘭さんを離せ!!離さないと撃つぞ!!!」
「面白い!撃てるものなら撃ってみろ!!!」
白鳥が、取り出した拳銃を沢木に向けるが、震えてしまって照準があっていない。
傍目にも見て取れる様子に、沢木も余裕を見せ蘭を盾にする。
「いけません!!白鳥さん!!やめなさい!!!」
杉下は拳銃を下ろさせようと白鳥を宥める。
「…警部殿、ここにいる刑事の拳銃の腕は…」
「…ワシと同じでからっきしダメなのが白鳥君。他もこの状況では…」
「くっ…」
小五郎が目暮に小声で一同の銃の腕前を確認するが、期待外れの答えが帰ってきてしまう。
「…そうだ、白鳥刑事!その拳銃を投げて寄越せ!!」
「え!?」
「早くしろ!!」
沢木の最悪の指示に、一同に緊張が走る。
杉下はこの絶体絶命の状況下をどう回避するべきか考えを巡らせていた。
(いけませんね…このままでは…)
「…白鳥、俺に拳銃を寄越せ」
と、小五郎が白鳥に銃を渡すよう小声で話しかける。
「…え?」
「…寄越せって言ってるんだよ」
「冗談じゃない!あなたになんか渡せませんよ!!」
(…確かに、聞き及ぶ毛利さんの腕なら制圧する事も可能でしょうが、今はあくまで一般人…拳銃の発砲など許されて良いはずがありません…それに10年前毛利さんは…そういえば)
10年前の件をふと思い出した杉下は、当時小五郎がわざと英理に当たるように撃った可能性を推理していた事を思い出す。
(この状況…人質の存在…なるほど。毛利さんはあの時そういうつもりで…)
「わ、分かった!」
そんな事を考えていると白鳥が沢木に銃を投げる。
しかし、中途半端に遠い所に拳銃が落ちてしまう。
沢木が取りに行こうと動くが、小五郎達がその隙を狙っていると気づくと、立ち止まってコナンに目を向ける。
「小僧。お前が持ってこい」
「…」
「早くしろ!!」
沢木に指名されたコナンは、覚悟を決めた顔で拳銃の元へ歩む。
***
(…蘭を助けるには、何とか隙を作らないと…)
緊張で体が押しつぶされる感覚を覚えながらも、コナンは落ちた拳銃へ向かう。
辿り着いたコナンは拳銃を手に取り、
(…っ!!)
その時ふと、目の前の沢木と蘭の姿が見たことが無いはずの光景に見えてきた。
10年前、村上と村上に人質にされた英理の姿に。
(…そうか、そうだったのか。だからおっちゃん…)
その時コナンの脳裏では、10年前の小五郎の真実に辿り着いていた。
拳銃を求める沢木と、目暮や小五郎が沢木を諫める声を聞きながら、
コナンは沢木達に向けて拳銃を向けた。
そしてその引き金が。
「…ダメです!!!コナン君!!!!!」
ダァーーーーーーーン!!!!
そして一帯に、銃声が響き渡った。
次回、標的最終回。
そして、「本当の事」が明らかになります。
明日夜7時(朝じゃないです)、更新です。
お楽しみに。
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